動揺する両軍。そして、燕中佐の決断……
※今回少し場面展開が多いです。ご注意ください。
―TST:PM13:20 増速地点より南西14海里地点 日台連合艦隊DCGやまとCIC―
「なんだと? 間違いないのか?」
艦長は切迫した表情で聞き返した。
しかし、残念だけど俺は肯定せざるを得なかった。
「間違いありません。衛星からの情報で、発射された弾道ミサイルのうち目標群Aの一部にプルトニウム物質反応の検出を確認しました。これは明らかに……、」
「“核弾頭弾道ミサイル”が含まれています……」
「ッ! そ、そんな……」
一人の乗員がそうつぶやいたのを筆頭に、このCIC内が大きくざわついた。
……いや、大体半数くらいは思わずパニックになっていた。
そう。今放たれた弾道ミサイル群Aの中に、核弾頭が混じっている。
幸い国産の偵察衛星“天津神”には、こういう弾道ミサイルの弾頭物質の検出機能が備えられているため、事前にこうやって捉えることができる。
……が、俺は信じられなかった。
これほどこのやまとさんが間違って表示しただけであってほしいと本気で願ったことはない。
核弾頭……。これを撃ったということがどういうことか、考えるべくもなかった。
……奴ら、本気なのか? 核だぞ核?
これを撃ったら……、効果云々関係なく世界が黙ってねえぞ……。
「……奴ら……、まさか、本気でやるとはな……ッ!」
隣にいた砲雷長も思わず目の前の制御基盤を備えているテーブルに両手で握りこぶしを作ってそれを思いっきり握り締めた。
その顔も大いにしかめられていた。
相当な怒りが伺える。しかし、怒鳴り散らしたりはしない。あくまで静かな怒りを示していた。
そして、その隣にいた艦長も、かぶっていたい帽子を少し深かぶりして、静かに瞑目して低い声で言った。
「……残念だよ。いくらなんでも、ここまではしないと思っていたが……、君達が、ここまえ落ちぶれていたとはな」
地味にどぎつい言葉であったが、しかし、今のここにいる者たちの本心がイコールこの言葉のすべてだった。
心底動揺していたとともに、心底がっかりしていた。まさかいくらなんでもそれはないだろうと思っていたのに、その結果がこれじゃ……。
しかもこれ、方向的にどう考えても俺たち日台連合艦隊直撃コースだろ。
今はそれこそ距離は離れているとはいえ、それでも互いに敵味方大量にいるんだけど? そんなところに撃つって俺たち日台軍は元よりあんたらの味方の中国軍まで下手したら被害あって死ぬことになるかもしれないんだけど?
ほんといったいに考えてるんだよ……。目的のためなら自分達の損害なんて目でもないってことか? でもその場合俺たちはもちろんだけどあんたらの損害も大なんだが……。
……悪いが、“キチガイ”としか言いようがない。いや、悪いけどもうそう断言させてもらおう。
「……とにかく、迎撃に入らねばならない。核弾頭の詳細は判明したか?」
艦長からの問いにすぐ答えた。
「はい、すでに。核弾頭のものは目標群Aの中に計5発確認。それ以外は通常弾頭のもので間違いありません」
「そうでなくても大量に撃ってきてるというのに……。まあいい、核弾頭のものは本艦にまかせろ。目標分配急げ」
「了解」
なお、奴らこんなときにでもまさかの45発という大量の弾道ミサイルを撃ってきている模様。
そのうち20発くらいはこっちにきてる。その中に例の核弾頭5発が含まれているが、たぶん例の対艦弾道ミサイルのやつだろう。
他の弾道ミサイルと違って発射後すぐに弾道飛行(つまり普通の砲弾みたいに弧を描く機動)をしつつそのまま再突入時に精密な誘導で敵艦にぶち当てるってやつ。
あれ、精度云々で問題あったみたいだけど、どうやら最近では衛星とのリンクで何とか解決したみたいですな。
とにかく、あれもうちらにとっては脅威だ。これも落とさないと。
「目標配分完了」
「よし……、」
「さっさと落とすぞ」
艦長の一言が号令となり、すぐに各種指示が飛び交うことになった……。
―同艦橋―
「……マジか……」
俺は艦橋に設けられたディスプレイの一つを見ながらそういった。
そこには今中国本土から放たれている弾道ミサイルの詳細が表示されていたのだが、その中の、目標群Aの中に含まれている5発に注目した。
赤く記されていたそれは、隣に“Nuclear Warhead”と記されている。
日本語で、“核弾頭”。
奴らは、核を撃ってきやがった。
俺たち日台連合艦隊に向けて、核を撃ってきやがったんだ。
「……自分達の味方が近くにいるってのに、ずいぶんと冷酷なことをするな……」
自軍の損害は関係ないってか? ふざけてやがるぜ。
撃った時点でどうなるかわかってんだろうなぁ……? 国際社会が黙ってないぜ? 特にアメリカあたり。
あそこのことだ。たぶん「よっしゃ戦争終わるぜ!」とかいって嬉々として核弾頭弾道ミサイルを準備してるころだろうね。あと、相互確証破壊の台湾の代役的な感じのこと言っての核発射宣言も絶賛準備中だろうね。
大体1時間もしないうちに核発射宣言して向こうの反応みるんでないかな?
