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『やまと』 ~戦乙女との現代戦争奮戦記~  作者: Sky Aviation
終章 ~新たな平和と未来を目指して~
164/168

陸の精鋭たち

―AM11:45 山梨県某所北富士駐屯地 第1空挺団第1大隊―









『制限時間です。訓練終了。訓練終了』


 その宣言と共に、訓練は終了した。


 その場に伏せたり死亡判定を受けて突っ伏している人が全員起き上がって、また伸びたり肩に手を回して鳴らしたりしている。


 あの病院での治療の後、大体1ヶ月くらいの入院期間を経て、そのまま空挺団に復帰した。

 案外大樹兄さんの言っていた通り傷が比較的浅かったこともあってか、その後の体力検定にも何とか合格し、そのまま部隊への復帰がかなった。

 案の定、部隊に復帰したとたんに隊長が土下座しかけるレベルで謝罪に来るわ、変態共は私を出迎えという名の強行突撃してくるわでそれから逃げ回るのにさっそく体力を使った。

 大半はいつも通り私に自主的かつ勝手な好意で突っ込んできているやつばっかりだけども、中には隊長みたいにあの時私を守れなかったことに対する謝罪を叫びながら突っ込んでくる奴もいてもうカオスどころの話でない状況になった。

 これが空挺団式の復帰祝いのお出迎えか、とかいう冗談を言う余裕と暇はなかった。

 とにかく逃げまくった。いつの間にか、習志野駐屯地内を何週もするほどの距離を走っていたかもしれない。

 ……そうか、これはあいつらなりの体力トレーニングだったのね。復帰したばっかでなまってる私を思って……。


 ……なんていう都合のいいことなんて考えもしない。


 その結果、復帰したばっかだというのに全然休む暇もなく……。疲れ果てて個室の中のベットでぐったりしているところを羽鳥さんが「すまんな、フォローできずに」とか言いながら差し入れのアクアス持ってきてくれたのが唯一の救いだったくらいだった。

 我が部隊の良心がここにおった。今まで特徴なくて影薄いとか言ってごめんなさい。

 ……まあ、どちらかというと隊長も良心の結果があの暴走なんだろうけど……。


 そのあとは何ともない。いつも通りの訓練生活を取り戻した。


 政治がいろいろ動いたりしているけど、私は詳しくないからそこはスルーしてる。

 そこは大樹兄さんあたりに後々聞いて簡単に説明してもらうとして……。

 そのあとからはいつも通り普通にしごかれるわかわいがられるわ、そして変態共から追われるわの日々。


 ……なんてことはない。いつも通りの日々。


 そして今日も、北富士演習場にて、私たち空挺団第1大隊のメンバーで部隊訓練評価隊(FTC)相手の訓練のためにハチキューこと89式自動小銃にバトラーを取り付けての訓練を行い、たった今完了したところです。

 制限時間内に互いに多くの兵士を殺した(あくまで判定)ほうが勝ちっていう単純至極な内容。

 今日も何とか私は生き残りました。というか、戦闘条件の関係か私はほとんど撃たずに後方からくる本隊に指示をしたりする役目ばかりでした。

 何でも、今後空挺団の再編というか、部隊編成を少し変えていくみたいで、そのため私は個人的にこういう偵察的な任務をこなせるように訓練させているとか。

 今回の訓練も本当は予定に入ってなくて、この部隊再編に際して各自の新たな任務に対応できるようにさせるための下積みの意味も含めているんだとか。

 ……いったいどんな再編成をするのかは知らないけど、まあ別にこっちはこっちでもいいかという私の個人的な見解です。


 バトラーを使っての訓練のため、薬莢は回収しない、というかそもそも発生していないんだけど、周りの障害物等の後片付けはしておく。

 これに隠れたりなんだりして戦闘は行われている。まあ、これもいつも通りの事だった。


 適当な場所に置かれた立て草とかのを回収していると……、


「……お前、また命中率上げたか?」


「え?」


 そう言ったのは鈴鹿隊長だった。

 どうやらさっきまで統裁室と通信していたらしく、HUDをしまいつつそう言っていた。

 その顔は、うれしそうではあるが少し苦笑い気味で口を軽くゆがませている。


「今度は9割だぞ……。いったいどこからこんな命中率出してんだ」


「どこからって言われても……」


 これも一応いつも通りなんだけどなぁ……。最近よく隊長から言われる。

 確かに一応訓練終了と同時に統裁室から個人の戦闘結果について情報がHUDに表示されたから即行で分かったけど、それ前までも何度かあったんだからそれほど驚くほどでは……。


