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『やまと』 ~戦乙女との現代戦争奮戦記~  作者: Sky Aviation
第8章 ~日台vs中最終決戦! 敵本拠地高雄市陸海空軍総力戦!~
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〔F:Mission 28〕高雄沖海戦『海上の大乱闘』 ⑤ 競り合い合戦

―TST:PM13:56 同海域 日台連合艦隊DCGやまと艦橋―







「おいおいおいおいうそだろ!? 何考えてんだあいつら!?」


 俺は思わずそんなことを叫ぶ。右を見ながら。


 そう右を見ながら。右には何があるのかというと……、



「て、敵艦同航開始! まもなく接触します!」



 何でかしらんが、“さっきまで砲撃戦してた相手の敵艦が目の前に”。


 さっきまで何とか優勢を若干保ちつつ砲撃戦していたはずなのだが、どうしてこうなったんだ?

 そう。やまとが自信満々な理由がわかる気がするが、もうあいつはとにかく当てまくった。

 砲撃戦開始後から比較的すぐに優勢を保ち始めた。やっぱり手数が多いというか、攻撃手段が多いというのは便利なもので、もうとにかくバンバン当てまくった。

 そのおかげか、運のいいことに主砲付近にぶちあて、一時的ではあろうがその主砲を使えなくした。

 そして俺たちはここぞとばかりに砲弾を送り込んだんだが、最後の最後向こうが撃った主砲弾が1番主砲の基部近くに命中して、砲塔自体は無事だったものの、それのせいか主砲動力部に不具合が発生。一時的に動かなくなり、今現在躍起になって修理中だ。

 その間はもう一つの2番主砲をぶっ放しまくったが、それでもその2番主砲も、砲弾のストック切れたから今躍起になって給弾して今さっき終えた。

 その過程で向こうはそのまま速度を大きく上げて直線航行をし始めたが、まあ俺たちの後方にも味方がいるし、たぶんそっちに向かったんだろう。

 なので、一応修理や給弾を少しゆっくり目でも確実にやる方針を採りつつ、ほんの少し速度を下げていった。



 ……そして、その結果、



「敵艦面舵回頭まもなく完了します! て、敵艦がすぐ横に!」


 な に 考 え て ん の こ い つ ら ! ?


「と、取り舵回避だ! 取り舵をとれ!」


 すぐに副長が叫ぶ。

 そうするまでもなく俺は舵を左に切っていた。

 やまともすぐに反応した。もうさっさと離れたいといわんばかりに。


 ……しかし、


「ダメです! 回頭間に合いません!」


 見張りからの悲鳴じみた報告が来る。


 ……おいおい、


「(……現代の海戦で横っ腹体当たりとかバカじゃねえか?)」


 汗水たらしつつ顔面を軽く青くしてそう思う。強く思う。

 ……ありえない。こんなことがあってたまるかい!


「クソッ、ぶつかるぞ。総員衝撃に備え!」


 副長が叫んだ。すぐに俺は舵を思いっきり握ると同時に近くの計器類が並んでいる基盤につかまった。

 いや、軽くしがみついたといってもいい。


「ぶつかるぞやまと! 構えとけよ!」


 “いやとっくに構えてますけど、え、ええ!? 本気ですかこの艦!?”


「本気だからこんなんだろ!? もう当たるぞ!?」


 “ああもう! わかりましたよ! もう来るならどんとこい!”


 あいつも覚悟を決めたようだ。身構えているのが感じ取れる。


 敵艦はすぐ右に近づいていた。もう完全にぶち当てる気だ。

 何を考えてるのか知らんが、とにかく回避は間に合わない。


 ……その瞬間だった。


「敵艦至近! 当たります!」


 見張りがそういったのと、


「ッ! うぉッ!?」


“ッ! いったぁッ!!”


