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彼のためだけの物語の終結に、カーテンコールを
長い夢を見ていた。とても幸せな夢だった。
断片的に記憶に残ったピースを拾い上げ、手慰めに書き留めてみる。ピースの隙間は都合の良いように埋めて物語が完成した。
現実を切り貼りして、紆余曲折を経て、誰かを不幸にして、それでようやく夢の中の彼女は俺を受け入れてくれた。
光に溶ける彼女の輪郭。美しい横顔。俺に触れる飾り気のない指先。静謐でやさしい時間。きらきらとした世界は、今くらがりに 引きずり戻された。灯りを失った夜の底のような静寂に、頭が割れるように痛い。
MDEを噛む。何粒も何粒も、ラムネのように噛み砕いて、やっと息が吸える。
生きるのも死ぬのも億劫で、生きていることも死ぬこともできない。のたうちまわるだけで、もはや人ですらない。なんのためにここにいるかなんて、もはやどうでもいいんだ。
この空っぽな俺に何かあるとすれば、もう思い出とも呼べない、何度も何度も取り出して捏ねて形作った記憶。甘露のような記憶だけが、俺を未来へと手招く。
「亜子……」
静けさに埋めるように、その名前を呼んだ。
悪夢は覚めない。
憂鬱な俺は、妄想に溺れた。




