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『やまと』 ~戦乙女との現代戦争奮戦記~  作者: Sky Aviation
第8章 ~日台vs中最終決戦! 敵本拠地高雄市陸海空軍総力戦!~
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国家主席逃走

―CST:PM14:00 中華人民共和国首都北京 中南海共産党本部地下情報管理室―







「……貴様、こうしてまで結果を求めているのか? ここまでして?」


 私は今にもあふれ出そうな怒りを懸命に抑えつつ、そう低く、かつ威圧をかけていった。


 彼は、まさにいくらなんでも“やりすぎ”といわんばかりの非人道的行為を繰り返している。

 ……いや、今まで、似たようなことはしてきた。確かに私もしてきた。だが、これはいくらなんでもやりすぎだ。

 どれだけの味方を見殺しにしてきていると思っているのだ。

 弾道ミサイルで敵味方入り乱れている前線に核を撃ち込む。敵艦隊が突っ込んできたと思ったら何をとち狂ったのかそのまま突っ込ませて強引にこじ開けようとする。いくら状況が状況だとはいえ、それこそ相手の思う壺だというのに。

 そして、挙句の果てにはその敵味方入り乱れてるところにさらに追加で弾道ミサイルと、多数の潜水艦からUSMを撃ち込んで強引に敵戦力にダメージを与えようとした。

 だがその結果どうだ? そもそもこんな大混戦状態のところに撃ったって意味があるはずないだろ? 結果味方のほうがより大きな被害を受けて終わり。何の意味もなかったではないか。

 ……軍部のトップのくせに、そんな初歩的なこともわからんのか? まったく、どうして私はこんな無能を採用したのだ。

 こんなやつをトップにした私がとんでもないバカだった。後悔の念が尽きない。


 しかし、私の考えをよそに、彼は細く微笑み言った。


「……あくまで私は、敵を“道連れ”にしたいだけです。その結果味方が大量に死んでも、まあ“仕方ない”ことではありませんか。味方のダメージと敵のダメージを比べれば、少しだけおつりがきますよ?」


「おつりだと……?」


 こいつ、大量の兵士の命をおつりにしやがった。

 いくら私とてそこまではせん。昔とて確かに人名軽視だったが、今は違うのだ。

 今の財政危機で、国民というものがどれほど国家にとって重要か思い知らされた。国民の働き口が消えていったと思ったら国が大きく傾いた。そのときだ。私が国民の重要さを思い知ったのは。

 ……こいつはあれから学んじゃいない。これっぽっちもだ。

 彼らとて、我が国を構成する“国民”なのだ。彼らがいなければ、国がいろんな意味で成り立つことなど不可能なのだ。

 それを……、おつりだと?


「……金と比べるとは、人の命もずいぶん軽くなったものだな」


「はは、むしろ簡単に消えるのが命でしょう。何を今さら」


「簡単にねぇ……」


 そりゃ簡単に消えるだろう。それが人間の命だ。

 だが、それをとめる方法なんていくらでもあるし、第一今はそっちではなく、その“消そうとするやり方”が問題だといっているのだ。


 それを彼はわかって……、いや、わかってないからこういっているのか。


「なに、我が国の経済力をもってすればそこからの復活などたやすいですよ。日台や、ましてや今力を衰えさせているアメリカなど脅威でも何でもありません。この後も、我が国は復活しますよ……、ふふっ……」


「……」


 ……狂ってる。こいつは我が国の力を過信というか、過大評価良すぎだ。

 今までこうして我が国が経済的に保っていられたのは何のおかげだと思っている。今までの日本からの若干の支援や、腹をくくってそのほか国家きり話による負担軽減、自然的な軍事費削減など、すべてできる限りのことをしまくって、それでも“かろうじて”成り立っているのだ。

 全部我が国の努力ではない。彼はそれをわかってはいない。

 むしろ、今日本や身近な国である台湾を経済援助の相手として失えば、それに巻き込まれるのは誰でもない我が国だ。

 まあ、むしろ彼はそれを狙っているのだろうが……。その後復活できるなど、いったい何の冗談だ。


 我が国にそんな力は……、これっぽっちもない。


 ただの妄想癖が……、いったい何を口走っているのか。


 そんなことを考えていると、彼はまた細く笑い言った。


「どれ……、このままでいても仕方がありません。そろそろ……止めを刺すといたしましょう」


「なに?」


 止めだと? 奴らに止めなど、何をする気だ?


