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『やまと』 ~戦乙女との現代戦争奮戦記~  作者: Sky Aviation
第8章 ~日台vs中最終決戦! 敵本拠地高雄市陸海空軍総力戦!~
125/168

〔F:Mission 28〕高雄沖海戦『海上の大乱闘』 ⑥ 無差別攻撃

―TST:14:02 同海域 DCGやまとCIC―








「小型目標探知! USMです! 敵潜からUSMが放たれました!」


 そう俺は報告するも、それと同時に俺は信じられない心境でそのレーダー情報が表示されているディスプレイを凝視していた。


 大混戦の中まさか対艦ミサイルというかUSMを放つとは。奴ら相当冷酷な思想を持っているようだな。

 明らかに友軍誤射が起こるであろう状況だし、俺たちも「さすがにこうなれば攻撃できんだろうグフフ」とか思っていたが、どうやらそれは甘かったらしい。

 ……そうだよ。相手は共産党だったよ。あの人命軽視で名高い共産党だったよ。

 そりゃこんな状況にもなろうが問答無用だわな。


 そばにいた艦長が顔をしかめつつ言った。


「……どうやら、何としてでも私たちをつぶしたいらしいな」


「……みたいですな」


 隣にいた砲雷長が答えた。

 その手段がこれである。まったく鬼畜としか言いようがないんですがそれは。


「まあいい。とにかく、すぐに迎撃に入る。USMの情報を」


 艦長の指示通りすぐに情報を提供する。


「はい。敵USM、本艦基準で右舷90度、方位3-0-0より複数接近。弾種YJ-82。数13。距離30海里マイル。本艦に対する目標は4確認。まっすぐ突っ込んでくる」


「30海里……、目標の速度は?」


「すべて同速度。M0,8」


「M0,9……。って、あと3分もしないうちに弾着するぞ」


 すばやく弾着計算した砲雷長がそういった。

 残り時間3分……。結構近いところからきたし、今頃対潜部隊がその発射源の敵潜を狩にいってるはずだから、とりあえずこれをしのげればこっちのもんだ。

 与えられた時間は少ないが、とにかくやるしかない。

 ……というか、そもそもの問題よくそんな近くまで接近してて見つからなかったもんだな。大体30海里って相当な近距離。簡単に見つけられそうなものだが、向こうの潜水艦の性能も高いってことか。


「電子戦担当艦からECM展開確認。……ッ! 墜落目標、見当たりません」


 電子戦担当がすぐに妨害電波を発するが、どうやら今回はそれは効果がなかったようだ。

 仕方ない。なら、物理的に落とすまでだな。むしろ、こっちのほうが得意だったりするが。


「SM-6は使えません。個艦防衛用のESSMの使用を具申します」


 俺がそう提言すると、砲雷長もそれを了承した。


「そうだな。ダメコン、VLS装置はどうか? さっきの競り合いで不具合等は?」


「大丈夫です。少し発射管制機器に不具合がありましたが、誤差の範囲内です。修復はすべて完了しました」


「よし。前部VLS1番、3番開放。各セル2発ずつ放て。ESSM発射準備。目標諸元入力」


「了解。前部VLS1番、3番開放。各セル発射弾数2発。目標諸元入力開始」


「艦橋CIC、敵艦からある程度離れてくれ。敵主砲の最低砲戦距離内で、かつ敵艦とぶつからないようにだ」


『艦橋了解。……といっても、この情報を与えたのは向こうですからたぶんやってこないでしょうがね』


「確かにな。だが、念のためだ。距離を適度に保て」


『了解』


 敵から放たれたミサイルは全部で4発。

 各セルから2発放てばこっちのものだ。

 なに、相手の速度はたったのM0,8。やまとの相手じゃない。


 同時に、敵艦とある程度距離を置く。

 完全に離れると敵艦からの主砲が撃たれてVLSに当たったりしそうで怖いから思いっきりは離れない。しかし、かといって近すぎるとまたさっきみたいに体当たりされてVLSからの対空ミサイル発射に支障をきたす可能性もある。ここは適度に。

