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『やまと』 ~戦乙女との現代戦争奮戦記~  作者: Sky Aviation
最終章 ~中亜戦争終結・戦乱の終わりへ~
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降伏調印式、戦争の終結へ

―CST:PM13:40 中華人民共和国浙江省舟山海軍基地

              米海軍第7艦隊空母CVNロナルド・レーガン艦上―








「……と、これで全部だな」


 そして、そのまま手元に私物の万年筆を置いた。

 一応、これで必要な書類にはすべてサインをしたことになる。

 あとは、向こうがサインをすればあとは所定の過程はすべて終了だ。



 降伏調印、休戦協定の締結は、ここに完了する。



 私が万年筆を置いたのを確認すると、向かい側に立っていた3人の代表が順に署名をしに来た。

 向かい側に用意されていたイスにまずアメリカ代表が一例とともに座った。

 アメリカ代表としてきているデッキンソン副大統領。彼が先に私が署名した書類にサインをせっせと書き始めた。

 比較的早く終わり、何も言わずに真剣な面持ちで席を立つと、他の何ヵ国かの代表が署名した後、今度は台湾代表の馬大統領が来た。

 大統領自ら来るとは。珍しいな。向こうでの復興等の指揮もあるだろうに。


 彼も空いたイスにまた一例とともに座ると、せっせと署名を始めた。


 私はそれをただ黙ってみていたが……、


「……そういえば」


「?」


 ふと、彼が周りに聞こえないように言った。


「こうやって対面するのは久しぶりですな……。国家独立時くらいあってなかったような」


「……そういえば、な」


 考えてみれば、例の4年前の掲載危機以来ほかの国との会談とかもしてる暇が全然なかったな……。

 台湾も例外ではない。彼とは、我が国が台湾を正式な国家として完全に独立させ、こちらからの影響がなくなったことによって起きた国家独立以降はこれっきりだった。

 最後にあったのは、彼がまだ台湾の総統としていた時だったが……。彼も、また成長したな。あの核を突き付けられても継戦をを判断するどころか、核の抑止をすべて受け止めるとは。度胸が最初とはけた違いだった。


