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『やまと』 ~戦乙女との現代戦争奮戦記~  作者: Sky Aviation
第8章 ~日台vs中最終決戦! 敵本拠地高雄市陸海空軍総力戦!~
122/168

〔F:Mission 28〕高雄沖海戦『海上の大乱闘』 ③ 弾道ミサイル迎撃

―TST:PM13:43 同海域 日台連合艦隊DCGやまとCIC―







「目標情報来ました。広東こうとう梅州ばいしゅう基地より20発のDFデルタ・フォックストロット-21トゥー・ワン湖南こなん洞口どうこう基地より17発のDFデルタ・フォックストロット-21トゥー・ワンの発射を確認」


 俺はすぐさま表示された情報を元に弾道ミサイルの接近報告を行なった。


 大乱闘開始直後だった。

 いきなり中国本土から弾道ミサイルが放たれ始めた。計39発。

 こっちはまさに殴り合いの最中だってのに、横やり入れやがって。


 ……だが、どっちにしろ落とさねば。早くしないと。


「以後、前者の目標群をAアルファ、後者の目標群をBブラボーと呼称。目標群A、台湾高雄市方面、目標群B、本海域方面へと飛翔中」


 で、やっぱりこれだよ。

 二つに分けてきやがった。


 砲雷長もすぐに答える。


「了解。……ったく、あちらさんの弾道ミサイルのストック多くないか? どんだけもってんだ」


 砲雷長が愚痴る。

 まったくだよ。俺たちの知ってる中国の弾道ミサイル保有量を大きく上回ってるんだけど、これはいったいどういうことなんですかね?

 俺たちの知りえている情報がまさに間違いでしたといわんばかりに。

 もうどんくらい上げてきてるんだよ。もうマジで勘弁してください。


 艦長はそれを「まあな」とかいって肯定しつつ、さらに一言言った。


「……まあ、こんなときにFCSレーダーが壊れてなくてよかったな。砲撃があれにぶち当たってたらまずいことになってた」


「ほんとですよね……」


 こんな大混戦。FCSレーダーに断片でもぶち当たったらそれこそ異常事態になる。

 まあ、全滅したりしない限りその能力が低くなるって程度で済むんだけど、それでもあんまり好ましいことではないな。

 ……まったく、何もイージス艦まで突撃させなくてもよかった気がするが。しかし、少し離れていただけで敵の弾道ミサイルの餌食になる可能性もあるし、仕方ないっちゃあ仕方ないが。ま、核撃たれるよりはマシか。


「敵弾道ミサイルの詳細は? 核は含まれているのか?」


 艦長からだ。すぐに答える。


「いえ……、プルトニウム物質反応は検出されませんでした。どれも、通常弾頭です」


「やはりは……。混戦状態になったから核撃つのをためらったか」


 艦長が軽くニヤリと笑う。

 とりあえず、今放たれたのには核弾頭はなかった。やっぱり、大混戦になった今、むやみやたらに核を撃つ勇気はないか。

 まあ、こんなところに撃ったら敵は確かに死ぬけどその代わり味方も絶賛全滅だもんな。


「とにかく、通常弾頭なら恐るるに足らん。敵艦からの砲撃を最大限回避しつつ、SM-3をすばやく放つぞ。システムBMDモードに変更。対弾道ミサイル戦用意」


「了解。システムBMDモードに。対弾道ミサイル戦用意。……艦橋CIC、回避機動をそのままに。SM-3発射のため、艦外見張り員は退避を」


「VLS、後部右舷27番~31番、左舷27番~32番開放。SM-3諸元入力」


「了解。各セルSM-3諸元入力開始」


「目標群A、B、ともに第1弾中間段階ミッドコース・フェイズ突入確認」


 報告が次々と飛び交う中、すぐにSM-3の発射準備に入った。

 FCSレーダーを使うので、電磁波の影響を考慮し艦の外にいる乗員は全員艦内退避。それはすぐに完了する。

 同時にシステムをBMDモードにして目標分配。また7隻を39発で分けるから……、あ、2発ほど残るね。


「……今ので落とせば、向こうとてそうすぐ簡単には撃てなくなるはずだ。こらえてくれ」


 艦長がそういった。

 しかし、そのとき砲雷長が懸念を言った。


「しかし艦長、こっちも残りのSM-3ギリギリです。これ以上撃ってこられたら……」


 だが、答えた艦長はそれをやんわりと否定する。


「なに、それは心配ないだろう。今まで中国は大量の弾道ミサイルを撃ってきた。もう残り少ないはずだ。それに……、向こうだって、今までの戦闘経験上こっちのSM-3搭載弾数をわかっているはずだ。それ以上の弾道ミサイルを送り込んでこなかったのは……、」


