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『やまと』 ~戦乙女との現代戦争奮戦記~  作者: Sky Aviation
第8章 ~日台vs中最終決戦! 敵本拠地高雄市陸海空軍総力戦!~
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被弾。そして一難去って……

―TST:PM14:10 同海域 日台連合艦隊旗艦丹陽FIC―






「……」


 私はその目の前にメインモニターが移す光景に呆然としていた。


 後方カメラからだった。



 そこには、被弾し、右舷側2箇所から煙を出し“尽きていた”。



 正確にはもう煙は出ていない。速度が大きく落ちてしまっている、というかもうすでに止まりかけているのだが、それでも、どうやら本気で敵USMの攻撃を装甲で防ぎきったようだった。


 ……が、


「やまとからの通信はまだこないのか!?」


「まだです! こちらからの呼びかけに応答せず!」


「そんな……」


 向こうからの通信が一切来なかった。

 見る限りでは艦橋後部上にある電子装置は大まかには無事であるように見える。……が、まさかそこにある通信機器がイカれたか?

 いや、まさか、通信は出来ても艦内がそれどころではないのか?


 ……いくら装甲で防いだとはいえ、弾着時の威力までは防ぐことは出来ない。大型のやまとといえど、その威力によって起こった振動などで大きな被害を出しているはずだ。

 それに、弾着時の外部機器への影響もある。


 被害がどこまで上がっているか、想像はできなかった。


「とにかく呼びかけろ! 応答があるまで何度もだ!」


「了解!」


「こちら旗艦丹陽、やまと、応答せよ。こちら旗艦丹陽、やまと……」


 FIC乗員が何度も呼びかけた。

 しかし、一向に応答がなかった。


 何度もかけている。その間にもやまとは機関が完全に止まったのか、その場で停止してしまった。

 そこからはこれっぽっちも動かない。


 ……完全に動きを止めた。どうした? 何があったのだ。

 まさか……、機関が死んだか? 振動が激しすぎてもう耐えれなかったのか?


「(……頼む……、せめて何か応答を……)」


 無事かどうか確認させてくれやまと。そして織田大佐。どうなのだ? 生きているのか?

 ……返事してくれ……、頼む……。


「……やまと……答えてくれ……、頼む……ッ!」


 そう、願ったときだった。









『……ガッ……こち……、ガガッ……、こちら、ガガッ、やまと、……こちらやまと、誰か応答できるか? こちらやまと。誰か応答願う』










「ッ! きた! やまとだ!」


 はっきりと聞こえた。無線だった。


 よかった……。何とか無事みたいだな。


 無線担当がすぐに答えた。


「こちら旗艦丹陽です。やまと、状況を報告してください」


 被害の報告を行なわせる。

 その間、私はモニターに移されているやまとをみた。


 ……すると、


「……お?」


 やまとがほんの少し動き出した。

 といっても、ほんとに少しだけだ。動かないだけでいるのはまずいとふんだのだろう。


 ……とりあえず、


「……無事なら何とかなるだろう……」


 あとで織田大佐に一言きつく言ってやらねばな……。
















―艦橋上―







「……え……、うそでしょ?」


 私は思わず目の前に広がる現実に呆然とした。


 2回連続の被弾による爆発と轟音。それ自体は一瞬で収まった。

 煙もほとんど上がっていない。内部には突っ込んでいないようで、そこはさすがに装甲艦だった。


 ……でも、


「……やまとさん? ねえ、やまとさん?」


 向こうからの応答が全然ない。

 ここからじゃやまとさんの様子が見えない。でも、なんか、艦橋の上に立っているようには見えない。


 ……まさか、そのまま倒れた?


「……やまとさん? 聞こえますか?」


 私は向こうに呼びかける。

 心配どころの話ではなかった。ただ単純に、死んでほしくなかったとか、声が聞きたいとか、そういう直感的なものだった。


 ……ねえ、何で答えないの? ねえ?


