表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『やまと』 ~戦乙女との現代戦争奮戦記~  作者: Sky Aviation
終章 ~新たな平和と未来を目指して~
167/168

新たな海

―JST:AM12:00 三宅島東北東30海里地点 DCGやまとCIC―








「レーダークリア。目標、全弾撃墜確認」


 俺はレーダーモニターを見つつそう報告した。


 CICの空気が若干安堵する中、この場にいた艦長が一つため息をつきつつ言った。


「よし……、では、教練対空戦闘配置解除。各員、ゆっくり休んでくれ」


 そう言って艦長はかぶっていた帽子を直す。ついでに、胸元につけてる勲章もズレてたのを直す。

 そして、また一つため息をつくと、


「ふぅ~……、とりあえずは、システムは完全に回復したようだな」


 そう、安堵したように言った。


 隣にいた砲雷長がそれに答えた。


「ええ。あの去年の戦争の最後に受けたものと比べても、今では新品同様ですよ。システムも、例の戦争の時を教訓として結構改良されています」


「うむ……、より使いやすくなって結構なことだ」


 艦長たちが口をゆがませていた。


 あの戦争後にドックに入った結果、システムやら装備やらもどうせならということで新調されました。

 あの時の戦争での経験を活かし、まずFCSレーダーとかの各電子機器のアップデート、及び高性能化を図り、その結果撃墜率はより高いものとなった。

 ……まあ、というか弾薬が許す限りほぼ完璧に撃ち落せるようになったんですがね。


 また、前の戦争で少し懸念事項として浮上した“CIWSの威力不足”について、現在更新が続いている“SeeRAM”に換装しようかって話も上がったんだけど、最近どこぞの捕鯨反対とうたってるアホの海賊どもとかあとソマリアにいる海賊に対する武装としてこれも必要だという意見も出て、まあ、別段損傷もウケてないのに一から乾燥しなおすのも面倒だしそもそもそんな金ないってことで、とりあえず折衷案的なことでCIWSの砲弾をより高威力なものに変えとく的なことで話がついたっぽいです。

 ……高威力って言っても、いったい何を強化したらあれ以上になるのか。炸薬がまた高性能なものになるのか。

 まあ、そこは俺たちの知ったことではない。


 んで、その修復も、一応艦橋回りを全面的に直して、あとはメインマストも全部とっかえ。あとはミサイルぶち当たってへこんだ艦腹の一部とかも溶接云々で全部直しました。


 ……なお、これらをすべて7ヶ月で終えました。日本の修繕技術には感服させられるばかりであります。


 ……まあ、これが米帝にかかればたった1ヶ月で終わるんだろうな。うん、知ってる。


 とにかく、そんなこんなで今ではやまともすっかり復活です。

 ……え? 機関?


 ああ、そんなのはもう……、


「……そろそろ機関も止まったか?」


 艦長がそういうと、砲雷長も返した。


「あー、もう止まったでしょう。ちゃんと。……まったく、いくら動作試験とはいえわざわざ“機関一杯”にさせなくてもいいものを……」


「でも驚いたな。一杯にしたというのに、機関科からの報告は……」


「ええ……、“問題なし”ですよ」


「うむ……、大したものだ……」


 艦長が感心したようにうんうんとうなずいていた。


 そう。こっちもこっちで機関は新しいやつに換装したのはいいんだが、その性能が今までとは段違いでなぁ……。

 水素燃料供給力を上げて、それに対応できる固いタービンを備えた結果、今やった動作試験ではなんか手動操作で速度が“45ノット”いったんだけど……。

 CICにも表示されてる速度メーターがまさかの十の位が4いった時とか、いくら訓練メニューでその内容があったとはいえ出しすぎじゃねって感じでみんなポカーンとしてたぜ? 俺を含めて。

 そりゃそうだよ。こんな13,000トンもある巨大な艦が思いっきり突っ走って40ノットとかいったい何考えてんの?状態だよ。

 ほんとびっくりだよ……。けがしたと思ったら今度はより進化して帰ってきたっていうアニメとかでよくあるパターンになってしまったよ。


 ……尤も、今後この速度つかう機会があるかは知らんがな……。


 そして、そのとんでもない速度に耐えるやまとこいつも十分すごいっていうね……。


 そもそも、今の訓練で速度出しちゃってよかったのかと……。

 今回の訓練メニューは、ドックでの修繕後初の航海ということで各種動作試験も兼ねていて、まあ結果から言えば十分合格点。というか、もう合格通り越してより進化して帰ってきてるからもう文句のつけようがないです、ハイ。