 右舷からの衝撃が大きく伝わってくるのはほぼ同時だった。



 右舷に、敵艦が思いっきりぶつかってきた。



 接触だ。横っ腹をぶち当ててきたのだ。

 俺はその衝撃に煽られ思わず目の前の基盤とかをつかんでいた手が引っ張られ、左に手が引っ張られるとともに、右側に体自体が置いていかれる。

 しかしそれも一瞬で、次の瞬間には体も右に飛ばされかけた。


「うッ、て、敵艦接触!」


 見張りからの報告だ。それも、接触の衝撃で倒れつつ。

 ガガガッという感じの右舷側から横っ腹をこする時の重く鈍い金属音が響いた。

 艦の振動は止まらない。向こうは本気でぶち当てるどころか、そのままこっちに押し込んでくる気だ。


「クソッ! 艦をもっと左に回せ! こいつを引き離せ!」


 副長が言った。しかし、そこで航海長が否定する。


「いや、左舷には敵味方の艦が入り乱れて回避に必要なスペースがありません! このまま回頭しようものなら衝突するのは確実です!」


「なッ!?」


 そうだ。今左舷では俺たちみたいに、とはいかないが、それぞれで砲撃戦を展開している敵味方の艦船が入り乱れており、とてもじゃないけど回避に必要なスペースがない。

 どこかしらで1隻や2隻の敵ないし味方の艦船がいる。こんな状況で取り舵回避なんて出来るはずがない。かといってこのまま直線航行や右回頭をしようにも、隣の敵艦が邪魔でうまく航行できない。細かく針路修正を繰り返していては、そのうち空母へ向けての針路が確保できない可能性がある。それも、こんな大混戦の状況ならなおさらだ。直線航行できるスペースなんてほとんどないってのに。


 ……なんか、ある意味前世の戦艦大和を思い出すな。確か、この時間帯の時点ではすでに舵イカれて左旋回ないし直線航行しかできなくなったんだっけ? 歴史は繰り返す、とはまた違うのだろうが、ある意味少し似た状況だな。これなんてちょっと違った坊ノ岬沖海戦だよ。


 副長はご尤もな事実を突きつけられたが、すぐに次の指示を出した。


「じゃあここから主砲狙え! 射程を考えても届くはずだ!」


「し、しかし1番砲の修復がまだです! この揺れでは修復作業が難航します! それに、今ここで狙ってもこの揺れじゃ全然狙い定まりませんよ! 砲弾の無駄です!」


「ッ! ……ええい、クソッ! じゃあどうすりゃいいんだ!?」


「どうって……」


 航海長も悩んだが、俺はもうこれしか残されていないと思いつつあることを言おうとしたときだった。


 もう、本人から言われた。


“じゃあ私を敵艦にぶつけてください! そしてどかした後に機関修復を待ってその隙に最大戦速で逃げます!”


「ッ! ……本気か?」


“それしかそれらしい方法がないんですよね!? 大丈夫です! 私だってだてに巡洋艦やってませんよ!”


「……はぁ、そうかい」


 オーケー。お前がそういうんならこっちだって覚悟決めてやるぜ。


「副長、だったら俺たちも同じくぶちかましますか」


「ぶちかますって……。まさか?」


「ええ。少し修復作業に手間がかかりますが、それでもどっちみち状況は変わりません。こっちも……」





「横っ腹をぶつけてやりましょう。右舷のね」





「ッ!? お、お前本気か!?」


「俺がというか、誰でもない艦本人の了承得てますよ」


「ええ……」


「ははは……、おいおい、マジかよ?」


 そういう航海長の顔はなぜか笑って見えていた。苦笑いに部類するだろうが。


「マジでないことを一々いって……、おおっとッ!?」


 するとまた右舷にぶつけられた。

 徐々に艦が左にそれていくのが確認できる。

 ……まずいね。さっさと動かないと。


 副長も決めたようだ。


「チッ、仕方ねえか……。よし、航海長、新澤少尉、機関が治るまでの間だけだ。頼むぞ!」


「了解!」


「アイサーッ!」


 さて、やることは決まった。

 どれ……、では、試そうか。総排水量13,000トンの威力、見せてやるぜ!


 いいか!? このやまとがただの高性能艦だと思うなよ!? そこらにいる“ただの”高性能艦とかとはわけが違うんだよわけが!