……こればっかりはもういろいろとおかし過ぎて唖然の一言。怒りがないとは言わないけど、それすら通り過ぎて唖然呆然状態ですよ。
……んで、この場合一番ぶちきれるのが……、
「クソッ……、奴ら、ふざけてやがる! マジで撃つとかなに考えてやがるんだ!」
そう叫びつつ目の前の基盤が並んでるテーブルを思いっきり叩いた。
まあ、いつもどおり副長です。
……でもまあ、こればっかりも止めるべくもない。こればっかりは好きなだけぶちきれてくれてかまわない。むしろいいぞもっとやれ。俺たちの本音の代弁よろしく。
「これで周りが黙ってると思うなよ……ッ、自分で首を絞めたことを思い知らせてやる……ッ!」
「まあまあ副長、気持ちは察しますがとりあえずおちつきましょうや」
そう航海長がやんわりなだめた。
「しかしだな!」
「わかってますって。ですが、ここで叫んだって何にもならんでしょう。……なに、撃たれたんなら落としゃいい話ですよ落としゃ」
簡単に言うけど、それが簡単に出来たら苦労しないわけで。
まあ、今の弾道ミサイル迎撃率はほぼ100%といわれるにいたったのはいいけど、あくまで“ほぼ”だからね。小数点以下の確立だけど万が一外す可能性もないことはないわけで。
……まあ、最終的にはやまと次第になるけどな。言うまでもなく核弾頭の処理は最新鋭のほうに任せることになるだろうし。だが、唯一の問題は迎撃がギリギリ中間段階で迎撃できるかどうか。もし終末段階で迎撃となるとちとまずい。さすがにSM-3はそんな段階での迎撃はあんまり想定されていない。
……まあ、弾道飛行のあれにこんな概念があるかは知らんが、どっちにしろ頼むから想定の範囲内での迎撃ができるようにしてくれ。
……と、そのとき、
「……ッ! 前部甲板SM-3発射確認。……5発確認。全弾上がりました」
艦内に退避していた見張りからの報告だった。
艦橋のすぐ前では濃い発射煙とともに5発のSM-3が飛び上がった。
今こっちに向かっている核弾頭ミサイルは計5発。それをしっかり迎撃させる。
「……頼むから当たってくれよ……」
そういって航海長は顔の前で手を合わせて「はは~」と小さくつぶやきながら手をすり合わせてお祈りしていた。
なんか神に祈るようだが……、まあ、実際神にでも祈らなアカンやつだしな。
……核は5発。いつもどおりやれば落とせるが……、
「……大丈夫だろうな……、……え?」
“大丈夫だろうな……?”
“……とか考えてませんよね?”
「げぇぃ」
うは、読まれてたわ。
……まったく、こいつの読心能力はいったいどうなってやがる。
「……だが、大丈夫か? 相手は核だぞ?」
“任せてください。……元より、私は最新鋭艦です。……守るべきものを守る、それが出来きなければ私のプライドが許しませんよ”
「……プライドね」
最新鋭艦としての意地か。前世が前世なだけに、こればっかりはどうしてでも落としたいというところだろう。
……大丈夫。今のやつならやれる。
“……まあ、私よりその執念が高いのが隣にいますけどね。元国民的戦艦のあの方が”
“え? 私?”