 すると、艦が少し前進した。速度が上がっていくように体が横に持っていかれるとともに、エンジン音も少し唸りが上がったように聞こえた。

 ……なるほど。右にいる敵を巻き込まないための配慮か。少し前進して前甲板のVLSが敵主砲からみて死角になるようにしつつ、かつ適度な距離を保つ。

 ……でもここまで来たならそのまま離れていい気もするが、やっぱり機関の修理がまだ終わってないのか。増速もすぐに止まったようだった。


 さらに、VLSもすぐに開放された。

 ふたが開き、ディスプレイに表示されているVLSの1番と3番の2区画分が発射可能を示す緑色に変わる。

 スタンバイ完了。では、はじめますか。


「各VLS開放確認。ESSM諸元入力完了」


 それを聞いた艦長がすぐさまゴーサインを出し、指示を砲雷長に受け継いだ。


「右対空戦闘、CIC指示の目標、ESSM撃ち方はじめ」


 すぐさま砲雷長も反応する。


目標番号トラックナンバー3004サンマルマルヨン3007サンマルマルナナ、ESSM撃ち方はじめ!」


「ESSM、撃ち方はじめ!」


 火器管制担当がすぐさま発射ボタンとタップした。

 その瞬間、少し重苦しくも鈍い発射音が4回連続で鳴り響くとともに、それぞれで目標を指定されたESSMが空を鋭い機動で飛び上がって飛んでいった。


 レーダー上にも今放ったESSMが友軍飛翔体として青いアイコンで表示される。


 それは赤く表示され、こっちに向かって突っ込んできている敵USM4発の元に一直線に向かっていった。

 誘導は順調。もはや何度もやったからなれたものだ。


 艦長はそれを見つつ、さらに言った。


「沖瀬君、敵潜の撃退の状況はどうかね? データリンクがきているはずだ。それで確認してくれ」


「了解」


 このUSMを放った元凶。敵潜の攻撃状況をデータリンクで確認する。

 今頃対潜ヘリが向かっているはずだ。あの近くにいたのは確か日本側が保有するSH-60K・KRシーホークだったはずだ。

 彼らがすぐにフルボッコにしてくれるだろうが、さて、どんな状況だ?


「データリンク確認。……よし、どうやら敵潜を確認できたようです。発射ポイントと思われるUSM探知点の近くのエリアに複数の友軍対潜ヘリが集結。魚雷攻撃を行なっている旨の情報が来ています」


「よし……。見つけれれば即行で対処できる。もう、USM攻撃は大丈夫だろう」


 艦長がホッと胸をなでおろした。


 その間にも敵USMはESSMに自ら突っ込むかのようにそのままの針路で突撃してきていた。

 もう少しでESSMが弾着する。カウントも始まった。


「弾着5秒。……4、……3、スタンバイ………、マークインターセプト」


 ESSMと敵USMが重なる。

 その瞬間、一気に敵USMがESSMとともに反応が消えた。


 お見事である。全弾撃墜だった。


「目標、全弾撃墜確認」


「よし……、後は、他の艦のものだが……」


 そういいつつ艦長はレーダーを見る。

 俺たちもそれを見たが……、


「……他のものももうすぐ迎撃できるな。全体の数も少ないし、これなら迎撃も難しくないだろう」


「ええ。どれもしっかり誘導されています。まず、外しはしないでしょうね」


 艦長の一言に砲雷長も答えた。

 他の被目標艦となった艦は各々でESSMを撃って迎撃に当たっていたが、今回は数が少なく、機動も単純、かつ速度もすこぶる遅いことから、完全な迎撃は難しくない状況といえる。さっきからシースキミング機動を始めたが、それによってまた速度が落ちてもうその速度はM0,5。たったの時速600km。いや、もうそれより遅いかもしれない。遅すぎワロス。


 これくらい簡単に迎撃できる。できない艦とか今現代にありません。


「他艦からのESSM、まもなく弾着します」


 ディスプレイに表示されたレーダー情報を見つつそういった。

 まもなく、弾着する。一番敵USMに近いESSMが弾着をしようとした……。




 まさに、そのときだった。




「……?」


 その狙われていた敵USMに動きがあった。

 これ……、ッ!? え!? マジ!?