 ……まったく、彼女、久しぶりの海だからって本気出しすぎでしょう……。あー、めちゃくちゃはしゃいでるのが目に浮かぶようです。……目に見えんが。


「一応、国防省に提出するレポートも何とかこれでまとまりそうです」


「うむ。では、さっさとそっちを終わらせなければな……」


「といっても、この調子なら即行で終わりそうなもんですがね」


「まあな。……では、私はちょっと失礼するよ」


「はい。お疲れ様です」


 そのまま、艦長は今回の訓練や動作試験に関するレポートをまとめるために艦長室に向かった。

 艦長が部屋を出たあたりから、このCIC内も結構やんわりした雰囲気となる。


 みんな、久しぶりの訓練で疲れたんだろう。少しでも機関が空けばそりゃ緊張する。

 ……といっても、一応陸でシミュレーター使った訓練自体はしてたんだけどね。でも、戦争終わりってことで俺たち軍人にも一週間の休暇が与えられたんだけどね。

 それの関係もあって、こんなマジの艦使っての訓練は久しぶり。……艦本人は張り切ってるけど、こっちは結構緊張ものですわ。


「よっし……、じゃ、あとはこっちも各種事後点検済ませるか……」


 砲雷長が少し体を伸ばしながら言った。


「そうはいっても、少し時間かかりそうですがね……」


「全部の機器を点検するからな……。システム側から」


「はぁ……。もう昼飯時だってのに……」


「そういうな。そのあとにたんまり食えばいい」


「は~い……」


 ったく……。配食はじめまであともう少しか……。

 今日は……、あぁ、火曜日か。

 久しぶりにカレーを食いたいもんである。というのも、これ艦に乗ってまだ2日しか経ってないっていうね。

 久しぶりのだから慣熟航海とかもやっとかないとな……。まあ、そこは大樹たちの専門か。


「どれ、さっさと終わらせたいし、お前もさっさと仕事は入れ」


「りょーかい」


 というわけで、俺はそのままディスプレイを見て手元のキーボートやパネルを操作してシステム面のチェックを始める。


 ここらへんもどうやら俺たちがやっとくらしくて、ダメコンはまだほかのほうらしい……。


 ……はぁ、俺たちもさっさと休みたいってのに、まだまだ働かなあかんのか……。


 ……ったく、









「……休みまでには、もう少し時間がかかるか……」










 俺はそのまま黙々と手元を操作し始めた。



 そのままCICという薄暗い部屋の中で、周りのここに残っている乗員たちと訓練後の処理チェックをしていった。



 砲雷長も、それに合わせてその類の指示を出して言っていた。



 ……ふぅ、どれ、











 そんじゃ、さっさとこれを終わらせてしまおう……、今日も疲れたし。














 そんなことを思い、俺はその後も黙々とシステムチェックの仕事をこなしていった。


















 今頃、あいつは艦橋で久しぶりの艦に慣れを取り戻しているころだろう……。






























 ―艦橋―








「……よし、とりあえずこっちのチェックは完了だ。そっちは?」


 副長が指示を出した。その問いに、航海長がすぐに答える。


「航行関連機器、すべて確認しました。……ぜ~んぶ、問題なしです」


 いつも通りの航海長ののんびりした声が響いた。

 それに、思わず副長が「はぁ~」と思いため息をついていった。


「……訓練終わったからってそんなのんきな声出されてもなぁ……」


「まあまあそういわずに。せっかくの訓練とその事後なんですしね」


「まったく……。君は相変わらずだな」


 そう言ってまた呆れたようにため息をつく。

 ……まあ、このコンビはいつも通りだった。なんでか知らないけど、あの後の初の航海でも、メンバーは更新されずにまんま同じメンバーでいくことになっている。


 ……なので、俺はそのまま操舵員に固定です。少尉なのに。


 そう、少尉なのに。


 ……尉官がなんで操舵してるんだって話なのだが、尉官として防大卒業したのはいいんだが、それでも俺の操舵能力がよくてもったいなかったらしくて、俺だけ試しにやってみたら見事にピッタシだったらしくてそのまま固定だそうです。

 もちろん、例外なんて俺以外いない。

 ……こんなこともあるんだろうかね。うん。


「新澤少尉、そっちはどうか?」


 副長からの問いに、俺もすぐ答えた。

 もちろん、操舵の俺がやる答えなんてこれしかない。


「操舵、動作確認。……大丈夫です、完璧ですよ」


「そうか、了解した」


 いつもの不愛想な問いを横目に、今度は航海長からきた。


「……んで、どうなんだ?」


「? 何がです?」


「何がって、そりゃあれよ……、彼女の、」









「今日の、ご機嫌は?」









「……はは、あいつか」


 俺は思わず苦笑いした。



 ご機嫌て……、もう、ご機嫌というかなんというか……、その……。












“ふぅ~~! スッキリした!”


