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『やまと』 ~戦乙女との現代戦争奮戦記~  作者: Sky Aviation
第8章 ~日台vs中最終決戦! 敵本拠地高雄市陸海空軍総力戦!~
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〔F&E:Mission 29〕日台中総力戦『最後の反撃』 ① “味方”の援護射撃

―TST:PM14:19 同海域 日台連合艦隊旗艦丹陽FIC―







「ま、まさか手動で自ら落とす気か!? 無茶だ!」


 私は思わずそう叫んだ。


 その視線は味方艦である台湾フリゲート『康定』から臆されてきた映像だった。

 リアルタイムで送られてきているそれは、やまと右舷見張り台をズームで写していた。

 もとより向こうから「やまとに動きがある」ということで送られてきたものだが、それにはなにやら見る限り重機関銃らしきものを設置しているのが確認できた。


 彼らの持っている重機関銃はM2の12,7mmのものだ。あれの特性を考えたとき、私は彼らがやろうとしていることを瞬時に悟った。


 そして、さっきの驚きの声だ。


 彼らのやろうとしていることに、驚きを隠せれるわけがなかった。


「(……本気なのか……、彼らは?)」


 信じられなかったが、しかし今考えうる手段の中では最良と言えた。

 CIWSが使えないという報告は聞いていた。おそらく、敵USMの弾着に間に合わないのだろう。

 それを考えると残った手段がこれか。確かに、あのM2は対空射撃にも耐えうるように設計されてはいる。

 だが、それは航空機相手に対してだ。

 ミサイル相手にやるなんて考えもしない。当てれるわけがないからだ。


 しかし、彼らはやろうとしている。


 もとよりそれしか手段らしい手段がないからだろう。だが、ある意味では、いや、ある意味でなくとも“無謀”だった。

 彼らがそれを承知でないはずがない。

 しかもなんだ、映像見るからにそのM2の元に立っているのは若い乗員じゃないか。

 あんな若造にやらせるのか? 大丈夫なのかそれで?


 私はものすごい不安に陥った。


「し、司令! やまとから電文です!」


「なに?」


 すると、やまとから電文が来た。

 わざわざ通信にしないというのは、おそらく向こうとしてもわざわざ通信してる暇がないということなのだろうか。私にはわからんが、とにかく向こうなりの事情があってのことだろう。


「読み上げろ」


「はっ。……“我、最後ノ反撃ニ出ル。成功ヲ祈ラレタシ”。以上です」


「最後の反撃だと……、あれがか?」


 私はもう一度モニターを見た。

 もう準備は整えたらしい。そこにいるのは一人の例の若い乗員だけだった。

 すでに、右舷側を見据えている。


 ……彼は、やる気だ。


 かすかにしか見えないが、その顔は真剣そのものだ。

 あれは、すでに覚悟を決めている顔だ。


 ……彼らは、自分たちでなんとしても道を切り開こうと、生きるための道を切り開こうと必死になっている。


 ……が、


「……こっちからは何もできない、か」


 しかし、彼らがやろうとしているのにこっちからは何もできない。

 敵が強敵すぎる。こっちからは迎撃できない。

 そう、何か援護しようにもできないのだ。


 ……彼らは、私たちのために必死になっているというのに。やけともいえるが。


「……司令、我々は、どうすれば……」


「……」


 何もしないでいていいのか?

 我々は、このまま見ているだけでいいのか?


 しかし、そうはいってもこっちからできることなんて高が知れているのは明らかだ。

 よけまくる敵USMの対処法がまともなのが体当たりとM2射撃しかない今、ここからできる事なんてない。

 しようにもできないのだ。こっちのもてる兵装で対処なんて、できるわけがない。



 ここで、見物しているしかなかった。



「(……結局、我々は助けられてばかりか……)」


 せっかく助けに来てもらい、我が国の解放を助けてもらったと思ったら、今度はここでも自分たちの命を助けてもらわねばならないのか。

 ほんとにここから何もできないのか?