「……よ、」







「避けてる!?」







 その叫びとともに、ESSMは弾着……、じゃない。




 “着水”した。海面に。



「ッ! 敵USM、迎撃失敗! 勝手に避けました!」


「はぁ!? 勝手に避けるって、そんなはずあるか! なんかの間違いだろ!?」


 砲雷長が俺の報告に思わずそう聞き返すが、俺はそれを否定した。


「間違いありません! 弾着直前に一瞬敵USMのアイコンがずれました。これは明らかにESSMの飛来を予期していたかのような動きです。間違いなく、勝手に避けてます!」


「んなアホな!? 勝手に避ける対艦ミサイルなんて聞いたことないぞ!?」


「敵対艦ミサイルさらに減速。速度M0,3! ……ッ! 他の敵USMの一部も同じ仕様のようです! 迎撃に失敗したものすべてが同じく避けた形跡があります!」


「な……ッ!?」


 砲雷長は唖然とした。となりにいた艦長も、信じられないような目つきでディスプレイを凝視している。


 しかし、それは事実だった。


 今この時点で、味方から放たれたESSMのすべてがその迎撃の任を終えた。しかし、一部は生き残っている。その数、5を数える。

 そして、その敵USMのすべてに共通しているのが、“弾着直前に少しずれている”ことだ。

 つまり、“迎撃される直前に若干回避機動を取った”形跡がある。

 それはすなわち……、





 本来USMに限らず、この世のすべての対艦ミサイルに搭載されていないはずの、“迎撃対象を回避する機能”が付与されていることになる。





「(……なんだよそれ……、いくらなんでもそんなの反則だろ!?)」


 迎撃のためのミサイルを避けられたらもうこっちとてどうしようもない。

 この時点ですでに弾着1分を切った。すぐに、味方艦からは今度は主砲などの近接火器での迎撃が行なわれるが、それすら当たる気配がない。

 ……ミサイルだけでなく、近接火器ですら避ける? じゃあもう迎撃のしようがないじゃねえか!


 ……それだけじゃない。


「……おいおい、この3つ、この台湾フリゲートを狙ってるんだろうけど、その射線の途中に中国フリゲートいるぞ?」


「あ……ほんとだ。これじゃ当たりますね」


 砲雷長が小型のレーザーポインターで所々を指しながらそういった。

 確かに、飛翔している敵USMのうち3発はその目標であろう台湾フリゲートを狙っているらしいコースを取っていたが、その間には運の悪いことに自分達の味方の中国フリゲート艦が飛翔針路をふさぐようにいた。

 被目標とされている台湾フリゲートは康定級の『康定』『昆明』『迪化』の3隻で、その敵USMとの間にいる運の悪い中国フリゲートは江衛II型の『宜昌ぎしょう』、江滬V型の『東莞とうかん』と『江門えもん』だった。

 中国フリゲートに関しては、この3隻はどれも先の津波回避が間に合わなかった関係で動きが鈍くなっている。

 おまけに、それの延長線上で対空火器も思うように作動しなくなっており、戦闘が思うように逝かない状況だった。

 他の被目標艦2隻はそれぞれ日本艦と台湾艦で、むらさめ型『いかづち』と康定級『西寧』だった。


 ……これ、どっちかっていうと自分の味方に与える被害のほうが大きくね?