「でしょうねぇ……」















 さっきまで戦闘訓練と共に、動作試験的なことで機関を一杯にさせていたのだが、それがもう張り切りすぎたのか何なのか知らんけどとんでもない調子で……。もちろん、いい方面で言っているのだが。

 尤も、復活して早々エンジンに負荷かけちゃって大丈夫なのかと思ったが、まあ、今のこいつにかかったらそんなことは些細な問題のようで……。


 さっき機関科から来た報告では、新しく換装した改良型の水素燃料エンジンの関係もあってか、調子はすこぶるよい、というか良すぎた。


 なんでって、こいつ一杯にしてミサイル艇よろしく45ノットだしやがったんだぜ? 確認しておくが、こいつ小型のミサイル艇でなくてむしろ大型の巡洋艦だぜ? 大型なんだぜ?

 ……なんでそんな速度出せるんだって話なわけで。そんでもって機関がそれほど損傷していないってもういったいどうやったらこんな微々たるものえ済むんだと。

 もうツッコむ気も失せるほどのとんでもない能力を発揮したやまとである。


 なので、俺が言えることはただ一つ……。


「……あぁ、もう、あれですよ」











「ご機嫌というか、超機嫌ですよ」


「だろうねぇ……」












 航海長も思わず苦笑いである。


 時が経ってもあいつの元気っ娘は相変わらずのようで、それはさっきのを見れば一目瞭然です。


 さっきまで訓練でも久しぶりにやるってことでめっちゃ張り切っていたどころか、もうテンション上がりまくってたのかただのシステム上での訓練で別に実弾つかってないってのになんか、


“2時方向! 来ますよ! 見張り監視いいですか!”


「いや、別に今回模擬弾はこねぇよ……」


 マジになってた。

 ……いや、確かに大事だぞ? 訓練のための訓練では意味ないってのわかってるぞ?

 だけど、何もお前まで本気にならなくても……。それじゃそれこそただのいらなくいろいろと叫んでる危ない人状態だよ。まさに俺がお前みたいな艦魂と話している時の一般人視点の状態だよ。


 ……まあ、好きにしてればいいとは思うが。


「ま、彼女も久しぶりなんだ。別にいいだろう」


 副長がそういった。

 といっても、少しやれやれといった感じの目である。

 ……本音、副長もそんなこと思ってるんだろうね。うん。


「まあ、それはそうですがね。……しかし、」


「?」


 すると、航海長が少し目を細めて言った。


「……もう、戦争終わってだいぶたつなぁって。まだ、昨日のごとく覚えてますよ」


「……ああ、そうだな」


 ……あの戦争、か。


 あれが終わって以来、俺たちもいろいろあったな。


 政治はめちゃくちゃ動いた。日本は今回戦争起こして制裁で安保理権限剥奪された代わりに安保理理事国になるかもしれないってなるし、その中国は今民主化運動で初の選挙立候補者演説。そして周元主席の裁判に……。


 ……と、あー、上げるときりがない。もうとにかくいろいろ動きすぎた。


 まあ、たぶん安保理理事国にはなると思う。これ以外ないし。あと国連運営資金を理事国でもないのに大量に提供してるし。アメリカについで2位です。

 そんなこともあって、たぶん安保理理事会でもそうなるって決めると思う。


 あと、選挙はま向こうに任せよう。あの友樹が言ってた……、えっと、燕って人だっけ? あの今ではいろいろとヤバいエースになってそんでもってあの人もあの人で戦争中一の撃墜数を誇る人と対等に渡り合ったとかなんとか。

