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『やまと』 ~戦乙女との現代戦争奮戦記~  作者: Sky Aviation
第8章 ~日台vs中最終決戦! 敵本拠地高雄市陸海空軍総力戦!~
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最後の手段

―TST:PM14:15 同海域 日台連合艦隊DCGやまと艦橋―







「……もう何もできないのかよ……」


 俺たちは絶望のふちに立たされた。いや、断崖絶壁のまさに今絶賛孤立とでもいわんばかりの状態だった。


 向かってくる敵の新型超鈍足USM。

 今から弾道ミサイルを迎撃するってのに、その対処法がない。

 味方艦もダメ。空軍連中も使えそうにない。


 ……まさに、“絶体絶命”という言葉がしっくりくる、いや、後の結果を考えるとそれすら生ぬるいような状況だった。


 弾着時間まで残り8分。


 この間に俺たちができることなんて……。


 なんだ、遺言でも残せってか? 懺悔でもしてろってか?


 ……冗談にならないな。わりかし本気で。


「……どうするんだ……、もう俺たちにできることはないのか?」


 副長が力なく、しかし悔しそうに顔をしかめつついった。

 誰も答えることができない。

 そりゃそうだ。俺達が考えうるやり方での迎撃はもうかなわないんだ。それをすべてよけてくる。ただし、今にも落ちそうなほど鈍足だけど。


 ……何もないんだ。だから、答えることができない。


 少しだけ経った沈黙を破ったのは航海長だった。

 こちらも力なく静かな声で言った。


「なんども言わせないでください……。もう、何もないんですよ。空軍も動きませんし、たぶん何もできることがないとわかってるんでしょう。空からでも何もできないんです。海からできることなんてたかがしれてます……」


「だが、それだと核ミサイルを……」


「……」


 航海長の口が沈黙してしまった。

 何もいえなかった。何もできないけど、しかしそれは……。


 ……何度も俺たちの頭をよぎる。何もできないが、それだと最悪の結末が待っていることを。


 何度も、何度も、俺たちの頭をよぎった。


 俺は頭を悩ませた。


「(……何かないか? 何でもいい、落とせればなんでも……)」


 無駄なことだとわかっていた。だが、何か考えられずにはいられなかった。

 このままで終わるのは御免被りたかった。こんなところで、最期の最後で何もできずに終わるなんてそんなの勘弁だ。

 ただ見ていいたままで終わるなんてしたくなかった。なにか、なにか方法がないか。


 この際手段なんて何でもいい。俺達が、やまとが被弾するのを防ぐ方法。


 だが、そう簡単に出てくるほど現実は甘くない。


「(……何かないのか……?)」


 俺は頭を悩ませた。


 そして、俺みたいに間が手いるのは俺だけではなかった。




“ねえ、何かあれ落とす方法ないの!? 手段この際問わないから!”


“無茶ですよ! こっちの持ってる迎撃手段全部よけられたらもう何も太刀打ちできませんって! さっきのやまとさんみたいに捨て身の体当たりでもするしか!”


“いやいやあれこそ無理でしょ! あれ装甲もってるやまとしかできないわよ!? 私たちがやったら確実に死ぬって!”


“ねえ海口! あんたのとこの兵器でしょ!? なんか弱点ないの弱点!”


“いや知る知らない以前にないわよ! あれ本体から妨害電磁波発信して誘導兵器ないし誘導のための指向レーダーないしレーザー全部無効化しちゃうから! ただし効果範囲はすこぶる狭いから同時に自分から回避機動もしちゃうってわけ!”


“ええ!? じゃあ実質弱点なし!?”


“いやなんでそんな厄介なもん作っちゃったのよあんたら!”


“いやいやそれこそ私たちじゃなくて人間にいって!? 私たちだって困るから!”


“自分たちの作った兵器で被害を受けるってこれなんて皮肉なのよ……”





 大議論勃発。敵味方入り乱れての大論争が勃発していた。こればっかりは自分たちにも危害が加わるおいうことで、敵側の艦魂も論争に参加しているが、何気に重要なワードがあったな。“本体からの妨害電磁波”。

 なるほど、よけるとともにこれを発信して誘導能力を無効化していたのか。効果範囲は狭いらしいかが、自分でよけるのはその補完か。

 となると、やっぱり空軍連中に後ろからミサイル撃ってもらってとかっての実質無理だな……。機銃を使うにしても、そのカーソルを合わせるFCSにまで影響が出てしまったら意味がない。

 しかし、そうなるとやっぱり実質弱点がない……。対抗手段がないじゃないか。


 ……なお、このときやまとはこの論争には参加していません。


“んー……”