「お前本当に新人だよな……?」


「まだ入隊1年しか経ってません」


 まだまだピッチピチの20です。今年で21になります。


 まだまだしごかれています。ええ、しごかれる経歴ですよ。そのはずですよ。


「しかし、階級も例の件で上がったしな……。ある意味俺よりキャリアがやばくなりそうだ」


「はは……、んなバカな」


 私は少し苦笑いして右手を軽くふらふらさせながら言った。


 例の件っていうのは、あの戦争最後の高雄市決戦で行われた私のよくわからないままの偶然で起こった司令部突撃。

 結局、あの高雄での決戦は今では『高雄市最終決戦』やら『9月の開戦』やらって感じでマスコミが勝手に命名しました。

 ……9月の開戦って言ってながら一日も経たずに終わりましたがね。

 んで、そこで行われた私の司令部単身突撃。

 あれが、ほんとは「あんまり口外したら騒がれるからちょっと黙っておこう」ってことになって、一応表には部隊が突撃したってことにしたんだけど、なんでか知らないけど中国側の人が勝手に言っちゃったらしくて、それを聞きつけた“全世界の”マスコミが度肝を抜きつつ真相確認のためにその当時司令部強襲に当たっていた私たち空挺団のもとに多数のマスコミが押し寄せたほか、ネット上でも「マジで!? 本当なのか!?」とかって感じで真相を知りたいっていうムードが形成されてしまい、それらがマスコミを後押しする形となってしまった。

 進退窮まったというか、もうこれ以上黙っていてもどうせ騒ぎが大きくなって変な憶測が飛んでしまうのも問題だと思った“日本政府”は、「仕方ないから一応全部機密に触れない程度にばらしちゃっていいよ」ってことを言ってきたことを受けて、とりあえずマスコミに一応真実を伝えることになった。もちろん、国防機密には触れない程度に。


 その結果、日本はもちろん全世界がこの報道を聞いて、


「えぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええ!!!!!??????」


 と口を揃えて叫ぶが如く有名となってしまい、さらにその人に会わせろとうるさくギャーギャー言ってきたんだけど、それはさすがに無理と隊長たちが必死に止めた結果、いったいどこから情報が漏れたのか直接私のほうに取材に来る始末です。

 その内容もあたかも最初から知っていたかのごとくで、


「例の司令部に単身突入したのはあなたですよね!?」


「あの時の心境は!? その時勝算はあったのですか!?」


「どのような状況をどう判断したのですか!? あの突撃の成功の要因は!?」


 とかどうとかをマシンガンの如くぶつけてきて違う意味でダメージを喰らってしばらく隊長たちが、


「わり、ほとぼり冷めるまでちょっと表出るな」


 と言われてしまって基地から勝手に出ることができなくなりました。


 ……でも、それでも写真は普通にとられてて、まあ別にそこまではまだいいんだけど(いや普通はよくないんだけど他と比べた結果ね)、その写真がマスコミ通じてネットに出回ったらしくて……。


 んで、それを海外マスコミが日本マスコミから言い値でコピー買って、これまたそっちはそっちで報道した結果、ネット上で散々話題になって、某巨大掲示板でもスレッドが大量に立ちあがった結果……、







〔【衝撃】司令部に単身突撃はマジだったことが判明!しかも外見が美人過ぎる件!【女最強伝説】〕

・おいこれマジでか!?

・ヤバい、日本の女マジパネェ

・しかもこいつめっちゃ美人じゃん。

・一応中国側の証言も得てるらしいからマジっぽい。

・↑例のその場にいた司令官が取材受けてたな。あの人あの後米軍に引き渡されてたけど。

・↑マジかよ……。てっきりただのアホか勝手に言い出した妄言だと思ってたのに……。

・↑おま俺。まさかマジだったとはな……。日本マジパネェ。

・こんな美人でしかも戦闘能力高いとかアホだろ……(褒め言葉

・日本人女性マジパネェwwwww

・こんな美人がキレたら司令部壊滅させちゃうのか……(戦慄

・↑正確には倉庫区画にあった広めの元倉庫の一つに司令設備を備えたところだから、司令部というよりは司令室ってところだな。でもどっちにしろやばい……(戦慄

・↑それでも一応完全武装の警備兵が十数人いたらしいからな……。それを一人で全滅させるとか、お前は某純日本製TPSに出ていたジョーク実装済みのフランス製戦闘用ロボットか(褒め言葉