 で、そのあと政治家になるべく猛勉強して、時には俺がアドバイスしたりして今日は演説当日だとか。

 ……あの時、ミサイルを撃墜する前に並んで飛んできたF-15MJとSu-35、あれ、あのお二人だったのか……。

 だからあんな無茶な機動をしてたのか。というかできたのか。

 そりゃあんなヤバいエースにもなるわけである。

 あの燕さんって人、あいつ曰く「相当な勉強家」らしい。

 なんでも、戦争終わったあと運よく互いに生き残ったもの同士ということで話す機会があったらしいのだが、その時の彼の猛勉強っぷりがいろいろと半端なかったらしい。

 また、時には熱心にメモでまとめてて、まるで大学受験を控えた高校生の如くだったらしい。

 ……まあ、そんだけ頑張ってるんなら自ずと結果はついてくるだろう。

 努力は実を結ぶというやつである。


 また、中国関連で言えば周元主席の裁判のやつがあるが、あれはたぶんる程度軽く済むと思う。

 というのも、今回の戦争の各関連事情を調べた結果、戦争中に起きた軍部の暴走を止めるために体張ったりして戦争止めようとしたっていう事実が発覚して、それが認められるかもしれないっていう説がマスコミやネットを中心に広まりはじめており、俺もそれに同意だったからだ。

 あれはあの高雄沖での無線の件も含まれている。

 ある意味、あれがあったからこそ追加の核攻撃を予知し、それに最大限備えることもできたし、結果的に戦争の終結を早めることにも繋がった。

 あのまま核が落ちたらそのままさらに戦争が続いていた可能性があるしね。いくらアメリカさんの報復代行が実行されるだろうとはいえ。

 少なくとも被害は大きく拡大。下手すれば、互いにあとに退けなくなって、お互いに核を撃ち合う最悪の未来が待っている可能性もある。

 小説とかではそのままの流れで第三次大戦とかって流れになるけど、あの時は割と本気でそういうことがあり得たから怖い。あの時はそんな理性云々がもうどっかいってたからな。

 そう考えると、彼がやったその行動の意味はとても大きく、結果的に平和への大きな前進を促したともいえ、それらが認められれば、彼の負う罪も軽くなると考えた。

 事実、刑事裁判を行うにあたって検察側もそんな感じのことをほのめかしていた。


 ……といっても、戦争を始めたのが彼であるのもまた事実。相応のものは受けるだろう。

 せいぜい監禁云々はされるのは不可避ではないだろうか。

 まあ、そこは今日の裁判で取り調べられ、そして判決が言い渡されるであろう。

 それを注視しておかなければなるまい。


 また、中国で思い出した。


 前の台湾沖などで体験したあの超音速ミサイルや超回避機動型鈍足ミサイルだけど、あれも実はひそかに開発していたものらしい。

 前者のに関しては、もとから作っていたラムジェットエンジンをさらに改良して、小型化させつつとんでもない速度を出すようにミサイル形状をスマートにさせるなどしたようで、そして後者はミサイルに小型の格納式の前進翼をつけ、さらに弾頭に誘導電波を兼ねた妨害電磁波を装備。これを使って敵の誘導兵器やその他誘導指向兵器を無力化するとともに、その電波発信源とその移動コースからその対象の軌道予測を行い、あの超絶な回避機動をとっていたようだった。

 なんでも、今回の戦争の切り札として前々から用意していたようなんだけど、でも予算がない関係であれだけしか用意できなかったのか。

 何ともその点では俺たちは幸運だけども、しかしあのようなものを作ってしまったことによって、世界各国の軍事関係者やその道の人間の評価が一変してしまったことは言うまでもない。

 地味にあれは戦術的に痛いところをついた兵器で、中国を舐めてはいけないという戒めの代表的な例となった。

 あの兵器に関するデータは戦後米軍が回収……、と言いたかったのだが、どうやらその回収前に中国側がデータを全部廃棄して、サンプルや残っていたその新兵器も全部捨ててしまった関係で、回収はできなかった。

 しかし対策として、まず超音速の奴に関してはミサイルや各対空火器の指向性能を上げるとともにECM能力の拡大ということで話が付いたらしく、もう一つの超鈍足に関しては迎撃ミサイル自体からもその妨害電波をだしその妨害電磁波を中和させることで条件をイーブンにさせる対策をとることになり、今米軍や日本の技研でも研究開発中。

 尤も、その兵器のデータはすでに廃棄されたみたいだからまた出てくることはないと思うが、しかし念には念をというやつである。

 今頃躍起になって研究・開発をしているだろう。

 また、今回の戦闘のデータ等も使い、これによる研究開発結果によっては今後の兵器開発にも役立てるつもりのようだった。


 あと、俺の弟妹たちもすっかり有名になってしまったな。


 弟の友樹も、なにやら日本国内で一番の撃墜数を誇ったエースパイロットってことで政府から直々に賞賛の声が届いたらしいし、そして妹の真美も、あの時の単身突撃による司令部陥落の功績を称えられて、主にネット内で湧いた声ではあるにしろ、最終的には2つほど昇進することになった。