「よし、次向こうがぶつかるタイミングでこっちもやり返すぞ! そっからはどっちが先に倒れるかのガチの競り合い合戦だぜ!」


 航海長が意気込んだ。この人もうこの状況めちゃくちゃ楽しんでやがる。

 ……面白い。競り合い合戦か。現代海戦でこんな芸当をやるとは思わなかったが、いいぜ。

 このやまとがお相手してやる!


「来るぞ! 新澤、面舵一杯! 思いっきりぶつけろ!」


「了解!」


 すぐに舵を右にきった。少し左に向きかけていた艦がすぐに右に向きなおし始める。

 その間にも敵はさらに左に舵を取ってきた。同タイミングだ。


「いくぞやまと! ぶち当てるからな!」


“いつでもどうぞ! こっちは覚悟完了ですから!”


「あいよ! じゃあ遠慮なく!」


「敵艦至近! 接触します!」


 すぐにまた右舷が迫る。というか、元から迫ってはいたけど。


「おっしゃあ! そのままぶち当てろ!」


 その瞬間だった。


「ぬぁッ!」


“ッィ!!”


 また右舷からぶつかった。

 今度は互いに思い切ってぶつけてくる。そのため、衝撃はさっきよりとても大きかったが、それでも衝撃自体には耐える。


「敵艦! そのまま競り合ってきます!」


「負けんな! こっちも押し返せ!」


 その指示通り俺は面舵を続けた。

 たまに離しても、またすぐに敵艦の左舷にぶち当てる。

 敵艦も負けてはいない。俺たちと同じくいったん離したと思ったらまたぶつけてくる。

 どうしてもここを通したくないというか、そもそも空母に射撃させたくないらしい。確かにこの状況じゃたとえ射撃しても当たりっこない。無駄弾するくらいならまずこいつをしとめなければ。


「敵艦もしぶといな……。こっちのほうが排水量的に考えても有利なはずなのに……」


 副長がそうつぶやいた。

 敵艦は最新鋭とはいえ、結局は駆逐艦だ。排水量や頑丈さ、その他諸々の要因を見てもこっちのほうが有利なのは一目瞭然のはず。

 それでもなお競り合ってくるとは……。やっさん、相当タフだな?


 すると、航海長が陽気な口調でノリノリな状態で言った。

 ……ノリノリという言い方もおかしいが、まあとにかくテンションが上がりまくっていると思えばいい。


「な~にッ! それでも相手は結局はただの駆逐艦ですよ! 最新鋭だかなんだか知りませんがね! こっちの13,000トンの巡洋艦なめんじゃねえぞ!」


 もうそれは相手の乗員に対していってやれよ。

 右舷の露天艦橋に言って叫んで来いって。たぶん向こうも乗ってくるんじゃねえか? こんな大それたことしでかすくらいのやつが乗ってるんだからよ。


 ……まあ、そんな俺も、


「まだまだ行くぜ! おらァ!」


 こういう熱い展開は嫌いではない。

 そのまままた一気に右舷を敵艦にぶつける。すると、


「お? 向こう一瞬よろけたか?」


 航海長がそういった。

 一瞬だが、敵艦の揺れが大きかった。しかし、すぐに修復される。

 やはり排水量の差か。こっちのほうがこういう競り合いでは分があるようだな。


「まだまだやるからな! ちゃんと耐えろよ!?」


“装甲付きなめないでくださいよ!? もうやるならとことん当ててくださいね!? 耐えますから!”