・↑ずいぶんマイナーなの知ってるなお前……。あ、俺もか。

・また外国人の日本人に対するおかしなイメージが付くな……。

・↑外人「日本人の女性は怒らせると怖い(震え声」これかwww

・きれいな人だ。結婚しよう(←

・↑あ? 誰がお前に渡すか。俺が結婚する(激怒

・↑いや、ここは紳士的に俺が。

・↑てめえらいい加減にしやがれ。俺が結婚するに決まってる。

・↑何言ってるんだこいつらは……(困惑

・どっちにしろお前らみたいなクソニートに付き合ってくれるわけねえだろ。この人空挺団だぞ?





 という、明らかにあいつらと同族の変態共がおりなすカオスな状況になったほか、


 某大手動画投稿サイトでこの日本のニュースを動画にして投稿したところ、その外国人のコメントが……、





〔【中亜戦争】高雄司令部に単身突撃していった日本人女性が美人過ぎると話題に〕

投稿者:こんな美人に司令部制圧されたのか……(アメリカ)

以下コメント。

・美人過ぎる……。惚れてしまいそうだ(アメリカ)

・いやいや……、これありえる?(オランダ)

・↑と思うだろ? これ、中国側の証言も得てるんだぜ……(イギリス)

・信憑性はあるな。中国ですら言ってるんだ。日本がウソつく理由がない(カナダ)

・私たちの故郷を救ってくれた人!同じ女性として誇りに思うわ!(台湾)

・日本人女性怒らせたらこうなるのか……(ドイツ1)

・↑そりゃ親友の国襲われたからな……。怒りはわかるかもしれない(ドイツ2)

・こんなべっぴんさんに制圧されるとか、どう思えばいいのか複雑だな……(アメリカ)

・↑何を言っている?健全男子なら本望だろう(アメリカ)

・↑俺なら彼女になら殺されてもいい(オーストラリア)

・↑いや、ここは俺が先に逝かせてだな……(インド)

・↑いやいや、ここは俺が先に彼女に告白させてもらってから……(フランス)

・お前らは黙ってろよwwwここは俺の出番だろwwwww(イタリア)

・↑またお前かイタリアン……(アメリカ)

・イタリア人出るところに美人あり。つまり(日本)

・↑彼女は将来結婚か……。俺の出番か(イタリア)

・↑またお前かwwwww(イギリス)

・↑イタリアンに目をつけられたか……(スウェーデン)

・↑もう奴は止められないな……(アメリカ)








 ……なんていういろいろとツッコみどころ満載のコメントが出てしまった結果、なんでか知らないけどいつの間にか世界的に有名人になってしまったという経緯がありまして。

 というか、こんなところでも変態染みたコメントが。こういうのはもう国関係なく伝統かなんかなの? そうなの?

 あと、やっぱり内容が内容だけにフランスがいつも通りかっこよく決めようとしている言動をしたり、あとイタリアが暴走したりしているのはもはやその国のお国柄なんでしょうね。たぶん。


 ……で、それが昇進のなんのつながりがあるのかって話なんだけど、そうして話題になっているうちに、どうやら彼女にはまだ昇進がされていなくて階級がそのままらしいってことが伝わったらしくて、世界のネット住民が口裏合わせたかの如く、


「いや階級上げろよ! 戦果がとんでもないだろ!」


 と、一斉に言った結果、日本政府もさすがに大きくなりすぎてマスコミもそれに乗っかってどうもかわしきれなくなっったために、私はさらに昇進しました。


 今では一つ上がって伍長から軍曹です。どっかの緑のカエルの宇宙人じゃないけど。


 とはいっても、今となってはさすがにほとぼりは冷めていって一安心だけど、聞いたところだとそれにせいで身元簡単に調べられて危うく家族のほうにまで取材がいきそうになったとか……。というか、実際後々から、


「ねえ、なんか真美の件についてめちゃくちゃ取材受けたんだけど何したの?」


 と、あの時航空無線消したばっかであの後の無線聞いてなかったり、なぜかマスコミが事情を言わなかったらしい関係か、まだ事情を知らない友樹兄さんに病院に来たついでに聞かれたり、