「……やまとさん? 聞こえますか? やまとさん?」


 私は何度も呼びかける。

 向こうはすぐに機関が止まったらしく停止してしまった。煙はほとんど立っておらず、向こうの思惑通りになったはずなのに。

 それでも……、やはり、私は不安を隠しきれなかった。

 やはり、被弾時に何かあったのではないか。その不安は、私の心の中を支配していた。


 何度も呼びかけても一向に返事がない。


「ねえ……やまとさん、聞こえてるんですか? ねえ! やまとさん!」


 私は少しずつ声を張らせていった。

 それでも、向こうは返答が来ない。一向にこない。


 ……そのあたりで、私は最悪の事態を想像してくる。


「……まさか、ここからじゃ見えないけど機関が完全に死んだとか……?」


 そうなったら余計まずい事態になる。

 やまとさんの燃料は水素燃料。機関が完全にやられたということは、へたすればその燃料の水素が外部に漏れ始めている可能性もある。

 ある意味、従来のガスタービンエンジンの燃料として使われる軽油ではまだ制御が可能だったけど、水素となるとまたその軽油より扱いが難しくなる。元より安全性や耐久性に課題があるのが水素燃料だけど、それを外壁をとにかく厚くして外部からの衝撃を和らげまくることでどうにかしのいできたけど、最悪そっちが破られていたら、その水素燃料に引火して……。


 ……冷たい汗が私の額の右をしたりと流れるのを感じた。


 そんな光景、私の目の前で見たくなかった。


 そう思うと、私は焦らずにはいられたなかった。


「やまとさん! 応答してください! やまとさん! ……聞こえないんですか!?」


 そう叫んでも、向こうからのお返しなんてくるはずもなく。

 しかし、それでも叫んでいた。


 願っていた。彼女が生きていることを。


 彼女から応答がないということは、つまり、その艦が遅かれ早かれ死ぬことを意味していた。

 今応答がないということは、彼女はもうすぐ沈むということになってしまう。


 それだけは嫌だった。単純に、“嫌”だった。


 私をかばって死んだなんて、私はこの後日本の人たちにどう顔向けすればいいのか。


 そして、何より私自身に対するダメージがでかかった。主に精神的な面で。


 一向に応答がなくても、私は信じて叫んだ。


 まだ生きてる。そう信じて。


「やまとさん! 返事してください! やまとさん!!」


 声がかれようとも、涙声になろうとも。私は何度でも叫んだ。返事が来るまで。


「やまとさん……ッ!! いい加減返事してくださいよ!!」


 ……そして、








「やまとさぁん!!!」









 その願いは、何とか届いたようだった。




“……あのー、”


「……へ?」













“……フツーに聞こえてますので、あ、あんまり大声で叫ばれると耳が……”















「ッ! や、やまとさん!!」


 私は思わず笑みがこぼれると同時に、身を少し艦橋から乗り出してやまとさんのほうを見た。

 すると、私の気づかない間に艦が少し動き始めている。といっても、結構ノロノロだ。

 どうやら機関は無事だったみたい。


「だ、大丈夫ですか!? 被害は!?」


“ですから、私は装甲つきですって……。単に、思ったより衝撃が大きかっただけです”


「ッ……! よ、よかったぁ……」


 私の心を支配していた不安感は安心感に代わり、同時に一気に体の力が抜けてその場にへたりと座り込んだ。

 やまとさんはそれを見越してか、クスッと笑いつつ言った。


“……だからいったじゃないですか。私はいたいのには慣れてるし打たれ強いって”


「いや、打たれ強いは聞いてませんよ……」


 私の記憶が正しければ痛いのに慣れてるってしかいってなかったはず。うん。そのはず。


“まあ、でも間違ってませんよ。……私が、これくらいで簡単にやられるわけありませんって”


「うぅ……、で、でも……」


“……心配性ですね~、丹陽さんも。旗艦さんなのに”


 するとまたクスッと笑った。

 それに少しむっとしつつ文句を言う。


「……いったい誰のせいだと……」


“はて、誰ですかねぇ~?”


 このやろう……。


「……元はといえばやまとさんがすぐに答えないからぁ……ッ!」


“ギクッ。……え、えっと、少し気絶に入ってましたので……”


「倒れてたのってそれですか……」


 やっぱり衝撃って大きいのかな。いくらあんな鈍足とはいえ。


「それで、被害は?」


“今乗員がそっちに知らせてます。大丈夫です、装甲は貫通してませんから艦内に対する直接的な被害はありません。しかし、当たり所の問題で前後のVLSの射撃管制装置に不具合が起こったのと、後一部の電子機器がやられたのでそちらの修復中です。あと……、うッ!”


「ッ! ど、どうしました!?」


 すぐにやまとさんのほうをよくみるが、彼女は苦しそうに胸の辺りを右手で押さえていた。

 呼吸も少し激しくなっていた。


 まさか……、


「き、機関に何かあったんですか!?」


“あ、いえ……。少し、今の衝撃でタービンが破損したってくらいです。まあ、破損といっても修復できる範囲ですし、これくらい……、うッ、いたッ!”