「ハッハーッ! 最新鋭かっけえッ!」


 そこまで言うんならもっと勢いよくぶつけようかな? ハハッ。


「おらおらァ! どしたどした!? もっと当ててきやがれ!」


 航海長が相変わらずそう景気よく言い放つが、するとそのときだった。


「……ん?」


 なにやら軽く叫び声が聞こえる。

 相変わらず競り合いまくってるのでよくは聞こえないが、どうやら……。


「……おい、お前のせいで向こうの乗員が出てきたぞ?」


 副長が苦笑いで言った。

 ……あんた、どんだけデカい声で叫んでんだ。向こうに聞こえちまったじゃねえか。


「ハハッ! 面白い! どんな面してるかみてやらぁ!」


「は!? お、おい!」


 すると思わずテンションが上がりまくってしまった航海長がそのまま乗員の制止を振り切って右舷の露天艦橋に乗り出した。

 そのまま彼の叫び声が聞こえる。


「おう! 貴様ら、このやまとに立ち向かったのだけは褒めてやるぜ! だがどこまでやれるかなァ!? おらもっとぶつかってきやがれ腰抜けども!」


 これほどまでに思い切った挑発は初めてである。

 おいおい、そんなこと言ってたら向こうから銃殺でもされんじゃねえか? 知らねえぞ俺?


 すると、何でかしらんが向こうからも返答が来た。


 かすかにだが声が聞こえる。もちろん、競り合いの最中なのでものすごくかすかにだが。


「ハッ! ただ図体がでかいだけのやつがなんか言ってるぜ! 重苦しいどんがめさんはさっさとお家にかえんな!」


「オーマイガー……」


 ここまですがすがしい挑発もこれまた始めてである。

 航海長も負けてなかった。


「貴様らちびっ子こそさっさと母国に帰るんだな! そんなせりしかできないのか!? あん!?」


 そのときまたこっちから体当りする。

 一瞬向こうはよろけるが、それでもまた立ち直った。


「貴様らこそこの程度か!? おらもっと来てもいいんだぜ!?」


 と、その瞬間だった。


「ッ!?」


 また向こうから思いっきりぶつかってくる。まるで乗員の意思に答えてるかのようだな。

 しかし、こっちだって負けるわけには行かないわけでして。


「おうどうしたどうした!? これくらいの競り合いですらひるむんか!? やっぱ図体でかいだけか!?」


 そんでもって向こうからの挑発に答えるのはもう航海長しかいないわけでして。


「ハッ! 逆にその程度しかこないのか!? こっちは13,000トンだぜ!? これくらいの赤子の体当り程度でひるむわけねえだろ!」


 ちょうどそれに合わせてまた右舷から体当りした。

 別に狙ったわけではないが、まあ偶然です。ハイ。


「おらおらァ! この程度でもひるんじまうのか!? 結局はただの駆逐艦か!? あ!?」


「ヘッ! ただのどん尻お相撲さん巡洋艦が何を言うか! この程度で終わると思ってんじゃねえぞ!」


 その間も競り合いとともにこういう挑発合戦も繰り広げられる。

 ……はぁ、相手が誰だか知らんが、もう互いに軍法会議あたりにかけられても文句言えんぞこれ。

 というか、周りももっと死ぬ気で止めろよ。何とかもっと必死に止めろよ。


「負けるなよ。ここで競り勝たないと先に進めねえぞ」


 副長の言葉に俺は質問で返した。


「ダメコン、機関のほうあとどれくらいで終わるんですか?」


「8分で終わる。それまで持ちこたえるんだ」


「了解……」


 あと8分だ。ここで8分耐えれば一気に機関をぶん回すことが出来る。

 それまで……、ここで競り合って耐えるまで!