 彼は何にも余計なことを考えるまでもなく、署名を続けながらさらに言った。


「……なんとなく、親からの巣立ちみたいに思えるな」


「巣立ちか……。そうとも言えるな」


「これで、完全に独り立ちかねぇ……」


「……だな」


 我が国がこうして立場を引いた今、台湾はもう完全自立でやっていかなければならないだろうが……、それをするまでに成長したか。

 今頃復興の真っ最中なのだろうが、そこからの発展が見ものだな……。


 ……と、そんなことを思っていると、彼は署名を終えたようだ。そのまま万年筆をおいて席を立つと、去り際に一言残した。


「……まあ、見ていてくれ。あんたの懐から巣立った国が成長する様をな。……度肝を抜かせてやる」


 そう言った彼の顔は笑っていた。口をゆがませ、にわかに笑顔であった。

 ……一応、私は君たちの敵対国の長なんだがな。何とも思ってないのだろうか。


 しかし、そんな疑問にはお構いなしに彼はそのまま一礼し後方に下がった。


 そして、最後の代表署名として、日本が来る。


 こちらも台湾同様、首相自らが来たようだった。強面の面持ちに真剣な表情を出しつつ、一礼しイスに座った後こちらも例外なくせっせと各種書類に署名を始める。


 彼が最後だし、このまますぐに終わってしまうだろう。


 そうすれば……、この式も終わる。


 私は彼の署名の様子をそのままじっと見続けていた。


 ……しかし、


「……さぞ、大変だったでしょうな」


「?」


 彼は、先の馬大統領と同じくまた自分から話しかけ始めた。こちらもさっきと同様周りに聞こえないように。片言の中国語であった。

 その表情は、下を向いてはいたものの、なんとなく安堵に近いものであった。


「何がですかな?」


「いえ……。経済危機以降、貴国は幾多もの危機や困難にぶち当たりまくり、結果このような自体になる……。個人的には、事情を考えるとあながち責めきれんのですよ」


「何を言っているのか……。私は敵国の長だというのに」


 はっきり言ってさっきも思ったが、私は小さく愚痴をぶつけられても文句は言えん立場だぞ。

 いや、むしろそれを覚悟の上でここに来たというのに……。彼の考えることもあながちわからん。


 しかし、彼は私の言ったことをやんわり否定、というか、それをあんまり主眼にはおかなかった。


「いえ……。経験者だから言わせてもらいますが、この場合、大抵戦争をおっぱじめる国にはあんまり恨みを入れる要素のない理由があるのですよ」


「ほう? というと?」


「……我が国とて、元は第二次大戦はハル・ノートという事実上の最後通告の宣言がされたことにより、あの戦争をせざるを得なくなった。別に戦争自体を正当化するつもりはないですが、あなたなら、政治的・経済的に奴隷になるか、戦争をするか、どっちをとりますか?」


「……」


 何とも難しい話である。

 今までの私なら耳にも傾けなかったが、今となっては別段そういう話にも興味が出てきていた。


 実際、あれがあってもなくても戦争に言ったという声もあるのだが、実際のところはどうだろうか。

 日独伊三国同盟の放棄に、日中関係改善の代わりに中国本土からの撤退。さらに、アメリカ優位のほぼ一方的な経済的条件を突き付けられ、日本としても受け入れがたいものだっただろう。

 まあ、戦争に行かざるを得なくなったというのは大体は結果論だろうが、しかし当時に日米は共に国益を考えた結果、どうあがいても戦争に踏み切らざるを得なかった状況だともいえる。

 アメリカは石油等の資源輸出を制限した結果、日本はそれを補うために南方の地域の資源を欲した。

 南方国家の独立を謳えば、一応の大義名分はついた。それで連合国軍を追っ払い、東南アジアの諸国を自国の制圧下に置く。のちに、これが間接的な原因で東南アジア各国の独立機運が高まることにもなる。

 しかし、いくら名分があるとはいえただでやりに行くのはまずいので、最後の最後までアメリカと交渉して妥協案を探ろうとしていた。

 交渉自体が成功したら真珠湾に向かわせていた日本の機動部隊も即行で戻るという手順で、一応は準備していたようで、日本側としても一応は最後まであきらめていなかった。

 しかし、アメリカ側は事前に真珠湾に攻撃が来ることを知っていながらこれを現地には伝えなかった。理由は単純。そのほうが“戦争の正当な大義名分を得やすい”からだ。


 ……いったいどっちが戦争したかったのか。今までの状況的にもすべてが納得いくだろう。


 経済的不利に立って自国の利益を脅かされるか、それとも戦争をするか。


 ……あの事態で言えば後者しかあるまい。


 ……という、こういう知識も、


「(……最近調べて分かったのだがな)」


 一部は、例の彼女にも教えてもらった面もある。


 ……尤も、当時ではそういういろいろと強引な手がまかり通ってた時代だ。まあ、今も似たようなものだが。


 麻生首相はそのまま続けた。


「……あなた方も似たようなものですよ。もちろん、戦争行為自体は決して正当化されるべき行為ではないですが、しかし、あの経済危機も……。あの後の各国と言ったら、ほとんど無視でしたな」


「……ええ。唯一、日本はODAという名目で続けていましたが……」


「ええ……。でも、そんなので改善できるわけもなく……」


「……」


 ……何とも無念なことである。

 実はあれ、一応裏では各国に経済的援助を依頼はしていたのだ。あくまで裏なので、大抵の人は知らない。彼も、一応は他国からの情報で知っているだけだ。おそらく、彼の内閣メンバーは知らないだろう。


 ……だが、各国の返事と言ったら冷たいものだった。


 EUあたりはそもそもこのアジアの経済に興味がないのか、あいまいな回答をしてほぼ保留同然の状態になり、アジアはもちろん相手にせず、一番頼りのアメリカやロシアは「検討する」と言い残したままそれ以上の発展をしてくれなかった。

