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『やまと』 ~戦乙女との現代戦争奮戦記~  作者: Sky Aviation
第8章 ~日台vs中最終決戦! 敵本拠地高雄市陸海空軍総力戦!~
116/168

〔F:Mission 26〕台湾方面総司令部強襲空挺 ……しかし、

―TST:PM13:05 台湾高雄市鼓山区沿岸低空600ft

           日本国防陸軍第1空挺団第1普通科大隊第1中隊第1小隊―







「……あと1分だ。お前ら、覚悟はいいな?」


 隊長のいつもと低い声が機内に響き渡った。


 今回私が乗っているのはいつものC-2輸送機ではなく、陸軍が使っている日本版オスプレイの“JV-22オスプレイ”。

 なぜこれに乗ってるかっていうと、そもそも今回私たちはいわば“本命”として作戦に参加するから。

 現在私たちが飛んでいるのは高雄市の南シナ海沿岸数km先の低空。たった600ft、つまり、メートルに直すとたったの180m。

 普通の考えてものすごく低い。いくらレーダーの目から逃れるためとはいえ結構な低さである。

 これの前段階で、まずC-2に乗った日本陸軍空挺団と、日本から輸入したC-1ことTC-1に乗った台湾海軍特戦隊が鳳山区の鳳凰山周辺に強襲降下した。

 台湾海軍特戦隊というのは、まあ早い話海兵隊のような組織。

 一応空挺作戦もできるようになっているらしくて、そちらと合同でそのさっき言った場所に“陽動で”空挺した。

 というのも、これをしないと目的地の守りが全然ゆるくならないから。

 そう。今回狙うのは……、








「もうすぐ見えるぞ……、“高雄国際空港”が」








 隊長の言ったところだった。


『高雄国際空港』。


 高雄市にある国際空港で、規模はそこそこだけど、台湾の南の玄関口として機能されている。

 しかし、今は中国軍の総司令部が置かれる空軍基地の役割を担っており、私たちはそこに“強襲空挺作戦”を実行することになった。

 だからこそ、ばれないように少しばかり少数に絞り、しかもこの身軽なオスプレイを何機か使って、さらに低空というレーダーが効きにくい場所をとおって向こうに降り立つ。

 なお、強襲とはいっても事前情報も殆どない、いわば“強襲という名の半分ほど奇襲”の作戦であって、こっちも情報は事前に受け取った地形的なものとか、施設関連とか、そういうのしかない。