「……なんだ? またUSMでも撃つ気か? あんなところに?」


「それも使います。……が、」


「が?」


「……本命はそちらではない。それに、撃てるUSMももうほとんどありませんからね」


「ほう……?」


 何をたくらんでいるのか……、というか、またあそこに撃つのか。

 味方がまた被害をこうむるぞ……。


「あの弾頭は残り2発……。ちょうど、母体の弾道ミサイルも2発分残っていますのでね。そちらを使いましょう」


「2発……、ッ! まさか……、貴様ッ!」


 私は残り2発残っているものを想像してすぐに感ずいた。


 ……まさか、あれを使う気か?


「……まさか、」










「残り2発の“核弾頭”を、すべて使う気か?」










 彼はうなづいた。そして、さらに言う。


「……今ここで残っている弾道ミサイル迎撃可能な艦はもう残りわずかです。ここで、2発すべて投入します。本当は他の通常弾頭も使いたいのですが……、どこかの誰かさんが最初の内になりふり構わず撃ちまくってしまいましたからねぇ……」


「……よかったな。ここでいらない犠牲を出さずにすんだ」


「ほう……、主席閣下にしては面白いことを言うものだ。……まあいいでしょう、とにかく、さっさと準備させねばね……」


「ッ……!」


 すぐに彼が指令を出し始めた。周りの部下だ。

 ……本来なら私が止めるところだ。しかし、そうもいかない。


 今の私は拘束されている。いや、肉体的にはされていないのだが、周りがこっちに銃口を向けたままだ。


 ……何も出来ない。今から発射準備命令が出されたら、数十分足らずで準備を終えてしまうだろう。

 だが、仮に撃ったところでいったい何になるのだ……。まだ、向こうの弾道ミサイル迎撃可能艦は残っている。

 向こうが撃ったSM-3の数覚えてるか……? 最初から計算したら、向こうはまだあと2発残してる計算になるんだぞ? ちょうど2発。


 しかも……、それを残してるのが。


「(……こっちの調査がただしければ、あの日本の“やまと”だったはずだ……)」


 だが、これは確実性はない。あくまで簡単に調査した結果で、もしかしたら間違っている可能性がある。

 しかし、可能性はある。もしそうなら、確実に落とされるだろう。


 ……日本の最新鋭艦が、こういうときに真価を発揮しないわけがない。


 やるだけ無駄なのだ。いずれにしろ、結局は今時の弾道ミサイルなど衛星とのデータリンクで誘導性能が格段に上がったおかげで確実に落とされる時代なのだ。

 いくらなんでも彼がそれを承知でないはずがない……。それでもこれをやろうとしているあたり、やはりとち狂ってるとしか言いようがないのだろう。


 ……だが、どうすればいい。


 どっちにしろ、このまま撃たれるのはまずい。どうにかして止めないといけない。


 ……どうすればいい?


「(……何か、この状況を打開できる策は……)」


 しかし、この周りから完全に取り囲まれている状況。さらに、その周りを取り囲んでいる兵士どもは全員完全武装でこっちに銃口を向け、何か変な行動をしたら即行で撃ち殺せる状態だ。