 せっかく、首相の言葉通り助けを借りるとはいえこっちの意志で動いて一人前になろうというのに、結局最期の最後は助けられてばかりか。

 いつだってそうだ。我が国は最後の最後肝心なときに周りから助けられてきた。今だってそうだ。


 今回はその助けを最低限に抑えて、できる限り自分たちでも行動しようといってるときに、結局は今回も肝心なところで助けられるのか。


 ……せめて何かできないのか。このまま見物客で終わりたくなかった。


 何でもいい。なにか援護はできないのか。何でもいい。


 彼らを、“助ける”ことはできないのか?


 私は頭を回した。


 しかし、簡単に出てくるわけがない。出てきたら苦労しない。


 ……そうしているうちに、


「ッ! 司令! やまとが!」


「ッ!」


 部下に言われて思わずモニターを見た。

 そこには、加速を始めたやまとが映っていた。

 ただの加速ではない。


 あれは、明らかに“機関一杯”だ。


「ッ!? そ、速度がどんどん上がっている!? いったい何をするつもりなんだ!?」


 部下がそういったが、彼らの意図はすでに大体は察している。


「……場所の移動だ」


「移動?」


「ああ。ここで迎撃するには周りの敵味方が邪魔だ。急いでここから開けたところに移動するに違いない。……機関、一杯でな」


「なッ!?」


「で、ですがやまとの機関は!」


「ああ……。すでに手負いだ」


 やまとが機関に大きなダメージを追っていることはすでに報告が来ている。

 タービンがいかれたらしい。そして、修理も時間がかかるとか。


 ……そんな状態で機関をめん一杯回そうものなら、即行でぶっ壊れてもおかしくなかった。

 ましてや向こうは水素燃料。従来のガスタービンで使う軽油とは違い、扱いには細心の注意が必要だった。

 最悪暴発の危険性もある。それほど、動力としては魅力的でも、扱いが難しいものなのだ。


 ……その危険性を犯してまで、彼らは本気で落としにいっている。


 それを、我々は見ているしかない。


 ……いや、


「(……こんなことではだめだ。何か、何か手助けはできないか?)」


 せめて、何か手助けをする方法はないのか?

 撃墜を手伝うだけでいい。何か方法はないのか?


 私は頭を回しまくった。

 あの敵USMの撃墜を手伝う方法。

 しかし、感嘆には出てこない。それっぽいのが出てこなかった。


 この際なんでもいいのだ。どうせ敵の攻撃はこれで最期。あとは核を撃ち落して、そして米軍の降伏勧告が来ればもう勝ったも同然なのだ。

 それまでなのだ。それまで何とか持たせればいい。


 ……敵USMを撃ち落すのを援護する。そのための最適な方法……、


「(……せめて、敵USMの迎撃のための時間を稼げれば……)」


 そう、時間だ。時間さえあればまだ確率が……、














 ……ん?
















「……時間を稼ぐ?」


 待てよ……、いや、ちょっと待て。

 敵USMの落とす時間を稼ぐ。となると、敵USMの速度を遅くして……。











 ……ああッ!!











