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『やまと』 ~戦乙女との現代戦争奮戦記~  作者: Sky Aviation
終章 ~新たな平和と未来を目指して~
161/168

台中艦隊同航

―TST:PM10:20 台湾民主国首都台北より北北東125海里地点

            台中連合艦隊中国艦隊DDG174“成都”艦橋―








「……で、そろそろあいつが演説することになるのか?」


 俺はそう副長に聞いた。


 副長もそれにすぐに答えてくれた。


「ええ。まもなく、彼の演説が始まるようです。政治将校からの立候補ということで、米国の査定に少し不安はありましたが、何とか通ったみたいで……」


「結局、熱意が伝わった結果ってことか……」


 俺は少し感心したように小さく何度もうなづいた。


 あの終戦の後、俺は何とか現職に留まることに成功し、成都と共にいったん舟山海軍基地に停泊した後母港に返されたが、結局その後の部隊再編成で一部は東海艦隊に呼び戻されることとなった。

 俺が乗っている“成都”もその一つで、これのほかに、今では中国唯一の空母となった“施琅”のほか、蘭州級“海口”にほかフリゲートが4隻ほどだ。

 ……結局、俺たちが今までよりどころにしていた南海艦隊は去ることになったか。まあ、運命ってのはそういうもんだろう。

 しかし、意外なことにアメリカからの保有艦制限等はそれほど受けなかった。旧式艦や損害艦の廃棄は命令されているとはいえ、そのほかはそれと言って指示は受けていない。あいつ曰く、


「おそらくそうするまでもなく中国海軍力は落ちたってのと、そんなことしてる財政的余裕がないから放置」


 ではないか、ということらしい。

 ……政治将校らしい現実的な考証だ。まあ、アメリカとてうちらが発端の経済危機の影響をモロに受けてぶっちゃけそっちどころではないのに仕方なく政治改革の支援とかをやってるのが現状だからな。

 なぜって、自分からやるって言ってしまったものはやらないといけないし、そもそもほかに率先してやてくれるやつがいないってのと、あとこういう指導に名掛けているのは一応はアメリカ。

 ……まあ、いらなくおせっかいなだけなのかもしれないが。


 とにかくそんなこともあって、軍事力自体は最低限ではあるがある程度は保有を許された。

 最近では少しくらいなら警戒警備行動を許されるようになっており、時期的に考えれば異例の速さだという。

 これまたあいつの予想だが、この国際協力の流れが大きくなっている現状、俺たちにも働いてもらおうということなのではということだった。

 ソマリアとか、そこらへんの海賊問題は未だに大きな悩みの種として残っており、それらに中国側戦力も投入させるつもりなのだろう。

 一番の要因として、それの主力として活動していたアメリカが少しずつ戦力を後退させている分を中国に補わせる狙いがあると思われた。

 元から中国は定期的にソマリアには海賊対処として部隊を派遣してはいたのだが、今後はそれを強化させるつもりなのだろう。

 だからここまでいらないくらいに艦を残したんだ。ソマリア討伐戦力が減ればそれこそアメリカとしても地味に痛いことになる。


 ……まあ、それでも俺たちの生きがいが死ななかったのは何よりだ。


 このチャンスを逃すわけにはいかないな……。


 ……そして、話はこの今の状況に戻るのだが、とにかくそういう背景もあって今は部隊移動で東海艦隊の司令部がある寧波、正確には海軍基地がある舟山海軍基地に向かっている。

