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『やまと』 ~戦乙女との現代戦争奮戦記~  作者: Sky Aviation
第7章 ~神の炎の恐怖~
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決断

―TST:PM22:10 台湾首都台北 大統領官邸地下統合国防情報室―






「なんと……、彼等の国の乗員がそのようなことを?」


 私はそのメインディスプレイを見つつ言った。


 日本政府の麻生首相が直々にTV通話に出てきていた。

 彼の言ったことはまさに“驚愕”のものばかりであった。


 彼の言った、中国政府の狙いと思われるという予測は、今ここにいる日本艦隊のとあるクルーからのものらしかった。

 彼等の予測は信憑性があった。

 確かに、何も後ろに守るものがなくなった中国に、もはや怖いものはない。

 その中で核を撃とうが、どっちにしろ自分たちは失脚する運命にあるがために何の躊躇もない。

 もはや、歯止めの利かない“暴走状態”だ。

 この戦況になっても未だに戦争を止めようとしないどころか、むしろ核をちらつかせるあたりも、おそらく根底はこれがあるのだろう。


 日本政府は、これはあくまで一可能性であるとしつつも、信憑性は高く、状況にも見事にマッチする点から、おそらく現時点での可能性としては一番高いという見解をしめした。


 通話に出ている麻生首相が肯定していった。


『左様です。何度もいいますが、これは一可能性です。確立としては一番高い可能性でしかありませんので、最終的な判断はそちらにすべてゆだねることとなります』


「もちろん、それは承知しております。しかし、中々説得力のある内容ですな」


『はい。……軍人が考えたものとしては、中々広い視野で見た面白い内容であると思います。この仮説を提唱したクルーはまだ新人の類の方でいらっしゃるようですので、まあおそらく若者の柔軟な発想が生んだものかと』


「若い……、か」


 今を担う若者か。

 彼の予測がここまで深く読み込まれたものとは、中々政治にも長けている者のようだな。


 すると、黄首相が少し割って入った。


「しかし……、本当によろしかったのですか?」


『? 何がです?』


「いや、その……、ご存知かと思いますが、第三国の介入は禁じると……」


「あ……」


 私は思い出したように思わず小さな声を出す。


 そういえばそうだった。すっかり忘れていた。

 こんな形でも第三国として日本が介入すれば、中国からの反発は避けられない。

 しかも、そうでなくても核云々の事情が絡まって敏感な世界各国が黙っては……。


 すると、TV通話越しに彼は軽く「ハハハッ」と笑うと、なんともないような顔で言った。


『ご心配なく。向こうは別に“決断前に助言するな”とは言っていませんので』


「……え?」


『向こうはあくまで“決断時に介入するな”といっていたではありませんか。違いますかな?』


「え、ええ……、そうですが」


『でしょう? ですから、別にこのような形で“決断前に助言という形での介入”を禁止してはいないんですよ。……とでも言えば、向こうは文句は言えませんよ。それに、他国はともかく、今の中国にはそんな文句をいう余裕なんてありませんしね』


 そういって、また軽くけらけらと笑った。


 ……ハハハ、なんともずるがしこいことを。

 ある意味日本らしい。いろんな方面で頭が回るわな。


 だが、そこまでしてこうやって助言してくれたこと自体は大いに感謝してしかるべきだ。

 これはある意味危険な行為なのだ。無理やり理由をつけてこうして本来なら違反行為をしてくるなど、後々他国から非難されても文句は言えないのだ。核が絡んでる今回はなおさらだ。

 だが、彼らはそれをしてきた。どうにかしてでも、私たちに伝えたかったのだろう。


 ……我々は、それを真摯に聞き入れなければならない。


 麻生首相は続けた。


『とにかく、今は時間がありません。今の事情も考えて、できれば早急な決断をされたほうが得策であると考えます。……しかし、最終的にはそちらにお任せします。決めるのは、我々ではありませんので』


「は……、助言、ありがとうございます。ぜひともご参考にさせていただきます。……申し訳ない。こんな夜遅くに」


『いえいえ、お気にになさらず。こちらこそ、横槍を入れてすいません』


「とんでもない。こちらとしても行き詰っていましたから、このような助言はとてもありがたいものでありました」


『それはよかったです。……では、私はこれで。……何があっても、』







『我々日本は、台湾を最後までお守りいたしますので』







「……ありがとうございます。感謝します」


 そういうと、向こうはTV通話を切った。

 ディスプレイはモードが自動的に切り替わり、いつもどおりの戦況図を表示しだした。


 ……一瞬の静けさの後、私は切り出した。


「……はっきり言って、説得力がある。中国のことだ。私も、おそらくこう考えているのではと思うのだが、皆はどうかな?」


 すると、すぐに李国防大臣が反応した。


「同感です。核を陸ではなく海に向けるという発想は盲点でしたが、それでもそう考えるとこの上京も納得がいきます。この一週間は、実は日台友軍艦隊を待っていると考えれば、十分納得のいくものではないかと」


