亡命部隊エスコート
―TST:PM15:00 台湾台南市 台南空軍基地周辺空域―
《『アマテラス』からIJYA全機、まもなく台南空軍基地のタワー管制に入る。そのまま護衛を続けろ》
アマテラスからの指示が来た。
すぐに隊長が指示を受け取る。
《了解。そっちもご苦労さん。帰ってゆっくり休みな》
《そうさせてもらう。そっちこそな》
《おう》
戦争が終わったことによってこんな軽めの会話もできるようになった。
でも、今の僕たちはそれとはもう少し無縁になりそうで。
……それは、
《……そういうわけだ、赤龍。いいか?》
《ああ、誘導は頼む》
《あいよ。任せな》
そう。この赤龍こと閃龍隊をエスコートするはめになったわけです。
今現在デルタ編隊を組んでいる閃龍隊をさらに周りを囲う形で飛んでいます。
一応中の閃龍隊は密集していて、その周りを少し圧するように近づいて囲っている。
……まあ、こんなことになったというのも、
《……しかし驚いたな。突然、》
《台湾に対して一時的に亡命を希望するとはな》
そう。まさかの向こうからの“亡命希望”がきたためだった。
台湾に対して一時的な亡命。
まあ、こんなところで氾濫行為しちゃったしその状態で帰るなんてことはできんわな。
下の艦隊規模なら赤信号もみんなで渡れば怖くないの法則で何とかなりそうだし米軍の保護も受けることもできるかもしれないが、これは航空部隊。実際はそんなことできるはずがない。
というわけで、折衷案的なあれで台湾に対して亡命するという話でまとまった。
アマテラスを通じて台湾総司令部の了承も得ることに成功し、とりあえず即行で治した台南空軍基地に送ることになった。
また、燃料がもうビンゴなので、僕たちも燃料補給もかねてそこに降り立ちます。
……しかし、なんとまあ亡命とは。
赤龍さんもよう勇気ある判断したものですな。
前々から共産党政府に対する不満はあったようだけれども、まさかそこから亡命に行き着くとは思わなかった。
しかも部隊単位。それだけ内部でも共産党が嫌われてたってことなのかね。よくはわからないけど。
突然反抗する、なんてこともなさそうだ。今までのこの時点で何ら変なことはしなかったし。
……もう少しで基地側からのコンタクトがあるはずだ。タワー管制の周波数は間違ってないし……。
……と、そのとき。
《……IJYA隊、こちら台南タワー、応答せよ》
向こうから通信が来た。
ちょうどいいタイミングだね。向こうも準備万端ということか。
隊長がすぐに返答した。
《IJYAリーダー。よく聞こえる。現在亡命部隊をエスコート中》
《了解。エスコート対象を先に着陸させろ。ランウェイ36R。はエプロンにて受け入れの準備はできている》
《了解。閃龍、聞いた通りだ》
《了解。では、私から参ろう》
すぐに編隊先頭にいた隊長さんが少し低空に降りつつ滑走路に向かった。
36Rは南に向いているほうで、片方だけみたいだね。
もう片方は……、あー、なんか穴が開きまくってる。こりゃ空襲かなんかでやられたか。
尤も、もう片方もギリギリ空襲の穴よけたって程度なんだけどね。よく当たらなかったなと。
《着陸後はすぐに誘導路に入れ。そのまま誘導が入る》
《了解》
そう返事しつつ滑走路に接近。
途中で編隊を解いて滑走路に向けて一直線に並ぶが、それを全部見届けるため僕たちはまだ着陸まで少し時間がかかる。
……ふぅ~。
「……何とか任務完了かな……」
その光景を見つつ僕はそうつぶやいた。
……長い間空にいたけど、やっと降りれる……。
散々戦闘しまくって疲れた。もうさっさと降りて寝たい気分だよ。
もう何時間飛んだんだろ。全然計算する気力がないわ。
……にしても、
「……かわったなぁ」
おもわずそうつぶやいたのを隊長は聞き逃さなかった。
《? 変わったって、何がだ?》
「いえ……、こんな、戦争終わった後でも、」
「自分の意思貫く人がでてきたんだな……って」
《……意思、か》
そう、意思。
亡命なんて考えもしなかったことをしてきた。
それは、こんな微妙な状況の中でしっかり自分の意思貫こうとしたということだ。
下手すれば自分たちまで命の危険にさらされる。それが亡命。
……でも、これをやったってことは、それほど自分たちの意思に自信を持っているってことなんだろうな。
これこそ、さっき主席が言っていたような“強い意志を持つ中国人”なんだと思う。
……学ばないとな。こういうのが今の人間に必要なんだよ。
そして、今の日本人が一番求められているものだ。
《……意思は尊重してやらないとな。せっかく決断してくれたんだし》
「はい。……不思議なもんですね。少し前まで戦ってた相手なのに」
《まったくだ。……これだから現実ってのはおもしれえわ》
そう言って軽く笑い出した。
……事実は小説より奇なりっていう言葉を思い出した。なんとなくそれっぽいか? いや、少し浅いかな。
でも、似たようなもんだと思う。事実こんなことめったに起こらないだろうし。というか実際に歴史を見てもほとんどなかったし。
……そのうち、向こうが全機着陸し終えた。
誘導路に入ってエプロンに横一列に並べられる。たぶんそこからパイロットはいったん保護されて事情聴取でもされるだろう。
……これが、向こうのとった選択か。
《IJYA、ランウェイクリア。着陸を許可する》
《了解》
と、こっちにも着陸許可が来た。
同じく36R。そのままいったん旋回して、滑走路に一直線に並んで徐々に降下していった。
……僕はふと空を見た。
徐々に明るくなってきた空。なんとなく、今後が明るいようなことを示唆しているように思えていた。
まあ、そんなことを余裕で考えれるほど、今は心の余裕が持てるってことかな。戦争も終わったし。
隊長機が着陸するのを確認しながら、僕はどんどんと滑走路に近づく。
ギアダウン。フラップもよし。
……さて、それじゃ、
「……どうせだし、できるなら降りたら、」
「向こうに一言あいさつでもしてきますか……」
そんなことを考えつつ僕は地上に降り立った…………