「なあ、さっきからお前の単身突撃関連でマスコミの取材受けまくりなんだけどこれどうにかしてくんね? 「私の家族にあんまり迷惑かけらたその単身突撃みたいにするわよ」とか言ってやってくんね? 疲れた」


 と早口で電話されたときもあった。

 ……ちなみに、事情を知らない友樹兄さんにこのことを話したら危うく失神しそうになったほか、そのあとすぐに、


「お前人間じゃないだろ! あと僕の妹そこまでおかしくないぞ!?」


「おいちょっと待て」


「友樹兄さんそれはちょっとツッコんでいいかな?」


 という失礼極まりないことをのたまわれたりもした。


 ……なんでだろうか。私ばっかり戦争終わってからいろいろ忙しい気がする。いや、確実に忙しいことになってる。

 こんなことならあの時とつらなければよかったと思い始めてしまう今日この頃。まあ、あの状況なら突っ込まないなんて言う選択肢はほぼないに等しいんだけどね。


 しかし、まさかここまでの大事に発展するとは……。というか、いくら国防機密に触れてない範囲でとはいえ真相即行でばらしまくりでしょ。ネットの声って怖いね。


「キャリアって言っても……、私はあれ以外はそれほど……」


「まあ、それでもあるんだがな……」


 隊長は少し苦笑いというか、少しあきれ顔で言った。

 目を伏せて軽く右手で眉間を抑えている。


 私はそれを苦笑いで返しつつ、近くにある設置物の障害物を取り除いでいると……、


「……あぁ、それとだ」


「?」


















「あの時はすまなかった」


「たーいちょー、それもぉー6ヶ月ぅー」



















 まだ言っているのかこの人は。

 もう部隊に復帰して6ヶ月。

 隊長あの時から定期的に誤っているのはもはやトラウマかなんかなのですかね?

 そんなに目の前で自分の部下が撃たれたのがショックだったのですか? あれどっちかっていうと私が出しゃばった結果なのに?


 ……ふぅ、そろそろつかえてきたでよ……。


「いや、そうはいってもあの時は俺が……」


「いや、もういいですから。もういい加減大丈夫ですから」


「だ、だがな……」


 ええい、どんだけ違う意味でねに持っているんだ。そろそろ疲れましたぞ。


 ……と、そう思っていると、


「まあまあ隊長。新澤も無事に帰ってきたんですしそう落ち込まずに、ね?」


 そう言って近づいてきたのは、設置されていた障害物を右脇に抱えていた羽鳥さんだった。

 いつもの優しげなそこそこイケメソな顔がすぐそこにやってくる。

 しかし、それでも少しやれやれといった顔であった。もちろん、対象は隊長である。


「確かにあれは隊長にも落ち度はないとは言えませんが、それでも一応はこいつも無事でしたので……」


「その落ち度の結果がなぁ……」


「はは、こんなに弱気な隊長も珍しい」


 そう言って、はははと軽くけらけら笑った。

 彼も彼なりに隊長の反応を楽しんでしまっている節があるのだろう。


 ……まあ、かく言う私もそろそろスルーでいいかと放置気味になりかけているんですがね。


 近くの障害物を取り除き終え、そのまま近くにある部隊の集合地点に戻るために3人で移動していった。


 ふと、羽鳥さんが少し感慨にふけるようにしみじみといった。


「しかし、あれ以降新澤も結構な有名人になりましたからね……。ほんと、すごいやつですよ。今後、下手な扱いはできませんな」


「まあな……。女を怒らせたらどうなるか、これで身をもって知らされたようだよ」


「いやぁ、全くです。うちの女房も怒ったからこうなるんかなぁ……」


「いや、怒ったってあんたら……」


 私は思わず苦笑いした。

 怒ってっていうか、あれ別に怒ってたわけじゃないんだけど……。まあ、愚痴はあの時の前まで洩らしていたのは事実だけど。

 しかし、どこもかしこも私が起こってああなったっていうことになってるのには解せぬ……。私はただ単にいけると踏んでやっただけだというのに……。


 ……まあ、いずれにしろヤバいんだろうけどね。


「将来は明るいですよ。……お前も、もっと頑張れよ」


「はーい……」


 ちょっと今の言葉に他意はないのかと複雑な思いに駆られるが、まあここは素直に受け取っておくことにする。


 ……すると、


「……しかし、」


「?」


 隊長が少し静かにしみじみといった。


「……戦争が終わって7ヶ月になるってのに、あの時の出来事がつい昨日のように思えるな……」


「……」


「……確かに」


 よくよく考えてみれば、あれから“もう”7ヶ月なんだよね……。


 ……まだあの時の出来事すべてが鮮明に覚えている。最初の、開戦と知って何もできずに隊長がブチ切れてたり、私も私で歯軋りしたりした時から、その後の反撃で伊江島、そして澎湖諸島、さらには、最後の最終決戦での高雄国際空港強襲空挺まで、何もかもをまだ鮮明に覚えている。