 しかし、そんなことを考えてる暇はなかった。


 砲雷長が「クソッ」とはき捨てつつさらに言った。


「迎撃はできないのか!? たかがM0,3の鈍足だぞ!?」


「さらに落ちましたよ! さらに低空に下りたようで、今現在速度最高のでもM0,2弱です!」


「M0,2って、たったの時速240kmかよ! もはやがんばれば手動でも落とせるんじゃねえか!?」


「いや、それはさすがに無理でしょ……」


 時速240kmをなんだと思ってるんだこの人は。


「しかし、その代わり迎撃弾を回避しまくっています。速度を大きく犠牲にした代わりに、その回避能力に大きくステータス割り振った新型のタイプでは?」


「……なるほど。いつどきかの超々音速対艦ミサイルのやつの逆タイプか」


 艦長が思い出したように言った。

 なるほどね。あれはとにかくスピードを出しまくって迎撃ミサイルや迎撃砲弾を置いてけぼりにしたが、今回はその逆か。スピードがクソ遅い代わりに機動性が高くなって迎撃ミサイルや迎撃砲弾を避けて避けて避けまくるタイプのものなのか。


 ……ある意味その超々音速のやつよりたちが悪いじゃねえか。あっちはまだまぐれ当たり期待できたけど、こっちはそうも行かない。




 いろいろと、ある種の希望が絶たれてる。




「……ッ!」


 すると、今度は“中国側で”動きがあった。


「例の被目標艦に突撃する敵USMの針路上にいる中国艦3隻から対空火器の発砲を確認。おそらく、一時的にデータリンクを切って保身に動いたものかと」


「ふむ……、まあ、当然だろう。自分達は思うように動けず、明らかにぶち当たるのは確実だからな」


 艦長が言った。

 この大混戦だ。近くには敵味方が大量に入り乱れ、思うように動くことも出来ない。

 いや、たとえスペースがあったとしても、自分達自身が思うように動けず、ものすごいノロノロ航行を強いられている現状、やっぱりたとえ味方の放った対艦ミサイルとはいえ迎撃に乗り出すのは必然といえる。……いや、ある意味“味方の対艦ミサイルだからこそ”保身に乗り出したともいえる。さすがにいくら状況が状況とはいえこんなときに“友軍誤射ブルー・オン・ブルー”なんてされたら笑い話にもならない。


 しかし、そうはいっても状況が変わることはなかった。


 相変わらず自分に向けられる迎撃兵器をすべて回避しまくる上、そもそもの問題さっきも言ったようにこの3隻は先の津波回避が間に合わなかった影響で戦闘能力が大きく落ちている。それは、対空戦闘能力も例外ではないはずだ。

 現に、この3隻から放たれる対空ミサイルやRAM、対空砲弾の数は少ないとの結果がでている。3隻の動きを計算した結果がこのディスプレイに表示されるようになっているが、この艦がそういってるんだ。状況をかんがみても間違いないだろう。


「敵USM、第1弾が弾着します! 迎撃間に合いません!」


 その報告と、敵USMが目標とした艦に命中するのとほとんどタイミングが同じだった。


 日台中5隻の軍艦に敵USMが命中。すべての艦のアイコンが命中を示す点滅表示に変わった。




 敵USMが命中した。“敵味方双方の艦に”。




「敵弾命中! 5隻にぶち当たりました!」


「クソッ! やはり迎撃は出来なかったか……」


 砲雷長が悔しそうに顔を引きつらせて目の前のテーブルに載せている両手を握り締めた。

 隣にいた艦長も少し顔をしかめ、顔がひきつって白い歯を少し見せたが、さらに冷静に指示を出す。


「艦橋CIC、被弾艦の被害を確認しろ。急げ」
















―艦橋―






「……なんだよこれ……」


 俺はいろんな意味で唖然としてその場に立ち尽くした。

 敵のUSMがアホな低速度とアホな機動で敵の迎撃手段をものの見事に全部回避しまくったが、まずあんな速度でミサイルって飛べるもんなのか?

