戦乱後の国政
―翌年 2021年4月7日(日) AM10:25 日本国首都東京 首相官邸玄関前―
「総理、お待ちしておりました」
内閣総理大臣専用車で首相官邸の玄関前まで来た私を出迎えてくれたのは、仲山副首相であった。
彼は一足先にここに来ていたのである。
私はというと、その前の4月4日までに予算法案を通過させれず、急遽臨時暫定予算が設定されたのちの、まあ簡単に言えば本年度予算の内容の最後の詰めのための参議院の予算委員会に参加していた。
一応彼も出席してはいたのだが、私が少し遅れてきたためのである。
私は彼の出迎えにうなづいて返すと、彼と共に4階の大会議室に向かった。
もうすでにほかのメンバーはそろっており、あとは私さえ来ればいいということであった。
そして、中々来ないのでしびれを切らして彼が直接来たという形だ。
私はその道中、彼とふと話していた。
「……暫定予算を1ヶ月分何とか回してもらって時間を稼いだとはいえ、やはりうまくはいきませんか……」
彼は先の予算委員会の中身を思い出しながら、そう呻きつつ悩みこんでいた。
というのも、今回の予算の算定で、どの方面にどれくらい振り分けるかで大いにもめてしまったのだ。
去年の戦争、あれは国連によって正式に『中国・亜細亜戦争(略称:中亜戦争)』と名付けられたその戦争によって、我が国としても各関連部署に対する予算の振り分けも慎重にならざるを得なかった。
まず、今回の戦争によって少なくない損害を負った国防軍戦力を補充するための国防予算である。
海はまだ損失かんとかなかっただけまだましだなのでいいのだが、、空と陸は無視できないレベルであり、しかも陸はそうでなくても最低限しか置いていなかったなけなしの戦力を無理を押してでも台湾に派遣したりしたこともあり、損害は大きなものとなってしまった。
それを補うために、今年はそっちのほうに予算を振り分けたかったのだが、しかし、問題はそっちだけではない。
他にもいろいろあるのだが、一番の問題は“沖縄復興のための戦後補償予算”であった。
沖縄は今回の中亜戦争によって多大なる損害を受け、もはや自分たちでは財政を賄うことはできなくなっていった。インフラはほぼ全滅。市街地のほうも壊滅的で、終戦直後のときではもう東京大空襲の時のようなあの悲惨な情景がリアルで再現されたようであった。
沖縄は自治体としての機能をほぼ完全に失ってしまい、離島とかはまだいいにしても中心である那覇市をはじめとした中心地域は壊滅してしまったのである。
この場合、戦後補償として国から補助を出さねばならない。
しかも、その額も尋常でない。先に逝った沖縄インフラをはじめとする自治体としての復興のための予算、戦時に戦死した軍人の遺族に対する補償(これは沖縄のほうに限らない)、そのほか民間の死者の遺族に対する補償など、すべてを上げたらとんでもない金額になる。もしかしたら、ことによってはもう少し振り分けないといけなくなっている国防予算よりも高い金額になるかもしれない。
他にもまだいくつか重点的に予算を振り分けたいところはあったのだが、私としては、とりあえずは主にそっちの二つをしばらくの間重点的に振り分けたかったのである。
……が、しかし、どっちにも振り分けるとなると他の方面の予算が自然と大幅な予算削減を受けることになり、それに野党が反発したのである。
分の悪いことに、その野党議員の出身がその予算が割かれる方面の関連を持っている者たちばかりであり、現政権存続等の意味も考えても、あながち無視できないことでもあったのだ。
尤も、彼ら自身もこの予算振り分けの方針自体に反発していたわけではない。あくまで“いくらなんでも振り分けすぎだ。もう少し他にも融通してくれ”ということで反発しているのである。
だが、本音を言えばこれ以上割くわけにもいかない。こう見えても元々はこれ以上予算を振り分けていたのだが、野党の反発を受けて何とか最大限融通したのである。これ以上やるとなると、中途半端なものになってしまい、それぞれの復興と国防戦力補填等が長引いてしまう。その結果、沖縄の財政、自治体回復に時間がかかり、日本全体としてもあまりいいものではない。沖縄の第3次産業は日本国全体としても使えるからである。
また、国防力の補填が長引くのもできれば避けたい。一応海がほとんど無事なのが不幸中の幸いであるが、そのほかはそうもいかず、戦車等の陸はまだいいとしても、空軍の戦闘機関連は、生産ラインがほとんど閉じたものばかりなので、損害分の補充のためにこれをまた立ち上げるというのも難しく、しかし今導入中であるF-35という名の超高価戦闘機の導入機数を上げるというのもまたちょっと無理な話である。というか、あれはF-4EJの後継として導入しているのに、損害を受けたF-15やF-2の補充でこれを使うといっても少し微妙な話である。……まあ、複数機種の整備をする手間が省けるとかのメリットはあるだろうが。
しかし、現状それは予算的に無理だ。だから、少し無理をしてでもどうにかして生産ラインを開けてもらうことにしたのである。