 やまとは自分なりにこのように必死に対抗策を考えているけど、しかし他の類にもれず全然いいアイディアがでてこないみたいだった。


 誰もが、必死に考えていた。なにか、あれを落とす手段はないかと。


 しかし、本当は誰もがわかっていたのかもしれない。

 実質弱点がないも同然のあれを落とすのは、もう無理なのだと。


 だが、それを認めるということは、それはすなわち自分たちにも危害が加わるのを容認することにつながる。

 それだけはいやだった。だから、考えている。……が、でない。


「(……そうはいってももうないじゃん……)」


 この時点で残り弾着7分前。

 いまだに答えが出ない。


 ……副長が半ば嘆くように言った。


「クソッ……。こんなことならせめて1発だけでも他艦が残るようにしておくべきだった……。それならまだ2隻でSM-3のどっちかは発射できるというのに……」


「でももう片方がこっちにある時点でどっちもどっちですよ……」


「クソッ……。どうすればいいんだ……ッ!!」


 航海長のその言葉に副長はそのまま頭を抱えてしまった。


 もう、これ以上考えても無駄なんだろうか。


 結局、俺たちはそのUSMを受けて、SM-3が放てなくなって核攻撃をみすみす見逃して終わりなのだろうか。


 もう、今の俺たちには……、









 何も、なす術がないのだろうか。









「……なんでもいいから……、なにか……ッ!」


 必死にそうつぶやいたって俺の頭がそう簡単に答えを出してくれるはずもなかった。

 今こっちの持っている誘導兵器や電子機器を使う照準兵器全部使えないんだ。


 となると、こっちの持ってるほかの武器なんて何もない……。




 そう。誘導兵器ばっかで固められた今の軍艦に、まさか完全手動照準の対空火器なんて……、



















 ……ん?



















「……手動の対空火器?」


 俺はその言葉にふと意識が向いた。


 手動の対空火器……。手動の、対空火器。


 手動で、空に向けて撃てるやつ……。


 CIWSは無理だ。あれは手動のときは水上に向けて撃つのが前提で、空に向けて手動で撃ったって当たるはずないし、そもそもどれも修理中かつ弾薬枯渇でもう実質使えないも同然だ。


 ……ほかには? 空に向けて手動で……。















 ……、ああッ!!

















「……ちょっとまてよ……、これならもしかして」


 俺は思わず右側の右舷見張り台につながる扉を見る。


 ……あそこには確か常時あれが……、


 ……さらに、


“……あ”


「? どうした?」


 やまとがふとそうつぶやいた。


“……まずいです。敵USMが高度を少し上げました”


「は? 高度が?」


 その報告は、CICからももたらされた。


『ッ! 敵USMの機動に変化。若干高度を上げつつ、目標をさらに細かく指向。艦橋に向かっています』


「なに? 艦橋だと?」


『はい。間違いありません。ESM指向が、艦橋にピンポイントに向かっています』


「な……ッ!?」


 どうやら、目標がさらに細かい指向に入ったようだった。

 ……なるほど。鈍足だからそこらへんの弾着位置も細かく設定できるってか。便利な機能が追加されたもんだ。尤も、俺たちにとってはこれほど厄介な機能はないがな。

 しかも、狙ったのが艦橋ときた。おそらく、こっちが艦橋周りに設置しているFCSレーダーをぶち壊して、完全にSM-3の発射能力を奪う気だな?

 これなら万が一VLSが無事でも、レーダー照射ができないから目標にぶち当てることは難しい。SM-3を放って他の艦に誘導委託というやり方もあるが、それは今米軍が試験中でまだ実用化されていないものだ。

 あくまで発射母艦の目標指定ができないと放っても即落ちだし、衛星の誘導支援があるとはいえあれは誘導情報があくまで発射母艦を経由してそれをSPYレーダーなりFCSレーダーなりで中継して送るってだけで、これも発射母艦の誘導情報を送る機器が生きてないと意味がない。


 ……つまり、こっちのFCSレーダーが生きてないとSM-3のまともな誘導ができなくなるわけで、そうなったらいくらやまとといえど確実にSM-3が外れることになるんだけど……。


「……いや、これはむしろチャンスかもしれない」


「……は?」


 俺がそうつぶやいたのを聞いていた副長が呆気にとられた顔をしつつそう言い返した。


 そうだ……。これ、うまくやればチャンスに早変わりかもしれない。


 無謀どころではないけど……、いやでも。


「ま、待ってくれ。これのどこがチャンスなんだ? どっからどう考えても事態が悪化してるじゃねえか」


 航海長がそんな普通に考えれば当たり前のことを言ったが……。


「いえ……、これは、むしろチャンスに早変わりするかもしれません」


「はぁ?」


「……どういうことだね?」


 副長が怪訝な顔をしつつそう聞いた。

 時間がないので、俺は早口で簡単に言った。


「……今、敵USMは艦橋に向かっています。そして、それを迎撃するのは実質不可能です。さっき中国艦魂が言ってましたが、あれは本体から妨害電磁波発しているため、事実上誘導兵器は全部使えません」


「ぼ、妨害電磁波って……」


 航海長が追い討ちをかけられたかのごとくうなだれるが、それにはかまわず続けた。


「しかし……、あくまで使えなくなったのは“誘導が必要とする、ないし電子的照準が必要な兵器”だけです。つまり……、」


「……、まさか?」


「ええ……。誘導でダメなら、」






「手動で自分から落としちゃえばいい話なんです」






「……はぁ、あのな」


「?」


 すると、副長があきれたように言った。


「その発想はとっくにあるんだよ。だけどな、ここで使える手動操作兵器はCIWSの手動操作のみ。だけどそれは修理中だわ弾薬はないわ、そもそも当たるはずがないわで実質使えないだろ? まさかそれを使うってんじゃないだろうな?」