 特にあの高雄国際空港強襲空挺。結局、あの最初の出オチと言わんばかりのオスプレイの撃墜は、偶然近くにいた兵士が元は対戦車ロケットだったものを上に向けて撃ったら、高度が低かったこともあってか運よく、私たちにとっては運悪く当たったっていうことらしかった。

 これは戦後の米軍やアジア各国多国籍にわたっての調査で分かったことで、その一人一人の兵士の動きについても詳細に調べられた結果だった。


 ……そう考えると、あの時の私たちは相当運が悪かったってことね。やはり私も相当ついてなかったってことか。


 ……あと、どうでもいいけどあの時の星座占い調べてみたら、案の定私のおとめ座はあの日はダントツの最下位で、そのコメントが、



『いたるところで何かしらの不運に見舞われるでしょう』



 ……っていうものの見事にあの時の私にマッチングする内容だったほか、その日の運勢を少しでも良くするってことでお約束の如くでてくるおススメの携帯物や色が、






『濃い緑色』に『ヘルメット』って……。






 ……いろいろツッコミたいんだけど、まず色と携帯物が全然役に立ってない。

 私その時ちゃんとそれ持ってたっていうか、装備やその色がものの見事に一致しているのに全然その効力が確認できてません。最終的に生き残ったとか司令部制圧できたとかそういうのを幸運だとのたまうならそっちじゃなくてほかのほうで幸運を振り分けてくれって抗議したい次第でしてね。

 幸運分けてくれるんじゃなかったの? 不運が勝っちゃったの? 効力が制圧されたの?

 んで、濃い緑はまだいいとして、なんでおすすめがヘルメットなのよ。これ私と同じおとめ座の人ってあの時どうすれば良かったのよ。

 濃い緑の服着てヘルメットかぶって自転車でも乗ってりゃいいの? 意味が分からないよ。


 とりあえずあの不幸はあの星座占いのせいだということが判明。


 ……と、話がずれた。


 とにかく、あれから結構な日がたったのに、まだまだ昨日のことのように覚えているってことです。


 鮮明に覚えている。それは、私だけではなかった。


「……あの戦闘の内容、全部いえるか?」


 そう隊長が聞くと、羽鳥さんが即答で答えた。


「ええ。答えれますよ。……全部話すとなると、少し長くなりますがね」


「はは、そこまでか……。まあ、俺も人のこと言えんな……」


 そう言って隊長も少し遠い目をした。


 あの時の戦闘内容……。最初のはまだ何にもなかったけど、あの後の澎湖諸島の時は確か単身突撃しちゃった結果思わずかすり傷負って変態共が突撃してきたなぁ……。

 ……結果、その数日後に今度は司令部に単身突撃してそれを成功に収めてとんでもない有名人になってしまうんだけど、あの時はそんなこと予測できなかったし、そもそもしてる暇なかったもんなぁ……。


 ……今考えれば、私たちはとんでもない戦いを生き延びたんだなぁと、しみじみと思った。


 ふと、羽鳥さんが言った。


「まあ、新澤に関しては……、兄さんが守ってくれたとかかな?」


「え?」


 そう思わず反応して羽鳥さんのほうを向くと、羽鳥さんは少しにやけ顔で自分の頭の左側頭部のちょい前あたりをトントンと人差し指でたたいた。


 私はそこに当たる部分を触ると……。


「……あぁ、これか」


 ヘルメットがかぶさっているのでそれに触れることはできないが……、


「……一番上の兄さんからのお守りももらったしな。それ役立ってたりして」


「いや、これ終戦後の病院で受け取ったんですけどね……」


 そんなツッコミを返すが、羽鳥さんは口をゆがませて笑うだけだった。


 お守りっていうのは、私が冗談半分で“事故的に”無線私用した時に冗談半分で大樹兄さんにねだったヘアアクセサリーのやつで……。うん、そうです。あの病院でもらったヘアクリップです。