 対艦ミサイルってそれそのものが重いイメージがあるから、あんまり速度が遅いと勝手に落ちそうなイメージがあるんだが……、偏見なのか? それとも向こうがそれの対策したのか? 俺にはわからない。


 ……が、一番驚いたのはそっちでなくて……、



「……あいつら、本気で味方にも傷付けやがった……」



 少し怒りも含めてそうつぶやいた。

 この攻撃、命中した計5発のうち3発は自分達の味方であるはずの中国艦だった。

 しかも、先の津波被害を受けてすでに手負い状態のやつだ。

 出来るわけがないだろうが、味方艦が目の前にいるというのに敵味方識別すら作動しなかった。いや、そもそもこんな状況で撃つことを想定しているはずがない対艦ミサイルにそんな機能があるかわからないが、でもどっちにしろ味方まで巻き込んだ。何の躊躇もなく、“問答無用”だ。


 ……イカれてる。こんなの、いくら相手が敵とはいえあんまりだ。


 ここからでも何とか視認できる距離と位置にいたが、この5隻全部から火災が発生していた。一部は傾いている。しかし、速度が思いっきり遅かった関係か、それほど本気で沈むようには見えない。


 ……それに、







“ちょ、いかづち!? 大丈夫!?”


“へ、へーき……、でも、もう私無理……”


“え!? まさか沈まないよね!? まさかね!?”


“いや、さすがにあんなので沈まないよ……。威力が思ったより小さかったし”


“ふ、ふ~……、よかったぁ……”


“あといなづまお姉ちゃん”


“ん? なに?”


“……声、うるさい”


“……すいません”









 本人がそういってんだからまあ問題ないよね。

 まあ、対艦ミサイルって自分の速度によって出せる威力に頼ってるところもあるからね。まあ、あながち予測できないことでもない。


「チッ……、奴ら、なんつうもん持ち出しだしてきやがったんだ。全部避けるとか……」


 副長がまさに鬼面とも言える面持ちを保ちつつはき捨てるように言う。

 ……というか、副長この攻撃が行なわれると知ったあたりからずっとこの調子だ。もうブチキレ通り越して何かが発狂寸前だ。うん。


 しかし、副長の言ったことはもっともだ


 敵がこんな無理ゲーな兵器を持ち出してくるとは……。

 どんな仕組みだ? 自らアクティブに放つ電波の反射を基にしてそのミサイルや砲弾の飛翔コースを読んだか? いや、しかしこれだとある意味ミサイルより早く来る主砲弾は避けきれない。となると、これに加えてパッシブタイプの電波受信機も備え、艦側からくる誘導電波を頼りにしているのか? ……よくはわからんが、しかし相当ヤバイ技術が使われているのは確かだ。


 とにかく、副長はその鬼面を保ちつつ苛立ちを表に出しながら指示をだした。


「被害を報告させろ! 急げ!」


「了解」


 すぐに被弾艦の被害を確認する。

 いつぞやの超々音速のやつとは違って、どこも無線自体は生きていたようで、返答はすぐに来た。


 その報告をまとめると、どうやらどの艦も沈むことはなさそうで、まず『いなづま』は右舷の横っ腹にぶち当てられ、少し大きめの破口が開き、少しだが浸水被害が発生したが、隔壁閉鎖や賢明の排水作業が功を奏し、何とか傾斜の復元には成功。しかし、これ以上の自力での航行はさすがに無理とのことだった。

 また、台湾側のフリゲート艦である『西寧』は、『いなづま』よりは少し上の上部建造物にぶち当てられたものの、水線下への影響は最小限にとどめられ、ギリギリ自力での航行は可能。しかし、さすがにこれ以上の戦闘自体は不可能ということだった。