 だから、使えそうな情報がほとんどない、いわば手探りの状態での戦闘となる。

 今回投入するのは第1中隊にある8個小隊全部、全192名。

 少数規模ではあるけど、これを8機のオスプレイに詰め込んで、完全武装で攻め込む。

 今左手には鼓山区にある柴山という山がある。鼓山区の南シナ海沿岸にある小さな山ではあるが、そこを抜ければ……。


「……ッ! 見えたぞ。高雄国際空港だ」


 パイロットの兵士が言った。

 どうやら見えたようね。

 ここまでくればあとは直線距離でもたった15kmくらいしかない。すぐに着く。


 降下まですでに1分をきっていた。

 私たちの間に緊張が走る。

 あの隊長でさえ、いつもは自信満々なのに今回は顔は真剣そのものだ。

 まあ、当たり前ね。こんな大役任されたらだれだって緊張するわ。


「左旋回。ここからは向こうまで一直線だ。後部ランプあけるぞ」


 すると、後部にある下開き式のランプがゆっくりと下に開き、下の様子があらわになってきた。

 同時に、外の空気も勢いよく入ってくる。


 下は所々が倒壊していた。おそらく最初のころの空襲爆撃のものだろうけど、改めてみるとひどい有様ね。

 今見えたのは港湾施設が立ち並ぶ旗津区とその向かい側にある前鎮区のものだと思う。だとすると、もう高雄国際空港は目の前ね。

 高度も結構低い。明らかに600ftはきってるだろうし、今降下中なんでしょうね。


 ……さて、ではこっちもそろそろ降りる準備を……。


 ……と、思ったときだった。


「……ッ、なァッ!?」


 いきなり機体が大きな衝撃とともにドデカイ振動を起こした。

 その振動は全然止まる様子がなかった。いや、むしろどんどんと激しくなってる。


「な、なんだ!? 何が起きた!?」


 隊長が咄嗟に叫んだが、そのときさらに大きく揺れた。

 そして、機体が徐々に落下していく錯覚を覚えた。

 ふと一瞬だけ耳を澄ましたとき、


「(ッ!? ローターが!?)」


 あ、いや、わざわざ澄ませる必要すらなかった。

 こっちから何もしなくてもよく聞こえていた。外から聞こえてたローター音が明らかに回転数が落ちてる。

 さらに、一瞬ランプのところから外を見ると、その景色はどんどん向こうに流れていくとともに、その鮮明さがよくなっていった。一軒一軒の建物や港においてあるらしい大量のコンテナがよく見えた。


 ……やっぱり、私の感じたとおり高度が落ちてる? ということはまさか……、


「クソッ! 地上から撃たれた! このままじゃ落ちるぞ!」


 パイロットが叫んだ。

 やっぱり、下から攻撃されたのか。でも、ミサイルアラートが全然なかった。歩兵が持つ携行型の対空ミサイルでも、何らかの警告音はなるはず。

 どういうこと? しかし、現実と状況はそれを考えている時間を私に与えなかった。

 この間にもどんどんと高度が下がっていった。


「ダメだ! ローターがやられて高度が保てない! これ以上は無理だ! 飛べねぇ!」


 パイロットが再び叫んだ。

 もうこれ以上の飛行は無理みたいね。しかし、敵はいったいどうやって私たちに……、


「ど、どうするんです!? このままでは!」


 羽鳥さんが半ばパニックになりかけつつ言ったが、隊長はすぐにパイロットに進言した。


「すまない! すぐに降りさせてくれ! この高度ならまだ降りられる!」


「……仕方ない。頼むぞ! 俺たちにはかまうな! いけ! 今すぐ飛べ!」


 パイロットもすぐにオーケーを出し、私たちが折りやすいようにできる限り高度と針路を安定させた。

 こんな状況なのに最後まで私たちを下ろそうと……。頼むわよ。しっかりね!


「おら、降りるぞ! いけいけいけいけぇ!!」


 隊長が機体前部、私たちから見て後ろのほうから大声で叫んだ。

 それにいわれるまでもなく、後部ランプに近いところにいる人からどんどんとそのまま飛び降りていった。

 ただし、今回私たちはあくまで空港エプロンあたりでそのまま低空進入しつつその間にさっさと下りるという通りすがりな感じで降りることを想定していたので、パラシュートなんて持ってきてません。

 まあ、仮にもってきててもこんな高度じゃただのお荷物で役立たずですがね。


 そして、私も降りる……、けど、


「げっ、し、しししたコンテナじゃぁあん!」


 まだここ港湾施設の近くだったらしい。コンテナが大量に敷き詰めてあった。

 しかし、迷っている暇はなかった。気がつけば私の両足が後部ランプから離れていた。

 そのまま慣性の法則に従いつつ地面に落ちていく。

 お願い、せめてコンテナのところに落ちて! お願いだから! そこならまだ地面から離れてるし少しばかりコンテナの素材の性質上ほんの少しクッションっぽくなるかもしれないから!


「ひぇぇぇええええああああああああ!!!」


 と、変な叫びをしながら落ちていったときだった。

 ……どうやら、私の願いはどうにかこうにか届いたようです。


「グッ! ガァッ!」


 何とか私のその身はびっしりと敷き詰められたコンテナ群の一角に落ち、とっさに受身をしてできる限りの衝撃を外に逃がした。

 しかし、それでも衝撃は結構でかいもので、少しばかり横に転がって何とか止まった後も、すぐに起き上がれず少しうずくまった。

 ……ヤバイ、腹辺り行った。後背中。ヤバイ、痛い。超痛い。

 でもまあ、たまに空挺団の人って3階から飛び降りてなんともなかったとかそういうのがいたっていってたし、そういう人たちにとってはこれくらいはなんともないんだろうけど、あいにく私はそこまでの身体能力は……ッ、グハッ……。