「あと8分だ! やまと! 頼むから耐えてくれよ!」




 俺はあいつに向けてそう言い放った……。












―艦橋上―





「言われなくてもわかってますよ!」


 その言い放ちに対して私はそう叫んで返す。


 まったく、今の現代でまさか競り合いなんて、そもそも前世の戦艦時代でもなかったわよこんなの。

 ほんと、戦争って何が起こるかわからないって先人は言ったけどね、まさかここまではその先人さんの認識範囲外でしょうね。さすがに。


 ……でも、こういうときでも自分の本領を発揮できてこその最新鋭。え? 最新鋭の意味が違ってきてる? 細かいことは気にしない気にしない。


 ……さて、


「……さすが最新鋭だけに、中々やりますね。“成都”さん?」


 私はお隣の対戦相手に声をかけた。

 駆逐艦『成都』。中国の最新鋭の駆逐艦だって聞いてたけど……、


「……思ったよりタフですね? さすがにそろそろへこたれるかと思ってましたが?」


 私はほんの少し挑発を含めていった。

 すると、向こうも反応する。

 中国の海軍軍服。そこに大樹さんなら確実に私と同じくらいの若さだって言いそうなくらいの若さの顔立ちをした、少しロングで後ろにポニーテールを結っている女の人がいる。


 その人こそ、あの駆逐艦『成都』の艦魂だった。


 彼女は軽くフッと笑うと、お返しの如く軽はずみな口調で言った。


「……私がこの程度でやられると? 駆逐艦を舐めたら、痛い目にあいますよ?」


「面白いこと言いますね……。巡洋艦である私が駆逐艦に痛い目にあうと?」


「時と場合によってはね」


「ふふ……、お互い最新鋭同士、退屈しないですみそうですね」


「ええ、そうですね……、」





「お互いにねッ!」





「ッ、とぉ!」


 すると向こうからまた体当り攻撃が来る。

 ほほう、まだここまでの威力を出す馬力があるとは。……中々やりますね。


 ……ですが、


「……まだまだぁ!」


 私はお返しにまた右に舵を取る指示に従って成都さんに体当り。

 さっきから向こうは何度かよろけており、今のもその類にもれなかったけど、それでも彼女はまだまだ立ちふさがる。


「クッ……、ま、まだまだいける!」


 そしてまた向こうから体当り攻撃。

 すると今回はそのまま離れずに競り合いを始めた。


 ……どうしてもここをいかせないつもりね。


「……いいですよ、そうこなくっちゃねッ!」


 そしてそのまま乗員、というか操舵担当の大樹さんの指示通りに右舷にまた押し返そうと競り合う。

 とたんに接触部からギリギリと重く鈍い金属音が鳴り響くけど、私たちはそんなのお構いなし。

 そして、体自体にも少し痛みが出るけど、そんなのにもお構いなし。


「(……私のほうが重いはずなんだけど、向こうもやるわね……)」


 と、私が少し感心していたときだった。



“え、ええ!? アンタらそれ反則じゃないの!?”



「?」


 とたんに、なにやら聞きなれない声が聞こえてきた。

 この声は明らかに艦魂。しかし、私が今まで聞いたことないあたり、たぶん敵艦の方だろうけど……。


海口ハイコウさん! どうしました!?」


「海口さん……?」


 えっと、確かこの彼女のタイプである昆明級の前のタイプである蘭州級の2番艦だっけ?

 この南海艦隊に配属されている2隻の蘭州級の片方だったはずだけど、確か今は他の艦と戦闘中……、


 と、そこにはその海口さんのほかにも、台湾イージス艦の媽祖さんと、あと……、


「……え? こんごうさん?」


 あれ? さっきまで他の艦と戦闘中だったはずじゃ……?






“いや、そんなの知らないわよ! こんな状況になったら嫌でもそうなるのわかってたでしょ!”


“いや、でも1対2は卑怯じゃない!? こっち主砲1基しかないのよ!?”


“んなの知らねえよ! てかこんな大混戦な状態でそんなこといっても仕方ないから! これ戦争!”


“いや知ってるけど! これが戦争だって知ってるけど!”


“死にたくなかったら避けまくりなさいよ!? 死にたくなかったら!”


“いやあんたら日本の主砲あたりまくるじゃん! さっきのしらゆきさんだったかって発狂女とやったときも地味に当たりまくってたんだけど!?”


“あいつは前世の関係でああなってるだけ!”


“いやあんたも前世戦艦だったって聞いたけど!?”


“さぁ~存知得ませんね!”


“まあ本人が言うんだから仕方ないな!”


“いやあんたらいろいろまてぇぇぇぇええええいい!”







「……レッツ数の暴力」


 これがかの米軍がやっていた数の暴力が合衆国ステイツ大正義ジャスティス作戦か。いや、違うね。うん。


「……で、」


 ……そろそろ、こっちも再開しますかね?