そう反応したのはやまとの隣を航行していたDDG“ながと”だった。
……あ、そうか。彼女は前世で核実験の標的にされたから……。
“違いますか?”
“……いや、まあ、間違ってはいないが……。ふぅ”
少し軽めに息をついていった。
“……歴史は繰り返す。だが、その結果を現実に出さないようにするのが私たちの役目だ。そうだろ?”
“ごもっともですね。……大丈夫です。ながとさんの代わりに絶対落としますから”
“頼む……。こもうれ以上、あの光を間近で見るのは嫌なのでな。ましてやまた体験するのなんてのも嫌だ”
あの光……。そうだよな。間近でみたもんな、アレ。
そりゃ恐怖にもなるか……。なに、今のあいつなら即行で落としてくれるはずだ。
前世と同じ最新鋭だけど、今回の最新鋭は前世の一味も二味の違うってところを見せ付けてやらなければな。
「……さて、」
「頼むぜ……、最新鋭艦」
俺はそう願った……。
―同海域 DCG丹陽FIC―
「SM-3、第1弾弾着まで残り30秒」
FIC乗員が報告する。
弾道ミサイル迎撃を始めてまだ時間は間もない。
敵が撃ってきた45発の弾道ミサイルは台湾最前線と本艦隊の二つに分かれて飛翔していた。
どれ1発も逃がしてはならない。1発でも逃がせば、その逃がした弾道ミサイルの攻撃対象は大きな被害を受けることは確実だ。
……特に、
「(……やまとが迎撃しているはずの“核弾頭弾道ミサイル”は必ず……)」
お相手しているのは日本の最新鋭艦だ。彼女とその乗員の彼らなら必ず落としてくれるだろうが、しかし不安が消えないわけではない。
核という存在はたとえ今では落とそうと思えば簡単に落とせるものであっても、恐怖自体は消えないのだ。
……どうしても核を落とされたときの様子が脳内再生される。もちろん、仮に現実に落ちたらこんな想像の内容の範疇ではすまないだろう。
広島や長崎のあの惨状は想像できん……。あのような事態になることはどうしても避けなければならなかった。
今回は海に向けてではあるが、だからってあの惨状がないというわけは当たり前だがないわけで……。
……だが、大丈夫だ。やまとならやってくれる。
日本の最新鋭艦だ。撃墜率ほぼ100%の彼女ならやってくれるだろう。
「まもなく10秒。……10、……9、」
カウントが始まった。
その場に緊張が走る。
ディスプレイを見る限り、SM-3は順調に目標を捉えてはいた。後はそのままぶち当たってくれるのみだった。
……頼むぞ。最悪核だけは落とさないでくれ。
「5……、4……、3……、スタンバイ………、マークインターセプト」
その瞬間、第1弾が弾道ミサイルに命中した。
そこから、次々と弾道ミサイルとアイコンが重なったSM-3がどんどんと消えていった。……弾道ミサイルとともに。
私は思わず全部消えるのを確認する前に確認を取った。
「核は!? 核は落ちたのか!?」
その返答はすぐに来た。
「えっと……、ッ! お、落ちました! プルトニウム反応のあった弾道ミサイル5発の反応消失!」
「よっし! やったぞ!」
その場が一気に歓声に包まれた。
すぐに弾道ミサイルが全部迎撃が完了した旨の報告も伝わり、その歓声はより一層高いものとなった。
核は落とした。
何とか、迎撃自体は成功したのである。
「……これでアメリカも口実ができるな……」
とはいっても、まだ準備には時間がかかるだろう。アメリカ側とてまさかこんな早くに高雄市に突入するなんて考えてもいなかっただろうしな。
しかし、近くにいた原潜にすぐに準備を促すだろう。準備自体は時間がかかれど、これで中国はいろんな意味で後に退けなくなった。
「……さて、」
「あとは、この後の“作戦”だな……」
私はディスプレイを見据えつつそういった……。
―同時刻 日台連合艦隊から南南西20海里地点 『施琅機動艦隊』DDG176“成都”艦橋―
「……うそだろ?」
その報告を聞いた俺は思わず唖然とした。
弾道ミサイル攻撃。
その目標が二つあって、台湾の最前線と今こっちに突撃してきている日台連合艦隊らしかった。
まずそこでも突っ込みたくて、まず台湾最前線に撃ったら敵味方関係なく大ダメージを喰らうのは確実であって、自分達の味方地上部隊まで巻き添えを食らうことになるんだぞ?
