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『やまと』 ~戦乙女との現代戦争奮戦記~  作者: Sky Aviation
最終章 ~中亜戦争終結・戦乱の終わりへ~
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調印へ向けて

―9月8日(火) CST:PM12:20 中華人民共和国

               浙江省寧波市上空2,000ft MV-22オスプレイ機内―







「……いよいよね」


 隣にいた彼女がそういった。


 晴天の空。そこを私はアメリカ海兵隊のMV-22の機内に乗りつつ飛んでいた。


 晴天ゆえ、乗り心地は最高だった。米軍の最新鋭の輸送機なのもあるだろうが。

 ティルトローター機。一応我が国でも“藍鯨”と呼ばれるプロペラ4枚のものを開発していたが、結局今回の戦争には間に合わなかった。

 試験機がいくつかできた程度で、それも翼面積が小さすぎたのかうまく飛ばないどころか、もともと燃費をよくするためのティルトローターなのに4つのエンジンをつけた結果余計燃費が悪くなるという本末転倒状態。

 ……たぶんこれで来ても軍にとってはうけないだろうな。


 そんなティルトローターであるこのMV-22は米軍海兵隊使用のオスプレイだが、私はSPに扮した彼女とともに搭乗していた。


 ……その行先は、


「……あと数分だったな? “ロナルド・レーガン”までは」


「ええ。あと8分ほど」


「そうか……。いよいよか」


 そう。目的地は米空母のロナルド・レーガン。

 降伏調印式の会場となる空母である。


 今日がその降伏調印式の日だった。

 このオスプレイがそのまま空母の甲板に向かい、そこですぐにその甲板上に設置された会場で降伏調印を行う手筈となっていた。

 今はそこまでの機内である。


 この機内にはパイロット2人のほかに、私を含む降伏調印式に臨む生き残っていた共産党関係者、そしてそれの護衛のSPと完全武装の米軍兵士が乗っていた。

 一応この寧波市の寧波庄橋空軍基地から飛び立ち、たった数分の空の旅だ。

 ここまでは北京からはるばる陸路で、あの後地下からあえて共産党のほうにひそかに戻った後“あたかも最初からそこにいたかのように”また再出発した。

 地下の場所を知らされるわけにもいかないし、彼女たちの身分を知らせるわけにもいかない。まあ、妥当なところだろう。

 そこから大量な時間をかけて陸路でいった。本当は空で言ってもいいのだが、急遽そんな陸にまで用意できなかったようだった。

 ……我が国が用意する、とも言えるような雰囲気でもないな。あくまで向こうは調印式はこちらですべて準備するといいたげな様子だった。


 ……まあ、かってにしたまえ。いずれにしろ我々にもう発言権など皆無だ。


「ロナルド・レーガンでの警備も万全よ。一応、付近から暗殺されそうな場所はすべてマーキングして米軍がしらみつぶしに閉鎖したわ。……尤も、立地的に無理でしょうけどね」


「念には念をだ。……やっておいて損はないだろう」


 暗殺というか、この場合は狙撃か。

 いつどきかのアメリカ大統領の狙撃暗殺事件を思い起こすな。

 あれの二の舞はアメリカとしても避けたいのだろう……。いや、もしかしたらむしろ私を殺して今回の交渉をうやむやにした後自分たちで仕立てた調印代理に無条件降伏飲ませるか?