 ……何かしようにもなにもできない。


 頼りになりそうなのは李国務院総理だが、彼はさっきから手をポケットに入れて、何かをしている。時々ぼそぼそとつぶやいていた。何をやっているんだこんなときに。


 ……頼れそうなのすらない。


 こんな状況で打開策など……。


「(クソッ……一国の指導者としてこれほどの屈辱はない……)」


 すべては私が仕切れ切れなかったのが問題なのだ。軍部の暴走など、簡単に事前察知できたはずだというのに……。

 私が甘かった……。もっと早く気づくべきだったというのに……。


「(……この際誰でもいい。誰か、私に助け舟を……)」


 ……と、






 軽く諦めながらそう願ったときだった。






 ……フンッ。


「……ッ!」


 いきなり、この部屋のすべての電源が消えた。

 地下に設置され、周りに外部からの明かりなど一切入れず、室内の明かりはすべてモニターなどから発する光に頼っていたこの室内は一気に真っ暗になる。


「な、なんだ!? 何が起こった!? 誰か! 早く電源を回復させろ!!」


 林総参謀長もいきなりのことに思わずあわてたようだ。

 彼だけではない。

 周りを囲っていた兵士達も、いきなり周りが暗くなり身の回りの様子が確認できずあわてた。


 一瞬の隙が出る。


 さすがにこんなところにいてまで暗視装置などつけていない。目が慣れるまでは少し時間がかかるが、その間で十分だった。


「ぬゥッ!? うわッ!?」


 いきなり銃撃音が間近で鳴り響いたなった。


 それと同時に、大声の叫び声が聞こえた。


「し、主席! 今のうちです! 早く!」


「ッ!? り、李国務院総理!?」


 彼だった。彼の声で間違いなかった。

 真っ暗で見えないが、しかし彼がいた場所から確実に銃の発砲音が聞こえていた。

 まさか……、彼が撃っているのか?

 いや、他の場所からも見える。おそらく、彼の部下であろう。


「今のうちに脱出しましょう! さあ早く!」


「し、しかし君は!?」


「すぐに行きます! 早くしてください!」


「ッ……!」


 私は一瞬悩んだが、しかし、この状況だ。背に腹は変えられない。


「……すまない……ッ!」


 私は涙をこらえつつそういい残すと、ドアがあった場所に向かっておもいっきり走り出した。

 距離はそれほど遠くない。銃弾が私のすぐ近くを通り過ぎるが、部下達を信じてとにかく無心に走った。


「貴様ら! 私に逆らうつもりか! かまわん! 撃て! 射殺しろ!」


 林総参謀長の叫び声が聞こえるが、


「……そういう貴様は国に逆らっただろうが」


 と私は軽く毒づいた。


 何とか扉の前に着き、手で触って扉であるらしい感触を得たので急いでその扉の取っ手を探していると、すぐに後ろに何かが迫るのを感じる。

 まさか敵か……、とおもったが。


「主席! 急いでください!」


「ここは僕達が護衛します!」


 そこには李国務院総理と、その部下らしい人物がいた。

 確か、彼は最初クーデター直前に弾道ミサイル関連の報告を持ってきた……。ああ、なるほど。彼の部下だったのか。


「……すまない。君達をこんな目に合わせたのは、すべて私の責任だ……」


「それは後にしてください! さあ早く! 今は脱出を優先して!」


「ッ……! わ、わかった。待ってろ。確かここいら辺に取っ手が……」


 と、軽くそこら辺を手で触っていると、


「ッ! あった! 取って!」


 すぐに押し扉式の取っ手に手をかけ、取っ手を回しつつ思いっきり奥に押した。

 外側から自動的にロックがかかっているはずだが、こうやって電源が落ちたときはすぐに回せるようになっている。すぐに扉は開いたが、やはりすべての電源がやられたらしい。周りは真っ暗だ。