 そして、なぜかある意味で俺自身が一番心配してしまっている中国フリゲートだが、確認できたところではまず沈みそうにはない。中国人らしくしぶとく浮いている。

 しかし、あくまで浮いているだけだ。人間で例えれば意識不明の重体くらいひどい状況だった。

 さすがにこれ以上はまずいからすぐに近くの味方中国艦が横付けになって、まず火災を消しとめようとしているのが確認できる。


 ……と、こうみただけでも被害は甚大だった。どちらかというと、“中国側”が。


「……こりゃひでぇ……」


 思わずそうつぶやいたが、いや、ひどいで済むならまだマシだと思う。

 実際はもっとひどいだろう。まだ確認できていない被害も後々報告されるであろうことを考えると、もう最終的には目も当てられなくなるかもしれない。

 さらに、あくまで今は浮いていても、後々耐えれなくなって沈む可能性もある艦も出てくるかもしれない。いや、というか中国フリゲート3隻がまさにそれだ。

 あの3隻は元から旧式だった上何度も言うように津波に煽られてすでに手負い。そして追い討ちをかけるかのごとくこれだ。しかも、友軍誤射だ。


 ……もう、何と言えばいいのかすらわからない。


「……中国め……、いくらなんでもこんなのあんまりだろ!」


 あの温厚な航海長がこればっかりは憤激して思わず叫び散らした。

 そりゃそうだ。こんな非道なことを見せ付けられたらいくらその被害が敵側にいったとえそりゃキレたくもなる。……いや、実際今リアルタイムでキレている人がすぐそこにいるわけですがね。


 副長も大いに同意した。


「まったくだ……。共産党め、いったい何を考えているんだ?」


 副長はそう疑問を呈したが、すぐにまた思い出したように指示を出した。


「そうだ、対潜部隊は? もう敵潜を沈めたのだろうな?」


 その問いには通信担当の乗員がすぐさま答えた。


「はい。今さっき対潜部隊のSH-60K・KRシーホークから、元凶と思われる敵潜の撃沈を確認したと報告が入りました。もう、大丈夫かと思われます。先ほどCICにも確認したところ、本艦のソナーやデータリンクでも確認できなかったと」


「よし……、とりあえず、これでもう大丈夫だろう」


 副長はホッと胸をなでおろした。


 まあ、元凶が沈んだんならもう大丈夫だな。まさかこれ以上撃ってくるわけはあるまいて。


「よし、とにかく今は現状待機だ。この後敵がどうでてくるか……」


 そういって、続けて新たな指示を出そうとしたときだった。







 俺たちに、思わぬ予想外の報告が飛び込んできた。


 それは、CICからもたらされたものだった。








『……ッ! か、海面から小型飛翔物体探知! ……え、ええ! て、敵のUSMです! 最初とほぼ同地点から新たな敵USM探知!』


「なにッ!?」


 副長が思わず反応した。


 ……は? USM? 第2次攻撃ってことか?


 ……だがちょっと待て。


「(USMって……、もう元凶の敵潜は沈んだはずじゃ?)」


 まさか、新たな敵潜からか? それとも、沈みつつも意地で撃ってきたのか? 

 ほぼ同じポイントからだったみたいだし、そう考えれなくもないが……。


 ……沈みながら撃つって出来るのか? いや、もしかして対潜部隊からの攻撃が当たる直前に撃ったりでもしたのか?