 まあ、死んだ時みたいに一気に二階級特進とかそういうのではないのだが、まあとにかくいろいろあってこうやって二つ上がってる。

 ……うちの弟妹たちがどんどん上をいってしまう。取り残される俺兄貴。


 ……まあ、人のこと言えんだろっていうツッコミは一応受けておきます。


 あいつらとは、来月にまた会う予定だ。この艦の復活以来初の体験航海で招待することになっている。

 自由時間もあるだろうし、うまくいけばあいつらともまた話せるだろう。話では、うまくいけば父さんも来れるかもしれないとも言っていた。

 ……ここで、母さんが体験航海のチケット当ててここに一般客として乗ればもう完璧なのだが。一応買ってみたとは言っていたが、果たして当たったのだろうか。

 でもまあ、そう簡単に当たるものでもないしな……。こればっかりはあまり期待しないでおこう。


 ……あぁ、それと、



 俺たち、やまとクルーにも一つ動きというか、少しありまして……。



 ……それが、



「……ていうか、副長、それ気に入ってんですか? “一等宝鼎ほうてい勲章”」


「ん? あぁ……、貰い物だからな。“台湾から”の。というか、君もつけてるだろう」


「まあ、確かに。……きれいですよねこれ」


「ああ、まあな」


 そう、なんか台湾政府から勲章もらいました。

 それも、“やまとクルーの尉官以上全員”に。

 一応台湾の勲章事情は知ってる。いくつかあるけど、この宝鼎勲章っていうのは台湾軍人に送られる勲章の中では3番目に栄誉のあるもので、一応民間人や外国人にも送られるみたいなんだけど、俺たちはそれをもらった。

 もちろん、俺もつけてる。

 しかも、今回もらったのはその中でも一番上の“一等”宝鼎勲章。名前見ての通り一番上にあたる。

 本来これはそう大量の人数に与えれるものでもないんだけど、台湾政府が今回の戦争に関して一番の貢献というか、もう戦争自体を左右するかもしれない局面で一番貢献したってことで、俺たちに対してこれを特別授与する流れとなったらしい。

 また、やまとの尉官以上のクルーだけでなく、日本艦隊の司令官や、各艦の艦長さんにもこれが当てられたとかっていう、前代未聞の大量人数に対する授与だったらしい。

 ……それほど台湾があの時切羽詰ってたってことだな。いずれにしろ、名誉あることである。

 また、これとは別に、日本政府の長である麻生首相にも、台湾救援に率先してきてくれたということで、前に台湾に訪問した際に“采玉さいぎょく大勲章”をもらっていた。

 これは台湾が扱う勲章の一番上で、まさに国家元首とか友好国の首脳にしか与えられない超レア物。

 麻生首相も結構気に入っているらしく、本来はたまにスーツの胸ポケットに立てかけたりしているという。持ち歩くほど気に入ったのか。

 また、この“やまと自身にも”勲章が渡った。


 大事なことなので二度いう、“やまと自身”にも。


 というのも、どうやらその台湾の馬首相がこの戦闘の経過を戦後調査ということで確認したとき、やまとの損害が多いのに気付いて確認したら、どうやら台湾の最新鋭イージス艦を文字通り盾になって守ったり、あとそのあとの俺がミサイル落とすためにいろいろ文字通り死ぬ気で奮戦したり、そのあとラストの締めでSM-3ぶっ放して核ミサイル落として、って感じの事の過程でなったってのを聞いたようで、それに彼が驚愕と共にこいつの頑張りを絶賛して、


「これは乗員の努力もあるが、“彼女”自身もとても栄誉ある貢献をしている!」


 という、まさに日本人的発想をした彼が、特例としてこいつにも別に勲章与えた。

 もらったのは俺たちと同じ宝鼎勲章。

 今は艦長室に飾られている。

 ……なお、どうやって持ち出したのか、それとも与えられたものは自分のもとで複製できるのかは知らないけど、あいつもなぜか首にかけてる。

 今もたぶんかけてる。当然あいつら的にも滅多にないことらしくて、周りが羨ましがってるとともにあいつが相当自慢して回ってた。

 ……なお、その顔は満面のドヤ顔である。

 なお、これとは他として国防省のほうからも、勲章ではないけど記念章が与えられて、今回もらったのは第37号という、主に外国での国際貢献を行った人対象に与えられるもの。