「む、無理しないでください! あんまり動かすと負担がかかります!」


 やっぱり、今の衝撃で機関にも影響が……。

 タービン自体が破損ってなると、もう思い切った加速は無理になる。あんまりあげすぎると絶対機関が壊れてしまう。

 修復できるとはいえ……、その修復が終わるまでは、この状況が続くのか……。


「……す、すいません……、私なんかのために……」


“お構いなく。……あなたを守れたならそれで私は満足ですので……”


「で、でも……」


 と、そう申し訳なく言ったときだった。


“や、やまと!? 大丈夫!?”


「?」


 他の艦魂からの声が聞こえた。

 この声は……、確か、こんごうさん?

 確か、やまとさんの親友の方の……。


“あーい……、聞こえてまーす”


“だ、大丈夫!? 怪我は!?”


“それほど大きくないですよ。……VLSと一部の電子装置が一時的に使えなくなったのと、あと機関が微妙に不具合起こしただけでーす……”


“な、なんであれでそんな小被害ですむのよ……。というか、いくらなんでも危ないから! 無茶はやめて心臓に悪い!”


“はは……、無茶っていうのは褒め言葉ですか?”


“なぜそうなるし!?”


「コントじゃないんですから……」


 こんなときにも冗談かます余裕あるってことはもう問題はなさそうかな?


 ……でも、割と本気でこんなときに精神的に余裕があるってすごいわね。

 さすがは最新鋭……、いや、関係ないか。


“やまとさん……、でも割りと本気で無茶が過ぎるので勘弁してくださいよ……”


 これはあきづきさんかな? もう大分聞き分けが出来てきた。


“そうはいっても乗員が決めたことだしね~。……どうしようもないでしょ”


“それはそうですけど……、ていうか、そう考えたらそっちの乗員も相当な無茶しますねぇ……”


“今に始まったことじゃないって。な~に、もう慣れた”


“慣れたって……”


「え、あれ普段からなの……?」


 やまとさんの乗員さんいろいろと無茶をやらかすの?

 そして、やまとさんはそれをすべて耐え抜いたって……。


 ……ははは。


「(……違う意味で笑い話だわこれ)」


 これを毎回やらされたらもう私なんてそのうちもう精神壊れる自信がある。うん。確実に。


 ……すると、


“……ッ! は、は~い、大丈夫で~す”


「ん?」


 やまとさんは視線をそらして他の人と話し始めた。

 でも、傍からはただの独り言にしか聞こえない。


 ……あー、そうか、


「……やまとさんの乗員の一人には確か私たちが……」


 そうだった。すっかり忘れてた。

 私たちが見える乗員がやまとさんのほうにはいたんだっけ。じゃあ今のこれはたぶんそっちと話してるのね。私には距離が遠い関係で聞こえないだけか。

 となると、少なくとも乗員の皆さんにはそれほど大きい被害はないと見ていいかな。


 ……しかしまあ、


「……まったく、本人のいったとおりね」


 打たれ強い。痛いのには慣れてる。

 彼女の顔には、一切負の要素がなかった。

 まるで、これくらいなんともないといわんばかりの、頼もしい限りの顔だった。


 ……やっぱり、


「……私とは、違うのかな」


 私は軽くそんなことを考えながら彼女のほうを見た……。

















―DCGやまと艦橋―






「ぜ、全員無事か!?」


 弾着の衝撃でその場に倒されていた副長が起き上がり、すぐに確認を取った。


 弾着してすぐ。思いっきり右からの衝撃に耐えられずその場に倒された。この場にいた全員が。

 しかし、その弾着の衝撃も比較的すぐに収まってくれた。何とか起き上がった俺たちは全員の無事を報告。しかし、あくまで無事ってだけで、“全員無傷”というわけにはいかなかった。

 この艦橋の中にいた乗員だけでも大量の負傷者が発生。さっきの衝撃で思いっきり床なり壁なり近くの計器基盤なりに叩きつけられた人が大半で、出血を起こしたり軽い骨折を起こしている人も少なくはなかった。

 航海長も、近くにあった計器基盤に頭を軽く打ち付けたようで、右側の額に頭から流れてきているらしい流血の血が見える。また、副長も副長で、出血ことないものの、左腕をいためたようで、右手でその左腕のひじ辺りを痛そうに押さえていた。