 ただし、やはりこのご身分なので、護衛兼監視として、台湾から艦隊が派遣された。

 なぜかただの護衛と監視なのに豪勢にも向こうの最新鋭のイージス艦が2隻全部来たのだが、あとからの話、あれ以外まともに出せるのがなかっただけらしい。

 しかし、まあ向こうと会うことになるとはな。……終戦の時からあってなかったから、ざっと7ヶ月くらいか。

 だいぶあってないように感じるな……。まあ、7ヶ月もあってなかったら当たり前か。


 彼女らは俺たちの周りを囲むように陣形を組んでいる。


 ……あの時と変わっていない。堂々としたものである。


 ……なお、話外れるがその7ヶ月の間に、俺の艦内での戦闘指揮が評価されたらしく、艦隊司令部要員として昇進しないかともいわれたが、俺はご丁重に断った。

 まだまだそんなことをする歳じゃない。俺はまだ35だ。

 それに、今の俺はまだまだここで現場仕事するほうが性に合ってる。成都こいつや、この艦の乗員とも、戦争で散々戦い抜いてきた仲でもあるし、あんまり別れたくなかったってのもある。

 まあ、そんなわけで俺は結局ここにとどまることにした。

 周りから「もったいない」と惜しむ声が聞こえたが、俺はご丁重に退かせてもらった。

 とにかく、今の俺にはまだその仕事は荷が重すぎるし、この仕事のほうが好きなのだ。


 ……んで、話は一番最初に戻るのだが……、


「……にしてもあいつ、本当に立候補するとはな」


「ええ。いくら政治将校の役がいやになってこの現実を変えたくなったとはいえ、まさか本気で……」


「しかも元政治将校っていう難しい立場でありながらアメリカの厳正な審査をパスするとか……。どんな努力をしたんだかな」


 元政治将校。


 そう。あの、元々この艦の政治将校として乗り込んでいた郭という名のあいつだ。

 あの終戦後、いったん席をはずしていった時があったが、あれは自分なりに政治関連の勉強をしていたようだったのだ。

 そして、こうして東海艦隊についた後政治将校を辞退。まあ、もとより共産党が崩壊したので最初っから勝手に役職はつぶされたも同然だったのだが、そこから今度はマジの政治家としての道を本格的に歩むことにしたようだった。

 政治将校という名の半ば軍人的立場の人間であったが、政治将校として元の政治にも近い立場にあったことを逆に使い、今までの政治を徹底的に糾弾。そこからさらに超現実的な解決策を打って出ていることで細菌有名となっている。

 最近ではTVにも出ていた。よく政治将校という立場の関係上よく痛々しい質問をぶつけられたが、彼は一貫してこう主張したという。


「だからこそ、私はそれを根本的に知っている。だからこそ、より確実な道を見つけることができる。私はそれを武器としたいのです」


 尾の言葉は結構国民からのウケがよかったようで、今では当選者の最有力候補者の一人として名を連ねている。

 まもなく彼の立候補後初の演説が始まる予定であった。

 演説大会自体はすでに始まっていたのだが、彼の順番が今頃であるはずだった。

 ほんとはぜひともこの目でTV越しにでも見てみたいのだが、残念ながら今は移動任務中だ。そんなわけにはいかないので、あとで向こうについたらニュース映像を方端からあさったり録画したやつに頼んで見せてもらうなりしてもらうとしよう。


 天安門広場が舞台だと聞いたが、なぜあそこに限定させたかというと、各区域に分散するよりは少し無理してでも一転に分散したほうが注目を浴びさせやすいからだということだった。

 これはアメリカ側の判断で、とにかく初回ということもあって何とか国民の意識を高めたいという狙いのもとのこの判断らしかった。

 これは中国に滞在している政治改革指導担当の米国政府からの派遣官僚のリーダーが記者会見でマスコミに話していたことで、まあまっとうな理由ではある。

 しかし、そうなると立候補者の数も多いし、結構時間がかかるだろうな……。まあ、最初っから何日かに分けるってことらしいが、それだけ多く集まったってことだろうな。

 その中から当選するとなると結構至難の業だ。誰しもが工夫に工夫を凝らすだろう。


 ……あいつ自身も、艦を降りる前までずっとその勉強をしていたこともあって、その熱心ようは中々目を見張るものがあった。

 ああ見えて努力家なのだろう。彼曰く、こういう時は自慢ではないが事の九州は早いらしく、昔からそこに関しても学校とかで実力を発揮していたようだった。……まあ、政治将校になるくらいだからそれくらいの頭脳はあってもあんまり不思議ではないだろう。