「うぅ……、で、ここどこ……?」


 痛みがやっとやんだ後、私は周りをすばやく見渡した。

 あたり一面にはまずコンテナの天井部分。私がいるところもそうだった。陸のほうに言ってるけど、たぶん小規模のコンテナヤードなんでしょうね。少し小さめのガントリークレーンも3基ほどある。しかし、どれも最初の空襲の被害を受けたのか、見るも無残に原形とどめずに崩壊していた。今見てるのもかろうじて残っている骨格や支柱部分だった。

 そして、その先にはその港に取り寄せた物資をいったん取り込んで置くところらしい倉庫と、さらに周りには空襲にやられた市街地や各種港湾建物。

 ……やっぱり、改めて地上から見るとひどい有様。ある意味空からではわからないところもある。


「……ひどいわね……、これ……」


 と、そんなことをつぶやいたときだった。


「ッ!?」


 遠くから大きな爆発音が聞こえた。

 東方あたり。大きな火炎と煙が見える。あそこは、高雄国際空港の西方滑走路端だったはず。


 ……さっきまで乗ってた、あのオスプレイでしょうね。パイロットは直前に脱出したかしら。

 さすがに少しでも時間があったと思うけど、無事を祈るわ。


「……と、とにかく今はここを出ないと……」


 身の回りの装備を確認。

 結構高いところから落ちたけど、何とかどれも無事っちゃあ無事。武器類は結構丈夫でした。


 ……が、しかし、


「……げ~、無線壊れてんじゃん……」


 さっきの落下の衝撃で無線機がいかれたみたい。さっきから雑音しか聞こえない。

 どれだけ無線機に叫んでも応答が全然ない。……あー、もうこれ無理っぽいわね。見た目敵にはそんなに大げさに壊れたようには見えないから、たぶん内部機器が損傷してしまった程度でしょうけど、ここで修理してる暇ないし、そもそもそんな工学知識ないし……、ここじゃもう使えないわね。


 でも困ったなぁ……。一応データリンクを使って、味方のHUDに自分の位置を示して味方に知らせるのはできるけど、無線がないとこの後どう行けばいいのか全然……。

 さすがにこんなことになるとか想定外ですよ。困ったもんだねこりゃ。


「(……とりあえず近くの味方さがそ)」


 というわけでとりあえず右目の前にHUDのハーフミラーを下げ、データを表示。

 ……動作チェック。とりあえずこっちは無事みたいね。


 えっと、近くに味方は……、


 ……げぇ~……。


「……なによ、近くに全然いないじゃない……」


 私が一瞬降りるのためらったせいで落下地点も離れちゃったのかな? この近くにだ~れもいない。

 いるとしても誰かの隊員が東に800mも離れた市街地に落ちてる。誰かは知らないけど、反応はあるからまだ生きてはいるみたい。でも、いくらなんでもここから遠すぎでしょもう……。


 ここら辺は普通に敵の支配エリア。どこに敵がいるかもわからないのにどうやって他の味方に合流しろと……。


 ……とはいっても、迷ってたら敵がこっちに来るのを待つだけ。向こうだってこの状況には気づいたはず。もう部隊をまわしてるころかもしれない。

 時間はあまりかけるわけにはいかないわね。とにかく、移動を始めないと。


「……とりあえず、仲間に合流しないと」


 というわけで、とにかくまずコンテナから降りることにした。

 3段で積み重ねてるみたい。とりあえず空襲のおかげで崩れてるところからいこうとしたけど、そこから地面までの高低差でかすぎ。さすがにさっき落下してドデカイ痛み体験した後だとこれを降りるのはちょっと勘弁……。


