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『やまと』 ~戦乙女との現代戦争奮戦記~  作者: Sky Aviation
第8章 ~日台vs中最終決戦! 敵本拠地高雄市陸海空軍総力戦!~
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〔F:Mission 28〕高雄沖海戦『海上の大乱闘』 ⑦ 日本の、そして“親友の盾”

―TST:PM14:08 同海域 日台連合艦隊旗艦DCG丹陽FIC―







「敵USM弾着まで残り1分20秒! ダメです! 迎撃が出来ません!」


 私はその報告を聞きつつ絶望の心境に陥った。


 敵からの突然のUSM攻撃。攻撃量は少ない。迎撃は簡単のはずだった。

 他の味方は元より、我が艦の性能を持ってすれば、これくらいのものなどさっさと迎撃できるはずだった。


 ……そう、その“はず”だったのだ。


「……なんだこのミサイルは……」


 私はそれ以上の言葉が出なかった。


 敵のUSM、速度は他の対艦ミサイルの類にないくらい鈍足だ。こんなの、迎撃できないのがおかしいだろってレベルだった。


 ……が、






 同時に、他の対艦ミサイルの類にないくらい“高度な機動性を持って回避してくる”のだ。






 今まで、私はミサイルは対艦に限らず早いほうが良いに決まってると思っていた。

 当たり前だ。速度が速いほうが迎撃がしにくい。そして、たとえ遠距離から撃っても短時間で目標にぶち当てることができ、相手に対処の時間を長く与えることを防ぐ。

 普通に考えて当たり前だ。常識といってもいい。


 ……だが、今回ので私はその常識を見事にぶち壊された。


 敵は確かに鈍足だ。しかし、その代わり得たらしい高い機動性で迎撃網を軽々と回避しまくっている。

 回避されたら迎撃の手段がない。こっちは誘導に頼っているのだ。ミサイルも。そして、主砲弾も誘導砲弾を使っているし、CIWSも自身が上に乗せている白い半球状の丸いレーダーレドームから送られてくる目標の位置情報を使っている。

 しかし、敵はそれらをすべて逆探知、ないし自ら捕捉しているらしい。すべて、未来位置から迎撃寸前で避けている。こっちの迎撃が、すべて無効化された瞬間だった。


 敵は速度を大きく犠牲にした代わりに、高い機動性と回避性能にステータスを割り振りまくったのだ。


「(……このままでは本艦が……)」


 私は目の前のテーブルに思わず前のめりでうなだれた。

 迎撃が自ら避けられたら意味がない。これではこっちの手段は尽きたも同然だった。

 もう、我々は何も出来ないのだ。迎撃がすべて避けられ、今行なっているものもすべて無駄弾に終わる。

 先の日本艦隊が受けた超音速ミサイルならまだまぐれ当たりが期待できた。しかし、今回はそうもいかないだろう。


 ……我々は、“詰んでしまった”。もう、あれをとめる術はなかった。


「敵USM弾着1分10秒!」


「敵ミサイルは!?」


「ダメです! 未だに撃墜できず!」 


「クソッ……!」


 私は何も出来ない無力感を否応なく味わった。

 しかも、その矛先が自分達だった。


 何もしなければやられる。しかし、それを回避するすべがない。

 速度が遅いことをいかして高速度での回避機動をとろうにも、周りが周りだ。本艦の周りに限って、敵味方入り乱れすぎてそんなスペースなどない。


「(……ダメだ……、何か、何か救いは……)」


 こんなときに神頼みなど、軍人として恥ずかしいことではあるが、それでも今回ばかりは頼ってしまった。

 ここで本艦を失うわけにはいかないのだ。ここで本艦の指揮能力がやられてしまっては、この海域での大混戦の優勢を保てなくなる。

 それぞれの統率が取れにくいこの大混戦だからこそ旗艦からの適切かつ細かな指揮が必要なのだ。だが、ここでそれを失ったら、その指揮系統の一番上の司令塔を失い、たちまち大混乱に陥る。