「そうだ! これだ!」


 あった。まだあったぞ私たちができる援護が。

 これならこっちからでもすぐにできる。そして、彼らにとって最大級の援護になる。


 部下が私の声の驚いているのを横目に、私はすぐに指示を出した。


「CIC! すぐに対空ミサイルの入ったすべてのVLSを開放しろ! 今すぐだ!」


『え、ええ!?』


「司令! いったい何を!?」


 部下がそう質問攻めしてくるが、私はそれを払いのける。


「説明は後だ! とにかく、全VLSを開放! 残り対空ミサイルが入っているものを使える限り全部使う!」


「しかし! あれに対空ミサイルは効きません!」


「誰があれにぶち当てるといった!?」


「え!?」


 私は一言もあれを撃墜するとはいっていない。そう、“撃墜する”とはな。


「こっちから各種ミサイルの弾着座標を送る! それに諸元を入力しとにかく撃ちまくれ!」


『り、了解!』


「おい! 敵USMの場所はどこだ!?」


「お待ちください。モニターに出します!」


 すぐにFIC要員がモニターに敵USMの現在地を出す。

 速度、距離を考えると弾着まであと3分……。よし、いけるな。


「敵USMの針路上40m先を常にマークしろ! そこを座標として随時目標弾着位置を更新しつつミサイルをぶっ放しまくれ! そこに落とすんだ!」


「て、敵USMの前に落としてどうするんですか!?」


「説明は後にしてくれ! とにかく今はやれ! 早く!」


「ッ! は、はい!」


「全艦にデータリンクをまわせ! 各艦にも同様にやるよう指示! 艦橋FIC! さらに速度増速! 最大戦速! やまとを追え!」


『了解。増速、針路そのままで機関最大戦速』


 すぐに指示は各部署、及び各艦に送られた。

 時間がなかった。とにかく、できる限り早く行動に移さねばならない。

 準備はすぐに完了した。


『FICCIC、全VLS準備完了。目標座標は常にマークさせています』


「よし、すぐに放て!」


『了解。SM-2、ESSMともに発射開始します』


 すぐにVLSが動いた。

 残っているすべてのVLSが開放されると、そこからどんどんと大量のミサイルが発射された。……いや、実質全部だ。


「司令、これからどうするおつもりですか?」


 部下が理由を聞いてくる。私は早口で答えた。


「敵USMはあくまで自分たちのほうに向かってくる敵ミサイルをよけてくるはずだ。そう……、あくまで“自分に向かってくるもののみ”をな」


「はぁ……」


「つまり、今みたいに“最初から自分に向かっていないもの”は眼中にないんだ。よけるまでもない。……が、」


「?」


「……お前だったら、目の前に壁が迫ったらどうする?」


「え?」


 部下は少し考え、即行で答えた。


「……そりゃ、よけますかね?」


「では、もしそれが“よけれないほど周りに大量にあった”ら?」


「え?」


 部下はさらに考えると、他の部下が答えた。


「思わず、足を止めようとしますかね? ぶつかりたくないので」


「そうだ。誰もがそう考えるだろう。……どうだ、状況、似てないか?」


「え? ……あ!」


 どうやら察したらしい。他の部下も大体を察し始めた。

 私はそれにうなづきつつ、正解を言った。


「そうだ……。大量のミサイルの弾着による“水の壁”を作って、“わざと減速するという判断をさせればいい”んだよ。向こうは電磁波を発しているという報告があった。電磁波は水に弱い。異様に屈折したりするからな。そうしたら、向こうはこう判断するはずだ。“目の前に障害物が発生した。よけれないからダメージを軽減するために減速せねばならない”……とな」


「ッ! そうか!」


 そう、敵USMの特性を逆手に取った作戦だった。


 特殊な電磁波が使われているらしいことは他の味方から報告があった。それを使って、敵ミサイルの弾着判定を行い適切な回避をしていることも。そして、その判断能力は見る限りとても高いこともわかっている。

 なら、あいつらはさっき私がいったような判断をするに違いない。水に壁を大量に、かつ継続的に作り出せば、どんどんと敵USMは減速し、さすがにそれで勝手に失速して落ちるなんていうことはないだろうが、せめてやまとが迎撃のための時間を稼ぐことができる。

 それを、全部の味方艦による対空ミサイルを落としてやる。最近のは普通に座標選択もできなくはない。……尤も、これは本当はトマホークとかの巡航ミサイルの仕事だがな。


 だが、それでも一番効果的ではある。これで、最大限の援護ができる。


「じゃあ、今こうして向かっているのは?」


「ただ単に向こうが被弾したら真っ先に救助作業とかができるようにだ。できればそんなことがないよう願いたいがな」


「ええ……」


 もし向こうに何かあったら真っ先に助けてやる。必ず。


「……ただおとなしく見ているわけには行かないのだよ、私たちは」


 ここは私たちの国のため、そして、やまとのためなのだ。

 私たちが何かしないでどうする。何でもいいから、ここは援護をしてやらねばなるまい。




 手段は選ばない。とにかく、やるのみだ。




「(織田大佐……。援護はお任せください)」


 私は旧友にそう心の中で言うと、さらに報告が飛んでくる。


「ッ! 味方艦から援護射撃! 対空ミサイルです!」


「きたな……」


 味方からも放たれた。これでだいぶ濃密な壁ができる。

 絶対に悟らせるなよ……。頼むからな。


 ……と、そのときだった。


「ッ! 司令!」


「? どうした?」


 他のFIC要因が叫んだ。

 何かのトラブルか? 私はそう思ったが……、


「モニターに出します! 旗艦以外の敵艦が……、」







「我々と、同等の行動を起こしています!」







「な、なんだと?」


 すぐにモニターに情報が出た。


 すると、旗艦以外の、かつ被弾して動けないもの以外のすべての敵艦から確かに小型目標が大量に飛び出し、敵USMに向かって飛翔している。

 弾着予測では、我々と同じく敵USMの針路上少し前に落とすコースだった。

 さらに、我々の後方にいた敵艦『成都』にいたってはそのままこっちに我々と同じくやまとを追ってきている。


 ……なんだ?