「ええ。それは承知してます。俺はそっちを使う気はありません」


「じゃあなに使うってんだ? 他に使えそうなのないだろ?」


「いえ」


「?」


 ところがどっこい。まだあったんですよこれが。


「ひとつだけ……、ひとつだけ使えるのがあります」


「なに?」


 俺のその一言に、思わず周りから視線が集まった。

 いや、ここだけじゃない。

 なんでかしらんが通信担当が艦橋からCICにもつないでいたらしく、向こうが息呑んで聞いているのが無線越しにわかった。人間こういうとき瞬時に察せれたりできるものなのです。

 また、さっきまで議論のしっぱなしだった艦魂たちもこっちに耳を傾けていた。というか、聞こえるのかあんたらそんな遠距離で。


 ……まあいいや。さっさと話そう。


「……右舷見張り台。あそこに、本来なら海賊や不審船対処用に備え付けられていた、あれがありますよね?」


「あれ……?」


 と、一瞬考えた副長の横で、


「……あッ!」


 思わず思い出した様に叫び声をだした航海長に思わず周りがビクッとなった。

 どうやら察したようですね……。おそらく、それが正解だな。


「……ま、待ってくれ。お前まさか……」


「……その、まさかってやつですよ」


「ッ……!」


 航海長がそのまま唖然とした表情で固まっているのを横目に、俺は答えを示すように少し力強く言った。


「……自動でダメなら、手動で落とせばいい。そして、この艦、やまとに乗せられている、CIWS以外で手動で操作できる武器……、そう」


 そして、そのまま右舷見張り台につながる隔壁のほうを見た。


「……艦橋横、右舷見張り台にある、」



















「“ブローニング M2 12,7mm重機関銃”を使って、“自分の手で”落とせばいいんです」



















「なッ!? な、なんだと!?」


 副長がそういうと、周りが大きくざわついた。


 そう。まだやまとに搭載されている装備として、不審船対処や海賊船対処用に、艦橋横の両舷見張りに計2丁の『ブローニング社製 M2 12,7mm重機関銃』が装備されていた。

 アメリカがWW1時に開発したものすごく古い重機関銃だけど、その信頼性と性能のよさから傑作機関銃として今なお改良に改良を重ねて世界中で使い続けられていて、今このやまとにも採用されている。

 特徴としてまずその照準性能のよさが挙げられ、M2だとなんと800m先の目標にも正確に命中した記録があるほど。その高精度かつ高威力な特徴を使ってベトナム戦争やフォークランド紛争では狙撃中として使われることもあったほどだった。

 歩兵が持つもよし、ヘリに備え付けてドアガンとして使うもよし、いろんなところで様々な要求に対応できるその汎用性も、この80年以上たってもなお使われ続けている一つの要因とも言えるだろう。

 日本でも陸海空ともに様々な用途や目的で採用しているほか、海保でも『13ミリ機銃』とう名前で巡視船に載せたりしているし、最近では陸軍にいたっては戦車などの車両に対空火器として搭載して、飛んでいるヘリなどの航空機に対する護身用にも使われている。


「M2の射撃精度は抜群です。しかも、威力自体もそこそこある。……できなくはないはずです」


 そう。つまりやろうと思えば“対空火器としてぶっ放すことも十分可能”なわけで、やろうと思えばミサイルを落とすこともできなくはない。


 ……けど、


「な、なにバカなこと言ってるんだ!? M2はあくまで水上目標に撃つことを想定しているってのに、それを対空火器で使うとかお前本気か!?」


「でもできなくはないですよね。もとよりM2は対空火器として使うことも想定されています。やろうと思えば一応はできなくはないはずです」


「だ、だがあれは航空機に対してだろ! ミサイルを撃ち落すなんて俺の聞く限りじゃ前代未聞だ! 前例がない!」


「ないなら作ればいいじゃないですか」


「い、いやそうはいっても……」


「だが、少し待ってくれ」


「はい?」


 するととめたのは副長だった。

 少し怪訝な顔をしつつ俺に質問をぶつける。


「お前の言いたいことはわかる。確かに、あの重機関銃を使うというのは正直盲点だった。対空火器として使うことも想定されている分、可能性としてはゼロではないかもしれん」


「ふ、副長!?」


「だが、」


 航海長が一言かけたのをすぐにさえぎった。

 一間を置いて、副長は顔をしかめたまま俺にその視線を向けた。


「……そうはいっても、高速でくるミサイルを迎撃するなんてのには想定されていない。さらに、あれの高精度な射撃が期待できるのはこの場合大体800mくらいだが、それはあくまで陸や、水上に対して撃った場合。この場合はさらに有効射程が短くなると考えねばならない。向こうの速度はM0,1強。その速度のままでいると仮定した場合、M2の有効射程に入ってから弾着まで、つまり迎撃に使える時間はたったの……、」