 俺は幸運なことにもそれほど目立った外傷はなかった。しかし、やはり完全無傷という都合のいい話は俺には適用されなかったようで、左肩に小さくない痛みを覚えていた。


「負傷者はすぐに医務室に運べ! 重傷者を最優先だ! それと、ダメコンは各持ち場の状況を報告せよ!」


 副長が冷静に指示を出す。叫んではいたが。まあ、この状況じゃ当たり前か。

 すぐに指示通り動き、重傷者を優先して手空きの人が少し手伝いつつ医務室に運んだ。

 ここで簡単な手当てを受けれるものは他の乗員に頼んで応急処置をここですませたりもした。

 また、ダメコンからもすぐに報告が来る。

 どうやら装甲は貫いていないようで、内部に対する直接的な被害はなし。しかし、今の弾着の衝撃と爆風、及び破片の関係で、一部の電子機器が一時的に不具合を起こして使えなくなった。特にECM装置はUSMの破片が直接ぶち当たった関係か、損傷が他より比較的ひどくて完全に修理をしないと使えないらしい。

 また、これは運の悪いことに敵USMのぶち当たったところが、前部VLSと2番主砲の間あたりの横っ腹と、あとヘリ格納庫と後部右舷VLSの間あたりの横っ腹の2箇所だったおかげで、その衝撃でそれぞれのVLS装置の射撃管制装置に大きな不具合が発生。これも修理できる範囲とはいえ、少し時間がかかるとのことだった。

 そして、一番大きいのは……、


「なにッ!? エンジンのタービンが破損した!?」


 副長がダメコンから無線で聞かれたらしい報告内容に思わず叫んだ。

 艦内無線は幸い生きていた。すぐに俺が右耳につけている無線機にもその声が届く。


『正確には、エンジン全体に少なからず破損がありますが、タービンにもそれが及んでいる状況です。タービンの修理自体は可能ですが、それでも少し時間がかかります』


「クソッ……。わかった。修理は任せる。艦長の指示に従い、最大限の努力をしろ」


『了解。……やります』


 そういうと無線が切れた。


 しかし、エンジンのタービンがか……。さっき、やまとが苦しそうにうなってたのはたぶんそれだな。胸あたりを痛そうに押さえていると見た。

 エンジンのほうに被害がか……。まあ、燃料の水素のほうに影響がいかなかっただけ安心だが、それでもなぁ……。


 少しして、エンジン周りの諸機器のほうの応急修理は終わったが、タービンの修理が未だに時間がかかっている旨の報告がダメコンから届いた。しかし、そうはいってもここに立ち往生はまずいから、ダメコンにとりあえず少し動かしてみるということを言って、エンジンの調子を見てもらうことになった。


 ……動かして大丈夫か少し不安だけれども、


「……頼むぜやまと、苦しいだろうが動いてくれよ」


 そうつぶやきつつ、倒れた機関制御盤担当乗員の変わりに俺が副長の指示に従い機関のボタンを押す。

 とりあえず、少しずつということで『最微速』からいった。


 ……すると、


「……お? 動いた動いた」


 最初の弾着の衝撃で一時的に止まっていた機関がまた甲高い唸りを上げるとともに動き出した。

 そして、艦も少しずつだが前進を始める。

 ……音を聞く限りそれほど問題あるようには聞こえないが、しかしこれでも結構手負いなのだろうな。


 その後も少しずつ速度を上げるが、『半速』あたりまで上げたところでダメコンから少し機関がおかしいからそのスピードで維持してくれという無線が入ったため、仕方なくこれでとめる。


 ……やっぱり、負担が大きいか。まあ、仕方ないな。

 今この時点でもタービン修理は行なわれてるんだ。いずれ回復するさ。

 4基あるうちの2基ずつに分けてやっている。しかし、タービン破損自体は4基ともやられてるので、さっさとやらないと動かしてるほうのタービンがダメージ蓄積でまずいからな。

 ダメコンには早めに修理を終えてほしいと願った。


 ……にしても驚いたな。


「……ミサイルが思ったより威力がなかったのもあるんでしょうけど、装甲貫かないってすごいですね……」


「ああ……。だてにASM-3を2,3発耐えただけあるな……」


 航海長も頭に白い包帯を自分で巻きつつ感心するように言った。

 ……装甲つきがここで生かされるとはな。2発によく耐えたと言いたい。

 しかも、これによる被害がそれほど大きくはなかった。書く射撃管制装置に不具合が起こったけど、それはすべて修復できる範囲。少しひどいのがVLS関連だけって話で、他はすぐに完了したくらいだ。