 しかし、彼の言うことはあながち間違いでもなく、政治関連の本を読みふけってはその内容の吸収化rあそこからの現在の政治上への転換は中々早い。

 一度あいつに進捗状況聞いたりした時はもうその知識量に感服した。

 政治将校という立場上、ある程度は前々から知っていたらしいのだが、それでもその時はまだ勉強を始めてたった3日の話で、それでここまで行くのは素直にすごいと思った。


「(……あいつも本気だせばあそこまでいくんだな……)」


 あいつに対する評価を大きく改めなければならないなと思ったと同時に、素直にあいつの当選を応援したくなった。

 ここまで努力してんだ。あいつならきっとやってくれるだろうが、はてさて、どうなることやら……。今後の展開に大いに期待させてもらうとしよう。


 ……と、


「……ッ! 向こうから通信です。まもなく護衛を外れるとのこと」


「ふむ……。もう護衛担当海域を外れるか」


「はい。この後はもう舟山海軍基地はもうすぐそこなのであとは自分たちで行ってくれと。向こうの米海軍に合流しろとのことです」


「了解した。了承の旨返信しろ」


「了解」


 俺たちの護衛と監視をしていた台湾艦隊からの通信だ。

 もうまもなく護衛が解けるようだ。

 この、ある意味今までの常識では考えられなかった国籍同士の艦隊編成も、これでまずはここまでか。まあ、今後時がたてばアジア各国との軍事演習も予定されているという噂も聞くし、もしかしたらまた会う機会が出るだろう。