「……ッ! もう弾道ミサイルがない証拠だと?」


「うむ。最初の45発は、単純に発射台の関係上でそれだけしか一気に撃てなかっただけだ。そして、その後の装填を考えても、今回は37発しか撃ってこなかった……。もっとあるなら、その発射台分全部使ってくればいいものを。なのに、撃ってこなかった。これは、明らかに向こうが“弾切れ”を起こした証拠だ」


「なるほど……」


 ふむ、理にかなったいるな。

 確かに、もっとあるならその発射台分全部使ってくればいいものを。今現代装填時間もそれほどかからないはずだし、一気にやれないこともない。

 それでも撃ってこなかった。たぶん、もう弾道ミサイル本体がないのだろう。

 運搬手段の弾道ミサイルがなければ、核どころか通常弾頭すら撃ってこれない。


 ……最初にアレだけ撃ちすぎなんだよ。後先考えろっての。


「SM-3、発射準備完了しました。本艦目標、B1ブラボー・ワンB11ブラボー・イレブン


 そうこうしているうちに発射準備が完了。

 ディスプレイ上に表示されているVLSの中のSM-3をのせている11セル分の表示がスタンバイ完了を示す緑色に変わった。

 一気に11発も撃つのは少し珍しいんだけど、最初のやつで核撃墜に集中するために、やまとを核弾頭5発に限定させて、他を味方イージス艦に任せすぎた結果、SM-3の残弾バランスが偏ってしまった。

 まあ、その結果今度はやまと側が多く分配されちまったわけ。


 ……まあ、どうせ向こうはこれ以上撃てっこないんだ。今頃最初の発射ポイントを元に、米軍の巡航原潜がトマホークぶっ放しまくってるはずだ。

 米軍巡航原潜にはその任務もあてがわれている。例の改オハイオ級というやつだ。

 例の核兵器保有規制条約の関係で、米軍もあまり大量の核弾頭もてなくなったため、一部オハイオ級を巡航ミサイル搭載型にしていたのをさらに増加して、結果オハイオ級のほとんどが戦略原潜から巡航原潜になったのだが、それらが南シナ海や東シナ海に大量に出張ってきているらしい。

 今頃早いやつはもう撃ち始めていると思う。これを考えても、おそらく向こうは簡単には全部迎撃なんて不可能だろうし、これ以上の弾道ミサイル攻撃はちと難しくなるかな?


「よし、発射シーケンス。弾着が近い。チャンスは多くても2回だけだ」


「了解。発射シーケンス開始。第1弾発射30秒前」


 発射カウントダウンが開始された。

 発射地点からの距離がものすごく近いため、SM-3の迎撃チャンスは多くても2回だけ。しかも、台湾方面に向かっている目標群Aならまだしも、こっちに向かってきている目標群Bに至ってはまともに迎撃できるのは1回だけと見ていい。その後に迎撃するといっても、時間的に考えても再突入開始の終末段階ターミナル・フェイズでの迎撃になる可能性が高い。

 SM-3はあくまで中間段階ミッドコース・フェイズでの迎撃を想定されている。状況によっては終末段階ターミナル・フェイズでの迎撃もがんばれば出来なくはないが、しかし命中率の大きな低下は免れない。