 しかし、何とか目は慣れてきた。出口のある方向に急いで走ろうとするが……。


「ッ! お、おい! 扉閉めるのか!?」


 部下がその扉をさっさと閉めてしまった。

 すかさず李国務院総理が答えた。


「あ、当たり前ではないですか! 閉めないと追っ手がきます!」


「し、しかし中に残っている君の部下は!?」


「……大丈夫です。今こうやってあかないということは、彼らも覚悟を決めてます」


「ッ……!」


 ……玉砕覚悟か。まるで、昔の日本軍のようだな。


「とにかく、急ぎましょう。今はそれどこではありません!」


「クッ……、みんな、すまないッ!」


 私は無理やり足を動かして階段を上がっていこうとする。

 とにかく、ここはもうダメだ。

 まずは上がって、この建屋を脱出しなければ。


 そう考えつつ、急いで緊急脱出用に別に作られてい非常階段からまず地上へ出ようとした。


 ……が、


「……ッ! まずい! こっちにくる!」


 下からその追っ手が着ているのが見えた。下を見ると、武装をした兵士が大量にこっちに来ている。


「クソッ! 主席、ここは私が喰い止めます!」


「なッ!?」


 するとその部下がここで立ち止まった。明らかに迎撃体勢である。


「いや、貴様も来るんだ! 早くしろ! 止まるな!」


「いえ……、どうもそうはいかないんですよ」


「は? ……ッ!」


 ふと、彼の足を見たときだった。


「……お、おい、その足は……」


 大量の出血をしていた。彼の両足から、銃弾を受けたらしく大量の血が流れていた。

 よくみると、階段にもその血の痕が残っている。……今まで走るのに夢中で気づかなかったが、まさかこれは……、


「……先ほどの銃撃戦で足をやられたみたいでして。もう、これ以上走れません」


「ッ……! そ、そんな……」


「どっちにしろこのままでは足手まといになります。ですから、ここは私が盾に」


「バカなことをいうな! なら私が担いででも行くぞ!?」


「……今のあなたがするべきことはそちらではありません。今は、とにかく脱出することです」


「……」


 ……確かにそうだ。思わず口走ったが、ここで彼を担いでいくのはまずい。

 だが……、


「……とにかく、今はこの国の暴走を止めてください。これは主席しか出来ません。……では、後は御願いします」


「ッ! あ、おい!」


 そう止めるまでもなく彼は絶叫を浴びせながらその階段を勢いよく下りていった。

 そこにいた兵士達に大量の銃弾を喰らわせ、そのまま兵士達の元に突っ込んでいく。


 ……あのやろう……、クソッ……!


「主席! 急いでください! ここは彼に任せて!」


「クソッ……! すまないッ!」


 私は再び階段を上がり始めた。

 一切後ろと下を見なかった。彼の姿を見ないようにした。


「……しかし、主席も変わりましたな」


「は?」


 ふと、李国務院総理がそんなことを言う。

 それも、少ししんみりした顔でだった。


「……変わったとはいったいなんだ?」


「いえ……、ここでこそ言わせてもらいますが、昔あれほど人命軽視だったのに、今では一人の人間の死まで拒絶するようになったなって」


「……」


 ……人命、か。

 まあ、確かに変わったな……。これも、いっては何だが、今回の経済危機で国民の大切さを学んだからだろうな。


 ……まったく、人間とは変わりやすい生き物だ。単純、ともいえるが。


「……そんな人間だ。察してくれ」


「わかってますよ。……ッ! きました。出口です」


「ッ!」


 すると、階段の終わりのところに扉が見えた。

 小さめのやつだ。非常用だから仕方ないがな。


 すぐに扉を開ける。

 そこには少し曇っている空がまぶしく感じるほど明るく見えたが、すぐにその明かりにもなれた。


 周りを確認すると……。


「……ッ! いたぞ! 彼女だ!」


 すぐに彼はある方向に走り出した。

 私はそれについていく。

 そこは、この中南海の中でも少し南に位置し、二つある湖の片方“南海”のすぐ近くにある少し木が立ち並んでいるところだった。


 その影に、一人の女性が見える。

 後姿だが、我が人民解放軍の服装をしていない。侵入者か?

 しかし、彼があの彼女を最初から探していたあたり、どうも敵には見えないが……。


「君! そこに君だ!」


 彼女はビクッと肩を震えさせつつ振り向いた。

 そこには、見た目結構若々しい女性がいる。中々の美人だ。


 彼女は私たちを確認するといきなり鋭い顔になって懐から拳銃を出し、こっちに向けつついった。


「し、周国家主席と李国務院総理!? あ、あんた達がなぜこんなところに!?」


 思わず私たちも立ち止まった。

 どうやら私たちのことを認知していなかったらしい。では、彼はなぜ彼女を?