 どういうことかわからないが、しかし俺たちは再びピンチに陥った。


「(……また、あのタイプのUSMが?)」


 一瞬あの新型の存在が俺の頭をよぎった。

 あれがまたでてくるとなると、また被害が拡大する可能性がある。


 だが、どっちにしろ撃沈される直前、ないし直後だったんだ。そう多くは撃てないはずだ。


 頼むから、たとえあっても出来る限り少ない方向で頼む。


 俺はそう必死に願わざるをえなかった。


 副長がCICに確認を取った。返答はすぐに来る。


「本艦を狙っているのではないのか?」


『はい。一応、本艦に対するESMは探知できませんでした。おそらく、他の艦です』


「わかった。迎撃は被目標艦に任せる。しっかり見張っていてくれ」


『了解』


 どうやらこっちは狙っていないようだ。

 しかし、そうなるとこっちからは何も手出しが出来ず、もっぱら被目標艦がこの対空戦闘をすることになるのだが、はたしてどこまでやれるのか。俺は少し不安になった。


 すぐさま艦橋に設けられたモニターに、CICから提供されたレーダー画面と状況解説が表示される。

 どうやら向こうの放ったUSMは5発のようだ。やはり、最初みたいに全力で撃つことはできなかったみたいだな。

 すでにESSMが放たれ、一番近い艦に関しては主砲弾も放たれ始めていた。


 モニターを見た副長がつぶやくように言った。


「迎撃がすでに始まっていたか……。何とかやってくれるといいが……」


 それを聞いた航海長も答える。


「迎撃自体は問題ないが……、問題は、この中にどれくらいさっきのやつが含まれているかだな……」


「ああ……。ないにこしたことはないが、そんな都合よくいくはずもないし……、頼むから極少数であってくれよ……」


 副長がモニターを顔をしかめて凝視しつつそう願った。


 そういっているうちにESSMが弾着。

 ここで3発落ちた。どうやら、これはいわゆる“ハズレ”ってやつだったみたいだな。


 ……で、後方からその先の3発を追いかけている2発にもESSMが襲い掛かる。少し遅れて追いかけてきていた。互いの差は少し離れていたが、ESSMの迎撃の時間だ。


「……さて、こっちはどうかな……」


 副長がそうつぶやくと同時に、ESSMが敵USMと重なった。



 ……が、しかし、



「……ッ!? き、消えない!」





 敵USMのアイコンは消えなかった。ESSMは消えたのに。





「し、しまった! こいつ“アタリ”か!」


 航海長がそう叫ぶと、さらに副長が聞いた。


「クソッ! おいCIC! こいつが狙ってるのはどの艦だ!?」


 聞いても何にもできないのはわかっているが、それでも聞かざるをえなかったのだろう。

 CICもすぐに答えてくれた。


『は、はい! えっと……、ッ!? こ、これは!?』


「どうした!? どこを狙っている!?」


 CICが動揺しているのが聞こえた。艦内無線越しに同様のざわつきがかすかに聞こえてくる。


 俺は別ルートで聞いた。


「おいやまと、あの“アタリのUSM”はどこを狙ってるんだ!? それほどヤバイものか!?」


 しかし、すぐに向こうは答えてくれなかった。いや、正確には答えるのに2秒ほどの時間の間が空いただけなのだが。


“……ま、マズイです……”


 だが、その時間を置いて彼女から発せられた言葉はこれだった。しかし、この一言だけでどれほどヤバイのを狙ったのかが察することが出来る。


「どこだ!? どこを狙ってる!?」


 俺は思わず必死になって聞いたが、向こうはそれでも震え声になって答えた。


 ……そして、




 俺は、その次の言葉に、思わず己の耳を疑うことになる。




“……か、”


「?」






“……艦隊旗艦の……、『丹陽』さんです……”







「なッ!? マジかッ!?」


 俺はまた叫んでしまった。


 同時に、CICからの艦内無線も入った。


『た、大変です! 今敵USMが狙っているのは、我が艦隊旗艦の台湾イージス巡洋艦の『丹陽』です!』


「な、なんだとッ!?」


「バカな!? 本当か!?」


 副長と航海長も驚愕を隠せないようだった。まあ、当たり前だ。

 しかし、艦隊旗艦の『丹陽』さんだと? ま、マズイ! そりゃ確かにマズイ!

 こんなときに艦隊旗艦をやられたら……ッ!


「ま、マズイですよ! こんなときに旗艦を攻撃されたら、我が艦隊の指揮系統に混乱が!」


 一人の乗員が思わずそういったのを、副長は肯定した


「ああ……。ましてやこんな大混戦、旗艦からの的確な指示が必要なこんな状況で旗艦を失えば、たちまち俺たちは混乱してしまう!」


 そうだ。こんな大混戦な状況だからこそ、旗艦が適切な指示を出していかないといけないし、今までもうそうしてきたからこうやって戦ってこれたどころか、中国に対して優勢を保ってきた。