 ……できれば今回も1発で決めていきたいが、さて、どうなることやら。


「残り10秒……、9……、8……」


 発射最終段階。この気に静まり緊張感が走るのはもはやお約束と化しています。

 弾道ミサイルの飛翔コースは予測どおりだ。よし、ここからなら余裕余裕。


「……5、……4、スタンバイ………、」


 そして、


「リコメンドファイヤー、てぇ!」


 発射コールとともに、後部の甲板のふたが開き競りあがってきたVLSから、大量のSM-3が飛んでいく。

 ここで放つのは11発。大量大量。

 連続発射が行なわれた後、そのSM-3は見事に天空の空に向けて飛んでいく。

 少し低い高度に停滞してきた雲に突っ込み、その姿は肉眼で確認できなくなった。

 しかし、今頃しっかりと弾道ミサイルを捉えて飛翔しているころだろう。

 他の艦からも同じく分配された目標に向けてSM-3を放った。もう艦隊の残ってるSM-3は4発しかないんだがな。なお、うち2発はやまと搭載のやつ。


「全艦からSM-3発射確認。後は回避をしまくってください」


「了解。……艦橋CIC、あとは誘導だけだ。何としても……」








「弾道ミサイル迎撃完了まで回避し続けろ」

















―艦橋―







「ったく無茶いってくれるねぇ!」


 航海長はそんなことを軽々しく叫びつつも、即行で俺に指示を出す。


「新澤! 不規則に蛇行しろ! 不規則にだ!」


「適当でいいんですか!?」


「かまわねぇ! とにかく砲撃云々は関係なく不規則に舵を切りまくれ!」


「了解!」


 さて、操舵の俺の本領発揮といこうじゃねえか。

 まず、今こっちに向かっている敵艦は……。あ、いた。

 前方から小さな……、って、フリゲートじゃんか。右舷前方15度方向にいる。

 あれは……、えっと、


「(……江凱II型フリゲート。最新のやつか)」


 この艦隊にもそこそこの数が配置されていたか。艦首に付けられている艦番号571からして、おそらく5番艦の『運城』だろう。

 こっちには向かっていない。しかし、砲門はこっちに向けている。


 ……よし、回避開始だ。


 しかし、操舵を俺に一任って、あんたもなに考えてるんだよ。

 そうやっていうんなら俺の好きにさせてもらいますよ?


「はいじゃあいきますよ! ゆれにご注意ください!」


「ぬぉ!」


 そういいつつ即行でまずは取り舵だ。

 舵を面いっぱい左に切ると、すぐに艦は反応し左に艦首をふり始める。

 その瞬間だった。


「ッ! ッぶねぇ!」


 そのすぐ左に敵弾が弾着。

 危ない危ない。いくらこっちは装甲積んでるとはいえあんまり被弾は勘弁だ。


 ……時間はかからんだろうが、それでもさっさと片付けたい。


 ……仕方あるまい。少し危険だが、


「(……奪っちまうか。あいつの攻撃手段)」


 というわけで、俺はやまとに言った。


「やまと、ここから面舵してあいつの突撃針路に入ったとして、あいつの主砲どれくらいで狙える?」


“え、ええ!? む、無茶ですよそれ! できなくはないですけど向こうも狙いやすくなりますよ!?”


「向こうがお前のレーダーに狙い定めるのとお前が狙撃完了するのどっちが早い?」


“そりゃ私に決まってるじゃないですか”


 はは、即答乙。


「だろうな。というわけで、やるとしてどれくらいだ?」


“今からやるなら10秒で狙えます。針路確保後なら1秒足らずで!”


「よし、十分だな」


 狙撃時間には十分。向こうとてそんな時間で狙撃はできまい!


「副長! SM-3弾着まで後どれくらいですか!?」


「後30秒だ。耐えろ!」


「了解! いけるぜ!」


 確信は持った。これはいける。

 では、さっさと行動に入らねば。


「面舵行きます!」


「ッィ!」


 すぐに面舵一杯。艦首がとたんに右にむき出した。

 速度が速いままでの機動性はむしろ高いこいつを狙うのは簡単じゃない。現に、今ここで向こうの砲撃はこっちの旋回に主砲の回転が付いていけてない。

 全部左にそれている。甘いな、狙いが甘い!


「主砲優先目標にした?」


“しましたよ。CICでも狙いを定めてます”


「よし、チャンスは一瞬だ。確実に決めろよ?」


“私を誰だと思ってるんです? これ元本業ですよ?”


「ですよね。知ってた」


 そうだよ。元々これぶっ放すのが仕事だったし当てるの簡単だろ。しかも今のやつ命中精度高いしな。


「あと5秒だ! 狙撃準備!」


「CIC、あと5秒!」


『了解! いつでも来い!』


 CICでもスタンバイ完了だな。


 よし……、今だ!


「舵戻します! 狙撃開始!」


「今だCIC! 狙え!」


「やまと! 前甲板の主砲だ!」


“了解! 一斉射で決めます!”


 すぐに舵を中央に戻し、艦の針路を固定させた。

 目の前には同じくこっちに回頭をはじめているが、主砲の砲撃は相変わらず遅れてる。


 ……よし、もらった。


“よし、撃ちます! 一斉射!”