 桃色基調の小さく平らで起伏が少ないリボン型のもので、例の裏に名前をあしらって、さらに共に生きようってメッセージが書かれてるあれです。


 ……あれ以来、どんな時でも基本これをつけてます。今みたいに、ヘルメットをかぶっている時も、それほど邪魔にはならないので許可取ってつけてます。本音、まさかオーケーが出るとは思わなかった。そういうものなのだろうか、それともうちの隊長だけなのだろうか。

 もし後者なら、たぶんやっぱりあの私がかばった件についてちょっと譲歩したって形なのだろうか……。まあ、いずれにしろラッキーです。


 まあ、ぶっちゃけいえば別にこれを一個付けたくらいで別にかぶれにくくなったりはしないので、つけてもつけなくてもそれほど大きな差はないわけです。ハイ。


 また、あれ以来この私がいつもつけているこのヘアクリップが一種のチャームポイントとなっているらしく、部隊内からでも結構人気だった。特に、例の変態共は特に。

 どこからともなく持ってきたカメラを使って写真に収めようとしたのに対しては即行でケリ入れて黙らせたのだが、それのたびに「ありがとうございます!」とか「本望です!」とかって……。もうドMの範疇超えてるでしょ。

 もうそろそろ本気で精神科に連れて行かねば、と使命感に駆られたが隊長たちに止められてそれ以来はスルーするようにしてます。

 ……まあ、ほとぼりが冷めたのか、それとも飽きたのか知らないけど、今ではそれほどこれにいろいろと反応するのはいなくなったんだけどね。


 ……とはいっても、羽鳥さんが言う通りこれはある種のお守りみたいに扱っている節もある。あながち間違ってはいない。


 これもこれで結構お気に入りだったりするし……。冗談を冗談と見抜いたのにそれでも買ってくれるとは、大樹兄さんも“ある意味では”人が悪いわね。

 ……乙女心を操る意味でね。うん。


 だからある程度は女性受けもいいって言ってるのに、大樹兄さんは「いいや、俺は無理」って言いっぱなしなんだからねぇ……。実際、学生時代とか私の友達からの評価良かったってのに。そんでもってそれを友達には内緒でばらしてもそれを全然信じなかったし。もうここまでいくとウザイと言われてもおかしくないレベルで。


 ……まあ、大樹兄さんなりの考えってのもあるし、それほど押しつけたりはしませんがね。ええ。


 すると、隊長が思い出したように言った。


「と、お前の兄さんで思い出した。今度の空挺団の海軍に対する表敬訪問に関してだが……」


「ああ、あれですか」


 そう言ったのは、来月に予定されている陸空軍の海軍表敬訪問の事だった。

 陸海空の互いの任務に関する理解を深めるため、という狙いのもと定期的に行われているもので、今回は私たちと、何と友樹にさんが所属する部隊のパイロットが海軍艦船に表敬訪問することになっている。

 あと、これにプラスして、もしかしたら海軍の潜水艦部隊からも訪問が来るかもしれないってことで、下手すれば父さんが直接来るかもしれないなんていうことも言われている。

 父さんは戦争中もっとも戦果を挙げた艦の艦長の一人として数えられていて、詳しくはわからないけど、その戦果から潜水艦隊司令官に推薦された程なんだけど、それをご丁重に断ったとかどうとか。何とももったいないことをしたものですわ。