そんでもって日台連合艦隊に撃ったのだって、弾着場所によってはその弾着の衝撃による津波被害が来る可能性があるのだが?
そこを考えているのかと。
……そして一番は……、
「……待ってくれ。核を撃ったというのは本当なのか?」
隣にいた政治将校が信じられないような表情で通信担当に聞いた。
そうだ。奴らは挙句の果てには核まで使ってきた。俺を含め、その場にいたやつが全員信じられない顔をした。
あの政治将校までもだ。いくらなんでも核発射なんつう“暴挙”までやらかすなんて思わなかったんだろう。
しかも、その目標が俺たちの目の前に突撃してきている日台連合艦隊だ。下手すれば俺たちだって甚大な被害が出るってのに、向こうはなに考えてやがるんだ? 俺たちはどうなってもいいってのか?
……だが、その通信担当からきた返答は出来ればきてほしくない内容だった。
「……間違いありません。敵艦隊に向けて撃ったものの中に、核が混じってます。すでに全弾落とされたようですが……」
「ッ……!」
……その報告を聞いて、心底安心してしまった俺がいた。
いや、安心してはいけないのだろうが、こればっかりはしてしまった。
というか、これほど敵艦隊のイージス艦たちに感謝の念を抱いたことはなかった。一応、これの役目はイージス艦のはずだしな。
……にしても、何を考えているんだ共産党め。これでは結果如何にかかわらず世界からどんな目で見られるかわかってんのか?
中国がいろいろな意味で死ぬんだぞ? 撃っただけでも結果関係なくどうなるか小一時間説教してやろうか? あん?
「……」
「……なあ、あんたがそんな絶望の極みみたいな顔されても困るんだが。あんたんとこの共産党のだろ?」
「……これはどういうことだ?」
「いや、どっちかっていうと俺が説明を求めたいんだがな……」
すっかり政治将校が違う意味で政治将校をしていない。
こいつもまさか自分の信じていた共産党が核を撃つとか考えてなかったのか……。しかし、こういう奴らって一応共産党のやったことは全部正しい的な考えをもってそうだが、そうでもないのか? それともこいつだけか?
年そこそこいってるから一応政治将校としての経歴は長いはずなんだがな……。
「……だが、これで共産党も後に退けなくなったぞ……? どうするんだ?」
「私に聞くな……。こればっかりは私とて聞いてはいない……」
「聞いてないって、お前政治将校だろ。こういうのあんたら把握してんじゃなかったのかよ?
すると少し声を高くしていった。
「あくまで私は核の発射は最悪の事態を想定した“フェイク”と聞いていた。だが、実際に撃つなんてことは絶対にないにと、誰でもない主席閣下がおっしゃっていたのだ!」
「だが、そうは言われても実際に撃ったのを確認したんだが? 考え改めたんじゃないのか?」
「主席閣下がそう簡単に考え改めるか……?」
政治将校が右手で軽く頭を抱えた。
……こいつも苦労してんのな。まあ、俺なんかが知る由もないが。
「……はぁ」
「何がどうなってんだよおい……」
俺はマジでわけがわからなかった……。
―同時刻 日台連合艦隊東北東25海里地点上空12,000ft 『閃龍隊』―
「……もうすぐ目標だな」
私はレーダーをみてそういった。
AWACSの『黄龍』から少し待機指示が出ていたためにその空域で旋回待機をしていたが、もうすぐその待機指示も解けそうだった。
……なんで一々こう待たされているのかは知らんがな。
すると、無線が声を発した。
《黄龍より閃龍、待機指示を解除する。目標空域へ向かえ》
「閃龍リーダー、了解した」
待機指示が解除された。
そのまま目標空域へ向けて、編隊を組みつつ移動を開始した。
さらにまた指示が入る。
《閃龍へ、貴隊の任務は、敵艦隊防空についている護衛機の撃退である。敵はあの“蒼侍”であることを忘れるな。いつも以上に気を引き締めて戦え》
「了解。……蒼侍、か」
『蒼侍』
今向こうにいる敵航空部隊の別称で、部隊マークに青い日本刀が付けられているところからこう呼ばれている。
我が国空軍内で警戒するべき航空部隊の一つとして挙げられ始めており、そして、その部隊こと、前に台南市上空で戦火を交えたあの6機のF-15MJの部隊だった。