 すぐに前甲板に置かれている主砲2門が互いに1回だけ同時に乾いた発砲音とともに砲弾を放った。

 その砲弾は、距離が近かっただけにすぐに弾着する。

 1発は主砲塔のすぐ近くの甲板。そして、もう1発は……、


「ッ! 敵艦前甲板で爆発あり! 当たりました! 狙撃成功です!」


 見張り員からの歓喜に似た報告だった。

 俺はすぐに突撃回避のために取り舵で進路を修正しつつ敵艦を見る。

 どうやら弾薬にも誘爆し、軽い爆発を起こしたみたいだ。主砲があったはずのあたりが煙と小さ目の炎で見えなくなっており、もちろん主砲塔の姿も確認できない。


 よし、何とか狙撃成功だぜ。


「ナイスやまと。いい狙撃っぷり」


“ふっふ~ん。これくらい楽勝楽勝”


 顔は見えんが、おそらく満面の笑顔を見せつつドヤ顔してるだろうな。そんでもって結構かわいい笑顔のほうを想像をした俺はもうそろそろダメかもしれない。


「敵弾道ミサイル弾着まで後10秒……。これは、もうほぼ決まったも同然だな」


 副長が腕時計を見つつそう確信したようにいった。


 SM-3命中まであと10秒。もうここまで来ると、少なくとも大半は迎撃成功だな。

 こっちを狙う敵艦もない。今捨て身でイージス艦を守りに行っている汎用駆逐艦やフリゲート艦が攻撃をひきつけている。

 ……今からレーダー狙うとか無理だな。当たったらそいつ相当な腕だぜ?


「弾着5秒。……4秒、……、3秒」


 副長がカウントダウンを始めた。

 艦橋に設けられたディスプレイを見る限り、SM-3もしっかり誘導している。こりゃ、最初みたく全滅必至だな。


「2秒」


 ここまでくれば、もう当てられんだろう。


「(……とんだ無駄弾だわな)」


 俺は軍配が上がるのを確信した。


「1秒」


 そして、次の弾着の言葉を待った。


 ……が、




 そのときだった。




“ッ! 痛ッ!?”


「?」


 何かの声がした。これはこんごうさんか?


 と、その疑問を考えるまでもなかった。


『SM-3弾着……、なッ!?』


 しかし、その後来た報告に思わず耳を疑う。






『に、2発回避! そのまま終末段階ターミナル・フェイズに突入開始! 本海域に突っ込んできます!』






「……ええッ!?」


 弾道ミサイルが2発生き残ってた。しかも、それ俺たちを狙ってる目標群Bのやつかよ。


 しかしなぜだ? 最後まで誘導は完璧だったのに……。


 すると、


“こんごうさん! どうしました!?”


 やまとが叫んだ。

 そうだ。確か直前にこんごうさんが……、


 すると、こんごうさんも答えた。


“クッ、ごめん! 最後の最後に砲弾がSPYレーダーに当たった! そのおかげでSM-3の誘導に狂いが! 今の2発たぶん私が狙ってたやつ!”


「げぇッ!?」


 マジかよ。最後の最後で当ててくるとか相手誰だよ!?

 こんごうが回避機動取ってなかったはずはないし、それでいてわざわざSPYレーダーに当てるとかあんた狙撃得意か!?

 すぐにディスプレイ上にその弾道ミサイルの突入コースがでる。


 これは……、ッ! マズイ!


「(丹陽と媽祖まそ……、運の悪いことに、台湾のイージス艦を標的にしているのが残ったのか!)」


 まずいな。ここで台湾のイージス艦を失うのは痛い。

 こうやってピンポイントで狙うあたり、やっぱり例の対艦弾道ミサイルか。


「マズイ! もう再突入を開始した! 落下速度ベロシティも上がってきている!」


「もうすぐ大気圏に入る! ここから狙えるのか!?」


 副長が叫んだ。しかし、対策はすぐにとられたようだ。


「ッ! ながと、あしがらからSM-3の発射確認! 合計2発!」


 まだSM-3が残っていた艦からすぐに追加が放たれた。

 しかし、今の弾道ミサイルはSM-3が想定している中間段階ミッドコース・フェイズじゃない。再突入段階の終末段階ターミナル・フェイズだ。

 誘導は出来なくはない。しかし、突入速度はその中間段階ミッドコース・フェイズより格段に早い。命中精度は自ずと落ちる。

 最悪、命中はさせなくとも、最近SM-3弾頭にあるキネティック弾頭に付与された弾道ミサイル対応の近接信管で突入コース自体を変えることも視野に入れたほうがいい。……近接信管つけたらキネティックのネーミングの意味が消えそうな気がするが。あれ標的に直撃し、運動エネルギーで破壊する弾頭のことをキネティック弾頭って言うわけだし。