 ……いや、今更やっても無駄だな。むしろいらぬ疑いをかけられて立場が危うくなるだけだ。


 ……いずれにしろ、あの近くで高台などはないしな。

 空母の高さの関係も相まって、あの高さに対応できてある程度距離が近く、かつ狙撃もしやすいなんて言う都合のいい場所などはない。

 ……空母内に内密者がいればまだ話は別だが。しかし、もしいたら今度は米軍側の警備問題が起こりかねないからそこら辺は信用してもいいだろう。

 私を狙うとすればほとんどは民間だ。民間に警備掻い潜られたとか全世界から笑いの種にされかねんからな。


 条件等から見ても、おそらく暗殺等の心配はないだろう。

 内通者がいれば話は別だが、アメリカがそれを許すわけはなし。

 ……調印式自体は別段何の妨害もなく行われるだろう。すでに甲板上にいるマスコミのに紛れてないか心配ではあるが、それも向こうの警備のうちだ。


「……この調印式さえ終われば、もうすべてが終わりを迎える。今までの苦悩も、これまでだ」


「そうね……。しかしそうなったら、あなたの身は向こうに」


「ああ……。わかってるさ」


 調印式の後はすぐに刑事裁判調査団に身柄を引き渡される手筈となっている。これは事前に宣告された予定通りだった。

 すでに向こうで待機しているに違いない。調印式自体はさほど時間がかかるものでもなし。書類にサインして終わりだ。


 簡単なことだった。それで、すべてが終わる。


 約1ヶ月に渡らんとするこの戦争も、やっと終結を迎えるのだ。


「……」


 私はそんなことを考えつつも思った。


 あとはほかの若いやつらに政治を任せることになるが、果たして各国のいらぬ圧力に屈したりはしないだろうか。

 とくにアメリカは問題だ。アメリカは必ず表では民主改革の促進といいつつも、裏でアメリカ依存社会形成のためにいろいろ交錯するに違いない。

 新たに立候補した者たちがそれに煽られたりしないだろうか。立場としてはアメリカのほうが高い分、その不当なことまで突っぱねることができないようでは、それこそアメリカの奴隷に成り下がる。

 今までだってそうなりかけていた。経済危機の影響でアメリカが再三にわたって経済援助を申し出てきたが、あの要求内容は明らかにアメリカ依存にさせるための工作だった。

 なんだ、「アメリカ国債の購入によって間接的な利益を得ることができるから買え」などと、それは裏を返せばアメリカの国債ばっかり買えば自然と経済支援がアメリカ依存になってアメリカなしに生きていけなくなるっていう狙いが見事に出てるじゃないか。


 そういうのが怖いのだ……。今回立候補する者たちがそれに屈したりしないだろうか。ちゃんと中国の未来を見据えての決断ができるものがそろってくれるだろうか。

 今回の立候補者の中でも、一応は政治関係に詳しいものも何人か出てくれるだろうが、それがちゃんと当選して、なおかつ中心的に動けるかどうか。


 ……私は不安で中らなかった。


「……やっぱり心配? 例の選挙」


「ん?」


 と、彼女に見透かされていたようだった。

 首をこちらに向け、若干瞼を下げつつ何とも言えない探るような目で見ていた。


 ……やはり侮れん女だ。


 簡単に見透かされているようでは政治家としてもどうかと思うが……。あ、もうまもなく政治家ではなくなるか。


「……まあ、ちゃんとした意思を持った者が出てくるかどうかがな……」


「まあね……。でも、結局はそこは国民次第。願うしかないわよ。それに、最後の最後ああいったんだし、もうあんたのできることは全部したわ」


「それはそうなんだがな……」


 そうはいってもやはり心配だ。

 最後の最後にというのは、例の在中アメリカ大使館から出た時のあの汽車に向けた言葉だが、それに呼応してくれるものがどれだけいるか。

 意思は持っていても政治にもろくては意味がない。その逆もしかりだ。

 見事にこれらを両立したものが望ましいのだが、その人間が我が国にどれだけいることやら……。

 しかも、仮に出てもそのあとも心配だ。

 アメリカはその選挙で出た立候補者を、さらに自分たちで勝手に選定する。

 というのも、これはアメリカ曰く「今までの共産党思想の引き継ぎを防ぐため」という名目で行われているもので、言い分自体は別段悪くはないのだが、おそらく、いや、確実に裏では「アメリカのいうことに従ってくれる者の選定」ということだろうな。

 立候補者の時点でアメリカのいうことに耳を傾ける人間だけを選んでしまえば、そこから先はどうあがいても未来は確定したも同然だ。まずそこの選定で共産党関係者はよっぽどのことがない限り除外だろうな。

 そうなると、ただの素人かある程度知識があると自称している者しか残らない。その中で、例のデモ隊に弾にいたようなリアルな政治関係の知識を持っているものとなると、ごくわずかに限られてしまう。

 そしてその彼らが政治の中心にいってくれるとも限らない。そこから先も、アメリカの手引きで絶対反米的な人間は隅っこに追いやられて親米的な人間を中心に持って行こうとするだろう。