「……お?」


 ふと、さっき言った同じく空襲のおかげで崩れていたガントリークレーンを見た。

 崩れてる、といっただけあって、それは地面にそれぞれの鉄柱やら何やらが崩れてるんだけど、その一本がコンテナの近くにあった。

 ……あれをつたれば何とか地面に簡単に降りれそうね。


 近くに来て、地上の様子をすぐに確認。……しかし、ここいら辺は警戒が薄いのかわからないけど、敵兵はいない。一応すぐそこに空港、というか司令部が近いというのに。

 でもまあ、いないならいないでありがたいのでね。敵さんが来ない間にさっさと下りちゃいましょう。


「……クリア」


 敵がいないのを改めて確認し、その崩れてるガントリークレーンの支柱の一つにしがみついて、そのまま下に下りていった。


 何とか地上に着地。すぐに周辺警戒をしたけど、一応敵はいないことを確認。HUDでも、敵性反応は確認できなかった。

 しかし、これもこれで信頼性は高いとはいえ、自分の目ほどではない。一応、遮蔽物とかが多いと敵性反応の探知がしにくいとかっていうデメリットはある。

 まさに、今みたいな状況はこのHUDにとってはきついもの。今回ばかりはHUDにでている情報よりも、己の目を光らせなければ。


「えっと、このあたりの地理分布は……」


 HUDに、このあたりの地理情報を表示する。

 まあ、いわばMAP。台湾陸軍のほうから、事前にこの辺りの地理情報を示したMAPを受け取っていた。あってよかったわMAP。

 ……と、それによれば、どうやら南にいけばまずこのコンテナヤードの出口があるみたいね。まずはそこを目指しましょう。

「(どうせだし、このコンテナ群を使わせていただきましょうか)」


 これの隙間に隠れていけば、敵の目をかいくぐれるでしょうしね。

 というわけで、さっさとコンテナの隙間に入る。見事に殆ど隙間なく、かつ規則ただしく敷き詰められてはいるけど、小さい隙間はある。あ、いっとくけど私スマートだから。体格スマートだからこれくらい楽勝だから。


 ……それにしても、


「(……さっきの敵、どうやってオスプレイ撃ち落したのかしら……?)」


 ミサイルアラートはなかった。携行対空ロケットとかでも持ってたの? でもそれもそれで狙い定めるときの赤外線照射とかでミサイルアラートが反応するだろうし、中国のもってたのってどれも赤外線誘導ないしレーザー誘導でしょ? なんでアラートならないのよ。


 ……でも明らかに何かぶち当たった感じだったし、となるとまさか……、


「(……どこぞのFPSゲームよろしく無誘導でなんかのロケットぶち当てたとか……?)」


 んなゲームみたいなことできるはずあるのかいなって思いたいけど、それくらいしか想像できないから仕方ないね。まさかこんなときに限ってアラート機能がいかれてたなんてバカな話はないだろうし。


 ……まあ、どっちにしろ運ないわ。ほんと今日の私運ないわ。


「……と、見えた見えた」


 そんなこんなで、まずコンテナ群を出て出口を確認。なにやら外部との仕切りである壁があったみたいだけど、空襲の影響でぶっ壊れてる。

 今回ばっかりはこれはありがたす。ここからまず道路に出る。


「……よし、ここもクリア」


 とりあえず敵がまだいないことを確認。少し大きめの4車線の道路にでる。


 えっと、ここは……、


「……金福路、北の台湾省道17号線に繋がる道か……」


 HUDに表示したMAPでは、どうやらそのようね。

 よし、とりあえずその方向にさっき見えた味方もいたし、その17号線に行くことにしましょう。


 周辺を確認しつつ、すぐに北上開始。……まあ、正確には北東だけど。

 目の前の六叉路ろくさろ交差点をまっすぐ突っ切って通過。17号線に一直線に向かった。

 大隊670mくらいある。まあ、ぶっちゃけ17号線に逝かなくてもいいんだけど、どっちかというと見晴らしのいいところに……。


「……ん?」


 すると、HUDに反応。……する前に、自分の目で確認した。


 大体90mくらいいったときだった。150m先に何かを発見。

 ……いや、中々の大所帯。おそらく敵ね。


「(おっと、マズイマズイ。どこか隠れるとこ……)」


 と、探すまでもなかった。

 すぐ左に向榮こうえい街という道があった。ちょうどいいしそこに入らせてもらいますかね。

 そこはさっきと違って小さめの二車線道路。この先行けば何度かの交差点を経て港壽こうじゅ街とう道に繋がるみたいね。

 ……まあ、ちょうどいいしここを通りますか。敵の目をかいくぐるのにもちょうどいいし。


 なお、ここから先、さっき言った港壽街までは2,5kmもある模様です。……はは、長い長い。


「(……空港までの道は長し)」


 まったく、今頃空港に突入しているころだったはずなのに……。

 でも、墜落したのが確認した限りでは私たちの乗っていた1機しかいなかったっぽいから、たぶん他の7機分の味方はすでに突入しているかな?