幸いこれは事前に考慮できたことで、戦争開始前に事前に秘密裏に各関連企業に準備はさせていたのだが、やはり金と時間が足りない。
だからこそこの予算なのだが……、やはりこうなったか……。
これは互いに悪くないというか、どっちの言い分も正当なものであると“与野党互いに”認識していることもあってか、いくら最後の詰めに入ってきたとはいえ、どうもこの後も最後の最後のところで難航しそうであった。
なんとか暫定予算で時間を稼いだ1ヶ月分で、どうにかして話に決着をつけて参議院の国会本会議に法案を回してさっさと承認してもらわねばならない。しかし、ことがことだけに慎重にやらねばならない。
……ここで、私の政治手腕が問われるのだ。ここで下手なまねをするわけにはいかないのだ。
私は仲山副首相の言葉に「う~む」と唸りつつ目を細めて顔をしかめた。
「やはり、互いに譲れないところなのだ……。何とか妥協案を見つけねばならないが……」
「しかし、内容がないようです。……どちらも、互いに譲ることは簡単にはできないでしょう」
「うむ……。困ったものだ」
しかし、呻いていても始まらない。
こうなってしまってはとことん口論を重ねるしかないだろう。
その点は向こうも望むところといったところだ。どうにかして、互いに納得のいく線で“妥協する”しかない。
この場合、完全に納得のいくwin-winな結果を得ることはできない。さすがにlose-loseとはいかないだろうが、まあしいて言うなら“draw-draw”に持ちこむのが最善の策として、この点は野党側との理解も得られている。問題は、互いに“どの点で”妥協するかであるのだが、まあそこでもめているというのは先の言ったとおりだった。
これは彼も結構悩んでおり、そもそも彼は副首相であると同時に財務大臣でもある。もとよりこの件は彼が一番悩んでいることであった。
本会議でもこれに関連する説明をするのは彼で、先の委員会でも言わるまで野党側からの質疑応答のぶつけあいを演じていたのである。
私も前政権で副首相と共に財務大臣をやっていただけに、彼の苦労というのは痛いほどわかる。
……ある意味、一番これに関して働いてくれているのは彼であろう。あとで一休みついでにコーヒーでも淹れてやるとしよう。
そんな彼も、さすがにこれほど長引くと相当堪え、
「……もう少し予算確保したいなぁ……。もうちょい消費税上げます?」
とかいうとんでもないことを冗談半分でのたまってしまっていた。
……もちろん彼はわかっていっているのだが、そんなことをすれば……、
「はは……、しかし、ましてや2014年ないし2015年から消費税が上がって国民負担が上がっているっていうのに、これ以上上げたら……」
「わかってますよ。私とて今の政権ぶっ倒されたくありません」
彼は右手をひらひらさせて私の言葉を遮るように軽くけらけら笑いながら言った。
そうでなくても数年前に消費税を上げて国民負担が上がっているんだ。
これ以上上げたらさすがに理由が理由とはいえ国民からの反発は避けられんし、野党も大反対するだろう。
マスコミもこれに便乗するだろうし、いくらネットではまだまともな意見が飛び交ってるとはいえ、さすがにこの件は見逃してはくれないだろう。ただでさえ先の消費税増税でも少なくない反発があったほどだ。
……ぶっちゃけいえばこの手が一番手っ取り早いし、その増額分をすべてこの例の二つに回して向こうが要求する最低ラインでほかの方面に送れば互いに納得の結果を得られるのだが、これはもう使えないだろう。
今の予算の中でやりくりするしかあるまい。
「しかし、やはりそう考えるとつくづく戦争というものは金がかかりますなぁ……。改めて実感しました」
仲山副首相がそういった。
確かにそうだ。戦争ほど金がかかるものはないとは言うが、まさにその通りだ。
だから戦争は好まない……。無人機等も使っての戦力強化の研究もおこなわれているが、今後はそれがベースとなるだろう。こんな人件費もかかるは、何より人が死ぬ戦争の時代はもうそろそろ終わるだろう。
また、それの関係の話では、実は最新型のAIシステムを使った革新的技術の固まりの完全自立型戦闘アンドロイドの開発も順調に進んでいるとのことで、今回の戦争で研究開発予算(といっても表面上は技研への兵器研究開発予算ということになっている。あながち間違ってはいない)が大幅に削減されるとはいえ、開発メンバーである彼ら的にはさほど問題はないようで、このまま順調にいけば2030年あたりに試作機が秘密裏にロールアウトされるとのことだった。
今はボディの主な開発はほぼ完了し、その最新型AIの試行錯誤になっているのだという。
詳しいことはわからないが、しかしこれを知っているのは小規模の開発メンバーと、私と管原官房長官、山内外務大臣、そして新海国防大臣というNSCの中でも4大臣会合を構成するメンバー、そして副首相ということで別として仲山副首相も知って入る。
しかし、それ以外はそもそも存在というか、そんな計画があることすら知らない。いや、私たちでさえ開発メンバーではないから詳しい詳細は分からず、とんでもなく大雑把なことしか知らないのだ。