 そうすれば親米政権という名の親米“奴隷”政権はほぼ完成だ。あとは中国の使い勝手にできる。


 ……これがいやなのだ。これではせっかく中国がよくなろうとしているのに結局問題の解決にならない。


 また、これに関連して、どうやら元共産党関係者や、政治将校などの間接的に共産党とかかわりのある人、そして元軍人なども立候補するという噂もある。中にはこれのために軍をやめて政治家になるというものまでいるという噂もあり、そこまでとなるとさすがに意思思想的には期待できそうだが、それをアメリカがオッケーしてくれるかは……。というか、どれも大なり小なり共産党がかかわってる時点でもう可能性はあまり期待できないともみていいな……。




 ……今回の選挙で、どこまで“まともな中国人”が残ってくれるか。




 それが、私の中での“懸念事項”となっていた。



 私がそう沈痛な面持ちでいると、彼女はそれを割り切るかのようにきっぱりといった。


「まあ、そうはいってもあんたが心配したって始まらないって。国民を信じなさいよ国民を!」


「ぬぅ……そうはいってもなぁ……」


「そんな心配したら逆に国民に失礼だって! ほら、仮にも元国家主席ならもっとシャキッとしなさいシャキッと!」


 そう言って気合を入れるように私の背中を右手でたたいた。


 ……はは、こりゃまるであれだな。


「……なんとなく、君が私の母に見えてくるな」


「え?」


「いや、その過保護様、なんとなく母を連想させるなと……」


「いや、リアル母よ?」


「……え?」


 ……と、なんだ。現役だったのか。じゃあ納得だな。


「一応2人の長男と次男、あと長女の3人がいるわよ。しかも全員陸海空に分かれて国防軍人。そんでもって夫は潜水艦乗り。どことは言わないけど」


「ほう……、なるほどな……」


 家族全員が軍人か。さしずめ軍人家族だな。

 そして、その妻がスパイか……。これを家族が知ればさぞとんでもない上下気が家庭内を襲うだろうが、まあ知ることなんてほとんどないか……。

 そして、その息子や娘さん、夫たちもこの戦争で活躍したことだろう。生きているのだろうかね、彼らと彼女は。


 ……まあ、とりあえず無事を祈らせてもらおう。自分から勝手にだが。


「まあとにかく、今は目の前のことに集中しましょう。……もうすぐ着艦よ」


「ああ、そうだな」


 その会話をしているうちに、この乗機ののオスプレイもロナルド・レーガンに近づいていった。

 すでに、東海艦隊が停泊する舟山海軍基地のバースに接岸されており、そこの甲板にゆっくりと降り立った。

 後部ランプが開き、そこから続々と乗っていた者たちが降りていく。

 まず警護の米軍兵士が降り、左右に一列に並んでいた。


 そのままさらに共産党関係者。その彼らのSPが降り、そして最後に私と彼女が降り立った。

 徐々に回転数を減らしていったローターの回転による風に耐えつつも、私は視線を右に向けた。

 そこはちょうど艦首方向を向く形となり、やはり実物を見るとニミッツ級はとんでもなくでかいことを思い知らされる。


 そして、その先には……、


「……もうスタンバイは完了だな」


 マスコミや野次馬の乗員たちが作った一本道があり、その先にはテーブルと各国要人の姿があった。

 とたんに。その一本道の両サイドにいたマスコミたちのフラッシュが瞬く。特別に許可を得ての乗艦だろうが、結構な人数だ。世界各国から、相当数のマスコミ関係者が押し寄せてきたに違いない。

 ……この艦自信も大変だな。こんな大量の人間を乗せることになるとは思わなかったろうに。


 ……とかそんなことを持ってしまうあたり、私も日本人の彼女に影響されてしまったか。よく彼女から艦を見るたびに「よくわからないけど若い女の人を見る」とかどうとかよくある艦魂とかの話を聞いたしな。まあ、どうせそんなのあるわけないだろうが。もっと別の幽霊かなんかを見間違えたのだろう。


 ……私はその視線の先を見据えていった。



「……では、さっさと終わらせて来よう」


 彼女も隣にいつの間にかいたらしく、同じく視線の先の調印式の部隊を見据えていった。


「ええ……。それじゃあ、」


 顔をこちらに向けるのを横目に、私は答えた。


「ああ……。では、行こう。自分の手で始めてしまったんだ。……最後も自分の手で、」














「締めを飾るとしよう」













 そして私は、マスコミのフラッシュが瞬く中、


 視線の先の調印式会場に向けて自然とできていた一本道を歩みだした…………

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