 それは、この海域での統率が取れず、敵艦隊に反撃の隙を付け入ることに繋がる。

 もちろん、もうすぐ陸での戦闘も終わりそうなので今さら突破できても遅いのだが、それでも、かといって陸での戦闘が本当にすぐに終わるとは限らない。

 だからこそ、陸が終わるまでここで持たねばならなかったのだ。


 だが、それが出来なくなるかもしれないピンチに陥っている。



 何度もいうが、それを防ぐ手立ては……。



「敵USM弾着まで1分切りました! 未だに撃墜できず!」


 とうとう1分もきった。ここまでくれば近接火器もとにかく撃ちまくっていくしかないが、もちろん無駄足に終わるのは目に見えている。


 ……もう、状況は絶望的だった。




「(……だれでもいい。誰か……、誰か何とかしてくれ……)」




 私は誰に当てるまでもなくそう願った。届くはずもないのに。

 もう無理だと思った。


 そう……、




 ほぼ完全に諦めたときである。




「……ッ! し、司令! 本艦右舷後方より急速で接近する艦影1捕捉。味方です」


「艦影……?」


 こんなときに誰だ? ここに突撃などと……。


「どこの艦だ? 我が国か? 日本か?」


「えっと……、ッ! に、日本のです。このSIF信号は……」






「日本の、巡洋艦やまとです」






「やまとだと……?」


 やまとがこっちに突っ込んでくる? 何をする気だ?


 こんなときに突っ込んでいたら、へたすればそのまま今こっちにきている敵USMに誤射が……。


 ……うん?


「(……誤射?)」


 と、そのときだった。


「……ッ!? ま、まさかッ!?」


 私は、彼らが何をしようとしているのか一瞬で察することが出来た。

 やまとしかできない、あの芸当だ。

 この状況から見ても、これは明らかに……。


「おい、やまとが本艦の右舷真横に着くまで後どれくらいだ?」


「? えっと……、あと55秒です」


「55秒……、やっぱり……」


 やはりだ。この時間、一致する。


 ……だが、いくらなんでも危険すぎだ。場所が悪ければ、いくらやまとは装甲が搭載されているとはいえ、これはリスクが高すぎる。

 これは、ある意味で“大博打”もいいところだ。


 私はすぐに指示を出した。


「やまとに無線をつなげ! 今すぐだ!」


「は、はい!」


 部下にそう命令すると、すぐにやまとと無線が繋がった。

 向こうでは艦長に受け渡すらしく、CICに繋がった。


『……こちら、日本国防海軍巡洋艦“やまと”艦長、織田です。どうぞ』


「織田大佐……。やはり、艦長はあなたでしたか」


 私は数ヶ月以来の友人の声を聞いて少しホッとした。


 彼とは数ヶ月前の、日台軍事演習であって以来だった。日台乗員交流で私がやまとに乗艦したとき、すっかり意気投合してしまい、そのまま長い時間世間話などで語り合った仲だった。

 それ以前での繋がりはまったくないのだが、中々温厚な方で、彼とはうまく付き合えそうだと思っていたのだ。


 彼も、私の声を聞いて懐かしむように言った。


『お久しぶりですな、ワン中将。数ヶ月前の日台演習以来でありますかな?』


「ええ……。それより、今あなた方……」


『はい……。おそらく、洞察力に優れたあなたならすぐにわかったと思います』


 そのときの声は少し低かった。すでに、何かの覚悟を決めた声だった。


 ……やはり、彼らは……。


「……あなた方、まさか……、」









「やまとの装甲を使い、“本艦の盾になる”おつもりですか?」








『……さすがですな。左様です』


「ッ……!」


 やはり……、私の思ったとおりだった。

 やまとには、現代軍艦には珍しい重装甲な巡洋艦であり、そのため大型化かつ重排水量化した艦なのだが、その代わり被弾時の防御力には定評がある。廃棄予定のタンカーを使った装甲耐久力試験での実験では、日本が保有する超音速空対艦ミサイル『ASM-3』を最大速度領域に達したところでぶち当てても2,3発貫通せず耐えたという記録が出ている。