そして、これはもちろん特定機密情報扱いとされ、それ以外のものに知らされた場合は即座に相応の処置をとる形となる。
さっき言ったのが知ってる情報のほぼすべてといってもいい。
一応JSAも知ってはいるのだが、彼らでさえ開発内容は知らされていない。それほど重要な研究開発内容なのだろう。
……まあ、それらの情報が明るみになるまでは、さらにもう少しの年月がかかるだろうが、そうなるとアニメや漫画の世界のみの話であった、そのSFロボットの世界が現実となる。
こういうアニメや漫画の世界のおかげで、ロボットやアンドロイドに対して好意的なイメージを持つとともに好奇心旺盛となった日本人にとっては、より大きな関心を呼ぶとともに、大きな歓声を上げることにもなるかもしれない。
もちろん、そうなったら私自身もそうなるであろう。いや、確実にそうなると断言できる。
……やはり、私も生粋の日本人なんだなと思った。
……あぁ、それから、さらに話がずれるようで申し訳ないが、彼らJSAも相変わらず機密的な諜報は続けているが、最近今回の戦争でその存在が各国に感づかれていることもあって、そろそろ公に公表するべきかとも考えていた。
しかし、公に存在が公表されないからこその機密諜報機関。もう少し粘ってもいいだろうかとも考えている。
いずれにせよ、ことの判断はもう少し時間がかかるだろう。
「うむ……。とにかく、今はこの予算関連に関してはさっさと妥協案をつけておこう。私も手伝うよ」
「すいません……。感謝します」
彼は歩きつつそう頭を軽く下げた。
そんな会話をしているうちに、4階の大会議室に到着する。
警備員として扉の前についていた警官2名に右手を軽く上げて頭を軽く下げつつ会釈すると、片方が扉を開けた。
首相と副首相が入ることを伝えると、中に通ることを許可され、すぐに中に入った。
ガタガタとイスを立ち上がる音とともに、中にいた者たちは立ち上がって私たちを迎えた。どうやら、仲山副首相の言っていた通り、すでに私たち以外はすでにスタンバイが完了しており、私待ちだったようだ。
すぐに席について着席をさせると、さっそく会議を始めた。
「よし……。では、待たせて済まない。さっそく今回の会議を始めるとしよう」
そんなわけで、しばらく今回の会議で事前に出されていた議題に関しての会議が行われてた。
内容はさまざまである。
国交大臣からの沖縄復興に関する報告と今後の復興方針、これに関しては今現在進行中の予算会議に関しても彼が受けているレベルでの情報を報告してくれた。私自身も得ていた情報を与え、互いに情報交換をし、予算はまだ確定していないが、今の暫定予算を使って、まずインフラ整備を確実に復興させてもらうということで話をつけた。
さらに、経済産業大臣からも経済関連の報告が入る。これに関しての日本を含むアジア各国の株価が少なくないダメージを受けてしまい、外貨がどんどん逃げて行っている状態だという。
これは何気に地味にいたいことだ……。我が国としても、言っては何だが中国の経済危機によってその分の顧客が我が国に来ていて経済的にもウハウハできるかもしれないというのに、これは水を差す事態だ。これに関しても、新たな事業を展開させるなどでとにかく顧客を引き付けるなどの対策を早急に進めるなどの方針を話し合い、それをまず経産省に回して検討して、またこの場でその検討内容を報告することにした。
また、ことによっては委員会の議題にも出してみてもいいかもしれないということも言われ、それも検討に入ることになった。
あと、いつの間にかすっかり忘れ去られていた、本来はオリンピックの後に予定されていたが戦争勃発によって一時中止となっていたパラリンピックだが、これも今年中にどうするか決定することになった。
オリンピックはギリギリセーフで終幕させることはできたが、こっちはそうもいかなかったというか、そもそもそのオリンピックとパラリンピックの開催期間の間で勃発したからな。
どうにかして再開はしたい。一応ICO(国際オリンピック委員会)からも開催再開に関して概ね良好な発言を得ている。
とりあえず、こちらとしてもいろいろと準備していかねばならないだろう。
……といった具合に、どんどんと議題を消化していった。
中には山内外務大臣から“今まで保留状態となっていた尖閣諸島問題の解決”に関する提案もされ、これも要検討となった。
戦争云々でこれに関してはすっかり忘れていたのだが、山内外務大臣の報告によれば、向こうもこれに関してはそろそろ決着をつけようという空気になり始めているらしい。今の米国選抜の共産党関係者によって暫定的に組織されている中国暫定政府が、そろそろこれに関して解決したい姿勢を示し、国際司法裁判所にも出廷してみる方針を取り始めたのだ。
山内外務大臣はこれを絶好の機会ととらえたようだ。もちろんこれは我々も同意であり、すぐに早期的解決に踏み切れるよう今後の予定を詰めていくことで話はつけられた。
……と、そこまで議論を消化した後、今度は新海国防大臣の報告が行われることとなった。
いつもの若々しい顔を見せるが、その中にはもうプロの雰囲気を醸し出す真剣な顔立ちがあった。