 ……こいつ、タフすぎだろ。当の乗員の俺がビックリなんだが。


「……さすがは第二次大戦の最強の戦艦の生まれ変わり、ってところかな?」


 副長も少し感心するように言った。


「副長、腕大丈夫ですか?」


「ああ。まあ、強く打っただけだからなんともない。じきに直る。それより、お前は?」


「俺は別に。……というか、俺より航海長のほうがひどい気が……」


「ん? ああ、これはきっただけだから」


「きっただけって……」


 それが一番危ないんでしょうが。その切った部分がその頭じゃなかったらどうするおつもりで?


「まあ、とにもかくにも一応はやまとこいつに感謝だな……。ちゃんと礼いっとけよ? 俺たちのぶんもな」


 航海長が少しにやつきながらそういった。

 ……その顔にはいったい何の意味が含まれてるのか気になるが、しかし感謝自体は確かにしておくべきだろうな。

 航海長や副長がほかの指示に入ったところを見計らって俺は少し向こうの様子見もかねて言った。


「……やまと、大丈夫か?」


 案外返答はすぐに来た。


“は、は~い、大丈夫で~す”


 相変わらずの元気な声である。こんなときでもそれを保てるなら結構すごいと思う。


「被害はこっちでも把握した。そっちはどうだ? いけそうか?」


“まあ、被害が少ないので問題ないです。ただ……、”


「ただ?」


“……少し、機関にダメージ行き過ぎた関係で胸が痛くて……”


「……あー」


 そうだよな……。やっぱり、そっちにもダメージがいっちまうか。

 まあ、仕方ないか……。それは、ダメコンの修理を待つしかない。


「今ダメコンががんばって修理してる。もう少し耐えてくれ」


“了解です。……大丈夫です、痛いのには慣れてますので”


「慣れてるねぇ……」


 そりゃ、前世であんなに滅多打ちにされたら嫌でも慣れてしまうだろうが……。しかし、安心できるわけがなかろうそんな言葉で。

 まあでも、本人が言うんだし信じるしかないか……。なに、あいつなら耐えてくれるだろう。今までもそうだったし。


「……しかし、お前もタフだな。こんなミサイル2発ぶち当てられてもほとんど平気へいきとか」


“そりゃ、兵器へいきですしね?”


「おうドヤ顔してるとこ悪いが全然うまくないぞ?」


“うへぇ~……、そんなバカな”


「何がそんなバカなだい」


 どっかの夕方に落語家がやってるバラエティ番組ならメインコーナーのあれで即行で座布団2,3枚分捕られてるぞお前。寒すぎるだろここ地域区分的に考えても南なんだが?


 ……まあ、こんなときにもこんな寒いギャグ出せるあたりまだまだこいつは余裕だな。


「まったく……、でもすげぇな、お前」


“? 何がです?”


「何がって……。ミサイルから俺たち乗員を、あと丹陽さんを守ったんだぜ? 丹陽さんに被害はもちろんないし、今のところこっちでも死者は確認されていない。ほんと、感謝しきれないぜまったく」


 そう。ここで一番すごいところは、“死者が確認されてない”ということだ。

 今の被弾なら、いくら被害が少なくても何らかの死者はでてもおかしくなかったのだが、何とそれがない。というか、報告されていない。


 ……これは単純にすごいことだ。もちろん、こっちが被弾に備えてスタンバってたこともあるんだろうが、それの前にやまとがミサイルをしっかり受け止めきれたことが大きいだろう。

 艦内に貫通してたら何をあがこうと絶対に死者が続出だ。それを防いだんだ。


 ……これは単純に感謝である。


 やまとは少軽く息をついていった。


“……別に、私はミサイル受け止めただけですから。ただそれだけです”


 へっ、謙遜になりやがって。


「それが一番重要なんだ。それがうまくいったのといかなかったのではわけが違うのでね」


“でも、私がやったのはそこまでですよ。……別に、感謝されるまでもないでしょ”


「んなご謙遜なことを……」


 まあ、こいつが自分を下において謙遜しまくってるのはいつものことか。

 ……でもとりあえず、


「……代表して言っとくぜ。“ありがとう”」


“……どういたしまして”