 その時までの、少しのお別れだ。


 こういったお別れは終戦後のあの中台日3ヶ国連合の時以来だが……。まあ、さすがにあの時ほどの熱気はないとはいえ、少し名残惜しいな。


 俺は艦長席に座ったまま、ふと左舷方向を見た。


 そこには護衛兼監視をしている台湾艦隊の旗艦“丹陽”がおり、この艦と並んで航行していた。

 日本のイージス艦にほぼそっくりのその姿は巡洋艦らしくとてもでかく、そして堂々としていた。

 今日は少し波は高めなのだが、それすらも悠々とかき分ける姿はやはりかっこよさを感じざるを得ない。いや、船乗りならこれにかっこよさを感じないはずがない。

 彼らも今日の護衛として駆り出されているのだが、彼らとも会うのはこれで2回目だな……。

 南海艦隊に戻った時は彼女はいなかったからな。


 ……この姿も、すっかり見慣れたものだ。まだ2回しか見ていないというのにな。


 ……今後、彼らとも会う機会が多くなるだろう。その時が楽しみだ。


「……名残惜しいですな。彼らとも、中々いろいろあった仲ですしな」


 副長が少し寂しそうにいった。


 ……まあ、思えばあの戦争でも彼女と、それに乗る彼らとでも結構な体験をすることになったしな。

 初めてのファーストコンタクトがまさかの戦場での互いの支援射撃だ。あの、やまとの迎撃を助けるためのな。

 あれはやって正解だった。発想自体はぶっ飛んでるが、やっていたからこそ今の俺たちがいるってことだろう。

 あの時俺たちの左舷隣りでともにミサイルぶっ放しで共闘してたのがあいつだ……。今では、また隣同士で航行している。

 今度は平和な航海だ……。優雅で、威風堂々とした航海である。

 互いに、最新鋭の艦同士の航海。……中々拝めるものでもないだろうな。


 しっかり目に焼き付けておこう。俺もこの歳だ。あと何回この光景をお目にかかれるかわからんからな。

 ……つっても、俺もまだまだ若い自信があるが。


 俺は少し物静かに言った。


「……ああ。まあ、なに、いつでも見れるさ」


「そうですな。……いつどきか、軍事演習でも何でもいいのでもう一度見てみたいものです。……この、編成で」


「はは、まあな」


 中台の艦隊編成か。

 何なら日本も含めてやろうか? そこを入れればあの時の3ヶ国連合艦隊が復活だぜ。


 ……まあ、それにはもう少し時間がかかるだろうがな……。


 ……よし、そうだ。


「……おい。ちょっと」


「?」


 すぐに近くの乗員を呼んで口頭で指示を出すと、彼は喜んで応じてくれた。

 その準備をさせている間……、


「……どれ、そんじゃ別れの前に改めて、」











「あいつの姿を目に焼き付けておくか……」













 俺は改めて左舷を堂々と同航している“友軍艦”を見た。









 俺はその時、今まで守ってくれていた親鳥から改めて巣立つ小鳥のような気分を覚えた……。






















―護衛台湾艦隊旗艦DCG丹陽艦橋―








「そうか……。もう間もなく離脱か」


 私は名残惜しそうにそう言った。


 我々台湾艦隊は、数日前より東海艦隊の母港である舟山海軍基地へと移動になることが決定した一部の元南海艦隊の舞台を護衛するために派遣され、私はそれの司令官を仰せつかることになった。


 そして、艦橋のほうから右に見るその艦は、いつも通り小柄ながらも若々しい姿を私の前に見せていた。


 昆明級駆逐艦“成都”。


 戦争最後の『高雄沖の決戦』と呼ばれるようになったあの海戦で、最後の最後に共闘した最新型の駆逐艦だ。

 あの時の傷はもうない。向こうも向こうでしっかりある程度は治したということだろうか。

 半ば新品同様である。


 艦長がその言葉に答えた。


「ええ。もうまもなく我々の護衛担当海域から離脱します。……少々名残惜しいですがね」


「うむ……。あの時、共に戦った仲であるだろうからだろうな。中々さみしい気もするな」


「はい……。同感であります」


 艦長もあの時現場にいた身だった。

 今回のこの護衛ということもあって、わざわざこの彼女の隣をポジションしたのは、ある意味私情も絡まっていたりするのだが、それは私だけの秘密である。

 もちろん、この艦隊陣形にしたのには、これのほうが護衛しやすいなどのちゃんと理由があるのだが。


 ……あの後、一応向こうの艦長とも直接話す機会があったのだが、中々人情深いやつであった。

 そりゃあんな命令違反に反発して共闘などということを率先してやったものだ。あの時は、ある意味この艦に同調するかのように周りも動き出してあの共闘だ。

 あの戦闘は、今では『南シナ海・高雄沖の共闘』として、一般国民の間でも戦場で起きた奇跡の1ページとして記憶、かつ記録されている。

 あの状況でそんな行為を問答無用でできるなど、政治将校とかはなんも言わなかったのかと聞けば、向こうからの答えは「彼も同じ意見だった」などという政治将校としてそれはどうなんだといわんばかりの回答だったが、まあ政治将校の中にもまともなやつはいたということだろう。

 ……いや、聞くところによればむしろ彼のほうがショックが大きかったらしい。

 今では彼は政治将校をやめて今頃本土で立候補者演説をしているとか。

 政治家になる道を選んだか……。そういえば、政治家になったといえば娘の美玲も政治家に立候補するといっていたな。あいつは私が台湾にとどまる中仕事上どうしてもそこから動けない妻と共に中国人として育ち、今の中国を変えてやるって言って前に私に電話で意気込んでいたな。