 ロシアはそもそもこういうのには裏をかく傾向にあるが、アメリカは単純明快だ。大方「中国が経済的に後退したらこっちの立場も保つ」とか思っていたのだろう。

 彼らの経済基盤である外資系企業は東南アジアに移せばいいだけの話で、さほど問題はなかった。

 要は「自分たちは関係ないしそのほうがかえって都合がいい」という考え方である。

 ロシアは何も言わないが、たぶんほぼ似たような理由だと思われた。


 ……国益のためならこんなにも冷たくなるのか。もっとも、昔の私たちが言えたことではないのだが。


 そんな中唯一救いだったのは日本のODAだった。なぜか経済的にも追い抜いたのにそのままODA支援をしてくれていた日本が、せめてもの救いとなってしまった。

 結果、その影響もあってか国民の反日思想も少し衰えを見せることになる。おそらく、日本側としてはこれも狙ったのだろう。国民を使った高度な政治戦略である。そして、それはにわかにうまくいっているといってもよかった。……それでも、限界はあったようだが。


 麻生首相は一つ鼻でため息をつくとつづけた。


「……だから、私としても本当はもう少しそちらが粘ってくれればもう少し違ったのではないかと思ったんですが……。やはり、さすがに我慢の限界でしたか」


「……これ以上は、国家の破綻を迎えることになる」


「ええ。まあ、これもこれでマズイことですがね」


「こうするしかなかったのだ……」


「わかってます。事情は、一応は理解しているつもりですよ」


 ほとんど表情を変えないで淡々と話す彼からは、何ら悪意は感じられなかった。

 彼の言っていることは本当なのだろう……。彼自身は、このまま支援を続けていくつもりだったようだった。


「……しかし、不思議ですな」


「? 何がです」


 私はつい自分の疑問をぶつける。


「……あなた方は、なぜここまでお優しくなさる? 私は敵のものだというのに」


「……」


 すると、今までほとんど表情を変えなかった彼の顔が、にわかに笑った。

 口をゆがませ、鼻で一瞬笑った後、彼はやれやれと言わんばかりの口調で言った。


「……そうはいっても、目の前のピンチを見逃せないのが、我々日本という国なんです。良く言えば仲間思い。悪く言えば、お人よし、というところですな」


「仲間思いのお人よし……、か。台湾遠征もそれのせいですかな?」


「まあ、ほとんどがそうです」


「ほう、ではその残りの一部は?」


「台湾を奪還することによって、中国本土への攻撃の線がさらに拡大します。沖縄奪還によって東シナ海からの思い切った攻撃が可能となり、中国本土に対する攻撃ができるようになったところに、さらにここが落とされたとなれば……」


「……なるほど。読まれていましたか」


「まあ、そんなとこです」


「ふむ……」


 まあ、彼の言ったことがすべてだ。

 沖縄が落とされた時点で、台湾が落とされたら降伏するといった理由がこれである。

 沿岸防衛線が大きくなっては、さすがに本土に対する攻撃の手が届きやすくなり、そうなれば国民がだまっていない。


 ……そうなれば、否応なく降伏せざるを得なくなる。


 彼には分っていたか……。だから、対外遠征を比較的積極的しない日本がわざわざ台湾に送り込んだわけだ。しかも、激戦地ともいえる台湾に。


「……とにかく、たとえ敵であっても、中国という国の経済的価値等をかんがみると、我が国としてはどうしても無視できんのですよ。それは、ある意味あなたもご存じの通りでしょうが」


「まぁ……。それはわかっておりますが」


 今ではほとんどいなくなったが、まだ本土には日本の外資系企業や工場が点在している。それを頼っているというのも事実だった。

 東南アジアのほうも人気で、中々立地が取れないのだ。だから、仕方なく我が国にとどまっている企業も多くある。


 ……それをかんがみた結果か。まあ、当然だな。


「……それに、」


「?」


 しかし、彼はまだ続けた。


「……一応は、同じアジアの構成国であり、日本との隣国のため、重要な関係を保っておかなければなりません。外交的にも……、経済的にも」


「……そうですか」


 アジアの友だから助けるってことか。

 ……お人よし、といっている意味も分かる気がする。どういうことかは言うまでもないだろう。


「……私は我が国みたいなことにはなってほしくなかったのです。経済的においやられ、最終的に戦をし始めねばならないようなことには。そうなれば、絶対負の結果をもたらし、我が国みたいになる」