「……そう、どれほど多く見積もってもたったの“20秒”しかない」












「に、20秒……ッ!?」


「そ、それだけしかないのですか!?」


 航海長がそう聞いたのを、副長は肯定した。


「ああ……。しかし、これはあくまで今さっき言った800mの有効射程がそのまま対空射撃にも適用されることを考えた場合だ。当然空に撃ってこれが適用されるわけもない。幸い、敵USMは艦橋にそのまま突っ込んできている。迎撃自体は、ある意味自分のほうに向かっているようなもんだから難易度自体は若干下がるが……」


「ですが……」


「ああ……。確率はものすごく低くなるといっていい。当然、現実的に考えて最初言った20秒の制限時間より短くなるはずだ。……その状況で、」








「撃ち落せるというのか?」








「……」


 副長が右手の親指を軽く立てつつ言った。

 俺は少し黙った。

 確かに言ったことは正しい。有効射程距離、敵USMの速度を考えると、多く見積もっても20秒しか使える時間はない。

 たったの、20秒。しかも、これはあくまで多めに見積もった時間で、現実にはもっと短くなる可能性もある。


 それは、否定できないことだった。


 副長は続けた。


「……さらに、もうひとつ問題点がある」


「?」


 副長がさらにその右手の人差し指を伸ばしていった。


「周りを見てみろ。……見てのとおり、さっきまで大混戦があったんだ。周りは敵味方の艦がいっぱい。被弾の影響なり、その前の津波なりで身動きが思うように取れない艦が大量にいる」


「ッ……!」


 艦橋の外を見てみた。

 そこには、敵味方の艦船が大量に混在しており、いたるところに軍艦が立ち並んでいた。


 さっきまでの大混戦で、さらに複雑な状態になったようだった。


「……敵USMといえど、ある程度はよけれるということは、目の前にいる艦船だってある程度はよけてくるはずだ。手動となると自動のときみたいに即応性は著しく落ちる。そうやってよけられては照準が狂い、狙いを定めることができなくなるはずだ」


「……確かに……」


 一人の乗員がそうつぶやいた。

 それは、まさにそのとおりだった。

 敵ミサイルとて自分で前方の状況は把握できているはずだ。なら、目の前に邪魔な艦船がいたらある程度は回避してくるに違いない。

 さっきのはあくまで弾着直前に間に割って入ったからよける時間がなかっただけの話だ。結局はこっちも急いでいったらかなんだが、あれがもし余裕があって、しかも丹陽さんとやまとの間が開いてたら簡単によけてくるかもしれない。


 つまり、射線に敵味方の艦船がいたらかえって“迎撃の邪魔”になってしまうのだ。


「……本当に迎撃がしたいなら、まずどこかでとまって迎撃しやすい態勢をとることが必要だが、しかしここでとまると周りの敵味方の艦船が邪魔だ。まず、この敵味方の艦船をどうにかしないといけない。……が、今現在そんな余裕がある艦船なんてほとんどない。近くにいるだけでもだめだ。一瞬でも余計な機動を取られたら迎撃の確率が大きく下がる。……迎撃のためなら、まずここを急いでかつ大きく移動しないといけない」


「で、でも今から急ぐったって……」


「そうだ。……今のやまとは、機関が損傷しており、修理が間に合わない状態だ。そんな状態でまわせるはずがない。……つまり、」










「迎撃するにしても、“場所が悪すぎる”」









「……確かに……」


 ぐうの音も出ない正論だった。

 そう。今ここにいる敵味方の艦船が、見事にやまとと敵USMの射線の間ないし付近に位置しまくっていた。

 そこから動くにしても、まず外側から順にずれなければならず、無理やり間を通ろうとかそういうのをしたら余計な二次災害につながる。はっきり言って無理な話だ。

 しかし、そうなると敵USMとて考える。絶対にこれを避けて通るはずで、しかしそうなるとこっちが迎撃するにしても直前で照準が狂ってしまう。


 敵USMには安定した機動できてもらわねばならないのに、これだと余計な機動を強要さえることになり、結果的には迎撃が難しくなってしまう。


 ……場所が、思いっきり悪すぎるんだ。


 その二点を踏まえ、副長はさらに言った。


「……主な問題点はこの2つある。しかし、やはり状況を見てもこれしかない以上やるしかないのはわかるが……、この2つを、」






「どう、解決するつもりだ?」






「……」


 この2つ。


 精度や敵USM速度の関係上迎撃のための時間が短い。


 場所が悪いが高速で移動することができない。


 ……たった2つだが、それでも大きな問題点だった。


 どれも重要だった。時間が短ければ迎撃する確率はさらに短くなる。そして、迎撃位置が悪くてもダメ。


 ……無視することはできなかった。


 どれも、迎撃する上ではとても重要だった。


 もちろん、俺はその可能性を軽視したわけじゃなかった。

 その可能性は、すぐに思いついた。


 大きな問題点だった。そして、それは大きなリスクでもある。


 この問題点を解決するのは、簡単ではない。


 というか、1つ目に関してはもはや解決しようがなかった。


 速度が遅くなるわけはないし、M2の有効射程が長くなるわけでもない。

 1つ目に関してはあきらめるしかなかった。


 そうなると、こっちの迎撃の難易度は大きく跳ね上がる。


 いや、普通に考えて迎撃なんて無理だと考えるのが当たり前だった。


 俺だって、常識で考えたら無理だろうとは判断できる。


 ……が、


「……それはわかってます。……ですが、」


「?」


 それでも……、これしかない以上、覚悟を決めるしかなかった。


「……もう、今残されてるのはこれしかないんです。今、迎撃できるまともな手段といったらこれくらいしかありません。もう……、俺たちに、残された選択肢はこれしかないんです。違いますか?」