 そう、お礼の言葉を軽く交わした。

 せめてもおの礼儀だ。受け取ってくれ。


「(……さて、こっちの状況は旗艦に知らせたし、この後は向こうから指示が来るはずだが……)」


 と、そう考えたときだった。






『……ガッ……、ガがッ……、聞こえるか? ……聞こえるか!? 中台日全軍! 聞こえるか!?』






「……あん?」


 いきなり、無線にわって入ってこようとしているのがいた。しかし、中国語だ。それも、結構流暢にしゃべっている。声のトーンも高い。

 さらに、これは艦内無線じゃない。


 おそらく……、外部の無線だ。


「ん? 誰だ? こんなときに無線に入ろうとしてるのは」


「これは……、すべての周波数に入ろうとしているようです。どうしますか?」


「いや、どうしますかって聞かれてもなぁ……」


 かろうじて俺と同じく無事だった通信担当からの問いに副長も困ったようだ。

 まあ、いきなり無線にわって入ろうとされたら困るわな。


 ……というか、


「(……この声、どっかで聞いたような……?)」


 そう。なんかで聞いたことがある。

 なんだったっけ……? なんかで聞いたのは間違いないのだが……。


「というか、これ誰だ? それに中日台って……」


 航海長も疑問を呈した。


 ……そういえば、確かになんで中日台なんだ? 味方にも敵にも向けてるのか?


 ……ん?


「(ちょっとまて……、“中台日”?)」


 ……おいちょっとまて。基本わざわざ多国籍で呼ぶとき自分達の国を最初に呼ぶよな? 日本の場合なら“日~”、台湾なら“台~”。

 そして、中国の場合は……、


「……ああ! 思い出した!」


「ッ!?」


 周りが思わず驚いたこっちに視線を向けるが、俺はそっちに感心は言ってなかった。


 そうだよ……。思い出した、あの人だ。


 最近TVにでてこなかったから忘れてたけど、そうだよ、あの人の声だよ。


 でも、なんであの人がこんな無線に……? しかも全軍に向けてってどういうことだ?


「なんだ? 誰だかわかったのか?」


 航海長がそう聞くが、その前に副長が動いた。


「こちら日本国防海軍巡洋艦やまとである。今無線に入ってこようとしてるのは誰だ?」


 無線の送り主に対してだ。

 他の艦からも確認を求める無線が入った。すると、やっとノイズが晴れたようで、すぐにあの人の声が聞こえた。

 しかし、その声は切羽詰っている。


『や、やっと応答があった! 中台日全軍に告ぐ! 私は……、』










『中国国家主席の“周金平”だ! 今無線を借りて君達に私の声を聞いてもらっている!』










「ッ!? は、はあ!? 国家主席だと!?」


 副長が思わず驚きをもろにだして叫んだ。

 いや、彼だけではない。

 ここにいた全員が驚きの声を出しつつ騒ぎ出した。

 ……いや、たぶんやまと艦橋ここだけでなく、他の部署や艦でもそうだと思う。


 ……そして俺は、


「……やっぱりな」


 自分の予想が当たったことを悟った。

 すかさず航海長が聞いてくる。


「お、おい。お前これわかってたのか?」


 俺はそれにすぐに自信を持ってはっきりと答えた。


「ええ。最初聞いて、彼がわざわざ“中台日”といったのを聞いてわかりました。多国籍の国を一気に言うとき、わざわざ“中”という文字を最初に持ってくるのは中国人しかいません。そして、この声で流暢な中国語、おそらく間違いないと思っていましたが……」


 予想通りだ。あの声を持っているのは彼しかいない。今まで中国の記者会見とかその他諸々でよく聞いてきた。いやでも覚えてしまう。


 すると、航海長が「ほ~、なるほど」と感心しているのを横目に、副長は少し不機嫌になって言った。


「けっ、敵国のリーダーがいきなり何の用だ? まさか、ここで大々的に降伏宣言か?」


「それだったらいいですけどねぇ……」


 しかし、降伏宣言のためにこんな一々俺たちに無線かけるかね? 普通に台湾とか日本とかに降伏しますって言えば即行で済む話だし手間もかからないと思うんだけど。


 ……これは、降伏宣言じゃないな? 何か他の、別筋の意図があると見た。


 “……いきなり何事でしょうね?”