 しかし、まあそうなるとさすがに重量超過になるのでいくらかは削いだみたいだが、それでもそのおかげで艦自体の防御力は一級品だ。

 あの敵USMはM0,2にすら届かない超鈍足。今の対艦ミサイルの攻撃力は自分の高速度による威力も視野に入れて全体の攻撃力を計算しているので、いくらがんばっても今の速度では大きな効果は期待できない。……もちろん、それでも1発当たっただけで戦闘が出来なくなるのには変わりはないのだが。

 しかし、やまとの場合は装甲を持ち合わせてる関係で今の速度なら簡単に装甲を使って跳ね返すことができるかもしれない。超音速に耐えれて超鈍足に耐えれないなんてことはないはずだ。

 幸いなことに今の波は穏やかだ。敵USMもしっかり超低空を行くだろうし、やまとの艦自体もそれほど波に煽られず、艦の横っ腹の位置を安定させることができるだろう。ぶち当てることは今の自然条件的にも十分可能だった。


 ……だが、しかしそれは危険な賭けでもある。

 あくまで、それは装甲が一番厚く張り巡らされている艦腹、つまり喫水線から甲板面の下の横っ腹に当たった場合のことで、それ以外は装甲はあれど艦腹ほど厚くはない。

 それに、昔とは違って少しでも失えば大きな痛手となる電子装備や兵装はものの見事に外に野ざらし、ないし艦内に入れてても対被弾防備がなされていないものが多い。そして、一番の艦橋にも、さすがに装甲はあれどやはり艦腹ほどでない。

 そこにぶち当たれば、少なくとも、一番のとりえの和製イージスをつかさどるFCSレーダーは使えなくなるのは確実だ。それは、イージス艦の一番のとりえを失うことになる。一番の主役の味噌が入ってない味噌汁のような状態だ。そんなの、ただのお湯だろう。それとおんなじだ。


 ……危険性が高すぎる。確かに、今我々が持っている現状の迎撃手段が使えないとなれば、最悪の手段でそれを使うしかない。そして、それが唯一、かつ効果的な方法ではある。


 だが……、そこまでの危険を冒してほしくはなかった。


 いくらなんでもそれはリスクが高すぎる。確かに旗艦を守るという重要事項は達成できるだろうが、それでやまとが機能不全に陥ったらある意味では一番の痛手になってしまうのは明らかだ。




 これこそ、まさに“ハイリスクハイリターン”のやり方だ。




 しかし、織田大佐はそんな私の思惑にはかまわず話を続けた。


『ここであなた方を失うどころか、傷つけることすら許せる状況ではないのでね……。ご安心ください。ここは、我々が身をもって盾になってでもあなた方を守り通して見せます』


「な……ッ!?」


 もう、艦長の言葉から“盾”という言葉が出た。

 その瞬間、FIC内が大いにざわついたと同時に、私は思わず無線で叫んでしまった。


「ば、バカな真似はよしてください織田大佐! いくらなんでもこれは危険すぎる!」


『ですが、あなた方が旗艦としての機能を失うほうがよっぽど危険です。いつこの大混戦が終わるのかわからない今、どちらのほうを優先させるかは、司令官であるあなたならすぐにお分かりいただけると思います』


「そ、それは……」


 確かに、優先順位なんてわかりきっている。

 私の中でも、答えは出ている。


 どっちを守るべきか……、それは、すでに私の答えの中でも出ていたのだ。


『ですから、我々はその同伴艦として、しっかり役目を果たさせていただきます。……日本の生んだ、“友人を守る盾”としてね』


「で、ですが! その結果あなた方が大損害をこうむってしまっては!」


『大丈夫です。“勝算”はあります』


「な、なんですと?」


 勝算だと? この場合の勝利とはいったい何なのだ? 本艦が無事だということか?