「……向こうでも、同じことを考えたのか?」


 私はよくわからない疑問に頭を少し悩ませた……。















―DDG『成都』艦橋―







「か、艦長いいんですか!? 旗艦からはそんな指示は!」


 思わず副長がそう叫ぶが、俺はそれを払いのけた。


「うるさい! もう……、軍部のこま扱いされるのはごめんだ!」


 俺はついに不満をぶちまけた。

 さっきの主席の声はうそだとは思えない。状況から考えても、たぶん本当だ。


 だとしたら……、本当に、本当にいかれてるのは軍部だということだ。


 ふざけてる……、ここまでこま扱いして、しかもまだ核を撃ってくるだと? もう我慢の限界だ!


「とにかく! データリンクきったら他の敵、いや、“味方”と同じく敵USMの針路を妨害しろ! 持ってる対空ミサイル全部使え!」


「で、ですが!」


 すると、通信担当が叫んだ。


「か、艦長! 旗艦から通信が!」


「あ?」


 こんなときになんだ? 今忙しいんだよこっちは!


 俺はそんなことを不満に思いながら通信を変わる。


「はい、こちら艦長」


『貴様! 何をしているのだ! 直ちに行動を止めろ! あと、すぐにやまとの行動をとめるんだ! さっさとしろ!』


 これは……、司令の声じゃないな?

 おそらく、政治将校かなにかか。


「あ? 今それどころじゃねえんだよ! 核が落ちるかもしれねんだぞ核が!」


『憶測で行動する愚か者がいるか! 直ちに行動を止めろ! さもなくば強硬手段に出るぞ!』


 こんなときにまで憶測だと!? こいつバカか!?

 ついさっき核ミサイルがこっちに飛んできたの忘れたってのか!?

 ここで、ついに俺の不満が大爆発した。


「うるせえよ共産党の犬が! 俺たちはお前らの奴隷でも何でもねえんだよ! 俺たちは人間だ! 一人の人間なんだよ! こんなときにまで軍部を支持するお前らがどれほどおろかかわかるか!? あぁ? もう俺たちは身の安全を守るために行動させてもらう! 誰がなんと言おうとうともな!」