 やけに自信満々だったが……、まあ、マスコミや国民の事前評価も上々だし、あいつならやってくれるだろう。

 ……ここから応援してやるとしよう。もし当選したら久しぶりに向こうに行ってお祝いでもしてやるか。


 ……と、そんなことを考えていると、


「司令。もう間もなくです。艦隊のほうに離脱準備の指示のほうを」


 幹部のほうからそのような進言が来た。


 ……もう時間か。少々名残惜しいが、では、こちらもそろそろお暇するとしよう。

 母港である舟山海軍基地までももう少しだ。あとは彼ら、彼女らだけで十分いけるだろう。


 ……考えてみれば不思議なもんだ。元々はどちらかというと向こうがこっちに厄介をかけるような立場だったのに、今では向こうから世話をかけられるようになるとはな。

 時代の変化というかなんというか……。まあ、そんなときも次第にくるということか。


 私は少し口をとがらせて一息ため息をつくと、その幹部に向けて指示を出した。


「了解した。通信で、中国艦隊旗艦の施琅に向けてまもなく離脱することを伝えておいてくれ。艦隊行動指揮を向こうに委譲する」


「了解。中国艦隊旗艦に向けて通信します」


 そのまま幹部は部下に指示を引き継ぎ、通信をさせた。


 ……どれ、では私も最後に向こうの艦隊を目に……、


「……ん?」


 と、ふと右にいる成都を見た時だった。


「? 発光信号?」


 そう思った時、ちょうどそのタイミングで報告も上がった。


「ッ! 中国駆逐艦成都より発光信号です!」


「読み上げろ」


「ハッ! ……“貴艦ノ護衛ニ感謝スル。マタ会オウ”。……以上です」


 中身は別れの挨拶というやつだった。

 はは……、わざわざこの発光信号を送ってくるということは、もしや……。


「……司令、今向こうに乗っている艦長ってまさか……」


「うむ……。なんだ、まだ彼女に乗っていたのか」


 あのような“反乱行為”を率先してやってしまったんだ。

 てっきり責任取らされて処分されたと思ったが、どうやら、現職を続けているみたいだな。

 わざわざこんなメッセージ送ってくると言ったら彼くらいしかいまい……。


 ……いいだろう。向こうからそう来ているんだ。こっちもお返ししてやらねばな。


「よし、返信だ。“コチラコソ。マタイツカコノ海で”」


「了解。“コチラコソ。マタイツカコノ海で”、中国駆逐艦成都に返信します」


 すぐに私の指示のもと、向こうに変身を送った。

 彼らとも、またいつかこの海で本当に会いたいものだ……。もう、この海は平和な海なのだ。

 また、軍事演習かなんかの時に会いたいものだ……。やはり、あの時の思い入れが強すぎてしまうな。


 その後、ついに時間が来て、そのまま離脱を始めた。


 我が台湾艦隊の離脱である。


 この後は、向こうにお任せとなる。


 ……これで、一応のお別れか。何とも短い時間だったな。


 私は司令官席からそれを見つつ最後の任務として彼らに無線を伝えた。


「では、中国艦隊に最後の通信だ。“これより我が艦隊は離脱する。この後もいい航海を”。……以上」


 その指示はすぐに向こうに伝えられた。

 即行で旗艦の施琅から返信で感謝するという旨の内容の無線が来た。


 先頭にいた我が艦隊の汎用駆逐艦の旗風級2隻が左右に分かれ、道を譲って行った。


 そこの間を通ってさらに目的地に向かっていく中、、目を細めて少し寂しげになりながらも、私はそれを見て最後に彼らに向けて一言残した。


「ふぅ……。これで、私たちの任務は完了だ。それではこの後は……」









「平和な、よい航海を楽しんでくれ……」








 私はそのまま前方に進んでいく彼ら、彼女らを見てそう言った。







 なんとなくその光景が者さみしげに見え、


 立場的には逆だが、彼らの中国としての再出発を見守る親鳥のような気分を覚えた……。
























―DCG丹陽艦橋上―








「それじゃ……、もうそろそろですね」


 私はお隣にいる“友人”にそう問いかけた。

 彼女も、少し物寂しげになりながらも笑顔で答えた。


“はい。……では、私たちはこれで失礼します。すいません、わざわざお越しいただいて”