 だが、それの結果やまとが攻撃を受けては……。


『まあ、みていてください。必ず、お守りして見せます』


「な、あ、ちょ!」


 すると、無線が切れた。

 その後何度も呼びかけても応答がない。


「無線、やまと側から一方的に切られました!」


「もう一度つなげ! もう一度だ! まだ話は終わっていない!」


「ですが、無線を完全に封鎖しているようです! 呼びかけに応答しません!」


「クソッ……!」


 その間にも、やまとはどんどんと本艦の右舷に突っ込んできている。

 そして、敵USMも本艦の迎撃をかいくぐり、本艦に一直線に向かってきていた。


 その、敵USMとやまと、両者が本艦に到達する時間は、見事に一致している。


 速度も相まって、ほぼ必ずやまとはギリギリ間に合う計算になる。


 ……だが、


「……やまと……、無茶な真似を……ッ!」


 私は目の前のテーブルにおいていた両手の握りこぶしをさらに強く握った。


 やまとが、捨て身で本艦を、いや、“我々を”守るために突撃してきている。

 だが、それに対して何もしてやれない。

 身を挺して守ってくれているのに、何もしてやれなかった。


 これが、どれほど悔しいものか。無力なものか。


 おそらく、この現場を体験している者しかわからないだろう。















「敵USM、射程に入りました!」


「よし……、砲雷長、はじめよう」


「了解……。主砲! 1番修理できたか!」


「ダメコンより報告! 修復完了しました!」


「よし! 主砲1番、2番、撃ちぃー方はじめ!」


「了解! 主砲1番、2番、撃ちぃー方はじめ!」


「CIWS! AAWオート! “例の狙い通り”にな!」


「了解! CIWS、AAWオート」














 ……すると、


「……ッ! やまとから近接火器発砲を確認! 後方カメラの映像出します!」


 すぐにFICのメインモニターにその映像が出される。

 本艦の格納庫上に乗せられているカメラは、若干右舷側を向いていた。


 そこには、本艦の右舷に向けて突撃してくるやまとの姿をしっかりと捉えていた。


 明らかに最大戦速を出している。波しぶきも高い。


 さすがは大出力の次世代新型水素燃料推進のエンジンを搭載しただけあある。速度は見るからに35ノット越えだ。


 そして、見える範囲ではまず前甲板の主砲2基と、艦橋前に供えられているらしい20mmCIWSが火を噴いている。さらに、CIWSの弾道が例の艦橋前の右舷側にあるもの以外にもあることから、おそらく右舷と、格納庫上に置かれているものも発砲しているに違いない。