『なッ!? き、貴様! 国家に対する反逆だぞ! 恥を知れ!』


「反逆だと? じゃああんたらは人間の道徳に対する反逆だな! そっちこそ恥を知ってもらいたいんだがな! あぁ? 文句あっかゴラァ!」


 もはやどっかの暴走族だが、おれはもうお構いなしだった。

 もういやだった。こんな奴隷みたいな扱い、いくら俺たち軍人が道具とはいえ範疇を超えてる。


 もう、あいつらの言いなりにはなりたくない。ここは、俺たちが独自に行動する。


『もういい! 郭! 君政治将校だろう! こんな反逆者はさっさと射殺しろ! 君が指揮を執れ!』


「……」


 俺は政治将校のほうを向いた。というか、こいつ郭っていうのか。

 あいつはさっきから相変わらずうつむいたままだったら……、この無線の言葉は聞こえているはずだ。

 少し考えた後、彼は言った。“棒読みで”。


「……あー、こちら“元”政治将校の郭です。無線が不調につき、指示が聞こえません。あー、あー、無線不調、無線不調」


「ッ!」


『ッ!? 郭! 貴様!』


 こいつは何も悪くないといいたげなとぼけた顔をしながらそういいつつさらに追い討ちをかけた。


「あー、あー、無線が不調につき、ここからはこちら独自で判断して行動を行う。各艦とも、独自の行動を行われたし。……では、私は失礼する。これより、本艦の指揮は、」






「いつもどおり、“すべて”艦長である胡君に移す。では」






『なッ!? お、おい!』


 すぐに俺の目の前に割って入って無線のスイッチを消した。


 一瞬に静まり返る艦橋内。彼は、そのまま軽くうつむいたままだった。


「……お前……」


 俺は政治将校としてとんでもない判断をしたはずのそいつのほうを見た。

 彼は俺の視線に気づくと、ふっと軽く笑って一言言った。


「……これで、私も政治将校失格だな」


 そして、俺のほうを向いて口をゆがませて軽く笑った。


「……へっ」


 ……なんだよ。こいつもなかなか度胸あるじゃねえか。

 見直したぜ。お前、まだまだすてたもんじゃねえな。


「……なに、人間としては十分合格だよ。お前は」


 俺は軽く慰めるようにいった。

 普通の人間ならこんな指示復唱しかねる。そうなって当たり前だ。


 ……あとで、こいつをかばっといてやろうか。


 すると、


『艦長、準備完了しました。いつでもいけます』


 どうやら、CICでもスタンバイが完了したみたいだな。


「よし……、でははじめるか」


 すると、さらにうれしい報告が飛び込んでくる。


「ッ! 艦長、他の味方艦が動き出しています」


「ッ! おお……、あいつらも動いたか」


 そこには、周りを取り囲んでいた味方艦がいっせいに動きだした。

 さすがに被弾した艦は動けないのでそのままだが、それでも必死に動き始めている。

 そして、一部ではすでにVLSなり発射機なりから対空ミサイルを撃ち始めていた。


 ……ど根性の野郎どもは、俺たちだけではなかったか。政治将校がどうなったかは知らんが、たぶんこの郭と同じか、または殺されたかしたんだろうな。


 ……じゃ、始めるか。


「よーし……、じゃあやるぞ。CIC! 対空ミサイル撃ち方始め! ……やまとを、」








「援護しにいくぞ!」






 周りから一斉に威勢のいい返事が聞こえた……。






















―DCGやまと右舷見張り台―









“やまとさん!”


「ッ!」


「お?」


 俺たちはいきなりの叫び声に思わず軽く驚いた。

 その声の主はすぐに判明した。


 艦隊旗艦の丹陽さん。今は確か俺たちが追い越しての後方にいたはずだけど……。


“待っててください! 援護します!”


「え?」


 やまとが思わず疑問を感じていると、CICのカズから無線で報告が来た。


『丹陽から対空ミサイルが発射された! これは……、ッ! 敵USMの針路上に向かっている!』


「は? 敵針路上って、なぜに?」


 そこって普通に海面だろう。撃っても意味が……。


 しかし、それはすぐにカズが答えを示してくれた。


『いや、おそらく敵USMの特性を使ってわざと減速させるつもりだ。水の壁をつくってな』


「水の壁……」


 ……あー、なるほど。理解した。

 水の壁作って「やっべ減速減速」って状態作って俺たちが迎撃しやすい状態を作るってことか。


 ……はは、考えおる。


『バンバンミサイル撃ちまくってる。丹陽だけじゃない。他の味方艦も続いてる。とにかく針路上にばら撒き始めた』


「ほう……」


 ……この攻撃に、すべての兵装を投入するつもりか。

 これにすべてを懸けるつもりだな。


 ……ったく、


「……なんだかんだでみんな乗り気じゃないか」


 ここまで大規模な攻撃。周りも覚悟を決めたってことだろう。

 ここで決める。ここで落として、核攻撃もとめて、戦争自体もこれで終わらせる。


 ……最後の締めを、思い切って決めるつもりだ。


“大丈夫です! 私たちが援護します! やまとさんたちは敵USMのほうに集中してください!”


「……丹陽さん……」


 やまとの言葉に丹陽さんは軽く鼻で息をついていった。


“……こんな、こんな私でも、台湾を守るために全力を尽くしたいんです。やまとさんを守るということは、すなわち台湾を守ることにもつながります。……ここで、台湾最新鋭艦として、意地でもやまとさんを“助けます””


「……」


 となりでやまとがしんみりしていると、


“やまとさん! 丹陽さん! 私もいきます!”