「ま、待ってくれ! 違う! 今は味方だ!」


「は?」


 彼は流暢な日本語でそういった。

 一応私も日本語は出来るが……、君、出来たのか。


「やはり、おもったとおりだ……。君、日本のスパイだね?」


「なッ!?」


「ッ!?」


 日本のスパイだと? ……いや、確かによくみてみれば顔立ちがなんとなく日本人女性の……。

 だが、スパイがなぜこんなところに? 周りの警護は何をやっているのだ?


「大丈夫、今は敵対するつもりはない。頼む。協力してくれ」


「は……? ち、ちょっと待って? 意味がわからないんですが」


「だから、今は君に敵対する気はない! とにかく協力してくれ! 簡単なことなんだ!」


「だから! 要件は何いって言ってるのよ!」


「ッ……」


 状況が状況で焦ってうまく言葉に出来ない。焦りが前面に出ている。

 仕方ない……。まあ、ここにくるということは中国語はさすがにわかるだろう。


「すまない。状況を詳しく説明している暇はないが、とにかく急いでいるのだ。今、台湾前線にいる敵味方の陸海空軍に無線をつなげれるか?」


「はぁ!? 敵味方の全軍!?」


 思わず彼女も驚いたようだ。しかし、時間がないのでそれにはかまわず続ける。


「いま中枢が軍部に乗っ取られ、私たちはそれから脱出してきた。だから、今から彼が行なうことを今すぐ向こうに伝えたいのだ。頼む! 詳しい説明は後にする!」


「そ、そうは言われても……」


 ええい、まどろっこしい! じゃあ、これでどうだ?


「だ、だったら、これを君に預ける」


「え?」


 そういって懐から取り出したのは、護身用に身につけていた拳銃だった。

 彼女にそれを差し出す。


「私が何か不審な行動を起こしたらすぐに射殺してくれていい。今の私は無防備だ。どうだ? 悪い条件ではないだろう?」


「……」


 彼女は一瞬考え、そして探るようにいった。


「……で、要件はなんです? 一応仲間との端末とつないで衛星通信リンクを使って、直接周波数にかけることは可能ですが?」


「ッ!」


 ラッキーだ。それならありがたい。

 今さら政府を通してなどしている暇はない。とにかく、ここは急いで……。


「では、その仲間にすぐにつなぐよう言ってくれ。私から話したいことは一言だけだ」


「今かけてます。で、あなたに無線を渡せばいい?」


「どちらでもかまわない。今は早く向こうの周波数に」


「はいはい。……はぁ、いったいどうなってるのよ……」


 彼女は手元から取り出したスマートフォンに似た端末を取り出しなにやら画面をタップして操作し始めた。

 ……日本ではそんな情報通信機器を持たせているのか。やはり日本はこういうのを作るのは得意分野か。


「……ついでに聞きたいんですけど」


「? なんだ?」


「……さっき、」









「無線周波数を何度もかけて私に対してここにこい言っていったのってまさかあなたたち?」









「……は? 無線だと?」


 ……いや、ちょっと待て。私はそんなことした覚えはないし、それをしているやつなんてあの状況では……。


「……ッ! ま、まさか!」


「?」


 私は後ろを振り向いた。

 そこには会談の出口のほうを向いていつ敵が来てもいいように銃を構えている李国務院総理の姿があったが……。


「……まさか、君があの時つぶやいていたりしたのは……」


「……はは、ばれていましたか」


 やはり……。あれは、彼女をここにつれてこようとしていたのか。


 しかし……、どうやったのだ?


「前に、主席室から盗聴器見つかったことありましたよね?」


「あ、ああ……、そうだが?」


 そう。実は数日前に私の部屋である主席室から盗聴器が見つかった。

 なぜかソファの下に置かれていた超小型のものであり、なにやら銀色のラップで包まれていた状態で、ちょうど掃除に来ていた担当の兵士がソファの下を掃除しようとしたときに発見された。

 その後調査にまわされ、そこに出入りした全員を調査した結果、どうやら

 内通者がいたようで即刻処分したのを覚えているが……。


「……あの盗聴器を調べていた結果、その使用している無線周波数が大まかに特定できまして。さらに、あの内部見たいんですが……。あれ、明らかに日本製です」


「ほう、なぜわかった」


「……精密だからですよ」


「は?」


 精密って……、そりゃ盗聴器だから精密であたりまえなんじゃ……。


「あんなに精密なの、我が国ではもちろん、他で作れるのはありません。となると、精密機器に得意な、“日本”しかありえないでしょう」


「……はぁ」


 なるほどな。まあ、日本は昔からこういう精密工業は得意だしな……。


 しかし、これといったいないが関係ある?