 しかし、ここで旗艦をやられて、その指揮系統の、いわば“司令塔”をうしなってしまえば、たちまち俺たちは混乱の極みに達してしまう。

 他の艦が引き継ごうにも、艦隊旗艦がいたときほどまとめれるとは思えない。今ここに、他の司令官はいない。

 あの丹陽さんに乗っている台湾司令官以外で、他に司令官に値する人はいない。


 ここで、司令官からの指示を失うということは、すなわち俺たちの組織的な攻勢ができなくなることを意味する。


 それは、相手中国に反撃の隙を与えることに他ならなかった。



 それだけは、何としてもさけなければならなかった。




 ……が、しかし、




「だが、どうします!? 相手が相手です! いくら丹陽といえど迎撃できるとは思えません!」


 航海長がそういった。


 そう。同時に、相手があの機動性が鬼畜の回避マスターであることも忘れてはならない。いかなる迎撃手段もその俊敏な足で、避けて、避けて、避けまくってきた。

 いくらイージス艦といえど、迎撃手段は他の艦となんら変わらない。あくまで迎撃できる精度やそれ自体の能力が上がったってだけの話で、根本的な話はまったく変わっていない。



 このままでは、確実に『丹陽かんたいきかん』は被弾する。



 しかし、それを防ぐ手段が、今のところない。



「クソッ……、どうすればいい? 何か方法は……」


 副長がそううめくも、時間は待ってはくれなかった。

 敵USMはその間にさらにシースキミング機動にはいった。結構低空を飛翔しているらしく、おそらく低空警戒レーダーでもギリギリ捉えれるレベルだろう。

 これじゃ余計迎撃が難しい。レーダーですら捉えられず、なおかつ捉えれても迎撃は避けられる。手詰まりもいいところだった。



 まさに、絶望的状況だ。



「(……もう、なすすべはないのか……)」



 俺は心の中で頭を抱える。

 もう、こっちが使える迎撃手段はないも同然だ。あの敵USMのあのたった一つの機動のおかげで、こっちの迎撃手段はすべて封じ込まれた。


 ……だが、みすみす何もせずにいることはできない。艦隊旗艦の命運がかかっている、そして、ある意味俺たちの命運がかかっているといっても過言ではないこの状況で、何か打開策はないのか。


 俺は考えた。何か、ないかいい方法は……、











 ……そして、












「“……あ!」”












 そうやって思いついたものは、普通は考えないことだった。

 いや、あったとしてもせいぜいアニメの世界でしかやらないことだ。

 しかも、その方法は、奇しくもやまと本人と同じだった。


「……お前、本気か?」


“はい。……私、彼女と約束したんです”


「約束?」


“ええ。……あなたに何かあったら、”








“この身を、盾にさせてでもまもるって”







「……お前らしい。あの、俺が艦長のもとにいった後か」


“はい。そのときです”


「はは……」


 ……こいつもすんごい約束をしものだ。だが、そのおかげでこの発想にいたったともいえるのかな。


 とにかく、俺は時間がなかったのですぐに行動にでた。


 副長にこのことを話し、さすがに最初は猛反対されたが、これしかないと必死に説得した結果、何とか事情を聞いていた艦長からも苦肉の策としてゴーサインが出たことにより、やっと折れてくれた。

 航海長や、他の乗員もそれしかないと覚悟を決めた。


 ……これは、『やまと』にしかできないことだった。



 ……そう、他にはない、“超音速対艦ミサイルを2,3発も耐える装甲を持つ『やまと』にしかできない”ことだ。



 覚悟を決めた副長は叫んでいった。


「敵USMのシースキミング高度は!?」


「文字通り海面スレスレです! 文字通りの意味です!」


「よし、やれるな。敵USMの弾着まであとどれくらいだ!?」


「後1分もありません!」


「よし、わかった。……CIC艦橋、いくぞ。覚悟を決めろ!」


 副長がそう無線に向けて叫ぶと、航海長にあいコンタクトを取りつつ、相槌をうった。

 航海長も相槌で答えると、はっきりとした声で指示を出す。


「よし……、条件は十分、やるしかねえな。……いくぞ! 針路そのまま!」











「機関、最大せんそーく!」












 その瞬間、やまとの機関が大きくうなりを上げ、海を思いっきりけり始める…………

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