「え?」


 いきなりそんな声が聞こえてきたと思うと、やまとが驚いたようにいった。


 ……ある、艦の名前を。


「せ、成都さん!?」


「ええ!?」


 成都。確か、さっき俺たちが戦っていた中国の……。


 と、そのときまた無線でカズが報告をしてきた。


 ……が、そのあいつは少し驚いた様子だった。


『……ッ! て、敵艦の一部が同じく対空ミサイルを発射し始めた! 敵USMに向かってるぞ!』


「はぁ!?」


 中国の艦が一斉に俺たちの味方と同じ行動をし始めた。

 俺はレーダーとかそういうのを見ていないのでわからないが……。


「た、確かに報告のとおりです。レーダーでは中国の旗艦と被弾して動けない艦以外の敵艦が全部私たちの味方と同じ行動を」


「マジで……?」


 おいおい、それって反逆行為じゃないか? しかも集団って……。

 ……向こうにも一応核攻撃が来るらしいことが周主席から聞いてるから、たぶんそれ聞いてこれ以上の核攻撃は母国出身者としてもいやになったか?

 ……どうやら、現場の人間には十分な常識はあるようだな。


“あ、あなた確か……”


“中国駆逐艦の成都です! 艦長さんの判断で、ここは核攻撃阻止のために、中国艦隊総出で皆さんの援護に入らせていただきます! 私も、やまとさんの直接の護衛に入ります”


“ッ!”


「え!?」


 なんと、さっきまで戦ってたやつが今度は味方になりやがった。

 ……昨日の敵は明日の友というが、少し早いかな?


“で、でも……、ほんとにいいの? それ国に対する反逆行為じゃ……”


“そんなこといってたら核受けて死にますよ! もとより、ここにいる皆さんは覚悟を決めてます! 周りを見れば一目瞭然です!”


“え?”


 すると、次第に周りの敵味方の艦魂たちの声も聞こえてきたが……、







“いいわよ! ここはいっちょ共同作業といこうじゃないの!”


“ハッ、面白いねぇ! こんごうってったっけ? あんたの腕、見させてもらうよ!”


“あんたそ、海口も新鋭艦なんだからまけんじゃないわよ!”


“あきづきさん! ここから敵USMの40m手前ですよね?”


“そうです長沙さん! そこにとにかく今はそこにミサイルぶち当てまくってください! できるだけ大量に!”


“りょーかい! さて、日本の艦に負けれないわよ!”


“艦隊旗艦! ほんとにやっちゃうぞ!? いいんだよな!?”


“……かまわない。今はやるべきことは何か考えろ。私の政治将校には耳を貸すな”


“あいよ! じゃ、とことんやるぞ! おら、媽祖! あんたも手伝いな!”


“わかってらい! あんたに負けれっか貴陽!”








「……うわ~お」


 敵味方関係ない大規模援護作戦。

 確かに、海のほうを見渡す限り敵味方大量の艦船から大量のミサイルがバカスカうちまくられており、灰色の空に大量のミサイルが白い線の尾を引いて飛んでいた。


 ……これこそ、ミサイルカーニバルってやつか。


“……今は、とにかくこれ以上の乱暴な核攻撃を止めましょう。私たちも、ついていきます! いや、いかせてください!”


“……あなた……”


 成都さんがついてきいてくるのをやはり少し警戒している丹陽さんに、やまとは易しく言った。


「丹陽さん、彼女は大丈夫です」


“え? で、でも……”


「攻撃する気なら今頃撃ってます。それに、周りの中国の“味方”がいっぱい同じ行動をしてるんです。信じるには値するかと」


“……”


 少し考えた丹陽さんは、時間はないと思ったのかすぐに判断を下した。


“……お願いします。ここは、敵味方いってる場合ではないですしね”


“ッ! 丹陽さん!”


 理解があって助かった。

 彼女は軽くふっと笑ってやさしく静かな声で言った。


“……奇遇にも、ここに台日中の3カ国の最新鋭艦がそろったわけですね”


「……お~」


 そういえば確かに。ここに日台中の3カ国の最新鋭の軍艦がそろってトライアングル陣形作っちゃってるじゃん。艦の後ろ見る限り丹陽さんの右舷隣にそのさっきの成都さんがいるし。


 ……ほほ~、これはすごいな。


“……お願いします。中国の最新鋭の力、見させていただきますね”


“ッ! ……はい。お任せください!”