 ……でも、そう考えると私たち相当不幸じゃないの。さっきまでの状況といい、私はどこの幻想を打ち殺す男子高校生よ。


 と、そんな愚痴をしているうちに例の港壽街に着く。何とか2,5km突破。ここから空港に向かうには……。


「……最短だと、崇本街に出た後次のT字路の萃享南すいきょうなん路を右に行けばいいっぽいかな」


 そこからさらにすぐそこにある四叉路しさろを左に行けば、もう空港に駐車場が目の前にある。

 なお、出入り口はもう少し東にあるけど、そんな真正面からお邪魔しますなんてバカな真似はしません。


「……で、ここをまず崇本街に向かって……」


 と、MAPを確認していたときだった。


「ッ! いたぞ! あそこだ!」


「えッ!?」


 かすかにだけど声が聞こえた。

 後ろを見る。そこには……、






 ……アカン、










「げぇっ! いつの間に歩兵が!?」












 わき道から這い出てきたらしい敵の歩兵が3人ほどいた。

 たぶん、出た場所からして2つほど北にある崇安街あたりからかな?

 そこから出てきたって事は、たぶんさっきのあの墜落を見て警戒をしてきたのかな?


 ……って、分析してる場合じゃないわよ! とにかく逃げ逃げぇ!


「……って、はぁ!?」


 と、そのタイミングでHUDに反応が出た。

 私の真後ろ。100m先に敵歩兵3名確認。


 ……てか、


「(い ま さ ら で る ん じ ゃ な い わ よ こ ら あ ! !)」


 でるのが遅い。こんな市街地だからある意味遮蔽物多くて見つけにくいのはわかりますがね、それでもこれは勘弁してよ! こんなときに限ってそれはやめても真面目に!

 せめて直前数秒前あたりに警告出して! 確信なくてもいいから警告の一つくらいだしてよもう!


 ……で、さらに、


「……って、ちょ、撃つんじゃないわよあんたら!」


 ここから100mくらいあるってのによく撃つ勇気あるわね!? 弾無駄にするわよもう!

 ……まあ、戦時となるとこれくらいは当たり前なんだろうけど。


「(ええいもう、今日の私ほんっと運悪ッ!)」


 今日の運勢見るの忘れてたというか、見ることが出来なかったけど、絶対私の星座占い最下位でしょ。確実に私のおとめ座最下位の12位でしょこれ!?


「(この先の崇本路左にいったらたすぐ目の前に抜け道あったわよね!?)」


 確かこの先は十字路。このまま突っ切ってさらに次の道を左に行って敵の目をごまかせば……。


「……って、ええ!?」


 で、十字路にでた私はその目の前の道に走ろうとしたとき、ぜひとも会いたかったけどこんなときにあいたくなかった存在を確認した。


 それは……、










「え!? あ、新澤!?」


「お前、なんでこんなとこにいんだよ!?」


「それはこっちのセリフですよもぉぉぉおおおおお!!!!!」










 なぜか全力で走ってきていた隊長と羽鳥さんのコンビだった。

 しかも……、


「なんで敵連れてきてんのよあんたらぁぁぁぁぁぁああああああ!!!!!」


 もう泣きたい。こんなときに向こうも追い掛け回されてたらしくて後ろ数十メートル先に敵の歩兵がいた。それも大量に。

 おまけにこっちと同じく銃乱射されてるというこの状況。


 なんで私が逃げようとした先にもう敵がいるのよ! ああもう! よりにもよってなんでこんなタイミングなのよ! もういろいろと泣きたいわよこの状況ォ!!