……蒼い侍、か。まさに、日本にピッタリの別称だ。
侍の実力。あれにはまさしくこの言葉が似合うだろう。
……ということは、
「(……また、あの若造と戦うことになるのか……)」
もしかしたら、また格闘戦なりでそれをすることになるのかもしれない。
だが、本音を言えば私はそんなことはしたくなかった。例の戦闘で、あの若造の実力はしかと体験した。
ぜひとも、もっと他の機会にあのこぶしを交えてみたいものだが、こんなところで落としてしまうのはとても惜しかった。
……いや、もちろん落とされるのはこっちという可能性もある。だが、どっちにしろ、私自身この戦いに嫌気が差し始めていた。
彼にとっての戦いは、まさに仲間を助けるためだが、我々にとってのこの戦いはもはや意味のないものになりつつあった。
もう、目的が失われているのだ。もはや何のためにこうやって戦っているのかもわからなくなった。
私だけかもしれないが、それでも、誰かに問いたかった。
“この戦争は、何を目指しているのか”……、と。
だが、答えてくれるはずもないだろう。わかるやつなんてほとんどいないはずだ。
これは、私の部隊の中でも蔓延し始めていた。私みたいに、この戦いに嫌気が指し始めたものばかりだ。それは、先のあの蒼侍との戦闘で感じ始めていたのだ。
そして、とどめに核発射宣言。
あれ以来、我が部隊の共産党への忠誠は失われつつあった。私も含めて。
彼等の道具としてこき使われるのがまだいいが、その結果こんな汚れ役を着せられまくるのはもういやになってきたのだ。
……さっさと終わらせたい。その一心で私たちはここに赴いている。
尤も、この戦闘という名の“抵抗”をすることによってまた戦争は少しでも長引くかもしれなくなるのだが……。
《隊長、敵航空部隊がこっちに来ます。例の蒼侍です》
「……きたか」
確か予定では本土側から対艦攻撃部隊がくる手はずになっていたはずだが、どうやら我々を撃破することを優先したようだ。
大方対艦攻撃部隊は艦隊側に任せるということなのだろう。まあ、妥当といえば妥当か。
……さて、どうしたものか……。
「(……今の私たちは、彼らにかなうのか?)」
もちろん、このときのために対策はしっかりとってきた。先の戦闘を見返して彼等の弱点や対抗策を入念に議論し、それを元に新たな戦術等を考案してきた。今回はそれを実戦に移す。
……しかし、それがうまくいくかの可能性は未知数。実際にやってみたいとわからない。
「……だが、やるしかない」
とりあえず、今は奴らを撃破するために最善を……。
《……しかし、なんで俺たちは待たされたんです? 何か障害でもあったんですか?》
「?」
すると、私の部下がふとそんな疑問をぶつけた。
そういえば、理由は聞いていなかったな。確かに気にはなる。
すぐに黄龍が答えた。
《ああ……。艦隊上空から弾道ミサイルが落ちてくる可能性があったのだ。それの被害がくるかもしれなくてな》
「……は!?」
私は思わず時間差で驚いた。
……ちょっと待ってくれ。そんなの聞いてないんだが?
弾道ミサイルって、艦隊に向けてか? 例の対艦弾道ミサイルか?
……その報告はもう少し前に持ってきてくれ。下手に弾道ミサイルの落下地点次第ではこっちにまで被害
がでるではないか。
私はその旨抗議した。
「……すまんが、そういう重要な情報がもっと前に持ってきてくれ。それならこっちとてもっと後方で待機していたというのに」
《そうはいっても、こればっかりは無理なのだ》
「なぜだ? 差し支えあるものでもあるのか?」
《まあ、今だから言うが、あの敵艦隊を狙った弾道ミサイルに……》
《核弾頭が混じってたからな》
「……は?」
……は? ちょっと待て。今なんと言った?
「……すまない。今なんと言った?」
《いや、だから……、中に核弾頭が含まれてるからだと》
「……はあッ!!??」
私は思いっきり叫んでしまったとともに、自らの耳の異常を疑った。
いや、というか“願った”。
……核だと? 敵艦隊に向けて“核”だと?
通常弾頭に紛れ込ませ、その中で爆発させるつもりだったのか?