「……弾着、来るぞ!」


 副長が腕時計を見つつ言った。

 速度の関係も相まって、SM-3はすぐに弾着した。

 ディスプレイ上に表示されたSM-3の弾着状況を見る。

 1発はすぐに消えた。ながとさんが狙っていたものだ。どうやら何とか命中したみたいだ。


 ……が、もう1発は、


「ッ! ま、まだ生き残ってる!」


 まだ反応はあった。

 しかし突入コースからずれてる。これはもしや……、


 すぐに俺と同じことを感づいたやまとが確認を取った。


“あしがらさん! 今の当たりました!?”


“いや、当たってない! でも近接信管が作動して弾道ミサイルの突入コースがずれた!”


「やっぱりか」


 どうやら近くを通ったとき近接信管が作動して勝手に爆発したみたいだ。

 そのおかげで破片がぶち当たったんだろうか。その突入コースから大きくずれている。

 よしよし、とりあえず逸らせればこっちのもんだ。あたりはしない。

 しかし、SM-3が大気圏に突入した今、SM-3では迎撃できない。あくまで大気圏外での迎撃を想定されているんだ。ここから大気圏内の迎撃はまず無理。


 ……となると、問題はどこに落ちるかだが……。


「CIC、今の弾道ミサイルの弾着地点の割り出しを急いでくれ!」


 副長が指示を出した。

 割り出しは簡単だ。すぐにディスプレイにも表示される。

 今の弾道ミサイルの位置と最初の突入コースが表示される中、そこに新たに割り出された突入コースと弾着場所が示される。


 ……ここは……、


「……ここから東東南、約2km先!」


「ちかッ!?」


 それでも思いっきり近くに弾着かよ。勘弁してくれ!


 すると、航海長がまたふと思い出したように言った。


「待てよ……。ここいら辺に弾着するってことは……、」








「……間違いなく、津波発生しますよね?」







「……あ」


 ……そうだ。弾着したときの爆発とかで大きな津波が発生する可能性が高い。

 となると、あの弾着地点からここに到達するまでは……。


「弾道ミサイル弾着まで15秒!」


「CIC! 弾着地点からここに津波がくるまでの時間は!?」


 副長の指示の元、すぐに計算がされた。

 返答はすぐに来る。


『ここいら辺の海域の海底深度は1500m前後。となると、重力加速度も考えると大体津波は時速450km以上にもなります。ですから……、』






『大体、10秒前後でこっちに来ます!』






「はぁ!? 早すぎだろおい!」


 副長が思わず叫んだ。

 津波の速度計算は簡単だ。深度と重力加速度(9.80665m/s2)をかけてそれを平方根ルートにぶっこめばいい。それを時速に直すと出てくる。なお、深度が深ければ深いほどその津波の速度は上がっていく。深度5000mだと実に時速800kmというジェット機並みの速さになる。


 今回の場合は450km以上と仮定してまさにたった10秒……。いや、マズイ。早すぎる!