 これは俺たちやまとクルー全員と、あと台湾遠征に向かった日本国防軍全員。まあ、とんでもない人数なんだけど、これを行ったことによる戦争終結や平和に関する事情を考えればまあそうしたくなるものわかるっちゃあわかる。

 なので、これは俺も当然つけてるし、うちの弟妹達もつけてる。あと、やまとやほかの艦の乗員、そして艦魂もつけてたりする。

 ……なんか与えられたらやっぱり艦魂にも適用されるんだろうね。勝手に。うん。


 ……と、長くなったがそんなこんなで、俺たちの周りも大きく動いたりいろいろもらったりして、その結果今みたいにまたこのクルーでやまとに乗っている。


 ……今思えば、あの戦争も7ヶ月も前なのに、つい最近に思えてしまうな。


「……あの戦争以来、この航海も結構新鮮に思えますよ。こんなに平和に海を眺めるの初めてだって」


「私もだよ副長。……なんだかんだで、君ともいろいろあったしな」


「ですなぁ……。普段冷静な副長があそこまでブチ切れたのは初めてでしたわ」


 そういってけらけら笑う航海長を、副長は「はぁ……」という小さなため息とともにやれやれといった顔で少し笑ってみていた。


 まあ、普段キレたりはしない副長も、中国の度重なる非人度的なやり方にはうんざりしていたということだろう……。まあ、キレたくもなる。


 ……そういう航海長だって、


「……そういう航海長は、ちょっと何かあると焦りっぱなしでしたがね」


「え゛ッ、マジでか?」


 俺はそう突っついた。


 実際そうだったろうに。最初沖縄戦で魚雷がこっち来てもうよけれないってなった時のあの焦り様とか、普段の明るい航海長とは違ってむしろ新鮮に思えたのは俺だけじゃないはず。


 副長も、少しけらけらと笑って同意した。


「まったくだな。君も、艦長を少し見習ったらどうだ? いつでもあの冷静さを保ち、正確な判断を下すようにならなければ……」


「そういう副長も随分と感情的でしたがね」


 そう首を突っ込んだのは見張りから帰ってきた一人の乗員である。

 少し笑いながらそう言っていた。副長も図星を突かれたようで、「うっ」と一瞬唸ってしまった。


「あ、あれはだな……。主に、あいつらのやり方が……」


「ハイハイ言い訳乙です」


「ぐぬぬ……」


 何も言い返せない副長が何とも笑えるものです。


 しかし、そう考えると確かに艦長の冷静な判断も結構すごいな……。さすがは、一度朝鮮戦争で実戦経験してるだけある。


 主にCICにいた時とかも、しっかりと状況を判断して戦況を見定めた。カズとか砲雷長とかも、あの時ほど艦長が頼りがいのある人物に見えなかったときはないだろう。

 ……まあ、あの二人もあの二人で頑張ってたよな。砲雷長はいつでもしっかりCICしきってたわ、台湾で超音速のミサイルに襲われたときは俺でも予想だにしなかった魚雷の自爆戦法でよけたりってね。いつも見る人の違う面が見れて結構面白いものもあった。