「と、とにかく逃げるぞ! 説明は後だ!」


「はいはいわかってます!」


 とりあえずいろいろと不満をぶちかましたいところを押さえ込んで、ひとまず左に曲がって萃享南街の方面にむかった。

 しかし、そこからは所々曲がり道があるとはいえ、逃げ切るには少し地形が複雑すぎた。さすがにいくらMAPもらってるとはいえ、ここいら辺の土地間隔なんて全然持ち合わせてない私たちにとってはもうただの迷路同然だった。

 このままじゃ逃げられない。せめて、どっかに隠れる場所……、


「(ッ! ここは……)」


 すると、大体60mくらい走ったとき、空襲の被害を殆ど受けなかったらしい原型を大いにとどめているいくつかの建物が立ち並ぶ中、右手には小さな駐車場が見えた。

 そこには車が大量に置かれており、こちらもさっきのやつの例外でなく幸い空襲の被害を避けることが出来たらしく、その大量に置かれている車に被害は殆どなかった。……ただし、爆風自体は飛んできたのか、窓ガラスは木っ端微塵状態だったけど。あと、ここを仕切っていたトタン板の壁があったみたいだけど、それも一部爆風かなんかで吹き飛んだみたいね。立ち並ぶ車の上に何枚かに分裂して散乱している。ちょうど、この道路からここの駐車場が見えたあたりの部分が消えていた。


 これだ。これは使える!


「二人とも! この車の陰に隠れて! 早く!」


「え、ま、マジ!? ここ!?」


「お、おう、わかった!」


 すぐに二人とも着いてきた。

 駐車場にある大量に規則ただしく敷き詰められていた車の陰に隠れ、さらに、その身を目の前にあったでかいワゴン車の下に滑り込ませた。

 ……少し狭いけど。というか、体一つ入るにもギリギリなのにこれに無理やり忍び込ませるってきついわ……。


「お、おい、これ入らないんだが……」


 隊長に限ってはもう元の体格がでかいだけに装備も着たら全然入りきらないという事態に。


「あー、じゃあ敵に見つからないように身を隠して置いてください」


「お、おう……」


 とりあえず車は大量に並んでるから、影は大量にあるしそれだけでも身を隠すことは十分できる。

 すると、結構すぐに敵の兵士がやってきたらしく、彼等の大声が聞こえてきた。




「おい! 見つけたか!?」


「いえ、この方向に逃げたはずなのですが……」


「ええい、探せ! 奴らを司令部に向かわせるな! ここいら辺を徹底的に探せ!」




 そんな隊長さんらしい人の声とともに、その兵士達の大所帯がこの駐車場内に入ってきた。

 いたるところを各々で探す。


「お、おい、本当に大丈夫なのか……?」


 小声で隣にいた羽鳥さんがつぶやくが、もちろん、このままで大丈夫なはずはありません。いずれ見つかります。


 だから……、


「羽鳥さん、ここいら辺の敵、全員駐車場内に入りました?」


「え? ……ああ、入ったみたいだな」


 とりあえず、私のと羽鳥さんのHUDを使って敵情を確認。

 わざわざ羽鳥さんのも確認したのは一応信憑性を確認するためなんだけど……、ふむ、よし、全員入ったみたいね。


「隊長、そこから敵がどんな様子かわかりますか?」


「どんなって……、えっと、とにかく隙間を探してるぞ。俺たちの行動を読んでたみたいだな」


「なるほど……、読んでくれてありがとうございます」


「は?」


 ありがとうございます。わざわざ読んでくださいまして。


「羽鳥さん、少しここから出ましょう。陰に隠れつつ」


「お、おう、わかった」


 そして、そのまま車の下から横に出る。

 ここはまだ敵の死角。見つかることはない。しかし、いずれ見つかるだろう。


 ……なので、


「……よし、隊長、私の合図でハチキューぶっ放してください。どこにでもいいですので」


「は!? こ、ここで撃ったら敵に……」


「わかってます。私に任せてください」


「はぁ……?」


 隊長と羽鳥さんが怪訝な顔をしたが、それでも一応いわれるがままにしぶしぶ持っていたハチキューこと89式小銃を準備する。

 その間に、


「私がGOといったら、すぐにここの隙間を突っ切って、さっき通っていた道路にでます。とにかく道路に向かって突っ走ってください」


「この隙間をか……?」


「はい。それも、4秒以内に」


「よ、4秒って……」


「……何を考えてんだこいつは……?」


 隊長もヒトキューを準備しながらそういった。


 まあ、一直線で抜けれるとはいえ幅は大体30cmもない。走るには少し走りにくいかな?