……彼も、去年の中亜戦争の一件以来、相当成長したようで、彼の戦力操作等は国民からも高い評価を得た。
『日本の将来の星』とまで言われるほど成長している。昔みたいな若造ということでなめられていたのとは違うのだ。
……尤も、彼だけでなく、今回の戦争の一件でこの政権自体が大いに評価さえた面があるが。
少々話がずれての余談となるが、今回の戦争での戦争遂行の全体的な指揮等は、国民から大いに評価され、それこそ初期に沖縄を放棄したことで批判が紛糾したこともあったが、それに関して事情を説明すると、さすがに押黙った。
しかし、その結果あの大反抗を成功させることにもつながったということもあって、それらを統合的に見た結果やはりやむを得ない結果であったということで話がまとまったようである。
だが、そうはいっても沖縄県民にとってはいくら事情が事情とはいえ複雑だったようで、二つに意見が分かれているが、別にそれ自体を嫌悪で見るつもりはない。それもそれでまっとうな意見である。
また、それによって政権の支持率も大きく上がることとなり、しばらくは長期政権としての地位はほぼ確立したも同然の結果となった。しばらくの間は、このメンバーで内閣としての人生を過ごすことになるだろう。
……閑話休題。とにかく、そんなこともあって高い評価を得て今では立派な若い国防大臣として成長した彼が、自分の持ち寄った議題を提示した。
私からの指名を受けると、一つ返事をするとともに一礼し、さっそく議題の提示に入った。
「お手元の資料の次のページにある通りですが……。このたびの戦争、以後、中亜戦争と呼称しますが、その戦争での我が国防軍の受けた損害の補充に関しての報告と、今後の簡単な方針についてです」
「ふむ……」
こればっかりは周りの皆もさっきとは違って目つきが変わってさっきより真剣になった。
我が国の国防に関連する話だ。余計耳を傾けるようになる。
私も目線を資料に移しつつ言った。
「……一応、海のほうは解決できそうなのだったな?」
彼はうなずいて返した。
「はい。海軍は幸い損害がほとんどないといっても構いません。何より、これほどの戦争で損失艦が一隻もないというのが……、あー、もう、奇跡以外の何者でもないです」
「だよなぁ……」
仲山副首相が感心したように言った。
今回の戦争では、海軍の損失艦は1隻もなかった。のちに新海国防大臣から詳しい説明を始めて受けることになったが、それによれば、損害らしい損害は台湾での対艦攻撃を受けた4隻くらいで、あとは小規模の損害ばっかり。核攻撃を阻止することで大きな貢献をした巡洋艦“やまと”も、装甲が厚くなっていることもあったのか、対艦ミサイルを2発を受け、しかもその前の過程での砲撃戦で多数の命中弾を受けたというのに、中破で済んでいる。
……これによって世界的にも“彼女”のタフネスさを知らしめることになり、若干ではあるが抑止力としても作用しているということも付け加えた。まあ、誰もあんな化け物を相手取ろうなんては思うまいな。
また、そのやまとも今では修復が完了し、今は動作試験もかねて訓練航海に出ている。のちにほかの艦とも合流して、艦隊規模での訓練にも発展するとも言っていた。
……これほどまでにすぐに回復するとは、海軍関係や造船関係に携わった人たちの努力がうかがえる。
他の海軍艦艇も、先の4隻以外は比較的損害回復は良好で、ほとんどがすでに戦線復帰をしているということだった。
しかし、問題は陸と空で、陸はまだよかった。
戦車等の地上戦力は、誠に申し訳ないが若干削減もかねて一時的に規模を縮小しつつ少しずつ回復させていくことでなんとか手は打てそうだが、空はそうもいかない。
特に戦闘機の損害がひどく、それを補充させる生産ラインも開けるのに精一杯。しかもそれを再起動させるのにもまた金はかかる。そして仮に開けれてもそこから補充できるのはどれくらいかははっきり言ってたかが知れている……。
また、沖縄方面に限っては基地問題もあり、ある程度は回復した基地もあるが(下地島基地がそうである)、他の沖縄本島方面の基地はほぼ壊滅で、これらも復興予算に回してほしいのだが、もうそれもそれで無理そうだということで頭を悩ましていた。
これは私たちにとっても悩ましい問題である。
新海国防大臣はそこに一番悩んでいるようだった。
「はぁ~」と長いため息をつきつつ、眉間を右手の親指と人差し指で肘をつきつつ抑えていた。
その目もたまらず閉じてしまっており、相当この件について疲れてしまっていることがうかがえた。
「……もう、こればっかりはすぐに解決できる内容でもありません。しばらく時間をかけてやらねばなりません。……それに関連して、皆さんの意見も参考までに拝聴したいのですが、いかがでしょうか」
と、言われても困るものである。
やっぱり、こちらの懸念は彼がすべて説明段階で言ってしまい、もうそれに賛同するしか答えようがなかった。
私を含め、誰もが「そうはいわれても……」と言わんばかりの苦笑いである。
それでも一応聞かれたからには答えねばということで、私たちを代表するかのように菅原官房長官が言った。