「さあな……」


 やまとも思わず不審に思ったようだ。俺にそう聞いてきた。


 しかし、そんな俺たちにはかまわず彼は無線で続けた。


『すまない。頼むから無線はこのままにしていてくれ。……今現在、我が国の中枢は軍部に乗っ取られている状況だ』


「なッ!?」


 いきなりとんでもないことをカミングアウトされた。

 ……おいおいちょっとまってくれ。軍部が中枢握ってるって、あんたらそれをまとめれなかったってこと? それともクーデターか何か?

 ……てことは、今までの狂気染みたこの攻撃も、すべてはその暴走した軍部の命令か……?


 副長が思わず呆れた。


「はぁ~……。あのな、なんでそれまとめれずに戦争なんておっぱじめたんだよ……。せめてはじめるならそれをまとめてからだろ」


「ぐうの音もでない正論」


 こればっかりは反論のしようがございませんな。


 向こうが続ける。


『私の力不足で申し訳ない。今までの攻撃も、ほとんどは彼らの者だ。責任転嫁のつもりはないが、私の意思ではない』


「……そうは言われても」


 つっても真実性は皆無なんですがね。


 さらに続けた。


『しかし、彼らはまたさらなる攻撃を仕掛けようとしている。……この場合は、日台艦隊に告げたほうがいいだろう』


「は?」


 俺たちにか? いったい何のようだ?


『……今すぐ、』












『弾道ミサイル防衛の準備をしてくれ』












「……はぁいぃ!?」


 いきなりのことに思わず驚いた。ここにいた全員が。

 ……ちょっと待ってくれ。いきなり何を言ってるんだ彼は? 弾道ミサイル防衛って……。まさか、まだ撃つのか!?


 こっちの疑問が尽きない間に向こうは続ける。


『今、協力者である彼女から無線を借りている。彼女に対しても、すぐに各国政府に事情は説明させているところだ。……とにかく、弾道ミサイル攻撃が可能な艦はすぐに準備してくれ』


『ちょ、ちょっと待て!』


 すると、わって入ってきたのは丹陽さんのほうだ。

 たぶん、司令官クラスの人だろう。


『いきなり何を言ってるんだ貴様は!? 何が目的だ!? いったいどういうことなのかきっちり説明してくれ!』


 まあ、その要求はごもっとも。

 いきなりスタンバレとか言われても困る話で。


 向こうは少し声のトーンを低くしていった。


『……もうすぐ、放たれるのだよ。アレが』


『……は?』


『だから……、もうすぐ』


 と、そこまで言ったときだった。


『いたぞ! あそこだ!』


『スパイと一緒にいる! 殺せ! 射殺しろ!』


『ッ! まずい! 見つかった!』


 無線に少し雑音が入っている。いや、無線の向こうで少し混乱が生じているのか。

 ……無線を聞く限り、主席さんたぶん逃げてきたな? わりかし彼の言ってることは本気なのかもしれない。


 ……すると、


『主席! 早くこちらへ!』


『クッ、すまない!』


 他の女性の声が聞こえた。たぶん例の協力者……、


 ……ん?


「……えッ!? この声ってまさか!?」


「?」


 俺はその声に思わず驚いた。今回は俺だけだ。


 ……いや、聞き間違えようがない。今まで、何度となく聴いてきた言葉だ。


 ……だけど、マジで? うそやろ?


「ど、どうした新澤?」


「あ、いえ……、別に……」


「?」


 向こうがそれ以上聞いてこなくて幸いだったけど、あの声ってまさか……。









「(俺の、母さんじゃ……?)」










 少し自らの耳を疑った。


 ……マジで? あの母さんが?


 俺はにわかに信じることはできなかった。


「……おいおい……、いろんな意味で待ってくれよ……」


 少し信じがたい情報が一気に来すぎて頭が混乱している。ちょっと整理の時間をください御願いします。


 ……すると、


『とにかく! すぐに弾道ミサイルの迎撃準備をするんだ! 頼む!』


『だから! いったい何が来るんだ!? それを説明しろ!』


『ッ……!』


 向こうは少し言い詰まったが、それでも、意を決したらしく、向こうで銃撃戦っぽいのが勃発しているらしい銃撃音が聞こえる中、彼は静かに言った。


『……もうすぐ、中国本土から、』















『……“核弾頭弾道ミサイル”が放たれる。それも……、“2発”だ』


















 その言葉を聴いた瞬間、この場が一気に凍ったのは言うまでもない…………

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