 やまとの持ての対空能力をすべて使った、本気での対空戦闘の真っ最中だ。


「……奴ら、本気だ……」


 そして同時に、私はそう確信した。

 速度が速いということは、これをやることに躊躇がないということだ。


 彼らの、本気の高さが伺える。


 ……さらに、


「ダメだ……、迎撃がまるで当たってない……」


 隣の部下がそういった。

 艦橋上カメラが捉えている敵USMの拡大映像では、やまとの放った迎撃弾をすべてかわしている。

 得意の高機動で、まるですべてお見通しかの如く綺麗に避けまくっていた。


「やはり……、やまとの対空能力を持ってしても無理か……」


 隣にいたほかの部下がそういったが……、


「……いや、違う」


「え?」


 私は彼等の本当の狙いを見抜いていた。

 もう、通常の迎撃が聞かないことは承知のはずだ。今さら撃ち始めたって意味はないことは、誰でない彼らが承知しているはずだ。

 ……これは、迎撃のためじゃない。


「……やまとは、」






「“わざと”、外しているんだ」





「……え? わざと?」


「ああ……。敵USMをよくみてみろ」


「? ……あ」


 すると、周りも気づき始めた。


 そう。やまとが放った迎撃弾は、すべて“敵USMの少し前方の少し上方を通過”している。

 それによって、敵USMはそれをかわすためにわざわざさらに下にもぐりこみ、そしてさらなる減速を始めた。

 もうM0,1くらいしかない。ここまでの超低速度でよく落ちないものだ。

 そして、その最終的な飛翔高度はもう十数メートルもない。

 ……いや、もはや海面ギリギリだ。文字通り、海面ギリギリを飛んでいる。



 ……これは、すべて“やまとの計算の内”なのだ。



「……やまとは、わざと迎撃弾を外している。しかし、ただ外しているんじゃない。自分達の横っ腹にぶち当たるように、“敵USMにより低空に、かつより低速度で飛翔するよう促している”のだ」


「ッ……! そ、そういうことか……」


 周りが納得し始めた。


 すべて、やまとは狙っているんだ。


 すべては、自分達が文字通り“盾”になるために。


 すべては、我が艦を守るために。



 自らを犠牲にしても、本艦を最悪の敵の間の手から守るために。




 やまとは、体を張るために打てる手段をすべて出しまくっているのだ。




「敵USM弾着まで後30秒! やまと右舷到達とほぼ同着です!」


「クッ……、我々は、このまま見ているしかないのか……ッ!」


 我々はイージス艦なのに。イージス艦の乗員なのに。

 盾が、盾に守られるなどなんの悪質なジョークだ。


 ……クソッ……、




「……やまと……ッ!」




 私は何も出来ない自分をけなしながら、モニターに映っている全速航行で対空火器をぶっ放しまくっているやまとをみた……。

















―艦橋上―








「……もう、どうしようもないじゃない……」


 私は艦橋上で立ち尽くしていた。

 勝手に避ける敵USMを目の前に、こっちの迎撃が聞かず、ただただ呆然と立ち尽くしているしかなかった。


 もう、今の私で迎撃は不可能だった。


 これ以上の抗いは無駄だった。



 私は、これまでの人生、いや、艦生で経験しなかった絶望のふちに立たされていた。



「……クッ……」


 私は覚悟を決めるしかなかった。

 これ以上は無理だ。いくら私が最新鋭のイージス艦といっても、避けられたらなすすべがない。


 私に残された反抗の手段は、もう残っていなかった。


「(……もう、ダメか……ッ!)」


 私がそう諦めかけた。





 まさに、そのときだった。










“丹陽さん! 大丈夫ですか!? 今助けます!”










「……え?」


 どこからともなく声が聞こえた。

 私は思わずそうつぶやくが、声の主はすぐにわかった。


 ……この声は、間違いない。


「……やまとさん?」


 日本の、最新鋭の巡洋艦であり同じ最新鋭仲間であるやまとさんだった。


 いきなり叫ばれて、一瞬どういうことかわからなかったけど、すぐに声が聞こえたらしい方向をみる。


 ……しかし、


「……え、ええ!? やまとさん何してるんですか!?」


 私は彼女のしている行動に思わず驚愕の叫びを出さざるを得なかった。



 彼女は、私の右舷後方から明らかに最大戦速を出しているであろう速度で私の右舷側のスペースに向けて突っ込んできていたのだ。



“そこから今やってる直進以外余計に動かないで! 今私が助けるから!”


「いや、助けるっていったい何を……、ッ!」


 そのとき、私は一瞬あることを想像してすぐさま敵USMの位置を再度確認した。

 私の右舷真横から突っ込んできている。速度はさらに落ちてM0,1という超低速度。しかし、避けまくる。

 そして、さらにやまとさんを見た。

 速度と、そして私の右舷スペースまでの距離。そこからはじき出される時間は……。



 ……まさかと思った。



「……や、やまとさん、まさか!?」


“……察しがいいですね。そのとおりです。今から、”








“敵から、あなたを守るために盾になります! 文字通りの意味で!”