 カズもカズで、結局最後までいろいろと頼りにしてしまっていたな……。特に最後の最後でやったあのミサイル手動での撃墜。

 あの時のあいつのオペレートはとても頼りになった。俺の問いに即行で簡潔に答えてくれ、俺がほしい情報をかゆいところまでしっかりと与えてくれていた。

 ……あの決断力とかも、あいつ曰く「捕手やってたおかげ」なんだろうな。まったく、野球ボーイめ。


 ……そして、俺も、


「(……結局、最後の最後まで動きっぱなしだったな……)」


 艦橋の乗員ゆえ、様々な状況に瞬時に対応せねばならない操舵という役職上、常に緊張しっぱなしだった。

 いや、戦場だからそれは当たり前なのだが、俺の場合はそれが人一倍といえるんじゃないかってくらいできるほど緊張していた。

 操舵という役回りが、これほどキツイものだったということを初めて思い知らされたようだった。

 ……まあ、こうやって操舵を続けてられたのも、


「(……あいつを、守ってやりたかったからかもしれないな)」


 俺が一歩間違えれば、それこそこいつの命に係わるんだ。俺が操舵をミスしないようにすることは、こいつの生存にもつながる。

 そして、それは俺たち乗員にも言える。


 ……あいつとは、結構な付き合いになってしまった。まだギリギリ一年も経ってないというのに。

 来月の……、8日だったっけか。あいつと初めて出会ったの。


「(……ずいぶんと、長く感じるものだな)」


 まあ、これも戦争やった所以か。戦争自体が長く感じたんだ。実際19日って長かったけれども。

 それが原因か……。はは、違う方面でもすごい体験したもんだな。


 そして……、互いに生き残る、か。


「(……今回は、死ななかったな)」


 こうして、また春の空と海を眺めることができる。


 今まではそれが当たり前と思ってたけど、生死の狭間を生きた後ってこれがとてもありがたいものに感じるんだな……。

 生きてることが実はとても幸運なことだって、あの戦争で思い知らされた。


 当たり前が、当たり前でないということだ。


 俺は一息長くため息をついた。


 そう考えると、この今の時間もとても新鮮なものだ。


 俺は……、今を生きてるのが、とても喜ばしいものに感じた。



 それが、俺の今の心境である。



「……にしても、今日もよく晴れてんなぁ」


 ふとに、航海長がそんなことを言っていた。

 その視線は艦首のほうを向き、正確にはその先にある青空である。


 空は確かに晴れていた。


 雲がほとんどなく、自然の春の風に流されどこかにゆっくりと、かつ優雅に飛んでいっている。

 見た感じは、風も穏やかそうであった。


「なんだ、また天気で占いでもしてるのか?」


 副長がまたあきれ顔で言った。ヤレヤレといった感じである。


 航海長もそれを見ると「ははっ」と笑って返した。


「まあ、そんなとこです。……今日は雲もほとんどありませんし、いいことあるかもですな」


「はぁ……。そんなこと言っていいことなんて今までであったか?」


「さぁ……。あったんじゃないですか? 長い年月経ちますし」


「んな無責任な……」


 そんなため息交じりのローテンションのツッコミが入る漫才に、俺を含め周りが軽く笑っていると、


「……と、そろそろ時間かな」


 そう、俺が艦橋の時計を見てつぶやいた時である。


「新澤少尉、交代入ります」


 と、ナイスなタイミングで交代の登場である。


 気が付けばもう12時を回った。そろそろ頃合いであろう。


「お疲れ様です。じゃ、あとはお願いします」


「了解。引き継ぎます」


 俺はその交代の人にあとの操舵を引き継いだ。


 ……と、この後は俺はフリータイムではあるが、さて、どうしたものか。

 昼食はすでに済ませている。事前の俺に対する操舵交代もあって、今日は早めにとっていた。

 なので、ぶっちゃけ腹はすでにいっぱいである。

 しかし、今から自室に行くといっても何もすることがない……。


 ……となれば、あそこしかあるまい。


「? どこいくんだ?」


 途端に航海長が声をかけた。


「いえ、見張り台でいつものです」


「あぁ……、なんだ。いつものか」


「ええ。では、失礼して……」


 と、そこまで行った時だった。


「新澤! 今度お前んとこの妹来るんだよな!?」


 と、いきなり階段上ってきたのは、まだ交代になってない艦橋乗員という名の、“変態共”。


「あぁ……、それが?」


「ネットで出回ってた画像見たらめっちゃ美人じゃん! 会える!? 俺たち会える!?」


「……は?」


「ぜひ俺とお見合いをだな! このような方にはぜひとも俺みたいなやつが!」


「……いや、ちょ、ま」


「いや何を言っている貴様! ここは俺がお相手にふさわしいに決まっているだろ!」


「いやいや、お前ら何言って……」


「うるせぇ! お前より俺のようなイケメソが彼女には似合うに決まっている!」


「何をぬかす! 外見で判断するようなお方ではないぞ! 空挺団の人だぞ空挺団!」


「いや、だから……」


「しかも絶世の美女だ! まだ歳も20しかない!」


「何ならまだ年が近い俺であろう! 俺だってまだ25だ!」


「いやいや、年齢で決まってしまっては歳の差婚の存在意義がだな……」


「「黙ってろポニー派!」」


「て め え ら 全 員 が 黙 れ や !」


 うん、いつも通りだったとはいえとんでもなくうるさい。うん、うるさい。


 ……そうだった。一応あの単身突撃の件であいつの画像も普通に出回ってるんだったな……。主にマスコミのせいである。

 一応兄として何か変なこと書き込まれてないかと思って某巨大掲示板とか某動画サイトもしらみつぶしに調べたが……、ええい、どいつもこいつも変態だった。

 皆かわいいとか結婚しようとか結婚したとかってぬかしやがって……。日本はまだわかるが(いやちょっと待てというツッコミは受け付けない)、世界各国までもがこんな変態揃いだったとは……。

