〔E:Mission 25〕南シナ海『高雄沖海戦』 水上の応酬 2/3
―TST:PM12:45 南シナ海東沙諸島東北東110海里地点
『施琅機動艦隊』DDG176“成都”艦橋―
『敵対艦ミサイル迎撃! 第2波迎撃成功しました!』
CICから報告が来る。
本来なら喜ばしいものではあるが、今の私は全然そんなことによろこんでいる余裕はなかった。
海戦が始まって早10分が経過していた。
しかし、最初の先制を許してしまう結果となり、何とか迎撃には成功したものの、向こうは依然として次の攻撃を仕掛けてきた。
ちょうどのそのときにこっちも射程に入ったので攻撃をしたのはいいものの……。
「……最初の内に迎撃しすぎだろ……」
最初の敵の迎撃で、ほとんどが落とされてしまった。
例のアメリカも使っているSM-2とSM-6だろう。信頼性の高い艦隊防空ミサイルとして知られているが、それによって38発もあったYJ-83、ないしYJ-12の、約8割を落とされ、その後は軽々と個別で迎撃された。
あっという間だった。こっちもこっとで迎撃には成功したとはいえ、これでは何の意味もない。かすり傷すら与えることが出来なかった。
あれだけ一斉に撃ったのに、これっぽっちも効果がない。脅しにすらならなかった。
……日台の最新鋭艦が勢ぞろいしているだけある。奴らも、相当な手だれだ。
「次の攻撃を。鷹撃12、2発発射急げ」
『了解。目標“やまと”、再び攻撃します』
攻撃は再び行なわれた。
本艦に搭載されているVLSから新たに2発のYJ-12が放たれた。
YJ-12は元々主力だったYJ-83からの上位互換ともいえるもので、どんどんと他の艦種にも普及され始めている高性能対艦ミサイルだ。
その性能自体は今までのものよりは大幅に上がっている。おまけにシースキミング能力も大幅に向上されており、簡単に迎撃できないものであった。
……が、さっきのを見てもわかるとおり、いとも簡単に迎撃されてしまうのであるが。
前甲板から勢いよく飛び上がったそれは、そのまま真正面に鋭い機動を描きつつ飛んでいった。
他の艦からも、各種それぞれのやり方で対艦ミサイルの第2波が放たれた。
ここから撃つなら、せいぜい5、6分で向こうに弾着するだろう。
「発射確認。2発、正面に飛行しています」
見張りからの報告を受け取ると、さらに私は言った。
「了解。……で、」
一つ、問題があったのである。
「……この艦隊陣形、どうするんだ?」
先の敵潜水艦隊の追撃によって、思いっきり艦隊陣形が乱れてしまったのだ。
かろうじて本艦は旗艦の直掩としてそばについていることは出来たが、それでも他は散り散り状態だ。
陣形などいろいろ無視でいろんなところに不規則に並んでいる。いや、並んでいるというか、“散在”しているというのだろうか。
やっと追撃が終わって、さっさと崩れまくった陣形を整えようとしたその矢先にこの海戦に巻き込まれ、なし崩し的にそのまま戦闘に突入。
結果、もう陣形を整えてる暇なんてない。とにかくそれぞれで戦闘に入っていた。
……まさか、これすべてが最初から織り込み済みだったとでもいうのか? 一番最初のインド・東南アジア連合艦隊の意味不明な“進撃助長の追撃”といい、さっきの潜水艦といい……。
最初から、これを狙っていたのか? この混乱状態での戦闘突入によって、組織的な戦闘が出来ないようにするため……?
……だが、
「(……悪いが、それだとしたらもう少し頭を使ってもらいたいな……)」
いくら陣形が乱れたとはいえ、それが組織的攻勢の可能性をつぶすわけではない。そこまで我々は下手くそではないのでな。
……まだまだ、奴らも甘いな。
「陣形は戦闘しながら少しずつでいいだろう。とにかく、今は敵の攻撃をしのげ」
「了解」
政治将校からの指示だ。
まあ、焦る必要はない。いつもどおりやらせてもらおう。
……すると、
『……ッ! 敵艦隊から第3波飛来! やまとから発射された対艦ミサイル、4発接近!』
「クソッ、またか」
敵からの対艦ミサイルだった。
しかも、今俺たちが相手しているのが運の悪いことに世界最強で知られる日本の巡洋艦“やまと”。向こうは他の艦船と違って対艦ミサイルを倍の16発も搭載しているため、1回の発射弾数も2倍の4発で攻撃してくる。
……地味にこれがキツイ。一回に4発もの対艦ミサイルを相手にしないといけないとか、こっちもまだ対空ミサイルやそのほか対空火器の残弾は残っているとはいえあんまり無駄にしたくないというのに……。
だが、愚痴ってても始まらない。とにかく迎撃だ。
「ECM担当艦、ECM展開確認」
ECM。電波妨害だ。
しかし、日本と台湾の対艦ミサイルはそういうECCM能力がとても高いことで知られている。だから今も……。
「目標、1発消失。残り41発」
たった1発しか落ちない。
その後はさらに低空で飛翔してくるのでこれ以上は意味ない。つまり、日台対艦ミサイルにとってはほとんど意味のない妨害だったのだ。