「なッ!? そ、そんな! 危険です!」


 やっぱり、思ったとおりだった。


 でも、これの危険性を知らないはずがない。やまとさん自身が一番わかっているはず。

 本気なの? これをしたら最悪……。


 ……そう考えると、私は思わず震えが止まらなかった。


 しかし、やまとさんはそんな私にはかまわず言った。


“大丈夫。……これくらいで、簡単には沈まないから”


「で、ですが! それでも当たり所によっては!」


“私を何だと思ってるんです? ……装甲付きのしがない巡洋艦ですよ。横っ腹に当たるように仕向ければ、少なくとも沈みはしないし、うまくいけば戦闘すら可能です!”


「で、でも! それはうまく言ったときの話ですよね!? 失敗したらどうするんですか!?」


“その点は任せて……。これくらい、簡単にやれる。横っ腹にぶち当てるのなんて造作ないですよ”


「で、でも……」


 それでも、つまりそれはもう自ら被弾することは確定済みだということ。

 いや、もうそのつもりで突っ込んできてるんだろうけど、でも、それでも彼女はそれでいいのか?


 被弾って……、そう簡単にことが済むものではないはず。


「……自ら被弾しにいくんですよ? 怖くないんですか?」


“……”


 かすかに見えるやまとさんの表情が暗くなった。

 当たり前だ。被弾が怖くない艦なんてない。被弾こそ、自分達艦の命が失われる最大の恐怖なのだ。


 それは、どの艦にも共通して言える。例外はない。


 でも、それでもやまとさんは「ふっ」と少し肩の力を抜きつつ笑うと、私に向けて静かに言った。


“……怖くない、なんていったらうそになります。そりゃ怖いですよ。怖くないわけありません”


「では、なぜこんなことを? いくら乗員の指示とはいえ、そう簡単に受け止めれることでは……」


 すると、少し一息ため息をついていった。


“……それでも、私は守りたいんです。前世で、守りたいものを守れなかった。守ろうとしても、あのときの私じゃ力不足だったんです”


「ッ……前世……」


 確か、かの有名な戦艦大和の最後は……。


 ……何もこれといった戦果を出せず、最終的には沖縄特攻で沈んだ。世界最強と謳われた性能上右に出るものはないといわれていた戦艦の最後として、これほどの悲劇はないと、今現世でのその道の専門家の間ではそういわれている。


 ……守りたくても、守れなかった。



 その一言に、やまとさんがあの時どれほど悔しい思いをしたかがわかると思う。



“……でも、今の私には、何かを守るための力がある。そして、そんな私を最大限の力を出させてくれる、操ってくれる、“最高の”乗員がいる。……私は、今度こそ守りたいんです。私が決めた……”







“守るべきものを。……今の場合は、丹陽さん、あなたのことですよ”







「ッ……! 私を……、守る?」


“ええ……。日本が誇る盾として、私はあなたを守りたいんです。大切な“親友”が、傷つけられるのはもうこれ以上見たくないんですよ”


「……親友? 私が?」


“他に誰がいるんですか?”


「ッ……!」


 親友。

 そういってくれたのはやまとさんが初めてだった。

 純粋にうれしかった。そこまで私のことを認めてくれたことが、本当にうれしかった。


 ……だけど、


「……でも、私だってやまとさんが傷つくところなんて……、私……ッ!」


 私は思わず涙がでそうになるが何とかこらえる。

 そう。私も見たくなかった。私の憧れの対象である、やまとさんがよりにもよって私なんかをかばうために傷つくなんて、私は見たくなかった。


 やまとさんには……、やまとさんには……ッ!


