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『やまと』 ~戦乙女との現代戦争奮戦記~  作者: Sky Aviation
最終章 ~中亜戦争終結・戦乱の終わりへ~
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ドックで迎える終戦

―JST:AM13:20 日本国長崎県佐世保海軍基地

            佐世保重工業第2ドック DCGやまと艦橋上―







「……やまと! ほら、起きて! やーまーと!」


「ん~……?」


 私は気持ちよくご睡眠していたところを無理やり起こされた。


 あの日台中連合艦隊解散の後、一直線に佐世保に向かった私たちは修理が必要な艦は重症の艦を優先して一昨日からドック入りが始まりました。

 今私がいる第2ドックは修繕用で、ギリギリ私の船体が入る程度の大きさがあり、私たち日本国防海軍と米海軍とで共同使用をしているところです。

 私も一応ミサイル2発被弾に加えて艦橋回りの損害がひどいってことで中破判定を受けたので、こうしてドック入りしてゆっくり休んでます。

 といっても、別段貫通とかはしてなくて、あくまでへこんだりして周りの装備等に被害が出たり、あと命中箇所あたりの艦内がいろいろとひどいことになってたってくらいで、これは即行で直るし、艦橋回りも即行で修理自体は終わりそうだった。

 今のところ、私の周りには大量の物資と修繕担当の人たちがあたりを忙しく動き回ってます。なお、ここにはまだ来ていない模様。


 ……そんでもって、どうせなら疲れもひどいししばらく寝てようと思ってまるでニートの如く一昨日からずっと寝っぱなしなんだけど、そこで起こしてきたのは……、


「んんー……、なんですかこんごうさん?」


 そう言いつつ大きな欠伸をしてしまう。


 私を呼んでいたのはこんごうさんでした。

 私の体を必死にゆすっていたのはあんただったのか。こんごうさんは別段損傷はないから今はドックには入っていない。しかし、沖縄戦で負って今は一部突貫で済ませてるSSM周りの簡単な修繕をする必要はあるということで、今は第1ドック近くの係船岸壁で停泊しつつ簡単な修理をしているところです。

 でも、一部は入渠しないと無理っぽいところもあるようなので、一応ドックが空くのを待ってます。今はほかの艦が入居してるか、もとからドックを占領してる艦ばっかりなので。


 それでも、別段時間はかからず、比較的早めに終わる予定だからこんごうさんもすぐに入渠できると思う。


 ……で、そのこんごうさんがいったい何をしたのかと。


 せっかく気持ちよく寝ていたというのに……。


 おもむろに目を開けると、少しばかり必死の様相で私の上を向く視線に入っていた。

 元は形的には空を見ていたはずなのに、そこにこんごうさんの顔がかぶさってせっかくの青空が見えません。


 こんごうさんは少し急いでいるように言った。


「ほらほらおきて! 忘れたの? 今日はあの日だよ?」


「あの日ぃ……? ……あ」


 と、そこまでいったとき私は思わずハッとなった。ついでに目を覚ましてしまう。


 そうだった。今日は確か……、



「……降伏調印式でしたっけ? 今日が」



「そうそう。もうすぐ始まるよ。ほれ、さっさと起きる」


 そう言ってこんごうさんに無理やり上半身だけ起こされる。

 そう。今日が確か中国が降伏調印式に臨む日だったはず。


 そういえばすっかり忘れてた……。そうか、今日だったか。


「一応スマホ持ってきたか。これで見よう」


「え、スマホって……。それ、誰のです?」


「ん? うちの乗員の私物」


「ええ!?」


 ちょ、ちょっと待って。自分の艦の乗員の私物持ってきちゃまずいでしょ。

 乗員さんが忘れたりでもしたの? だとしても勝手に持ってきちゃまずいんじゃ……。


「大丈夫。これ乗員が忘れたやつ」


「いや、そうはいっても……」


 と、まあぶっちゃけここでそういってももう遅いと思うし……、もういいや。


 そんなことを考えていると、こんごうさんはスマホを操作してそのまま私の隣に足を延ばして座りつつ、スマホを横にもって右手に持ちつつその画面を見せた。


「……もう中継始まってますね」


「うん。これ、見た感じ朝っぱらからずっとこれみたいよ」


「お~う、マスコミさんもお疲れ様ですな」


 こういう時って眠たかったりしないのだろうか。あ、マスコミだから慣れてるのかな?