おまけに、その1発は本艦を狙っているものではなかった。なので、まだこっちに向かっている4発は健在だった。
すぐに対空ミサイルであるHHQ-9Aは放たれた。
計4発。こちらは後部甲板のVLSからだった。
艦隊防空ミサイル。艦隊防空を担う本艦に装備された主力装備であり、性能はそこそこいい。ただし、低空を除いて。
「……とにかく、今さえしのげれば後はこっちのものなのだ。向こうは4回に分けて攻撃してきている」
「ほう、4回ですか」
政治将校が珍しく考証してきた。
4回ねぇ。確かに、向こうは8発ないしやまとに限って16発あり、それぞれ2発、ないし4発ずつ攻撃してきているから、そのままいけば4回ですむが……。
「……となると、この攻撃を除けば後1回ですか?」
「だな。……まあ、今までうまくしのげれたんだ。今回もうまくいくだろう」
「はぁ……」
そんなもんかねぇ……。なんか、違う意味で何かをやらかしそうで怖いんだが。
……軍人が怖いというのも情けない話ではあるがな。
「敵対艦ミサイル第3波、70%迎撃成功。残り12発。本艦に残り2発接近中」
すると、こちらの迎撃ミサイルが何とか敵対艦ミサイルに命中した。
今回も約7割。こっちにはまだ2発接近。
相手のSSMは音速を超えたM4,5できてるから近接火器がどこまでこの速度についていけるかがかぎとなっている。
……最初はうまくいったが、これもいけるか。
さらにこの後近接火器である主砲や、個艦防衛用のミサイルを放ち、敵対艦ミサイルの迎撃に尽力を尽くした。
ほぼ真正面から突っ込んでくるので、ある意味迎撃しやすかった。
……そして、
『……ッ! 目標、全弾撃墜確認! レーダークリア!』
何とか次の攻撃もしのぎきった。
第3波。同じく42発だったが、これも全弾撃墜。
レーダークリア。敵性ミサイルの反応が全部消滅した。
「何とかなったか……。で、こちらの攻撃はどうなったのかね?」
政治将校にいわれてハッとしつつ、俺はCICに聞いた。
「CIC、こちらの撃った対艦ミサイルはどうだ?」
『えっと……。あー、ダメです。こちらも、全弾落とされました。反応がありません』
「クソッ……、ダメか」
向こうも全部落としてきたか……。まったく、これじゃ一向に進展がないじゃないか。
対空能力が互いに高い……。やはり、完全に互いの弾切れを狙っているか。
「第3波攻撃。さらに2発放て」
『了解。第3波攻撃入ります』
すぐに攻撃は行なわれた。
また前甲板VLSから、2発のYJ-12が放たれた。
本艦に搭載されている対艦ミサイルは全部で8発。今のを含めてすでに6発撃ったから、後攻撃チャンスがあるとすれば1回のみ。
……この4発の内に決めたいが……。
「しかし、これで向こうも撃てば、最後の一回はこっちが思い切って仕掛けることができるな……。向こうは残弾がないし、攻撃できないのだからな」
政治将校がいった。
まあ、そういうことだな。いくら高性能でも残弾には勝てない。
次、そろそろ向こうからもくるはずだ。これをかわせば、いよいよ向こうは残弾なくなってこっちからの攻撃を受けるのみとなる。
……といっても、こっちも残り1、2回しかチャンスないのだが。1発うつか2発同時に撃つかは別として。
……すると、
『……ッ! 敵艦隊から第4波! 計42発! やまとから本艦に4発来ます!』
やはりきたか。
しかも礼儀よく同じく4発も撃ってきた。……分けてもよかった気がするがな。
「ふっ、奴ら、これでとうとう残弾が切れてはずだ。これをしのげれば後はこっちのものだぞ!」
政治将校が意気込んだ。
まあ、無理もない。いってること自体は間違ってないからな。
……しかし、なんだろうな。
「(……この攻撃の頻繁さ、なんとなく“急いでる”感があって妙だな……)」
こういうときはむしろ弾数的に細かく撃って時間を稼ぐのがセオリーなのだが、向こうは逆にとにかくバカスカ撃ちまくって急いでる感じがある。
現に、向こうの艦隊速度も早い。大体30ノットちょいか?
……なにをそんなに急いでるんだ。こっちは急ぐ理由があるが、お前らにはないだろ?
「(……まあ、考えてても仕方ないか)」
そのうちに、本艦からも新たなYJ-12対艦ミサイルと、HHQ-9A対空ミサイルを放った。
またさっきと同じコースを、白い煙の尾を引きつつ飛んでいく。
……さて、
「(……とりあえず、最後の対艦ミサイル攻撃を……)」
……と思い、すぐに攻撃に移れるよう準備させようとしたときだった。
敵が、思わぬ行動を起こし始める。
「……ッ! か、艦長! 大変です!」
「? なんだ、どうした?」
航海レーダーを見ていた艦橋乗員が焦った口調で叫んだ。
思わず隣にいた政治将校も驚き肩をビクッとさせたのに少し笑いをこらえていたが、それにはかまわず向こうはすぐに答えた。
「……て、敵艦隊が……」
「?」
「……さ、」
「散会しつつ、全速でこっちに突っ込んできます!!」
俺は思わずその報告に耳を疑ったが、後に間違い出ないことを知ることになる…………