“……そんな涙声にならないでください丹陽さん。大丈夫です。そう簡単にやられるほど私はもろくありませんって”


「で、ですが……ッ!」


“それに……”


「?」


 一言クスッと笑うと、彼女は軽く笑みを浮かべていった。








“……私、痛い思いするのには慣れてますから”








 その言葉には、一切の恐怖が感じられなかった。

 もう、この後起こることすべてを受け入れる覚悟を決めたときの顔と声だった。


「……慣れてるって……」


 おそらく、これは前世になぞらえたもの。

 特に沖縄特攻では、米軍からこれでもかというほどの猛攻撃を受けた。いや、猛攻撃という言葉ではすまないほどの熾烈なものだったはずだ。

 それを経験した彼女だからこそいえる言葉。だけど、今の私にとっては残念ながら安心するには少し効果が小さかった。


“……もうすぐ来ます。対空火器、後はこっちに任せてください”


「ッ!」


 気がつくと、やまとさんはすでに私のすぐ近くにいた。

 この時点で残り10秒をちょうど切っていた。敵USMがもうすぐそこにまで迫っている。


 そして、やまとさんはその敵USMと私の間に割って入ってこようとしている。それも、対空火器をぶっ放しつつ全速力で。


「や、やまとさん!」


“いきますよ! 私の無事祈っててくださいね!”


「で、でも!」


“大丈夫です。ここまできたら、最新鋭の名にかけて意地でも受け止めますから!”


「ッ……!」


 もう、私からはとめようがない。

 やまとさんが私の右舷にこようとしている。敵USMも、まさに私に直撃しようとしていた。

 2発とも健在。しかし、やまとさんの思惑通り、敵USMは最初よりさらに速度を落とし、より低高度を飛んでいた。明らかに、艦の横っ腹に直撃するコースだった。


「……あ、あたる……」


 私は直感した。これは、間違いなく“思惑通りのところに”あたると。


 ちょうどそのとき、やまとさんが私の右舷側に進入し始めた。















「敵USM直撃7秒!」


「新澤! 針路固定! 何があってもそのままこらえろ!」


「了解! お任せを!」


「来るぞ! 総員衝撃に備え!」


「敵弾来ます!」


「よーし……、針路、速度そのまま!」







「突っこめぇぇぇぇぇえええええ!!!!!」


















「敵USM! やまとにあたります!」


「やめろやまと! 止まるんだ!!」


「ダメです司令! 間に合いません! 弾着します!」


「ッ! そ、そんな! やまとぉ!!」



















“ちょ、やまと! 待って! なにやってるの! 早く止まって!”


“ちょ、あんたの親友何やってんの!? 全速力で突っ込んでってるわよ!?”


“盾になる気だぜこんごうさん! あれは明らかにそうだ!”


“そ、そんな! 無茶よやまと! 止まりなさい!”

















「おいおいおいおい! やまとがそのまま突っ込んでくぞ!?」


「さっきまで戦ってたのにいきなり突っ走りだしたと思ったら、まさかこれのためか……!?」


「バカな!? このままじゃミサイルが横っ腹にぶち当たるぞ!? 正気か!?」


「味方のUSMを視認! やまとにあたります!」


「盾にでもなるつもりか!? 無茶なことを!!」
















“やまとさん!? いくらなんでも無理ですって! 今すぐ止まってください! ……ダメだ……、聞こえてない……。さっきまで戦ってた相手に対してこんな風に叫ぶなんて……”

















「やまとさん! もうあたります! やまとさん!」


 私は思わずそう叫んだ。気がつけば、そう叫んでいた。


 もう、間に合わないことはわかっていた。


 でも、とにかく叫ばずにはいられなかった。


 しかし、もう意思は固めたやまとさんに、その声が届くはずもない。


 敵USMが弾着する。まさに、その直前だった。







 敵USMと私の視線の間に、やまとさんの船体が高速で割って入り込んできた。







 ……そして、















「……ッ!! やまとさん!!!」



















 その敵USMは、そのまま針路上に立ちふさがったやまとさんの船体にぶち当たり、



 二連続で大きな轟音を周囲に放ちつつ、2つの大きな火炎と煙を立ち上がらせた…………

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