 しかし、とにかくやるにはこれしかないのでね。頼みますよ二人とも。なに、道路はすぐそこですので。


「……よし、新澤、こっちは準備いいぞ」


「了解です。では、私の合図でぶっ放してください。できるだけ大げさに。こっちに誘い込むようにで」


「ああ……。い、一応聞くが、本当に大丈夫なんだろうな……?」


 隊長には珍しく弱音である。

 まあ、そんな時もあるかね。


「隊長が弱音なんて珍しいですね」


「俺だってこんな状況は初めてなんだよ……。頼むぞ? お前を信じるからな?」


「大丈夫ですって。……では、いきますよ? ……、よーい、」








「てぇ!」








 その瞬間、隊長は持っていたハチキューを思いっきり斜め前方情報に向けてぶっ放し、さらに叫んだ。


「おらぁ!! 俺はここだぜ鬼畜チャイニーズどもがぁぁああ!!!」


 ……いろいろと余計では? と思ったけどまあそれでもいいです。


 すると、


「ッ! いたぞ!」


「やれ! 撃て撃て!」


「部隊前進! 奴らを撃ち殺せ!!」


 敵の歩兵達も反応し、すぐにこっちに接近しつつ銃をぶっ放してきた。

 しかし、ここぞとばかりに隊長はまだ敵のほうに向けてハチキューをぶっ放しまくっていた。それも、変に絶叫、というか煽りの意味も含めた叫び声を上げつつ。


 ……こういうときに熱くなるのが隊長かな。さっきの弱音が嘘みたいですわ。


 ……よしよし、もう少し、もう少しですよぉ……。



 ……よし、そろそろかな。



「……このコースね」


 車の下を見て、投げるコースを確認。

 ついでに、遠めに敵歩兵の足も確認した。


「(……敵の皆さんには申し訳ないけど、ごめんね、これでも私たち生き残らないといけないから!)」


 悪いけど、こればっかりは手段を選んでる暇はありません。


 ……よし、いける!


「いきますよ……、よし、GO!」


 すぐに立ち上がって走り出すとともに、安全装置ジャングクリップを歯で引き離し、車の下に思いっきりあるものを投げる。


 そして、それをするや否や速攻で道路に向かって走っていった。

 後続の羽鳥さんや、小銃をぶっ放すのを止めた隊長もしっかりついてきた。


 そして、大体4秒経つ直前。3人全員が駐車場から抜け出したときだった。


「全員伏せて!」


 私は思いっきりそう叫ぶと目の前の道路に突っ伏して伏せた。

 他の二人も同じく突っ伏して伏せる。


 と、そのときだった。


「ぬぅッ!?」


「ぐッ!」


「ッ!」


 後ろの駐車場から一回爆発音が起きる。そして、その次の瞬間……、


「ぬぉッ!? な、なんだ!?」


「顔上げないで! そのまま伏せてて!」


「は、はぁ!?」


 羽鳥さんと隊長がそう疑問を投げかけるも、私は一貫して体を伏せさせた。


 後ろでは、車の中に残っていたガソリン燃料に引火した火が誘爆し大爆発を起こしていた。

 さらに、車が大量に隣接、というか敷き詰められているだけあって、その爆発で次々と他の車の燃料にも引火し、その誘爆は次の誘爆を次々と引き起こしていった。

 そこにいた敵兵は悲鳴という名の大絶叫を上げつつも、自分達のいたところがまさに駐車場の真っ只中。車が敷き詰められて思うように動けないところだったので、その誘爆から逃れることは出来なかった。