「まぁ……。懸念は新海国防大臣の言った通りですし、もうどうしようもないでしょう。これは各関連企業に生産再開を委託しつつ、こちらから最大限の援助をするしかないでしょうな」
周りもそれに賛同するようにうなづいた。私も何度も小さくうなづかせる。
新海国防大臣も納得してくれた。というか、「まあ、そうだろうな」とでも言わんばかりの納得した顔であった。
「そうですか……。では、戦闘機等の戦力関連はこれでどうにかして通すとして……」
「? まだ何か?」
「いえ……。問題は沖縄の基地です」
「基地?」
「ええ……。下地島はもう復活しましたが、他はまだ全然です。那覇空港も未だに修復段階ですし、そのほかなんて……。もう、ぶっちゃけ損害がひどすぎて手つかず状態です。かろうじて地盤修復はしていますが、基地機能としての修復をする段階までには……」
「米軍さんどんだけ入念に爆撃したんだよ……」
そう苦笑いしつつ言ったのは山内外務大臣である。
……まあ、あの時は「使えないように」ということでとにかく入念に爆撃させたのだが、しかしもう少し加減させるべきだったか。
あまりにやりすぎた……。那覇空港に関しては、まだ民間併用なので少し加減してくれようなのだが、それ以外はそうもいかなかったようだった。
普天間やら嘉手納やら、そこに関してはもう……。
「……まあ、こればっかりは米軍のほうを責めても仕方ありません。しかし、こちらをどうするかは……」
「ふむ……」
互いに少し考えた後、私は提案として右手を軽く上げて発言をした。
「……よし、では、この際だ。……その、嘉手納と普天間を、」
「……放棄することにしよう」
「え、ほ、放棄ですか?」
「うむ。ちょうどいい機会だ。もうやりすぎて機能不全もいいところだから廃棄したほうが安上がりといえば米軍も納得するだろう。それに、ここまで破壊しまくったのは、誰でもない米空軍だからな」
「あー……、確かに」
彼は少し苦笑いしていった。顔が少しひきつっている。
この際だ。この二つをここで放棄し、住宅街かなんかで使えるように空き地にして、自治体にこれを託すことにしよう。
原因自体は私たち日本が作ってしまったが、そのあとのこんな結果を作ったのは彼らだ。文句はそう積極的には言えまい。
それに、沖縄自体、もうアメリカにとっての戦力的存在価値が薄れてきているのも確かだ。
アメリカにとって沖縄は、旧北朝鮮や中国からのいわば“防波堤”ともいうべき場所なのだ。その懸念実行だった両国の影響が薄れてしまったこともあって、この沖縄に多くの戦力を置く理由がなくなったのだ。
だからこそ、今このタイミングで沖縄に基地おこうにももう無理だといってついでだから撤退を促せば、うまくやれば通るかもしれない。
沖縄の米軍基地問題も一応は大きな終息を見せるだろうし、我が国としても別にそれほど多くは置かなくて済む。中国や旧北朝鮮の問題は消えたのだ。それほど沖縄の軍事的地位は高くなくなったのだ。
沖縄の人にとっても負担は減るし、一応は一石二鳥だろう。
……その代わり、今まで米軍基地を生活の糧としていた人たちにとっては少し酷な話となってしまうのだが。まあ、そこに関しては今は復興のための事業も展開されているし、そっちに流れるよう期待しよう。というか、そういう方面で沖縄の人たちには話をつけることにする。
……そんな、いつの間にか外交的な話になってくると、必ず入ってくるのが、
「……では、私のほうから一言向こうに提案しておきましょう。今度、大使館のほうに向かって提案という形で」
彼、山内外務大臣である。
その顔は結構明るい。彼にとっても悪い話ではなかったのだろう。
「うむ。どうだ、この線で行けるかね?」
「まあ、アジアでの一番の懸念事項がほぼ消えたも同然ですし、あと米軍も軍事を縮小していっている傾向にあります。たぶん応じるでしょう。……いや、うまくいけば在日米軍撤退っていう話にも発展するかもしれません」
「ほう、なるほどな」
「しかし、そうなるとインド洋方面に行くための中継地点がないですし、何より太平洋方面の母港がなくなるので……。まあ、たぶん最低限の海軍戦力をおいて、あとはただの第7艦隊の母港として借りたり、今までのよりは日本への在日米軍の影響力が減るという程度になるかと」
「ふむ……。そうか」
まあ、完全に撤退させるというわけにはいかんか。
しかし、日本としてはアメリカからも完全に独立したいし、できればせめて第7艦隊の母港として使うって程度で済ませてもらいたいが、そこは彼の外交手腕や私の政治交渉の手腕にかかっているだろう。
……これも、要検討と認めるな。だが、うまくいけば我が国にとっても大きな進歩となるはずだ。
……と、その時だった。
「……あ、もうそろそろだなぁ……」
ふと、山内外務大臣が腕時計を見てそうつぶやいたのを思わず耳にしてしまった。
そうなると思わず気になってしまうのが私の悪い癖だ。つい彼に聞いてしまう。
「ん? 何がそろそろなのだね?」
「ん、あ、いえ……。確か、中国での有史以来初の民主的選挙に際しての立候補者演説は今日でしたよね。それも、この時間」
「……あぁ、そういえばそうだな」