 成都さんは向こうを心配そうに見ているけども……、


「……向こうに余所見している暇はありますかね!?」


「ッ!?」


 また思いっきり右舷から体当り。

 これまた勢いよくぶつかったため、向こうもまたもや大きくよろけ、そして立ち直る。


「(くぅ~、まだまだ耐えるかぁ……)」


 少し苦笑いになる。

 さすがは最新鋭なのか。中国とはいえ、中々簡単には倒れな……。


「うッ……!」


「ん?」


 すると、とたんに向こうは一瞬うめき声を小さく発したと思ったら苦しそうに右手で胸を押さえた。

 しかし、それも一瞬だった。こっちに悟られまいと顔もしかめつつその苦しみの顔を隠して、またこっちに体当りしてくる。

 私もそれにお返しした。そしてまた互いに離れない競り合いの時間が始まる。


 ……しかし、今のは確実に……、


「(……まさか、最初ここに機関一杯でくるときに?)」


 私はそう思った。

 まさか、ここに全速、いや、機関一杯できて、ここに体当りするまでの段階ですでに機関に……?


「(……無理するわねほんとに……)」


 最新鋭のプライドか。ある意味では私に負けてないなと思った。

 まあ、機関自体は私も少し傷を負ってるけど、あくまで今までの戦闘の過程での衝撃とかで若干の不具合が出た程度。修理自体は少し時間がかかるけど、それほど深刻なもんだんじゃないし、その修理ももうすぐ終わる。


「(どれ、ではそんな彼女には悪いけどもう一発かまして……)」


 と、そろそろ次の操舵指示が来るとふんで身構えたときだった。


「……? どうしました?」


「うん?」


 すると、成都さんはいきなり視線をこちらからそらしたと思ったら右手で右耳を抑えて何かをつぶやいている。

 仲間の艦魂からかな? でもこんなときに何の伝達手段があるのかな?


 それに、そこらへんは基本乗員に任せれば……。


「……ええ!? それほんとですか!?」


「?」


 しかし、その後彼女はその仲間から来たらしい伝達内容に驚愕していた。顔も少し青ざめている。

 ……いったい何があったの? その様子からしてとんでもない内容だって言うのは簡単に察せれたけど……。


「ま、マズイ……、このままじゃ他の皆まで……」


「あのー……」


「?」


 まあ、どうせ教えてくれないだろうけど……、とりあえず念のため。


「……今の、おそらく仲間の方からですよね? なにきたんです?」


「え?」


 まさか、中国が降伏したとか? いや、でもそれだとさっきつぶやいてた他の皆が云々って言葉の説明が……。


「……マズイ状況になりそうです」


「え?」


 と、以外にも彼女はすんなりと教えてくれた。どうせ乗員には知らされるわけないからと思ったかな?

 ……まあ、普通に乗員の大樹さんと話せるわけですが。あれ? そうだとすると私軽くスパイやってる? あらやだ私なんてスパイとかできるはずないと思ってたのにこんな形でとか何という運命のいたずらというかなんというか。


 しかし、私の思惑にはかまわず成都さんは深刻そうな顔をして重苦しいと捉えられそうなほど低い声で言った。


「……ここが、そろそろ地獄絵図になるかもです」


「え?」


 地獄絵図? そ、それってまさか……。


「……ま、まさか核が?」


「いえ、核ではありません。……ありませんが……」


「ありませんが?」


 核ではないとしたらいったいなに?

 核でなくて地獄絵図? 何をする気なの中国は?


「ほんとは敵に教えるのは本気で不味いことなのですが……。しかし、こればっかりは耐えれません」


「あ、え、えっと……、なんかすいません」


 なんか、軽々しくスパイが云々なんていってた自分がものすごく恥ずかしく思えてしまった。本気で申し訳ない。


 しかし、彼女は私の謝罪には意も止めずにさらに言った。


「……もうすぐ、味方から攻撃が来ます?」


「攻撃?」


 私たちに対して攻撃? つまり、対艦攻撃ね。

 ここで対艦攻撃って、他の味方艦からの援護射撃かな?