 その画面には、左上にNBCっていう文字があり、確か大樹さんいわく日照テレビっていうTV局だったかな、それを示す3文字に、時間が示されている。現在午後13時23分。

 右上にはテロップがあり、『中亜戦争終結・降伏調印へ』という題が書かれている。

 ……どうやら、今回の戦争は“中亜戦争”と名付けられたみたいだね。まあ、どうせマスコミが勝手につけたんでしょうけど。

 そして、そこにはレポーターらしい男性がいて、その背景には空母の甲板らしい光景がいた。野次馬らしい乗員さんが、カメラが映しているテーブルとイス、そしてそこに立つ要人の周りに一定距離を置いて大量におり、そこで何かを待っているようだった。


 しきりに、レポーターの男性が現状の報告をしていた。


『―――米軍空母ロナルド・レーガン艦上、降伏調印式会場から生中継で、私駒沢が繰り返しお伝えしております。まもなく、こちらに中国代表として周国家主席以下中国代表団が到着し、こちらで休戦協定による調印が行われ、正式に降伏調印が行われる予定です。今回参加する連合国代表団は……』


 時折手でテーブルのほうを指しつつそう言っていた。


 どうやら、中国側からは直接主席がお出ましするみたいだね。

 連合国側は……。あー、アメリカが中心か。でも日本の代表として麻生首相が直接赴いているってことで、連合国側から首相、ないり大統領が出向いた国としては台湾以外では彼だけみたいだった。

 カメラでも、日本の麻生首相と台湾の馬大統領がならんでテーブルの前に立っているのを捉えていた。

 一応、連合国側代表として調印に参加するんでしょうね。


「……やっと、ですか」


「ええ……。やっと、この戦争も終わるわ」


 こんごうさんも真剣なまなざしてみていた。


 ……その視線は、ただ降伏調印式を見守ろうという意味だけではなかった。


 私もそうだけど……、


「……やっと、“生きてこれを見ることができた”んですね」


「……しかも、とりあえずは勝者としてね」


 前世では体験できなかったとだった。

 前世では、この降伏調印式が行われた9月2日には私はすでに沈んでいて、こんごうさんはそのもっと前に沈んでいる。


 だから、このような光景を見ることはできなかった。


「……こんな感じなのね。降伏調印式って」


「何とも物々しい感じですね」


「だね……。向こうにいるレーガンさん大丈夫かな。この空気耐えれる?」


「さぁ……?」


 あの人、基本明るいムードしか作らないから、こういう真剣を通り越していろいろと重い空気に耐えれるかどうか……。

 まあ、やるときはやるというか、とりあえず周りの雰囲気に合わせていく人だから大体は問題ないとは思うけど……。


 ……というか、


「……これ、何気に映ってますね。レーガンさん」


「……あ、ほんとだ」


 よく見たらその本人が映ってた。

 時折カメラをほかのところに回す時にちゃっかり入っちゃってる艦橋の上の一部のスペース。

 大体艦橋窓の手前にあるちょっと出っ張ったところに、何やら足を外に出して座ってる。

 ……あー、なんかよく見えないけど、顔こわばってる。やっぱりこの地味~に重苦しげな空気は苦手か。


 ……しばらくの間耐えててくださいねそこで。大丈夫です向こうが到着すれば即行で終わるでしょうから。たぶん。私は実際のを見たことないからわからないけど、どうせ書物にサインして終わりだろうし。


 ……あ、そう考えたらレーガンさんもこの体験は初だね。余計キツイだろうけど頑張ってください。


「……で、いつ来るんです? 中国代表団は」


「えっと、報道だと大体30分ごろ到着って言ってた。だからもうすぐだと思う」


「ふ~ん……」


 30分。となると、今は28分だからもう少しかな。

 といっても、アメリカさんがそんな時間に正確に来るかはわからないけど。日本人じゃあるまいし。


 ……あと、もう少し、か。


「……こんごうさん」


「ん? なに?」


「……改めて聞きますけど、私たち……」








「生きて、終戦迎えれたんですよね?」








「……だね。一応」


「……なんか、感慨深いですね。生きて終わったためしがないので」


「そりゃね……。というか、たぶん前世から転生組は全員そうでしょ。たぶん今頃各々の手段でこれ見てるんじゃない?」


「ええ……、でしょうね……」


 前世では体験できなかった終戦。

 こうした、終わったという安堵した気分と、生き延びたという達成感と喜びが混ざったような何ともうれしい気持ちは、こういう時でしか味わえないだろう。

 ……何とも感慨深いものですな。今、私たちは終戦を迎えようとしているっていうのには。


 こんごうさんも少し感慨深く言った。


「……だから、私たちはそれをしっかり見ておこうって思ったの。わかる?」


「なるほど」


 だからあれだけ急いで起こしたのね。まあ、それなら納得です。


「……終戦がどういうものなのか。見てみたようじゃないの」


「そうですね」


 ……と、その時だった。


「ッ! 来た!」


 とたんに私はそう言った。

 レポーターさんがそれに気づくといきなり叫び始め、カメラさんにそっちに向けるよう仕向けた。


『あ! き、来ました! 中国訪問団が乗っていると思われるMV-22オスプレイが到着しました! 後部甲板に着艦します! あ、ほら、カメラさん! あそこ! あそこ!』