「……」


 ……そう考えれば、むやみやたらにこうして戦を始めたのは間違いだったんだなと思い知る。

 いくら状況が状況とはいえ、少し軽率すぎたということか……。将来的な国家の国際的立場の意味で思いっきり踏み外す結果となるだろう。


 ……と、そんなことを沈痛な面持ちで考えていると、とうとう彼も署名を終えたらしい。万年筆をおいて書類をまとめた。


 そして、そのままイスを立ち……、と、その前に、


「……しかし、知っていますかな」


「?」


 彼はまだ話をつづけた。


「……そのような窮地に立った国の中で、たった唯一、科学技術的に、経済的にトップクラスにまで上り詰めた国があります。……たったのアジアの鱗片でしかなかった小国がここまで上り詰めたことに、他国は度肝を抜かれたようですな……。そう、とある“島国”です」


「……ッ!」


 私はそれに該当する国を一発で思い当たらせた。


 ……アジアの小さな島国。となれば、あそこしかあるまい。


「……なるほど、」








「……あなた方、“日本”ですな」







 彼は「ご名答」とでも言わんばかりに口をゆがませていった。


「……頑張れば、そういう国に変貌もできるということです。なに、まだ、貴国にはチャンスはありますよ」


「しかし、それは貴国の当時の人間の努力のたまものでしょう……」


「中国人にそれができないとでも?」


「?」


 彼は書類をまとめ終えると、その場で立って隣にいた幹部に渡した。

 テーブルの横に立っており、協定署名の際して監督として立ち会っていたのだ。


 彼はそれを渡すと、その場で立ったままさらに言った。


「……あなた方は確かににっくき敵国でした。我が国をはじめ、アジア各国の人間を殺し、そして、自分たちも殺された。……戦争の結果、何ら得るところはありませんでした」


「……」


「……しかし、」


「?」


 そのまま、彼は一瞬肩の力を抜いて柔らかな笑顔を見せると、まるで宣言するように、かつ静かに言った。


「……それは、ついさっきまでの話。今はもう、ただのアジアの一員です。……ここからの中国は、ただの中国ではない。それを、私は見たいのですよ」


「……麻生首相」


「……周主席閣下。あなたは確かに間違いを犯した。しかし、国民がそれを教訓とできるという点では、あなたは国のために一役買ったのです。先の降伏宣言の件もあります。……あなたの意思は、国民がしかと引き継いでくれるでしょう」