 その爆発が収まったころには……、


「……わ~お……」


 伏せていた体を起き上がらせ、後ろを振り返ると、そこには大きな火をまかなった海が形成されていた。

 敵兵の姿もなければ、絶叫も聞こえない。すでに、彼ら全員はこの巨大な火の海に飲み込まれてしまった。


「す、すげぇ……」


 羽鳥さんが感嘆の声をあげる中、その隣にいた隊長は小銃をしまいつつ、納得したように軽く頷きながら言った。


「……なるほど、“手榴弾でガソリン燃料に引火させた”か」


「……正解です」


 イグザクトリィ。そういうことなのです。


 さっき私が準備し、車の下に放り投げたのは手榴弾。アメリカが開発し、日本国防陸軍でも自衛隊時代からずっと使ってるM26手榴弾だった。

 延期信管が4秒でセットされており、ジャングルクリップという特殊な安全装置を組み込んだこれは西側諸国でベストセラーをなるにいたり、今でも使われている傑作手榴弾である。

 本来は破片を撒き散らして攻撃する破片手榴弾の類だけど、ガソリン燃料も入っている車のすぐ下で爆発させれば、その爆発時の火が回るかもしれないし、最低でもその破片がぶち当たったときの摩擦で出来た火が引火することも十分に考えられた。だから、私はこれを使わせてもらった。

 敵がわざとこっちに来るように仕向けたのは、より手榴弾の近くに呼び寄せ、効果をより確実にするため。そして、わざわざ4秒で出れる場所に隠れたのも、すべてはこれをするためで、その脱出の時間を稼ぐためだった。


 ……少し鬼畜な手段だし、敵さんには誠に申し訳ないけど、こればっかりは私たちが生きることを優先させてください。


 こればっかりは、敵の皆さんもおびき出されたって点では文句は言えないよね?


 羽鳥さんもやっと納得したようで、「あー!」と納得の声を上げつつ合図地をうった。


「そういうことか……。確かに、これなら敵を一網打尽にで切る一番の方法だ。やるじゃんか新澤」


「えへへ……、どもども」


 お褒めに預かり光栄であります。


「なんか、この戦争通じてこいつに助けられまくってる気がするな……。俺の気のせいか?」


「気のせいですよ。私は普通に訓練どおりやってるだけです」


 その結果がこれならまあ喜ばしいですが。


「しかし、敵さんは気の毒だな。自分達の最後が地獄の業火に焼かれて死ぬということになるとはな」


「……少し、いくらなんでも申し訳ない気はしますがね」


「いや、これは正しい判断だ。結局は自分の命が第一だ。お前の判断は間違ってない。気にするな」


「はぁ……」


 とはいっても、こればっかりは少し罪悪感があるかな。手段が手段だけに。

 ……どうせ殺すなら、軍人らしく銃に撃たれて死にたかったろうに。申し訳ないです。


「で、どうします? このあと? 部隊の仲間とははぐれてしまいましたよ?」


「ふむ……」


 羽鳥さんの質問に隊長も悩んだ。

 ここからは味方と合流するのが一番だけど、敵はその時間を与えてくれないだろう……。

 私に限っては無線もいかれてる。さて、どうしたものか。


「……とりあえず、無線でポイント地点を指定して集合かけたいが、絶対時間かかるし敵がまっちゃくれんな……」


「ええ、どうします?」


「ふむ……。とりあえず、空港に向かおう。その間に考えていくか」


「了解」


 後回し、とは言うけど、まあこればっかりはね。仕方ないね。


 というわけで、私たちはここを後にするため、再びこの道を萃享南街に向けて歩いていくが……、


「……で、この火どうします?」


「「……あ」」


 羽鳥さんの疑問に私と隊長はハモった。


 ……そうだった。これ燃えてるけどどうしよう。火が燃え広がるのはまずいけど、かといってこんなでっかいの消しようがないし。


 ……やっば、そこまで考えてなかったわ。


「……ま、まあ、後で勝手に消えるだろ。ハハ」


「そ、そうですよね。ハハ」


「まあ、そうですよね。うん。ハハ」


 ハハ。


 ……ハハ。


「……消えなかったらどうしよ」


「そのときはそのときだ」


「はぁ……」


 まあ、今はそんなこと考えてる暇はないか……。


「とにかく、ひとまず味方に呼びかけつつ、俺たちだけでも先に空港に急ぐぞ」


「了解」


「了解です」









 その隊長の一言を期に、私たちは再び空港に向けて歩みだした。











 ふと空を見上げると、少し青空にかかる雲が多くなってきた気がした…………

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