 と、その瞬間成都さんのほうから大量のミサイルが垂直に放たれた。

 VLSか。向こうの艦はVLSそんなに持ってなかったはずだが、それでも持てる分全部使うつもりか。


 ……しかし、すごい展開になってきたもんだな。


 ひとつの艦を守るために、敵味方の垣根を越えた大規模援護射撃が来るとはな。

 戦争は何が起こるかわからないとはよく言ったもんだ。まあ、それいった人はまさかここまでくるとは思わなかっただろうけどな。


「……すげぇぜやまと。お前を守るために敵味方みんながひとつになってる。……こりゃ滅多に見れない光景だ」


 俺は思わずそういうと、向こうもしんみりした様子で答えた。


「ええ……。ほんとです。あの時、ほとんど一人で戦ってたのと気とはぜんぜん違います」


「ああ……。というか、」


「はい?」


「いや……、よく考えてみれば、あの時と状況が似てるなって」


「え?」


 沖縄特攻のとき。

 あのときの天気は曇りで、あれが、やまとにとっても、そして日本にとっても作戦らしい作戦では最後のものだった。

 今回も、天気は曇り。これも、戦争を終わらせる最後の戦闘。


 ……なんか、大雑把だけど似てる。


 やまともそう思ったのか、少し懐かしそうな目でいった。


「ええ……。でも、」


「?」


「……あの時とは、似ていて全然違います」


「ほう?」


「……あの時は、ほとんど孤独で戦ってたようなものでした。存在自体が隠されてましたし、それはしょうがないことではあります。あ、もちろんあの時私を護衛してくれた方を悪く言うつもりはありませんが」


「ふむ……」


 だがまあ、あのときの状況で考えたら護衛艦も大和の護衛どころではなかったしな。

 敵の攻撃が熾烈すぎて、自分たちを守るのに精一杯だった。とても大和を護衛してる暇なんてない。


 その点を考えれば、確かに孤独だったかもしれない。


「……でも、今は大量の味方がいます。敵味方問わず、私の後ろにも、私を守ろうとして必死に戦ってくれている台湾と中国、敵味方両国の艦が、ともに戦って、そして手を取り合って私を守ろうとしている。……今までの常識では、考えられないことです」


「……ああ、そうだな」


 こいつ本人、今までの、というか、第二次大戦時の戦いがまさにそれと浜逆で敵味方でとにかく殺しあって殺しあって殺しあったものだったのを経験した関係で、今みたいな窮地というところで敵味方手を取り合う場面を見るのが、何か心にくるのだろう。


 ……感慨深いというか、何かかを感じたんだろうな。


 確かに、あのときの似てるようで全然似てない。


 中々、面白い話だ。


「……今は、自信が持てます。周りに、支えてくれる味方がいる。そして、周りが必死にかんばってくれるからこそ、私も、精一杯がんばれる。……なんか、感慨深いですね」


「……ほんとな」


 俺は当時の人間じゃないからわからない。だが、本人がここまでしんみりした顔で言うってことは、これは相当うれしいことなのだろう。

 やまとが抱いている感情を共有できるものはいない。その感情を共有できるのはやまと本人だけだ。だが、これだけはいえる。




 今のこの状況は、やまとにとってはとても心強いものなのだということだ。




「……私も、期待にこたえないといけませんね。周りが、ここまでがんばってるのに」


「俺もな。……実際落とすのは俺なんだし」


「ええ。お願いしますよ」


「ああ、任せろ。絶対落とす」


 ここまできて落とせなかったら笑いもんだ。絶対落とす。何が何でも落とす。


 落とせなかったら確実に自分たちが死ぬことになるんだ。核に焼かれて死ぬなんて真っ平ごめんだ。


 ……俺は必ず生き残ってやる。何が何でも。


「……カズ、あと何分だ?」


 俺は残りの制限時間を聞いた。

 少しばかり時間はたった。そろそろ近くなってきているはずだ。


 返答はすぐに来た。


『今2分切った。もうすぐだ』


「あいよ」


 そう一言言って、また深呼吸して前を見据えようとしたときだった。


『ッ! 待ってくれ……、ッ! これは!』


「なんだ? どうしたカズ?」


 カズがまた驚いた声を発したのが耳に入った。


 俺がすかさず真意を聞くと、一瞬の間をおいてカズはいった。


『空軍連中が動き出した。さらに、何隻かの潜水艦が急速浮上。もうあがるぞ』


「え?」


 空軍が動いただと? しかも、潜水艦が?