私を含め、各々で自分たちのほうで腕時計を見たりスマホを取り出して時間を見たり、この大会議室の時計を見るなどして時間を確認すると、思い出したようにそううなづいていた。
そういえばそうだったな……。そうか、今日だったか。
「結構立候補者が出ているようです。……世界的にも、注目の的となっています」
そういう山内外務大臣も中々興味津々という感じだった。
声が少し浮ついている。
私は軽く笑いつつ指摘した。
「はは、そういう君もかなり気になっているようだな」
「ええ。この選挙いかんによっては、今後の外交にも大きく影響しますからね。首相的にも、本当は気になっているのでは?」
「はは……、バレたか」
そう言って互いに笑うと、周りもつられて軽く笑いあった。
まあ、本音を言えば私自身も今回の選挙はとても興味がある。
いや、世界の政治家や国民もこれに興味を示すものは多いだろう。特に政治家レベルに関してはそうだ。今後の自分の国との外交にも大きくかかわることになり、相手によっては今後どう対応するかという点でも大きな影響を受けることになる。
今日はその米軍の指導の下、中国の歴史以来おそらく初となるであろう民主的な選挙を行うに際して、米軍の審査を通過した多数の立候補者による第1回演説が行われる予定であった。
会場は北京中心地の天安門広場となり、そのほうが民衆が集まりやすいとのことだった。
その天安門側にある天安門国旗台前に壇上を作り、その国旗台を背に、そして、天安門も背にしての演説が行われる予定となった。
これは国民はもちろんのこと、当然のことながら我が国を含む各国マスコミを大いに興味を示しており、中国に支部を置いている各国マスコミがそこに駆けつけており、今頃現地は多きな賑わいを見せていることだろう。
おそらく、民主制中国の初の選挙ということでトップニュース扱いになるに違いない。
……民主制中国というのは、政治体制が違う二つの時代の中国を見分けるために、アメリカのマスコミが最初に言ったのを発端として各国マスコミが勝手につけたものであり、今までの共産党の独裁政治の時代の中国を“共産制中国”と呼称し、今のアメリカ主導での政治改革が行われ民主化がすすめられている今の中国を“民主制中国”と呼んでいる。
……まあ、実際は共産制もクソもない共産党による独裁政治だったのだが、あくまで見分けるためにつけただけなのでそれほど深くは考えなかったのだろう。
それに、そうなると後者の場合正式名称が“民主制中華人民共和国”とかいう感じで、民主主義国家なのに名前が共和制というちょっと矛盾したネーミングになったのだが、まあこれもやっぱりマスコミのことだ。これもこれであんまり深くは考えたなかったのだろうな。尤も、どうせそんな長ったらしい正式名称は使うことはほとんどないだろうしな。正式で呼ぶときはその前の“~制”は取っ払うだろう。これはたぶん中国と略したときのみ、必要に応じてつけるだけということになるのかもしれない。
また、それらの理由で日本を含む世界のネット民ではこのネーミングに納得がいかないらしく、自分たちで勝手に“独裁制中国”とかっていう第3のネーミングをつけたとかなんとか。もちろん非公式である。
しかし、つけたのはいいが使うものによって共産制と独裁制が入り混じって少し理解的な意味で混乱が起きかねないことになったが、まあそこら辺はもう私らが一々いうことでもないので、どの国も「勝手にしろ」状態である。
……まあ、ほんとに使う機会が出てくるかはわからんが。
時間ではたしか日本時間の午前11時15分からということだったから、もう少しで立候補者演説が始まるな。
そのあとは、一応例を見せるためということもあって、米国側の司会の元で演説は進められることになり、そのあとはその司会の進行に応じて一人ずつ選挙に際するマニフェストや政治関連の宣言等とおこなったりなど、各々で工夫を凝らした演説合戦が繰り広げられることだろう。
……私も一人の政治家であるし、彼らがどのような詳細な公約を掲げるのか実に興味深いところであるが、とりあえず今から急いでも最初の一人目の演説には間に合わないだろう。途中からは見れるかもしれないが。
すると、ふと菅原官房長官が言った。
「……しかし、今回はいったい誰が当選するのでしょうなぁ……。初の国政選挙とあって、国民も投票は慎重になるかもしれませんし、いかにその国民の心をつかめるかにかかっているといってもいいですが、さて……」
静かながら、実に興味津々な様子であった。
右手で顎を少しなでながら、周りに目線を配りつつそう言った。
ふむ……。誰が当選するか、か。
すると、仲山副首相が割って入った。
「なんか、どこもかしこもそこそこマシな公約自体は掲げていますが……。はてさて、それでどうやって国民を納得させられるか……。公約の説明とかに少し手間取りますかな?」
少し意味ありげな感じで目を細めてにやけつつ言った。
公約自体は大まかなのは事前に公表されているのだが、その詳細はこの演説で知ることになろう。
さっき詳細な公約といったのはこういうことだ。
まあ、でもハンデ自体は互いにあるというところか……。条件はほぼイーブンか。