 というか、イタリア人の暴走が半端ない。誰かあいつらとめろ。

 ……はぁ、これだとあいつが単身イタリアに突撃しようものなら絶対大量の男性からナンパされまくって違う意味でノックアウトだな……。戦場だとキチガイレベルの戦闘能力発揮したあいつも、このタイプの戦場は体験したことが……、


 ……いや、あるわ。普通に二桁単位で告られた経験があるし。


 しかし、イタリア人の事だ。たぶん同時多発的に起こるぞこれ……。


 ……俺兄貴、あいつをイタリアにだけは絶対に連れて行かないことを決意。


「はぁ……、副長、あとはお願いします」


「あ、あぁ……」


 副長も少しねぎらい気味の視線を俺に向けていたが、俺はそれには右手を軽くあげて返した。

 そのまま右舷の見張り台に出て隔壁を占める。

 直前、副長があの変態共を制止させるべくいろいろと叫びつつ無理やり艦橋から押し返すのが見えたが、俺はそれを見て副長の健闘を祈りつつそのまま閉めた。


 そして、この見張り台。


 外の空気というのはやはり心地いいもので、17ノットで海をかけるやまとが与える風はとても気持ち良かった。

 今までの仕事で流れていた少量の汗をしっかり撫でてくれていた。


 これだからここで一息つくのが大好きなのである。今までの疲れやストレスを風がどっかに飛ばしてくれるからな。


 俺は近くにあった手すりに背中から寄りかかり、腕を上に乗せた。

 ここいら辺も今ではすっかり修理された。

 ミサイル迎撃時に溶解していた手すりや見張り台の土台の一部も、すべてとっかえた。

 おかげでここがめちゃくちゃ新品同様。生まれたてみたいにきれいである。


 ……あの時の傷は、ほとんど見る影がない。


 一応、俺もここであいつと最後の激闘を演じたんだが……、それも、今となっては記憶の一つの断片である。


「……ふぃ~、やっぱりここだなぁ~」


 思わずそんな言葉が漏れてしまう。


 体重をすべて背中の手すりに預け、そのまま力を抜いた。

 ……ひと時の休息。俺はその風がなでる汗が引いていくのを肌で感じていた。


 ……もしかしたら、メシよりここにいるほうが疲れ取れるんじゃないかとも思う。食堂だと時たまあの変態共にツッコミするという義務を果たさねばならんし。


「……今日も、いい天気だな」


 俺は艦の前方のほうを見てそう言った。


 相変わらず天気は良く、青い空に少量の白い雲が俺の視界に入っていた。

 そして、視線を下に移すと、そこには激しく波を切っている艦首と、その時の白波がある。


 ……優雅な航海。そんな感じに思えた。


 ……こうやってゆっくり見ている暇がないからな。こういうのは結構見てれば面白く感じる。

 どんな感じに波が切れるのかとか。アニメみたいに波切る形がループ状態だったりしないので、ある意味嵌れば飽きないものである。


 ……まあ、いつまでも見ているさすがに飽きるけど。


「……ふぅ~~、今日も気持ちよく過ごせそうだ……」


 俺は一つ大きなため息をついていった。


 ……と、その時である。


「……ん?」


 ふと、艦橋の前側のふちを見た。

 柵の前に座って、足をブラブラさせている。


 ……あぁ、なんだ。


「……まぁたあいつあそこで休憩してるのか……」


 相変わらず危なっかしいところにいやがる。まあ、艦魂だからあそこから落ちても問題ないんだけどな。

 何やら手を艦橋のふちにおいて、足を相互にブラブラ軽く揺らしつつ、少し顔を上げて空を見ながら鼻歌を歌っている。

 えーっと……、あぁ、なんだ。軍艦行進曲か。

 ある意味あいつらしい。海軍の歌というか、艦の歌でもあるしね、それ。


「……なんか、こんな感じの状態みたことあるな……」


 なんとなくデジャヴ感があるが、まあいいだろう。


 ……どうせだ。向こう身暇だろうし、ちょいと付き合ってもらいますかね。






 ……というわけで、






「……お~い、」














「やまとぉ~」
















 俺はあいつに向けて声をかけた…………

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