 ……うん? 待って?


「……“ここで”?」


 私はすぐに周りを見渡した。

 そこには、私たちと同じく各々で大接近戦闘を繰り返している敵味方の艦船がいた。


 その様子、何度も言うように……、




 互いの艦隊陣形なんて関係無しの敵味方入り乱れた“大混戦”の状態である。




「……ちょ、ちょっと待って!? もしかしてそれって!?」


「ええ……。察しが早くて助かります」


 成都さんの言いたいことと私の察した内容が一致したみたいだった。


 成都さんはさんはさらに言った。


「……味方潜水艦から報告が来ました。向こうでもどうやら驚愕していたようなのですが、近くの海域から奇襲的に……」







「USMでの対艦攻撃が行なわれます」






「ッ!? ゆ、USM!?」


 私はその言葉に耳を疑った。


 ちょ、ちょっと待って? ここでUSM? いや、“こんなとこに”USM?


 ……ちょっと待ちなさいよ。ここに対艦ミサイル撃とうものなら……。


「……今、ここには敵味方が大量に入り乱れてる……。そんな状態で撃てば、」







「ほぼ確実に、“友軍誤射”が多発しますよ!?」






「そうです……。ですから、味方潜水艦の艦魂たちが、“敵味方双方に対して”言ったんです。こればっかりはあまりにもひどいから、せめて艦魂に対してだけでも伝えておいてくれって。もし伝わってない艦がいたら敵味方関係なく伝えておいてくれって……」


「ッ……!」


 ……なんてことを……。

 味方潜水艦からUSM。場所によってはものすごく近くから撃つから、確実に何らかのダメージを与えることは可能。

 しかも、敵味方入り乱れてるから、一番対空戦闘がしにくい。ミサイルとかの遠距離攻撃はまだいいとして、その後の主砲とかを使った近接火器は、近くの味方に流れ弾で当たる可能性もある。そんな状況で思い切って撃てるわけがない。

 ……でも、その場合、


「(……そのUSMの突入針路上にいた味方にぶち当たることも……)」


 さすがに対艦ミサイルにまで敵味方識別は持ってない。いや、もしかしたら持ってるかもしれないけど、仮に持っててもこんな状況で発動したところで回避できるような広さはない。

 ここは完全に密集している大混戦海域。USMの飛行に邪魔になる艦船なんて大量にある。敵はもちろん、“自分達の味方”も。

 他の敵に誤射するならまだ結果オーライで説明が付く。でも、味方に誤射したらそれはもうどうしようもない。


 ……いったい何を考えてるのよ中国の上の人たちは? 自分達の味方を見殺しにしたいの!?


 目的のためなら味方ですら犠牲の対象!? 少数ならまだわかるけどこの場合大量に失われるけど!?


「……そ、そんな……」


 私は信じられなかった。

 ここまで仲間を犠牲にしてまで私たちを撃退したいのか。そこまでしてでもとにかく私たちを殺したいのか。

 その結果味方が死んでもお構いなし?


 ……ふざけてるでしょ。ちょっと責任者出てきなさいよ私が主砲ぶっ放して元人体にしてあげようか?

 今ならたとえ数十km先でも百発百中できる自信あるわよ?


 私が思わず呆然としていると、成都さんが私に言った。


「もうこっちの乗員には伝わっています! たぶん、今頃下の……」


「え?」


 その下。

 そこは右舷の見張り台で、さっきなにやら暴走していた航海長と、たぶんそちらでは艦長クラスの人との挑発合戦が行なわれていたが……、







「気をつけろ! 今から対艦ミサイル来るぞ!」


「はぁ!? ちょっと待てそれ俺たちに教えちゃっていいのか!?」


「かまうもんか! どうせ今すぐにでも攻撃が来るからどの道同じだ! それに、こんなのたんなる虐殺だ! こんなのにまで俺たちは加担したくないわ! とにかく大虐殺に備えるよう言っとけ!」