どれだけ説明しても、国民が納得させれるかの問題なのだ。要は、自分たちのする公約の大々的な発表や意気込みを淡々というよりは、どちらかというと国民に自分の意思を強くぶつけるほうがいいと思う。この場合、むしろ感情的になるくらいがちょうどいいのかもしれない。
……すると、
「やはり、あの梁というやつはいけるんじゃないか? 前々から共産党批判と共に大きな政治改革案を独自で提唱していた人で有名だし」
「ああ。確かに彼の言っていることも中々説得力あるし、有力候補だと思う。でも、そうはいっても政治家というわけではくてただの活動家の類だったからなぁ……。どうだろうな?」
「だが、俺もあの人はいけると思う。俺はあの……、陽ってったか。あの経済改革掲げていたやつ」
「ああ、彼か。あの人は私も気になっている。マニフェストがはっきりしているし、国民にとっても身近なところをついている。たぶん、彼は最有力だ」
「彼もそうだが、たぶんあの王美玲って人もいけると思うぞ」
「あの美人女性か……。確か、父親が台湾系の血族だったっけ?」
「そう。台湾人とのハーフ生まれた時から母のもとで育っての中国籍。一応は父と面識はあるけど最近はあまりあってないとかどうとか。んで、あの人の父親が台湾海軍の司令官やってることもあって、そういう軍事関連の知識もあるみたいだ。まあ、今の国民は軍って言葉に過剰反応しそうだが……」
「なに、彼女の掲げているのはそれだけじゃない。しかも、行動力もあるしな」
「ええ。自分も、あの演説前の記者会見のほうを見ても、あのハキハキした感じから結構な行動力がうかがえます。マスコミの評価も、父親が軍人とはいってもそこそこ結構高いようです」
「だな。まあ、軍人といっても中国じゃなくて台湾のほうだし……。というか、ハーフってなれるのか?」
「アメリカ的にはまあ別にかまわないんじゃないか? どっちも同じ中華系民族だ。それに、自分の思想的な面自体はほとんど中国みたいだぞ?」
「そうか……」
……と、そんな感じで各々の予想をぶつけあい始めた。
彼らも彼らなりに、大きな興味をもって情報を集めていたようである。それぞれで実際に興味をひかれた立候補者の名前を上げて、それぞれで互いに意見をぶつけていた。
そのうちに、誰が当選するかという点から、その当選した中でいったい誰が国家の代表になるかという点でも議論が白熱した。
いつの間にか仲山副首相や菅原官房長官、新海国防大臣に山内外務大臣も参加し、その議論は中々程よく熱いものになっている。
……と、そのうちに、
「……で、総理はどう思います? 今回の選挙。誰が当選するとお思いで?」
「ん? 私かね?」
仲山副首相からそんな質問をぶつけていた。
するとさっきまで程よく加熱していた議論も止まり、参考までになんだろう、私の意見を聞く体勢をとった。
……ふむ、私の予想か……。
候補としては何人かいるが、その中からさらに上げるとすれば……、
「……そうだな。一人個人的に行けそうなのがいる」
「? 誰です?」
「うむ……。あの、今はすでに退役した空軍軍人の……、えっと……」
「……燕炎彬……、といったかな」
「……あぁ、彼ですか」
「そうだ。ほら、あの元空軍パイロットで、中亜戦争でも総計24機を落とすっていうとんでもないエリートエースの隊長さんだ。……個人的には、彼が一番有力と思う。少なくとも、選挙は通るんではないかと思う」
「ふむ……、なるほど。彼ですか……」
仲山副首相も中々私の回答に今日ありげだった。
右手を顎に当てて「う~む」と考えに耽っていた。
彼は、元々は中国空軍のSu-35戦闘機を操っていたパイロットで、この中亜戦争にも参加。
戦争を通じて総計24機というかつてのナチスドイツのハイパーチートエースのハルトマン張りの戦果をたたき出したことで有名だが、しかし彼は終盤になって核攻撃を実行に移した中国共産党に愛想を尽かしそのときから一時的に部隊を引き連れて日台側につき、その時限定で共闘したというエピソードを持っている。
その後もいったん台湾に亡命して半分捕虜としての扱いで保護下に入ったが、その後台湾復興を手伝った後帰国。政治関連を大量に勉強した彼は、その知識を使って政治の舞台に立つ決心をしたようであった。
これは、彼の口から語られた部分もあり、マスコミからも一定の注目は浴びていたのである。
……が、
「……しかし、彼は正直難しいですよ? いや、無理っていったほうがいいですかね。なんせ、“元軍人”ですから」
そういうのは山内外務大臣だった。
それに新海国防大臣も賛同するようにうなづきつつ続いた。
「ええ。それに、各国マスコミの評価もそれほど高くありません。我が国のマスコミの評価も、いくら退役した後とは言えもとは軍人。しかも一時的には母国を裏切ったことでも知られてしまっており、これに国民が反発することは必死で、もうこればっかりはどうしようもないのではと……」
少し最後は首をかしげつつ言った。
周りもそれに賛同するように何とも微妙な顔でうなづいていた。
確かに彼らの言ったとおりである。
先の元軍人というところがネックであり、いくら退役したとはいえ元は国民にとってはにっくき共産党の加担者。しかも実際に戦争をした軍人だったのだ。