……バカな……ッ。
《核が含まれてると知らせれば、いくら君達でも逃げ出すと思っていてな。すまんが、上の指示だ》
その言葉に、私はとうとう堪忍袋の緒が切れた。
無線に向けて自分が今まで抱え込んできた思いっきり怒りをぶちまけた。
「ふざけるなッ! だからってだんまりはないだろ! その爆発時の電磁パルスでこっちに被害がでたらどうするつもりだ!」
《だから、後方で待機させたのだ。君達を巻き込まないためにな》
「俺たちを巻き込まないだと? 綺麗事が言える立場か!?」
《……は?》
「は?でないだろ! あそこの海域に他に誰がいるのかわかってるのか!? 俺たちが護衛するべき味方の施琅機動艦隊がいるんだぞ!? 味方だぞ!? 味方! 核の数によっては、いや、たとえ1発でも爆発すればその施琅機動艦隊まで甚大な被害を受けることは必然だ! それを知らないわけないだろ!?」
私は思わず早口になる。
だが、問答無用でそれを続けた。
「味方の犠牲は考えなかったのか!? 味方の施琅機動艦隊の損害は考えなかったのか!? あれか!? これもすべて上か!? 上の指示なのか!?」
《いや、私に言われても困るが……、まあ、上だろうな》
「なッ……!?」
……私は肩の力がスッと抜けてしまった。
操縦桿を握る手も思わず力が抜け、手が操縦桿から滑り落ちそうになる。
……信じられなかった。いくらなんでも、そこまではするまいと思っていたが、その結果がこれだ。
忠誠を誓っていた我々にとっては最悪の裏切り行為とかそういう次元の問題じゃない。そういうレベルの問題じゃない。
もっと根本的なものにある。彼らは、まず人としてやってはいけないことをした。
脅迫までならまだしも、それを本気で撃つとだと?
待機指示が解除されたということは、おそらく迎撃されて攻撃は失敗したということなのだろうが、それに関しては私個人として心底安心した。
核が実際に落ちるのは勘弁だ。いや、通常弾頭も混じっていたからそちらが落ちていった可能性もあるのだが、どっちにしろこれはやりすぎた。
通常弾頭にしても、その弾着場所によっては津波被害が起こる場合もあったのだ。
……それをなぜ考えなかった? いや、考えた上でこれなのか?
信じられない。私は、彼等の思考が信じられなかった。
……これでは、もう本気で戦争と呼べるものではない。
これではただの……、
「(……ただの、“無差別な虐殺”だ)」
敵味方関係ない。自分達の味方の損害など、気にも留めない。
その結果がこれだ。もう何を思えばいいのかわからなかった。
怒りはもちろんだが、悲しみも、脱力感も、何もかもが一気に襲い掛かってもはや私の脳内では処理が追いつかなかった。
現実を見たくなかった。目をそらしたかった。
こんな、現実が非情な選択をしてしまったことに、心のそこから落胆の感を感じていた。
「……」
何も考えれなかった。
私は、この現実を前に、何を思えばいいのかわからなかった。
怒りが云々が起きすぎて、それを通り越してもはや私の感情は無に近かったのだ。
何も考えれない。そんな絶望感が私を支配した。
……同時に、それらを経て、私はある答えにたどり着いた。
……それは、
「……戦争を早く終わらせなければならない。“手段は問わない”」
私は強く決意するとともに、すぐに行動に移した。
まず黄龍とのデータリンクをきった。無線もだ。
そして、それを否応問わず部下にやらせたのだ。
その後に、部下に無線で私の考えを伝えた。部下とのデータリンクはつなげてある。“部下とは”。
戸惑いはあったものの、彼らは以外にすんなりと了承した。
彼らも、この核発射の暴挙にひどく落胆したとともに、さっさと戦争を終わらせたかったのだ。
データリンクついでに無線もきったので、無線は黄龍に聞こえない。
……今からやることは、常識を覆しまくるとんでもないことになる。
リスクも高い。それによる我々に対する視線態度風当たりその他諸々はひどいものになるだろう。
だが、私は覚悟の上だ。そして、それについてきてくれた部下達も同じはずだ。
我々の意思は、とにかくこの戦争を一刻も早く終わらせる。
たった、それだけだった。
その後、我々は行動を開始し、すぐに全速力で移動を開始した。
その目的地は…………