 そういうと、彼は右手を私に向けて差し出した。

 一直線に伸ばされたその手に私は思わず驚くが、彼はそれにはかまわず、いや、もとより予想していたとも言わんばかりに躊躇なく言った。


「……私は、今までのことを深く執拗に因縁をつけるつもりはありません。もうすでに過去のこと。これからは、未来を見据えるときです」


「……」


 その視線は、とてもまっすぐなものであった。

 確かに、その視線は未来を見据えている。過去にとらわれず、今は起こってしまったことは仕方ないとして、とにかく今後のことを見据えているようだった。


「……共に、見守ろうじゃありませんか。あなたが今まで“守ってきた”中国の未来を。どのような道をたどるのか。……国民に、」










「未来を、託してみましょう。そして、それを見守りましょう。互いに」










「……」


 私は言葉が出なかった。

 敵国の長であった私に対して、ここまで友好的な言葉をかけてくれるのは今までの人生では彼が初めてであった。

 当たり前である。こんなことは普通はない。

 ……しかし、彼はそうはしなかった。

 それは、日本のためでもあるし、我が国のためでもあるのだろう。

 戦争によって起きるだろう狭間が、彼によって少し埋まった気がした。


 ……そして、


「……そうですな」


 私は立ち上がった。


 それは、素直にうれしいものだった。

 アジアの一員として、まだまだ発展させていこうというその意思。それが、純粋にうれしかった。

 昔の私で考えられなかったことである。しかし、それが今の私の本心だった。

 彼は未だに手を伸ばしている。私を待っていたのだ。


 ……私はそれに答えた。


「……私でも、見れますかな。その未来は」


 彼は微笑みを崩さずに答えた。


「……ええ、見れますよ。十分にね」


「……そうですか」


 私は意を決した。

 ここまで言われたら、さすがに答えない手はないだろう。


「……いいでしょう。共に見守ろうじゃありませんか。我が国の、」












「未来の発展を」












 私はそのまま彼を握手を交わした。

 マスコミにとってはこれは意外な光景だったようで、すぐにどよめきと共にフラッシュが瞬いた。


 ……さらに、私や、これは麻生首相にとっても意外な事態が起こる。


「……お?」


 私の右隣から、その握手の手に同じく手を合わせてくる者が一人いた。


 ……それは、







「……アジアを見守るなら、ぜひとも我が台湾民主国もお忘れなく」







 そう。台湾の馬大統領だった。

 彼も、顔を微笑ませつつ握手に参加した。

 両手を上に乗せ、私と麻生首相の顔を交互に見る。

 麻生首相も、最初は軽く驚きつつも、すぐに笑ってで返した。

 もちろん、私も続いた。


 ……敵国の首脳と戦勝国の首脳との間で交わされる友好的な光景が、マスコミのネタにはうってつけらしい。フラッシュがとどまるところを知らず、レポーターらしい人もしきりにTVカメラに向かって各々でレポートしていた。


 ……そんな中、私たちの横で、ある宣言がなされた。


「……それでは、これをもちまして、降伏調印式の閉会を、宣言するとともに、当休戦協定の発効を、宣言させていただきます」


 そう言っていたのは、最初の演説でも出ていたアメリカディッキンソン副大統領である。

 こちらのほうを少しあきれ笑顔で見つつも、あながち悪い気分はしないようで少々どっちつかずな、しかしどっちかといえば少々やれやれと言わんばかりの顔で見ていた。


 その宣言がなされた瞬間、フラッシュの瞬きがさらに激しくなるとともに、野次馬でいた乗員たちからの大きな歓声が鳴り響いた。

 ここまで我慢していたのだろう。その歓声は雷鳴の如くであった。

 マスコミ各社の各レポーターも、喜びを体現させつつも少し興奮気味にレポートしていた。


 ……私がそれを見渡していると、麻生首相が言った。


「……これで、今後は互いにまた奮戦しそうになりそうですな。我が国と台湾は復興事業に入りますし、中国は……」


「同じく復興しつつ、新たな中国の成り行きを見守る……、ですな」


「……そういうことです」


 麻生首相も、調印式が終わったことにより少し安堵、かつ笑顔の表情を出しつつも、それでもその目は少し細めている。

 これから、互いに大変になりそうだな……。


「……面白いですな。これは我が台湾も日本張りの成長をお見せしてやらねばなりませんなぁ。日本に負けてばかりではいられません」


 馬大統領も意気込みは高いようだった。

 口をゆがませて笑顔を見せつつも、何かを決心したような強い意志を醸し出さんとする目つきである。


 ……私もそれに対抗した。


「我が国だって、せっかく生まれ変わるのでしたらそれくらいはしてやりたいですな。……追い込みだけは得意ですしな」


「面白い。楽しみにしておりますよ……。互いに、同じ中華系の人間として」


「ええ……。同じく」


 私は台湾とのある意味初めてかもしれない本心でのエールを交換した。

 それを、麻生首相は安心したように何度かうなづきつつ笑顔の表情で見ていた。


「フフッ、楽しみにしてますよ……。我が国でもできたんです。あなた方の国でもきっと成し遂げられるでしょう。もちろん、できる限りの支援は惜しみませんよ」


「ええ、感謝します」


「私からも。……といっても、託すのは、私の後継のものですがね」


 私はこれっきりで表舞台から姿を消すからな。

 ここから先は……。強い意志を持った中国人にゆだねることにする。


 最後に、麻生首相がまとめるように言った。


 その視線は、自分の向かって右手にある、マスコミのフラッシュがたたいている方向の少し上の空を見つめている。


「……では、みなさんで見守ることにしましょう。……中国の改革と、アジア各国の復興、……そして、」















「アジアの平和の、さらなる発展を……」















 彼の一言に、ここにいた私と馬大統領もうなづき、ふと、互いに彼の見ていた青い空を見た。



 今日も天気は快晴であり、その時の私にはそれはとても輝いて見えていた…………

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