「ですから、私が持っている小型無線機の周波数を操作して何度か呼びかけたんですよ。“この場所に来い”って」


「……あの状況で無線周波数を操作だと?」


「ええ。ばれないようにするのには苦労しました」


「おいおい……」


 ……何気に君スパイの素質あるだろ。いろんな意味でビックリだぞ。


「電源が切れたのも、一応その無線にだめもとで呼びかけたものです。誰がやったかは知りませんが……」


「あれは内通者ですよ」


「え?」


 すると、彼女がそういった。

 李国務院総理もそれは予想外だったようで、思わず振り向いた。


「この際言わせてもらうと、あの電源落としたのは私から連絡した内通者。ちょうど主電源の場所知ってたからコード落とさせたわ」


「はは……、なるほどな」


 内通者か。まあ、あながち驚かんな。

 こんな立場だ。そりゃ一人や二人出てきてもおかしくない。


「とにかく、そういうこと。まあ、電源落としたらあんたらも指揮できなくなるだろうなとおもってやってみたけど……。まさか、あんたらが望んでたとはね」


「まあな……」


 まあ、いったのは李国務院総理であって、私は何も出来てないのだが。


「しかしよかったのか。私たちに教えて」


「別に。どうせこの後二人とも拘束するし」


「はは……」


 何気に鋭いことをいわれたな


 ……すると、


「……よし、繋がったわ。味方にはすでに事情は説明してます。一応さっきもいったようにあなた達の身柄は拘束させてもらうけど、それでもいい? あ、拒否権はないですよ?」


「なら最初から聞かなければいいではないか……」


 まあ、どっちにしろ今の私は無防備だ。仕方ないだろう。どっちにしろこの後は連行されるんだ。それが少し早まっただけに過ぎない。


 ……だが、その前に、


「繋がったんだな? では、無線を……」


「あ、こっち使ってくださいね。それ予備」


「え?」


 すると手渡されたのは予備の少し古いほう。

 といっても、見た目的には単にスマートフォンがもう少し大きくなっただけだが。


「そっちに情報転送させましたから。そっちから頼みますね」


「あ、ああ……。すまない」


 そして、私はすぐにその端末に向けて叫び始めた。


「中台日全軍! 聞こえるか! 応答してくれ! 中台日全軍へ! 聞こえるか!?」


 何度も呼びかける。しかし、ノイズがひどい。やっぱり外部から無理やり干渉するのは難しいか。

 しかし、今はこれしか方法がない。迷っている暇はないのだ!


「中台日全軍! 聞こえたら応答してくれ! 誰かいないか!?」


 すると、だんだんノイズが晴れ、そして声が聞こえてきた。


『……こちら日本国防海軍巡洋艦やまとである。今無線に入ってこようとしてるのは誰だ?』


 男性の声だった。

 何とか海には繋がった。しかも日本の最新鋭艦か。

 さらにそのあといろんなところから無線が聞こえ、にわかに混線状態になった。


 よし、何とか繋がった。あとはさっさと用件を伝えるだけだ。


「や、やっと応答があった! 中台日全軍に告ぐ! 私は、中国国家主席の“周金平”だ! 今無線を借りて君達に私の声を聞いてもらっている!」


 そう名乗ると、無線の向こうが人の声でいっぱいになった。

 騒がしくなっている。やはり、いきなり私が出たらそうなるか。まあ、これくらいは予想していたことだ。


 だが、私はそれにはかまわず続けた。


「すまない。頼むから無線はこのままにしていてくれ。……今現在、我が国の中枢は軍部に乗っ取られている状況だ。私の力不足で申し訳ない。今までの攻撃も、ほとんどは彼らの者だ。責任転嫁のつもりはないが、私の意思ではない」