「……それは……」


「もう、やれるやれないの話ではないんです。やらないと、“俺たちと親友が死ぬ”んです」


「……」


 そう。それと同時に、そのリスクを背負ってでもやらなければ、今度はこっちが大損害を被るのも事実だった。

 ここで落とさないと、確実に核攻撃が行われ、大損害、いや、大損害なんて言葉では表せないほどの悲惨な事態になる。

 それを、だまって見過ごすわけにはいかなかった。


 なんとしても、核攻撃を阻止しないといけない。


 手段を、選んでる暇はなかった。


「……このまま何もしないでいるわけにはいかないんです。やるしか、俺たちには残されていないんです! わかっていますよね!?」


「……」


「……だが、ひとついいか?」


「?」


 すると、航海長が少し顔をしかめて言った。


「なんでしょう?」


「……確かに、やる必要性はわかった。だが……、こんな、下手すれば真っ先に死ぬ役目……」






「いったい、誰がやるんだ?」






「……」


 俺は少し沈黙する。

 そう。誰がやるかもひとつの重要課題だ。

 本来なら誰か経験者がやるべきなんだけど、あいにく今まで不審船対処はしたことないし、それゆえM2は誰も撃ったことがない。海賊対処も同様だ。

 本当は後々訓練でこれの訓練もしかったのだが、あいにくその前に戦争が始まってしまった。

 訓練学校にいた時代に誰もが一度は使ったことはあるだろうが、それっきりだ。


 M2の操作は、素人思ってもらっていい。


 ……だから、


「……なら、」


 ……どうせ、誰がやっても同じなら、








「……俺が、いきます」








 覚悟は決めている。ここは、言いだしっぺが出る場面だろう。


「ッ!? お前、本気か!?」


「ええ。本気だから言ってるんです」


「だ、だがお前M2の扱いなんて……」


「ええ。訓練学校で少し習って以来です」


「ッ! そ、そんな、ブランクが長すぎるんじゃ……」


「ですが、どうせ誰が扱っても同じなんです。……ここは、言いだしっぺがいかせていただきます」


「ッ……!」


 航海長はそれ以上は言ってこなかった。いくら言っても無駄だとあきらめたんだろうか。


 だが、俺としてももう覚悟はできている。何より、俺は核攻撃を止めたかった。


 中国軍部の暴走を止めたかった。どうせ向こうの攻撃はこれで最期だ。どうあがいてもこれ以上は撃つことはできない。


 今、そう、今さえしのげればいいんだ。


 そのとき、最悪俺が死んでも、それで何万人何十万人何百万人の人間の命が救われるのなら、これほどでかいおつりはない。


 ……危険な犠牲なら、俺がなってやる。


 もちろん、はなっから死ぬつもりはない。


「20秒あれば十分です。……必ず落とします」


「……」


「だが待ってくれ。仮に君がやるにしても……、」





「やはり、この場所じゃ無理があるぞ? 移動はできない」





「……それは……、」


 そうだ。まだこれが残っている。

 場所が悪すぎる。どういうことかはさっき言ったとおりだった。

 ……ミサイルが余計な機動を起こすには絶好の条件。しかし、それでは困る。


 ……確かに、これもどうにかしないといけないが……。


「……急いで移動するんてできない。今から、迎撃ができそうな広い場所に移動するっつっても、今から急いでいったら……」


「計算してみましたか?」


「ああ……。単純計算だがな」


 そういって航海長はさっきまでなにやら書いていたメモを取り出していった。


「えっと……、今のままで行くと弾着まであと5分。そして、今から急いでここを離脱して広い場所にでるっつっても、ギリギリ弾着まで1分40秒弱の時点だ。そして、こうしている間にも時間がたっているから、最終的には大体40秒くらい残ってると思ってもらっていい」


「つまり、大体3分くらいはかかると?」


「ああ……。しかも、それに間に合わせるには機関最大じゃ間に合わない」


「え?」


 ……ちょっと待って。機関最大で間に合わないってことはつまり……、


「……てことは?」


「ああ……。この、ギリギリ間に合わせるためには……、」

















「機関を、“一杯”にしないといけない。それも、“手動に切り換えてとにかくぶん回しまくって”、だ」


















「ッ!? き、機関一杯!?」


 待ってくれ。そんなの無理だ。

 そうでなくてもこいつは機関がやられてるんだ。だから今こうやって速度を大きく落としているってのに、これ以上あげたら絶対ぶっ壊れる。

 ましてや機関一杯でしかも手動制御って……。

 今の軍艦の機関はすべて何もないときはコンピューター制御だ。それもすべて機関の負担を考えてのことで、機関を最大にするときもあくまで“コンピューターが問題ないとする範疇で”出しうる速度を出しまくるだけだ。