……いい印象などするわけはない。その事実自体はすでに国民に知らされてしまっている。尤も、本人から言ったのであるが。
それによる風当たりも強いだろうというのがマスコミの見解だし、誰しもそう考えることであろう。これは、ある意味では一目瞭然もいいところで、ことによってはある意味先に話題に出た政治将校よりひどいかもしれない。
はっきり言えば、“出るだけ無駄”ともいえる条件だったのだ。
……しかし、
「……いや、彼はおそらく当選する。そして、うまくいけば中央政府のほうにもあてがわれることになるだろう」
私は確信したようにそう言った。
当然彼らはこの言葉に首をかしげていたが、その時の彼らの疑問を代弁するかのように仲山副首相は聞いた。
「なぜです総理? 条件はほかと比べて厳しいと思わざるを得ないと思いますが……」
尤もな疑問であったが、しかし私はそれをやんわりと否定した。
「いや、もしかしたらこれを逆手に取るかもしれない」
「? どういうことです?」
「つまり、自分は確かに共産党の人間であったが、むしろそれを反面教師として、より確実な判断をすることができる。共産党の近くにいたからこそ、その問題点をよく理解しているし、そこからの確実な好転は可能である……。とかいう感じで、自分のバットポイントをむしろ逆手に取るんだよ」
「なるほど……」
しかしまあ、そううまくいってくれるかはまだわからんが。
だが、それでも私は確信しているのには理由がまだある。
「……それに、彼自身が親が経済関係に長けている身分の出身で、彼自身も軍人であるとともにその知識にも通じている。……今の中国に必要なのはまさにそれだ。それを、彼は大いにアピールすれば、まだ道は開けるかもしれない」
「しかし、経済関係の公約は誰しも掲げていますが……」
菅原官房長官の問いに、私はすぐに答えた。
「まあ、今回の戦争の根本的原因ともいうべきところであるし、それに対する関心も強いからな。しかし、私個人としては彼の掲げた経済的公約のほうがよっぽど現実的で、なおかつ最善のやり方、そして理想的なものであるとみる」
「そうですか?」
「うむ……。詳しいことはまださらなる説明が来るだろうが、しかし、彼は経済に強い。今の中国が必要なものを考えれば、国民もいくら相手が元軍人とはいえ一考するに違いない」
「ふむ……。つまり、自分のバットポイントである軍人という名の共産党身分であることを逆手にとってつかえば、もしかしたらまだチャンスはあるということですね?」
山内外務大臣がまとめるように言った。
私はそれにうなづきつつ返した。
「そうだ。……それに、彼は元軍人だ。軍事に関しても適切な判断ができるかもしれない」
「まあ、その結果共産党みたいになっては困りますが……」
新海国防大臣が少し苦笑いしながら言った。
まあ、共産党のせいで経済危機であるにもかかわらず軍拡をして余計国がピンチになったんだ。その懸念もある。
……しかし、
「そんなことしている財政的余裕は今の中国にはないよ。それに、彼も軍人ならそこの適切な判断もできるだろう」
「なるほど。まあ、確かにそうですね……」
新海国防大臣は納得したように小さくコクコクとうなづいていった。
……ある程度意見もまとまったところで、そろそろまだ残っている議案もさっさと済ませたいのでまとめてします。
「……まあ、最終的に決めるのは中国国民だ。中国をどう導くかも、中国の未来を誰に託すかをすべて責任もって決めるのも、中国国民である彼らの、いわば“使命”というやつだ。……私たちは、それを静かに見守らせていただこう」
「……ですな」
と、仲山副首相が割り切ったように背もたれによっかかりながら言い、
「まあ、向こうの判断にゆだねますが……」
と、菅原官房長官もあとは任せるといわんばかりにため息交じりで言い、
「しかし、向こうがどう判断するか、実に楽しみですね……」
と、新海国防大臣も少し興味津々な様子で顎に手を当てて声を浮つかせて言い、
「ええ。その結果、我が国がどうなるか、それも今から興味津々ですよ……」
と、やはり外交に目がない山内外務大臣だった。
他の皆もそれに賛同する声を上げると同時に同じくうなずき、とりあえずはさっさとこの会議を終えて、みんなでその演説の様子を途中からでも見てみようということになった。
……私は一つ息をふぅと吐くと、スイッチを切り替えるようにまた声をはっきりとさせていった。
「……よし。では、あともう少しですし……」
「残りの議案をさっさと消化させましょう」
返事とともに互いにみんなうなづくと、さっそく次の議案に着手した。
この会議も、もう少しの時間かかることになるだろう。
終わったらさっさとTVに直行せねばな。
……あー、この際だから食堂にあったTVでいいか。どうせそのころには昼食も早めにとることにしよう。
私はそんなことを考えつつ残りの会議に参加していた……。
外は晴れ晴れしくも、春らしく中々穏やかな天気に恵まれる中、
この会議室内には光が差し込み程よい空気で安定しており、
今日も順調に残りの会議を進めることができそうだった…………