 ……とかいっても、絶対信じてもらえんだろうがな。だが、最悪それでもいい。

 伝えたいのはそっちではないのだからな。ここからが本題だ。


「しかし、彼らはまたさらなる攻撃を仕掛けようとしている。……この場合は、日台艦隊に告げたほうがいいだろう。今すぐ、弾道ミサイル防衛の準備をしてくれ」


 すると、また無線の向こうが騒ぎ出した。

 ……気持ちはわかるが一々騒がないでくれ……。それどころではないのだ。


「今、協力者である彼女から無線を借りている。彼女に対しても、すぐに各国政府に事情は説明させているところだ。……とにかく、弾道ミサイル攻撃が可能な艦はすぐに準備してくれ」


『ちょ、ちょっと待て!』


「?」


 すると、また最初のとは違った声が聞こえてくる。

 これは……、ここででてくるということは、おそらく向こうの日台艦隊あたりの旗艦の者だな?

 我が艦隊の司令官でこんな声のやつはいなかったはずだ。こう見えて、私は記憶力自体はいい。


『いきなり何を言ってるんだ貴様は!? 何が目的だ!? いったいどういうことなのかきっちり説明してくれ!』


「……説明か……」


 あんまり時間はかけたくないが……、いや、しかしこれを言っておかないと確かに本題の意味が伝わらない。

 仕方ない。さっさと済ませよう。


「……もうすぐ、放たれるのだよ。アレが」


『……は?』


「だから……、もうすぐ」


 と、その後のまさに内容のメインを伝えようとしたときだった。


「いたぞ! あそこだ!」


「ッ!」


 後方からだった。

 さっき私たちが出てきた非常階段の出口のほう。そこから、兵士がわらわらと出てくる。


 ……まずい。


「(……もう追いついてきたのか……)」


 となると、さっきとめにいった彼は……。

 ……そう考えるとととてつもなく申し訳ない気持ちになるが、彼らはそんな時間を与えてはくれなかった。


「スパイと一緒にいる! 殺せ! 射殺しろ!」


「ッ! まずい! 見つかった!」


 すると、彼がそういったとおもったら、さらに銃を構えなおしていった。


「主席! ここは私が時間を稼ぎます! 主席は早く!」


「なッ!? 貴様までそれを抜かすのか!?」


 李国務院総理まで……。ここで時間稼ぎって、相手何人いるとおもってやがる!


「ダメだ! 貴様もこい!」


「私は後で追いつきます! こう見えてももと軍出身なのでね!」


「だ、だが……!」


「ちゃんと後ろからついていきます! ですから早く!」


「ッ……!」


 クソッ……、またここでも頼もしい“仲間”を失うのか。

 これ以上は勘弁だったが……、クソッ!


「(……だが、優先順位がある……ッ!)」


 今はとにかく、向こうに情報を伝えることが最優先だ。


 彼を……、信じるしかない。


 そう考えていると、彼女も手をひいて促した。


「主席! 早くこちらへ!」


「クッ、すまない!」


 すぐに私たちはその木が立ち並ぶエリアから離れ、一路南のほうへ全力で走った。

 ……というか、彼女についていってるだけなのだが。


「この先に味方が待っています! 死にたくなければそこまで全力で走って!」


「わ、わかった!」


 私はそう返事しつつさらに無線に向けて叫んだ。


「とにかく! すぐに弾道ミサイルの迎撃準備をするんだ! 頼む!」


『だから! いったい何が来るんだ!? それを説明しろ!』


「ッ……!」


 さっきと同じ声。やはりその問いがきたか。


 ……一瞬言うのをためらったが、しかし、すぐに私は口を開けた。


 少し低めのトーンで、自分でも言うのが苦しいがそれを我慢しつつ言った。


「……もうすぐ、中国本土から」














「……“核弾頭弾道ミサイル”が放たれる。それも……、“2発”だ」















 その瞬間無線が一気に沈黙したと同時に、私の前を走っていた彼女が、


 青ざめた顔をして信じられないような表情でこちらに顔を振り向かせていた…………

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