 それを、そのコンピューター制御の“自動”から“手動”に切り換えるということは、すなわち機関の負担を度外視にしてとにかくまわしまくること。つまり、機関一杯をするということだ。


 だが、今機関が手負いの状況でそれをやるというのはとてつもなく危険なことだ。もし万が一機関がそのコンピューター制御から解放されてとにかくまわしまくって何か不具合を起こしたら余計まずいことになるほか、そもそも水素燃料の機関でそれをやったら最悪暴発の可能性もある。

 だから、このやまとの機関の取り扱いにも“機関損傷時の無理な速度増加は厳禁”だって書いてある。

 ましてや機関一杯なんて論外だ。


 しかし、それをしないと迎撃する確率が大きく損なわれる。

 かといって機関もぶん回すわけにはいかない……。


 ……まずい、


「(……これ、詰んだか……?)」


 俺はこればっかりはさすがにどうしようもないと思った。

 機関がやられた以上、無理にまわすわけにはいかない。


 ……さすがに、


「(……こればっかりは、もう……)」


 仕方ない。最悪、ミサイル機動が余計にずれることを承知で迎撃をするしか……。




 ……と、半ばあきらめかけたときだった。



“……大樹さん”


「?」


 ふと、さっきからずっと黙っていたやまとが唐突に声をかけた。

 その声は少し低かった。まるで、なにかを決意したかのごとくだった。


「なんだ?」


“……私、覚悟を決めました”


「は?」


 ……あの、こんなときにいきなり覚悟を決めたといわれていったい何の覚悟を……。迎撃のか?


 ……しかし、次の瞬間、


“……まわしてください”


「……は?」


 俺は、自らの耳を疑った。


“ですから……”












“……まわしてください。機関一杯で、思う存分に!”















「なッ!? お、お前正気か!?」


 俺は思わずそう聞き返した。

 思わず自分の耳を疑った。


 ……何を言ってんだこいつは? お前は機関がやられてんだぞ!? こんなときに機関をぶん回したらお前!


“ま、まってやまと! 今ここで機関をまわしたら……ッ!”


“待ってくださいやまとさん! それだと最悪機関が暴発して死にますよ!? ましてや水素燃料なのに!”


“無茶だ! できっこない!”


 すかさず艦魂勢からも反対意見が出る。

 俺もそれに同意だった。


「ま、待ってくれ! 今機関一杯にしたらお前……ッ!」


“いいんです! まわしてください! 今すぐ!”


「無理だ! こればっかりはお前の機関にかかる負担が大きすぎる! お前にもダメージがいく! それでもいいってのか!?」


“いいんです!”


「な……ッ!?」


 何度言っても同じだった。

 こいつの意志は固かった。

 ……だが、本気なのか?


 こんな状態で機関一杯にするリスクを承知でないはずがない。


 だが……、こいつは本気だった。


 声を聞いただけでわかる。こいつは、自分の言ったとおり本気だった。


“……今からでいくと、たったの3分でいいんですよね?”


「……ああ」


“なら、やります。……3分くらい、耐えてみせます。覚悟はとっくにできてます”


「……」


 俺はそのまま口を閉ざしてしまった。

 こいつは本気だ。覚悟もとっくにできている声だった。


 もう、心の中では準備ができている。


 でも、俺は心配だった。


 いくらなんでも、ここで機関をコンピューター制御なしにぶん回すなんて……。


「……だ、だが、」


“大樹さん”


「ッ!」


 俺がやはり止めようとすると、向こうからさえぎられた。それも、少し力の入った声で。

 俺が思わず驚いていると向こうはそのまま続ける。


“……前に、大樹さん言いましたよね。お前の乗員おれたちを信じろって。そして、俺たちはお前を信じるって。……台湾に来る前、覚えていますよね?”


「……ああ、覚えてる」


 あのとき、数日前のやまとが思い悩んでたときだ。

 俺があいつを慰めるために言った言葉。忘れるわけがない。

 互いに信じろ。そうすれば結果はついてくる。


 ……そうか。まだ覚えていてくれたのか。


“……少しは信じてください。それともなんです? 大樹さんにとって私はその程度だと?”