「いえいえ、お構いなく。……次に、またいつか会える時に」


“ええ。会える時に”


 その顔はやはり変わらない。

 自分も同じだろう。自覚はにわかにしている。


 ……少し、目と眉が据わりかけており、表情的にはなんとなく芋の寂しげに思えるかもしれない。


 まあ、別段間違ってはおらず、あの戦争の時以来彼女とはとても親密な関係になってしまっただけに、やはり別れが惜しいものに感じてしまうようになった。


 それは、私だけではない。


“……そんじゃ、続きはまた次に会った時でいいな海口?”


“ああ。約束だからな媽祖? ちゃんとそのアニメの続き教えてよ?”


“わかってるって。というか、お前もみりゃいいのに”


“見れないから聞いてんの。……まあ、そういうわけ”


 相変わらず仲のいい妹と海口さん。

 なんでも、あの時の共闘で性格的にも見事にマッチしていた妹が、その時すでに仲の良かったこんごうさんの紹介で仲良くなり、今ではこんごうさんとも組んで仲良し三人組状態となっているみたいだった。

 まあ、私も私でやまとさんと成都さんとで仲良くなって半ば三人組状態になってるけどね。そんな感じかな。

 特に向こうはアニメ関連の情報を共有しているらしい。いわゆるアニオタというやつだった。

 ……妹はわかるんだけど(元々そっちに興味あったのはすでに認知)、海口さんってこういうアニメ関連詳しいのね。

 中国でもそこら辺は案外知られてたりするのだろうか。まあ、私にはわかることではないけどね。


“はいはい。……あ、施琅さんもお疲れさん”


“……お疲れ”


 そしてこちらもこちらで相変わらずぶっきらぼうな方の施琅さんです。


 これでも最近日本の人たちとかかわっていく過程で結構話すようになったようです。何でも、あかぎさんという方から「そんな性格じゃダメ!」とかってダメ出し喰らって半ば無理やり路線変更されたとか。

 ……路線変更って言い方が何やら変な勘違いを生みそうな気もするけど、まあ別にいいか。そんな細かいことじゃないし。


“今度お前にもアニメの話してやるぜ。前にお前ににた性格の奴が出てるアニメあってよ”


“ほう?”


“え、なにそれきになる”


“それは次回までとっておきな”


“ちぇ~……。じゃあ忘れないでよ? 頼むから”


“あ~いよ! それまでお楽しみにしてな!”


 そんな中のいい会話をしていると……、


“はーい中国艦隊の皆さーん、そろそろこっち道開けますよー”


 少し気楽目な声でそんな報告をしてきたのは、艦隊前衛で先頭を引っ張っていた島風さんだった。

 隣にいた姉の旗風さんと左右に分かれて道を開け、中国艦隊の皆さんが通るスペースを設ける。

 この後はこっちは減速して向こうが向こうに行くのを待って、私たちはそのまま反転して台北の母港に帰る予定になっている。


 先頭の彼女たちが道を開け終えると、施琅さんの指示のもと、中国艦隊が少し増速して前進。逆に私たちは減速して向こうが通り過ぎるのを待った。


“……では、世話になった。また”


 低音かつ何の感情もないようなぶっきらぼうな声が飛んできたが、だれの声なのかは言わずもがな。

 私はそれになんとなく笑みを浮かべて答えた。


「はい。……皆さんもお疲れ様です。またいつか」


“うん……。また”


 その時、彼女がにわかにほほ笑んだような気がしたが……。まあ、してても少し黙っておこう。

 今騒いだらまた向こうが押黙っちゃうしね。これは自然な流れ的な方向で。


“じゃあな海口~。アニメのネタ探しとくぜ~”


“あ~いよ~。ちゃんと教えてよ今度の軍事演習の時でも何でもいいから~”