 待ってくれ。いくらなんでもここで浮上したらそれこそいまだにいるかもしれない敵潜からのいい的じゃないか? 大丈夫なのか?

 それに、空軍が動いたって、何か解決策でも見つけたのか? でも誘導平気が効かないここでいったい何を……。


『味方潜水艦、3隻の浮上開始を確認! うち1隻はもうあがるぞ! 右舷2時方向だ!』


「2時方向?」


 俺は思わずその方向を見た。

 そして、その視線の先で大きな水しぶきとともに、その大きな船体を海面上に乗り出すのはほぼタイミングが一緒だった。

 急速浮上してきたらしい。丸い艦首に黒い船体が上に突き出たと思ったらでっかい水しぶきとともに海面にたたきつけられる。


 あれは見るからに日本のそうりゅう型だ。でも、そのそうりゅう型のどれかまででは……。


「やまと、あれ何かわかるか?」


「えっと……あ、あれは」







「1番艦の、“そうりゅう”ですね」







「え!? マジで!?」


「? え、ええ……」


「ッ……!」


 俺はそのそうりゅうのほうを見た。

 そこそこ距離は遠いが、しかし船体はしっかり見える。かすかにだが、艦橋のほうに誰かが上ってるのも見えた。

 そうりゅう……、確か、俺の父さんが艦長をしてる……。


 ……まさか、事態を察して同じ行動を起こした? でも、なにやらかすつもりだ、父さんは? 


 ……よくはわからないけど……。


「……何やら大それたことになってきたぜ……」


 ここにいる敵味方のほとんどが、手を取り合ってひとつの目的のために動き出した。

 これほど、胸が熱くなることはない。本音言えば涙が出そうだ。割と本気だ。


 ……敵味方が手を取り合ってひとつの艦を守る。期待されてるんだ。俺たちが危機を乗り越えるのを。


 ……はぁ、


「……失敗はゆるされねえな。お互いに」


「ええ……。お互いに、ね」


「ああ」


 ここまできて失敗はできない。


 ここまできたら、なんとしてでも落とさないといけない。


 そう思ったら、自然と重機関銃の取っ手を持つ両手の力が強くなった。


 すると、丹陽さんが追加でエールを送るかのようにいってきた。


“……信じてますからね、二人とも。私たちは、あなた方を信じます。大丈夫です。いまのお二人なら落とせます! がんばってください!”


“あ、わ、私も信じてま……、て、え? 二人?”


“……あ”


「あ」


「あ」


 ……あ。


 ……えっと、


“……ごめん、あとで説明しときますからいまは”


“あ、は、はい! と、とにかくがんばってください! 信じてますから!”


「……ありがとうございます」


 一言やまとはそう返すと、丹陽さんはまた軽く鼻で一息ついていった。


“……いつまでも助けられっぱなしではいられませんからね。今回は、私たちが助けます。……というわけで、中国旗艦さん”


“……なに?”


 と、ここで中国の旗艦を呼ぶんか。

 えっと、確か向こうは最新鋭空母の『施琅』さんだっけか。


“少し、そちらの部下の方をお借りすることになりますが、よろしいですか?”


“……かまわない。指揮権はすでに自動的にそちらに移っている。好きに使っていい”


“すいません。では、ちょっと借りますね”


 と、なんだ。単に指揮権の移譲してもらうだけか。

 というか、向こうの旗艦さんやけに物静かだな。クールっていうかなんていうか。


 ……たぶんあの調子だと姿もどこぞの言葉集めが大好きな大戦艦みたいな感じなんだろうな。うん。


“よーっし……、じゃあ、時間ないし、急ぎますか”


 そういうと、今度はいっそう力強く、宣言するようにいった。


“では……、台日中艦隊全艦! これよりやまとさんを援護します! 乗員の指示にしたがって、いまの自分の持てるすべてを使って……、”













“やまとさんを最大限援護してください!”















 そのとき、敵味方両軍、いや、


 “日台中すべての味方”から威勢のいい了承の返事が響いてきた…………

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