 カメラも一瞬どこにオスプレイがいるのかわからなかったけど、レポーターさんが教えてくれたおかげでなんとかカメラの中にその姿を抑えた。

 大体レーガンさんの艦の左舷側、10時方向からだと思う。1機のオスプレイがレーガンさんに向けて飛んできており、その周りには2機ほどのF-35Cがどうにかして速度を合わせて護衛していた。オスプレイを中心にして、左前方と右後方に位置しており、若干ノズルを下に向けているのか、少しふらつきが起きているのが時折見えていた。あと、カメラがズームしてくれたとき、よく見たら主翼のフラップも最大限おろしている。


 ……ようやる。本来オスプレイは護衛をつけるような状況で運用は想定してないし、そもそも速度が戦闘機とヘリのどっちつかずな関係上つけることすらほぼ無理ゲーだっていうのに。

 しかし、今回乗っているのが重要な要人さんなだけに、やはりいくらもう安全な空域になった途へ家つけないわけにはいかなくなったのだろうか。そんな無茶する必要はないと思うんだけど。


 そのオスプレイと護衛機の編隊は、いったんレーガンさんの左舷側を若干迂回した後、そのまま左舷後部からオスプレイが着艦侵入。

 その直前に、護衛の2機のF-35Cは編隊から離脱し上空待機に入った。護衛任務お疲れ様です。


 オスプレイはそのまま多くの乗員やマスコミ関係者などが見守る中、艦尾のほうに機首を右舷側真横に向けるように静かに着艦した。

 ローターから起こる強烈な風を抑えつつ、レポーターさんも必死にレポートをする。


『と、到着しました! 今、中国代表団の乗ったオスプレイが、ここ、空母ロナルド・レーガン艦上に着艦しました!』


 その報告を横耳に、カメラはそのままオスプレイを映し続けていた。

 そして、着艦後そのままローターの回転数が大体おさまってきたとき、後部のランプが下に開いた。


 そこから、何人かの米軍兵士や共産党幹部らしい首脳陣が何人か出てきた後、最後に……、


『あ! で、出てきました! オスプレイから、周国家主席が出てきました! 彼がマスコミの前に姿を現したのは一週間前の降伏宣言以来ですが、あの時とは何ら変わらず、真剣な面持ちでいます!』


 そのカメラが映したのは、レポーターの言ったとおりだった。


 その最後に出てきた彼の顔は真剣そのもの。護衛の人らしい女性の人と何かを話した後、事前に作られていた一本道のほうを歩き始めた。その周りは野次馬の乗員とマスコミばかりだった。


 ゆっくりと、しかし確実に降伏調印の会場に足を運んでいる。


「……いよいよですね。降伏調印」


「ええ……。彼が今回の降伏調印の中国側の代表なのね。直接著名するのかな」


 そう言っていたこんごうさんの表情は真剣そのものだった。

 主席はそのままテーブルの前に立ち、テーブルを挟んで反対側に立っていた首脳陣に一礼。後方に控えていた中国首脳要人も同じく一礼し、相手側も返した。

 そこに立っていたのは、アメリカさんから来たらしい米軍軍服の人。つけてる階級章からして、たぶん連合国アメリカ側の総参謀長でもしていた人だと予想できた。

 そして、その両サイドには日台の国の長。右側に日本の麻生首相、左側に台湾の馬大統領だった。

 その後、そのままの状態で事前にアメリカ代表の前に用意されたマイクを操作してオンにし、何かの演説を短く済ませると、主席に目の前にイスに着席を促した。

 彼はそれにすぐに従い、目の前のイスに座ると、隣に控えていた共産党幹部と何かを話した後、目の前に用意された書物に何かを書き始めた。

 たぶん、休戦協定、降伏調印関連のものだと思う。

 テーブルを挟んで目の前に立っていた日台米の3ヶ国の首脳はそれを静かに、かつ真剣な面持ちで見守っていた。


「……もう、これで終わるんですね」


「ええ……。それじゃ私たちは、」












「……それを、静かに見守っていましょうか」


「……はい」















 そのまま、私たちはその降伏調印式の様子を静かに見守っていた…………

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