「ん?」


 ふっ、少し挑発ぶった口調をしやがって。

 ……ハッ、まさか。


「……いや、そうは思ってないが?」


“でしょうね。知ってました。というか、もとよりこんな無茶な提案した方に無理だって言われる筋合いありませんしね”


「このやろう」


 ちょっとイラッときた。だが我慢。


“……大丈夫です。期待に最大限こたえます。それが、私たち艦です。……最期まで、やれるだけのことをやらせてください”


「……」


“……それに、”


「?」


 すると、やまとは軽くふっと息をついていった。


“……私も、核攻撃は止めたいですし、ここで見て終わるなんてできません。……最後の最後まで、”













“全力で、抵抗させてください。“全力”で”













「……全力、か」


 ……前世で、全力もくそもなくやられた背景か。

 今は、なんとしてでもとめたいんだろう。

 そして、友を救いたい。

 自分が守ると決めた存在を、なんとしてでも守りたい。


 その意思が、見事に前面に出ていた。さっきの一言で。


 ……はぁ、


「……もうとめても絶対勝手に動かしてでもいくんだろうな」


“ふふっ……”


 と、笑ったまま後は何も言わない。

 何を考えているやら……、俺にはわからんが。


「……で、艦魂から答えは出たのか?」


「……ええ」


 空気を呼んで待ってたらしい副長がそう聞いた。

 周りも同様。そして、ついでに言えばCICも。


「……まあ、お前の言った発言から大体は察するが……、一応聞くか。向こうはなんて?」


「ええ……。とにかく、」









「こっちの思うがままにぶん回せと。覚悟はとっくに完了しますよ、あいつ」









「……まあ、そうだろうと思ったよ」


 副長が軽くため息をついて後ろ頭を軽くかいた。

 そして、同じく鼻でため息をついた航海長が言った。


「ったく……、艦魂さんも、お前に似て結構無茶なところがあるな?」


 なにやら含み笑いをされた。何を考えてんだいこの人は。


「まあとにかく……、時間がありません。あと、3分しかありませんよ」


「ああ……。艦長、無線でそっちにも会話はいってる思いますが……」


 そう副長はCICにいる艦長に聞いた。


 返答がすぐに来る。


『うむ……。どうやら、われわれに残された手段はそれしかないようだな』


「ええ……。艦長、指示を」


「……、わかった」


 艦長がついに決断した。

 ここにいた全員が息を呑む。


 一瞬の間をおいて、艦長が宣言するように力強く言った。


『では、すぐに重機関銃の射撃準備を。30秒で済ませろ。新澤君』


「はい」


 俺の名が呼ばれた。

 艦長は少し間をおくと、静かな声で言った。


『……困難な任務になる。だが、全力を尽くせ。私からいえることはそれだけだ。……頼むぞ』


 ねぎらいというか、簡単に言えばエールだった。

 艦長らしい遠まわしの言葉。だが、今の俺にはそれで十分だった。


 俺は、艦長のエールに負けないよう力強く言った。


「……了解。お任せを!」


 そういうと俺はそのまま右舷艦橋隔壁に向かった。

 同時に救命胴衣と鉄帽も脱ぎ捨てる。迎撃するのにこんなぶかぶかして重いのなんて邪魔で仕方がない。


 同時に、さらに指示が飛ぶ。


『副長、機関をすぐに一杯にしろ。今すぐだ』


「了解。それで、迎撃するのに最適なエリアまではどれくらいで着きますか?」


『こっちで計算した。弾着まであと約4分。……誤差を含めて、今からいくとギリギリ“弾着20秒前”につく』


「20秒か……」


 ふむ、ちょうど迎撃可能な時間につくか。

 ほんとギリギリだな……。そのタイミングで完全に停止してくれればいいが。


『とにかく、各種指示やタイミングはこちらで出す。すぐに機関をぶん回せ』


「了解。……航海長、始めよう」








「我々の、最後の抵抗だ」








「……了解。もうこうなったらとことんやってやらぁ!」


 航海長も覚悟を決めたようだ。そう自分で雄たけびを叫ぶ。

 その間に俺は他の乗員に手伝ってもらいつつ、重機関銃の設置を始める。といっても、そう時間はかからずに終わるが。

 あとは弾薬を待つだけだが……、


 ……と、大体の設置が終わって、他の乗員が俺のエール的な一言を残しつつ退避し、後は弾薬が来るのを待つのみとなったときだった。


「はぁ……はぁ……、ひ、大樹!」


「ッ!? え、カズ!?」


 右舷見張り台を艦橋をつなぐ隔壁から例の艦橋に戻る乗員と入れ替わるように出てきたのは、今頃CICにいるはずのカズだった。

 その顔には汗がにじみ出ており、息切れも激しい。

 そして、両手にはその重機関銃の弾薬箱が1箱200発分があった。


 ……まさか、こんな短時間で弾薬持ってきたのか?