“こんごうも連れてこれるならなぁ~。そんじゃ~”


 すっかりアニオタ仲間となってしまった二人の別れの声である。

 他のほうでも互いに別れの声を掛け合いつつ、中国艦隊の離脱を見送った。

 先頭にいる彼女たちを次々と追い越し、艦隊陣形を少し直しながら、またそのまま一路目的地である舟山海軍基地へと向かっていった……。


 ……私はそれを眺めていると、


「……お、こっちもかな」


 乗員のほうで反転指示が入った。


 こっちもお暇の時間ね。では、さっさと帰るとしましょうか。


「それじゃ、私たちも帰りましょう」


“あいよー。さ~て、今日もさっさと帰ったら補給して一休みかなぁ~”


「ふふ、そうね」


 男勝りで常に明るいだけに、こういう休憩時だとすぐに休むんだから……。

 元気いっぱいの証拠か。まあ、それもまた若さというかなんというか。それいったら私も同じく若いんだけどね。


“じゃぁ島風、帰ったらトランプの続きね。ポーカーだから次”


“えぇ~それ昨日やったじゃん。スピードでいいでしょスピードで”


“それやったら島風前世の力発動で即行で買っちゃうじゃんつまんないよ”


“え~、ダメ?”


“ダメ”


“えぇ~……?”


 そんな平和的な会話が聞こえてくる。

 ……トランプかぁ。そういえば最近やってない。というか、やった覚えがないのだけれど最後にやったのいつだったかな……。


 ……そんな平和的な会話が各所から聞こえてくる中、私はふと空を見上げた。


「……今日も天気いいなぁ」


 今日の空は晴天だった。春の陽気を運んできてくれたのか、風が中々程よい程度の心地よかった。ここ寒い海だというのに。


 ……こういう時は中々眠たくなるものであって、春眠暁を覚えずってくらいだからなおさら。

 媽祖の言った通り、日ごろの疲労もあるし帰ったら少し休みましょうかね……。最近、復員・復興物資輸送とかの任務が立て続けに舞い込んできた関係でぐっすり寝たことなかったし。


 ……そんなことを思いながら空をずっと眺め続ける。


 艦橋の外側のつふちに座り、そこから足をブラブラ外に出して何にも思わずに空を見上げた。


 曇りが若干あってもほとんど晴天の空。


 春の陽気を送ってくる程よい春の風。


 水平線にわたって見える青い海。



 ……今までこうやってよく見る余裕がなかったけど、改めてみると結構平和なものだなって思った。



 これも、戦争が終わって心に余裕ができたからだと思う。



 ……あれのおかげで、私たちの周りは大きく変わりつつある。



 台湾もそうだし、中国や、日本、アジアが大きな変化を見せている。



 私はその渦の中にいると思うと、どことなく緊張した気持ちが芽生えた。



 ……当事者としている。その気持ちが、緊張に転換されたみたいだった。



 そんなことを思いつつ空を見続ける。



 いろいろ今までを思い出した。



 生まれた時のこと。その後台湾に始めてきたこと。戦争中のこと。



 ……そして、



「……武昌さん、元気してるかな……」



 私はかつての今は亡き親友を思い出す。



 彼女は上からみてくれているだろうか。私の成長を見てくれているだろうか。



 そんなことを思った。



 なんとなく、空を漂っている雲がこっちを見ている彼女のように見えてしまい、思わずふふっと笑った。



 しかし、顔はあんまり笑ってはいない。



 しばらくして私は一つ大きなため息をついた。



「……もう、この海は……」


















「平和に……、なったんだよね……」

















 そんな感慨深いことを呟きつつ、私はどことなく空を見上げ続けた。














 その空に浮かんでいる雲は、


 今日も春の季節風に流されてどことなく飛んで行っていく。


 この後どこに行くのか、その未来がわからない私たちのように……、



















 その雲たちの行き先は、だれにも分からない…………

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