 父さんはもとより、私はもちろん、友樹兄さんも思わず驚いていたらしいんだけど、とにかくそういうことで兄妹と父そろっての訪問となっています。


 ……で、その海軍艦船のどれにのるかがまだ決まってなかったんだけど……。


「うむ。それが……、聞いて驚け。どうやら、“やまと”に乗ることになるかもしれないぜ」


「ええ!? ほんとですか!?」


 私は思わず叫んでしまった。


 やまと。大樹兄さんが相変わらず所属で乗っている艦だ。

 あの後、やまとは今回の戦争で大きな活躍をしたということで結構な有名艦になり、台湾政府からに至っては直接艦自身と乗員に対して勲章をもらったりしたほどだった。


 今は戦争中負った損害の修理が完了して動作試験棟を兼ねた訓練航海に向かっていたはずだけど、それほどの艦に今回乗れるとは……。


「ああ。何でも、回復後最初の体験航海に俺たちと空軍の連中が参加することになったらしい。……なんとまあ、お前ら家族大集合だな」


「はは……。ほんとですよ……」


 ただし、母さんはさすがにきません。

 しかし、これはまた何という偶然。ここで家族が(やむを得ずこれないだろう母を除いて)ここに大集合するとか、これはおそらく神様からのご褒美ですね、わかります。


 ……久しぶりにまた会えるとは。今度は何を話してやろうか……。


「俺たちもいくし、少しお前の兄とも話がしてみたいな……。どんな奴か実に興味がある」


「ええ、俺もですよ」


 そうか、二人はまだ存在は知っていてもあったことはないしね。

 そりゃ気になって当然か。


 ……ただし、


「……ですが、例のあいつらは……」


「ああ……。たぶん、新澤の兄だと知った途端そいつらに向かって婚姻申請でもしに行くんだろうな」


「しかも、あいつらの場合あながち冗談で済みそうにないんですよねぇ……」


「……はは……」


 ……全然ワロエナイ。

 あいつらの場合本気でありそうだから困る……。というか、絶対起こる。絶対やらかす。


 ……あぁ、また兄さんたちに一苦労をかけることに……、はぁ……。


「ま、まあとにかく、そういうことだ。楽しみにしておくんだな」


「は、は~い……」


 とはいっても、今回の訪問メンバーに例の変態共が数人混じっているので少し不安ではある。

 私のことになると妙に礼儀正しくなるのを使って、どうにかそこらへんの空気を読んでくれるのを願うばかりですわ。


 そんな感じの会話をしていると、やっと集合地点に到着する。


 適当な場所に回収した障害物を置いて、他のメンバーを待っていると……、


「よし、さて、では他の奴らを……、ッ!?」


 と、羽鳥さんがギョッとした目である方向を見た。


「な、なんだあいつら!?」


「え?」


 ふと、私もその方向を見た時だった。


「……げぇ!?」


 ……なんとなくデジャヴな感じはするけど、ある意味こういう訓練終わりの時にはぜひとも会いたくなかったのと鉢合わせた。












「あらさわぁぁああああ終わったらメシいっしょになぁぁぁぁぁああ!!!」


「いやアンタらなんでまたわたしなのよもぉぉぉぉおおおおお!!!!」












 案の定、とすら言えてしまうほどのお約束的展開となってしまった。


 例の変態共が集団で私めがけて突っ込んできた。


 それどころか、あいつらが言っているセリフもどことなくどっかで聞いたことがある。これがデジャヴか。


 私は防衛本能が働いた。


 本能が言っている。「逃げろ」と。


「今回のAAR数十分で終わるってさぁあああああ!!!」


「昼食間に合うから一緒に食おうぜぇぇぇぇえええええ!!!!」


「いやメシの時くらい好きにさせてよもぉぉぉぉおおおお!!!!」


 そんなことを叫びながらまた追いかけっこ開始です。

 これもどっかで見たような光景。しかし、今の私にそんなことを考えている暇はない。

 AARが数十分で終わるって、いったいどこから聞いたのよ? そんなツッコミをしている余裕すら今の私にはない。

 とにかく私は逃げた。どこに行くまでもなく。本能のままに。


 ……そして、


「……やっぱり、あいつは人気者だな」


「仕方ないですよ。うちらの清涼剤ですもん」


「はは、だよな」


「そうですよ」
















「「ハハハハハハハハッ!!」」


「いやさっさと助けなさいよアンタらぁぁぁぁあああああ!!!!」














 そんな、これまたデジャヴな孤立無援を味わいながらも、私は足を激しく動かし逃げた。とにかく逃げた。



 これを隊長たちがとめるのは、もう少し後の話である。



 その時の私は、もうすでに訓練終わりだというのに、ある意味訓練の時以上にグッタリしていたのだが、それはもう少し後の話。



 今の私は、とにかく防衛本能に従うままに逃げるだけだった。



 奴らの速力が落ちない。



 私が絡むとそこまでの能力を発揮するとか、いったいあいつらの体と思考はどうなっているのか。



 違う意味で実に興味があったのだけど、そんなこと深く考えている余裕はなかった……。















 日本、山梨県、


 少しずつあたたかくなり、雲が少しある気持ちのいい青天の空の下。










 平和になったこの日も、私は結局いつもの日常を送ることになる。


 ……この、違う意味で危機的な状況も含めて。











 そんな私を見下ろす青い空と、程よく漂う白い雲は、


 いつものように私のこの苦労のなどどこ吹く風で……、



















 ただただ、自分たちの好きなように自由気ままに空を漂うだけだった…………

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