「航海長! 回避しましょう! 今すぐに回避しないと横波にやられます!」


 俺はそう進言したが、航海長は否定した。


「いや、ダメだ! 弾着地点が近い。今から回避で転舵したら余計弾着地点に近付くことになる! タイミングを見計らえ!」


「じゃあいつですか!?」


「俺のタイミングに合わせろ! 合図したら一気に90度取り舵だからな!」


「了解!」


 確かに、言われてみればそうだ。

 あまりに早く転舵して津波に垂直になったとしても、転舵速度が速ければ結局はその弾着地点に近付いて、その弾着の影響を受けることになる。

 まだだ。こいつの転舵速度は速い。こいつを信頼するんだ。


「弾着します! ……、今!」


 その瞬間だった。


「ッ!」


 左舷側、すぐ近く数km先で大きな爆発音とともにでっかい水柱が立った。

 その瞬間、大きな振動が巨大な音をまかなって俺たちを襲う。

 艦橋の窓がガタガタゆれ、この艦橋自体も少しゆれた。

 いや、艦自体がその爆風に煽られて軽く右に傾きかけた。


 そして、


「ッ! 津波確認! こちらに向かってきます! 大きいですよこれ!」


 すぐに左舷側から来る津波を確認した。

 俺もすぐに左舷側をみて双眼鏡をのぞいた。

 ここからじゃ艦橋内での位置の関係上よくは見えないけど、少しだけ大きな波が見えた。

 あれが弾着時に発生した津波だな。ここに向かってきている。

 大混戦海域の外縁部にいた艦にいたってはもうすでに津波が到達している。

 しかし、中国艦だろうか? 旧式っぽい小さな中国フリゲートにいたっては、津波回避のための回頭が間に合わずその横波を大きく受けてしまっていた。沈没はしなさそうだが、波を大きく受けすぎて少し体勢が整わなくなっている。

 そろそろこっちにもくる。


 ……まだか。早くしてくれ。


「……」


 早くしてくれ航海長。もうきてるぜ?


 早く……。早く!


「到達8秒!」


「今だ! 取り舵一杯!」


「了解! 取り舵一杯!」


 すぐに舵を左に倒して急速回頭。

 すぐにやまとは反応した。一気に艦を右に傾けつつ、左に艦首を向け始めた。


「やまと! 急いでくれ! 津波来るぞ!」


“わかってますって! これでも全開ですか!”


「もっと早く出来ないのか!?」


“無理言わないでくださいよ! わかりましたからそんなせかさないでくださいって!”


 そんなことを言いつつあいつも急いで左に艦首を向けるのを急いでいる。

 津波はもう目の前だった。今にも来そうだ。


 ……早く、早く回頭を……ッ!


 ……そして、


「90度回頭! 舵戻せ!」


「了解! 舵中央!」


 すぐに舵を中央に戻し、艦の進路を安定させた。


 まさに、その瞬間だった。


「津波到達!」


「ゆれるぞ! 何かにつかまれ!」


 副長が言うまでなく、俺は適当な身近なものにつかまった。

 その瞬間、津波が真正面から突入し、やまとを大きく揺らした。

 このやまとも排水量13,000トン以上ある巨体なのだが、それでもその弾道ミサイルの爆発自体が大きすぎたようだ。そのときの津波もでかいものになったらしい。


 しかし、それも一瞬だ。


 すぐにゆれは収まり、後方に流れた。


「津波通過!」


「被害を確認しろ!」


 副長が指示を出した。

 すぐに津波などの一連の弾道ミサイル迎撃時に伴う被害を報告させたが、なにも問題はなかったようだ。


 それに安堵しつつ、さらに副長が指示を出す。


「面舵回頭で針路を戻せ。戦闘を再開する」


「了解。面舵一杯」


「おもーかーじ」


 すぐにまた速度を少し抑えつつ面舵回頭。

 転舵し針路を戻しつつまた戦闘を再開する。


「……で、他の艦はどうだ……?」


 俺は心配になり真正面と右舷側のほうを順に向いた。


 他でもどうやら回避できた艦は回避したみたいだが、それでも対応が遅れた艦は津波を横からもろに受け、危うく沈没しそうになったものの立て直した艦も何隻か確認できた。

 中国とかの旧式艦それの被害が尋常でないらしい。速度が落ちてノロノロと動いている。

 ……そう簡単に戦闘不能になるとは思えんが、しかし修復には時間がかかるか?


 ……まあ、向こうは向こうの事情だ。気にするまでもない。


「……と、そろそろ他の敵を……」


 まだ敵は攻撃を仕掛けてくる。陸もまだ終わっていない。早く次の敵を……、


 ……と、そのとき、


「……ッ! 右舷10度方向より、接近する敵艦1確認!」


「ッ! きたか!」


 すぐに敵も動いたか。

 奴らも行動が早い。すぐに確認した。


 いくらか大型だ。四角いAPARが2つ、艦橋に備え付けられているのが見える。


 ……あれは、


「……きたな。中国の最新鋭艦だ」


「やっぱり……」


 同時に艦番号も確認する。

 艦首からかすかに見えた限りでは、176と書いてあった。


 ……あれは、


「……間違いないな。あれは……、」











「中国昆明級駆逐艦の『成都』だ……」












 俺は目の前から来る最新鋭の駆逐艦を、


 少し顔をしかめて軽く睨みつけつつそうつぶやいた…………

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