「……まさか、ここまで弾薬もって走ってきたのか!?」


「はぁ……はぁ……、だ、伊達に元野球部なめんなよ……、こ、これくらい余裕だぜ」


「お、お前……」


 そんなに必死できてくれたとは……。

 ……アカン、いつもはただのボケキャラという認識だったのにめっちゃかっこよく見える。どうしようかこれ。


「とりあえず、20秒程度は持つ弾薬200発を持ってきた。本当は100発1箱なんだけど、何とかつなげてきたぜ」


「つ、つながれるのそれ?」


「いや、最近のはつなげれるぞ?」


「はぁ……」


 でも、1箱100発つなぐってどうやるんだよ。少し気になるわ。


「でも、200発一気に撃つっつっても、100発撃ったら砲身オーバーヒートするから結局無理なんじゃ……」


「んなこといってる場合かよ……。それに、いまどきの重機関銃なんて冷却機能高いよ。100発じゃなくてせいぜい250発耐えると思っておけ」


「マジかよ……」


 まあ、そんなことを考えずにこんなアイディア持ち出した俺も俺だが。


 しかし、とにかくそういうことなら別にいいや。とにかく、今は作業を急がなければ。

 すぐに弾薬箱からベルトで繋がった12.7x99mm NATO弾を取り出し、重機関銃に装填する。


 その間に、カズが去り際に言い残した。


「いいか? 無線で発射タイミングとかのサポートは俺がする。その指示に従ってくれ」


「了解。オペレート頼むぜ」


「ああ、任せろ。……お前こそ、頼むぜ。まったく、お前らしく無茶な発想だし、これくらいしか手段がないとはいえ、頼りになるのはお前だけだ。信じるからな?」


「ああ……、わかってる」


 責任は重大だな。

 状況を考えても、俺の今の両腕には、この海域にいる大量の艦船と、それにのる大量の人間、そして台湾本土最前線にいる大量の人間の命が託されているといっても過言じゃない。

 失敗は、絶対に許されない。


 ……だが、やるしかあるまい。


 もとより言い足したのは俺だ。やってやるさ。


「……じゃあ、後は頼む。サポートは任せろ」


「あいよ……、こっちは任せろ」


 カズはそのまま隔壁から艦橋に入った。

 そのまま隔壁自体は閉められる。


「……よし、準備オーケー」


 準備完了。いつでも撃てる体勢になった。


 さぁ、こい。いつでもきやがれ。


 そう意気込んでいたときだった。


「……ん?」


 ふと、左となりから気配。すぐに誰かは判明する。


「……ふっ」


 俺は鼻で軽く笑いながら息をついた。


 そこには、真剣なまなざしで、かつ軽く口をニヤッとさせて笑った表情を見せるやまとの姿があった。

 ここから射撃場所の指示をサポートするつもりか。ありがたい、照準サポートは多いほうがいい。


「……悪いな、つき合わせちまって」


 俺は一言そういった。

 これしかないとはいえ、言い出したのは自分。やはり巻き込むことには少し抵抗があった。


 だが、向こうは気にも留めていなかったようだった。


「……もとより、乗員の期待にこたえるのが私たち艦の使命です。……お構いなく」


 そういって俺に顔を向けてニッと笑って見せた。

 ……ふっ、いつもどおりだな。謝意を見せるまでもなかったか。


「……覚悟はできてるよな?」


「ええ、とっくの昔に。そっちは?」


「そっちより昔に」


「よろしい。いきましょう」


「ああ……。やってやろうぜ。俺たちの、」






「……大和魂の見せ所だ」






「……ッ!?」


「ん?」


 と、俺が思わずそう意気込んだのを驚いた表情でこっちに顔を向いた。


 ……あれ?


「……なんだ? 俺変なこといったか?」


「い、いえ……、その……」


「?」


 と、向こうがその続きを言おうとしたときだった。


『よし、機関! 準備はいいな!?』


 と、威勢よく言ったのは航海長だった。

 その相手は機関制御室。返答はすぐにきた。


『大丈夫です! いつでもどうぞ!』


 負けないくらいの威勢のいい声だった。

 ……こっちも覚悟完了か。


 すると、やまとは軽くふっとまた笑っていった。


「……後で話します」


「……そうかい」


 今はこれに集中した言ってか。まあ。別にいいだろう。


「……じゃあ、頼むぜ。無理させるだろうがな」


「任せてください。これくらい……、あのときに比べればなんともありませんから」


「……そうか」


 あのとき。沖縄特攻のときの苦痛か。


 あれにくらべれば……、ね。俺にはどれくらいのものかわからんが、まあこいつがそういうなら大丈夫だろう。


 とにかく、今はこいつを信じるしかなかった。


『よし、機関行くぞ! 総員覚悟はいいな!?』


 俺を含め全員から了承の叫び声が聞こえる。

 どいつもこいつもも威勢がいい。


 俺は目の前を見据える。

 そこには灰色の雲に覆われた空と、そして海上には大量の敵味方の艦船。


 ……そして、かすかにだがそこから乗員や艦魂が心配そうにこちらを見ていた。


 その様子が、このときに限ってよく鮮明に見えた。


 ……よし、覚悟はできた。さあ、はじめよう。




 俺たち……、




『機関制御、手動に切り替え! セーフティー解除!』





 日本人の……、





「……いきますよ。ゆれにご注意ください!」


「あいよ。いつでもこい!」







 意地を、見せてやる!







『……機関、いっぱぁい! 負担を考えるなあ! とにかく!』




















『全力でぶんまわせぇぇぇぇええええええ!!!!』



「おらぁぁぁぁあぁああああああああ!!!!!!」























 航海長とやまとがそう叫ぶとともに、機関が甲高い唸りを上げ、



 目の前の海を、持てる力のすべてを使って全力で突っ走り始めた…………

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