「お、おう! 情報提供サンキュー!」







 ……と、乗員さんでもこればっかりはもう呆れてしまったみたいね。

 敵味方で情報提供がなされた、貴重な瞬間です。


 すると、成都さんがさらに言った。


「やまとさん、おそらくこればっかりは互いの損得が合致して、一時的に互いに意識していない共同の対空戦闘になるかもしれません。……少々悔しくはありますが、そのとき一番頼りになるのは誰でもないあなたです。……頼みます。日本の最新鋭ならこれくらい落とせますよね?」


 それは、さっきまで、というか今もなお敵として目の前にいる彼女とは思えない目だった。

 とにかく、私を頼っているような目。まさか敵からそんな目線を受けるとはおもわなんだ。


 ……ふぅ、面白いじゃないの。


「……私を誰だと思ってるんです? 最新鋭の、この世の人間が認める世界最強の巡洋艦ですよ? ……ご安心ください、と敵であるあなたに言うのは少し変ですが、それでも……、」





「何がきても、確実に落としますよ。“たとえどんな手段を使ってでも”」





「……御願いします。もうすぐ来ますよ」


「ええ。そちらも」


「はい。わかっています」


 すると、彼女はそのまま前を向きなおした。

 もうじき来る敵の攻撃に備えたわね? よし、では私も。


「大樹さん。そっちに例の報告行きました?」


 すると、大樹さんもすぐに答えてくれた。


“おう。……今、こっちにもお隣さんから報告きた。まったく、これじゃ単なる虐殺だ。副長ぶち切れてるよ”


「はは……、やっぱり」


 あの人こういう非人道的なのに対しては厳しいからね。仕方ないね。


「今、艦魂の方の成都さんからも来ました。……どうやらUSMみたいです。近くにいる味方潜水艦からこっちからUSM撃つから気をつけてって、“敵味方双方に対して”警告を出してくれって」


“敵味方双方……。向こうでも、覚悟を決めたってことか。USM撃つってなると、場所によっては即行でうちらの対潜部隊の餌食になる。だから、せめて自分達のできることを……”


「ええ……。でしょうね」


 最後の最後、とは限らないけど、それでもせめて最後は、ってことでしょうね。

 敵にも、やはり人道的な方はいるか……。まあ、当たり前だけど。


“情報が確かならそろそろ来るぞ。やまと、お前も構えとけ”


「了解」


 まあ、言われるまでもありませんがね。

 こっちも準備開始。

 この時点で成都さんはこっちに対する体当り攻撃を止めている。まあ、そんなことしてる場合じゃないか。

 そして、それは他の敵味方でも同じだった。

 各々での戦闘を止め、今から来るであろうUSM攻撃に備えた。

 ……でも、敵はまだわかるけどなんで私たちの味方まで? あ、さっき近海哨戒中の対潜部隊からそれっぽい警告があったからそれの関係でかな?


 そして、そうしているうちに私もスタンバイ完了。


 艦橋、CIC、すべての部署で迎撃体勢を整える。


「(……さあ、いつでも来なさい)」


 と、まさにそう思ったときだった。


「……ッ! きた!」


 レーダーに反応が出た。

 多数の小型目標。これは……、間違いない。


「大樹さん、来ました。複数、すべてUSMです! 間違いありません!」


“やっぱりな。CICでも迎撃指示が来るはずだ。しっかり頼むぞ”


「了解。お任せあれ」


 CICでも、対空戦闘指示が出ると同時に迎撃準備のための最後の準備が始まる。

 その間に、私は例の接近中のUSMを確認する。

 ……まったく、思ったとおり、このままでは確実に自分達の味方まで巻き込まれるわね。これじゃさっきの成都さんの艦長がいってたように“虐殺”じゃないのもう。


 ……そんな非人道的な命令を出すような上層部はあとで制裁が下ることを祈るとして、今はとにかく……、








「……このUSMを全部叩き落さないとね……」










 そうつぶやきつつ私はUSMがいるであろう方向に視線を移した…………

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