 どうやら肯定意見のようだ。

 すると、黄首相もそれに賛同する声を上げたのを筆頭に、周りも「現時点ではそれが一番可能性があるかもしれない」ということで意見がまとまりつつあった。


 私はそれを何とか簡単にまとめる。


「皆、静かに。……とにかく、彼ら中国の狙いが本当に海の日台艦隊だと仮定した場合、我々は急がねばならない。へたすれば、日台艦隊まで巻き込まれてしまうことになる」


「しかし、あくまでこれは仮定であることも確か。もし間違えば肝心なところで核攻撃の口実を……」


 黄首相の懸念ももっともであった。


 このままで言ってもし違った場合、彼等に核攻撃をさせる口実を与えることにもなりかねない。

 そしたら万が一完全に迎撃できなかった場合の被害が計り知れない。海であっても、陸であっても、どっちにしろとても反撃どころの話でない甚大な被害が起きてしまうであろう。いや、甚大で済むならむしろ幸運だろうか。

 それでは結局本末転倒だ。結果が中国の思う壺となってしまう。


 だが、そうでなくてもこれは後に核を撃たれる可能性がある。




 そこの判断が、とても難しいものであった。




「確かにそうだ。だからこそ、より慎重な判断を下さねばならんが……」


「ですが、いずれにしろ時間はかけたくありません。むしろ、中国に付け入る隙を与えます」


「ふむ……。そこなんだよな……」


 一人の幹部が言った。


 そう、それの決め線がきわどいのが厄介なのだ。

 いかに中国に付け入る隙を与えず、そしてこちらの行動を少しでも自由にさせるか……。


 それを、どこで線を引くか問題なのだ。


 時間はかけたくなかった。だが、台湾のことを第一に考えた場合、それでも焦った返答はまずい。

 その結果、台湾にとって負の未来を起こすようではまずい。


 尤も、その返答といっても二択だ。


 台湾が中国の属国に戻るか、そうならずに核を受けるか。


 どっちも、台湾にとってはまずいことであることには間違いなかった。


 中国と属国にはなりたくない。だが、核も撃たれたくない。

 しかし、状況を見る限りどっちにしろ撃ちそうには間違いなさそうだった。

 核は確実に撃たれる。向こうは道連れを狙っていると、先のTV通話でも麻生首相が言っていた。

 おそらく、自分達の政権がもう持たないことを受けてのことだろう。はっきり言えば、台湾を属国に戻しても国連が見逃してはくれない。

 特にアメリカだ。台湾が中国のものになるということは、それは中国の太平洋進出を容認するということ。

 それを認めるはずがない。必ずアメリカが国連に根回しをし、それを止めにかかるだろう。


 だから、中国も手段は選ばないはずだ。


 では、どうすれるべきか?


 このまま、核を撃たれていいのか?


 中国の、思い通りにされたままでいいのか?





 ……結局、我々はそのまま、いつまでも中国の言いなりなのか?





「ですから、やはりここは早めの決断をしましょう。どうせ撃たれるんでしたらさっさと行動を起こしたほうがマシです。日本政府も言ってました。時間を経てるほうが我々が不利になるんです」


「だが、それでもし向こうにそんな意思がなかったらどうする? その当の日本政府も言ってたじゃないか」


「ですが、最悪の場合も考えたほうがいいでしょう」


「これもこれで最悪の場合じゃないか……」


 そんな感じの討論を周りが勝手に展開している中……、


「……」


 私は、思わず考えにふけった。


 このままでは、無駄に時間が過ぎるだけだった。

 結局、その道の専門家を呼んでも反応が真っ二つで何の参考にもなかったからこのまま我々だけで判断することにしたのだが、それもそれで時間が無駄に経つだけだった。

 皆、どっちも怖かったのだ。中国の属国になってこき使われるのも嫌だし、かといって核を撃たれるのも恐ろしいのだ。


 それの板ばさみで、どっちを選ぶかで、私を含め、この場にいる人間は軽い“パニック状態”だ。


 もう、どうすればいいかわからないものもいた。

 国を守るとはいっても、これじゃどっちも守れない。

 国を守りつつこの決断をするには、ハードルが大きすぎたのだ。

 それを、中国は承知で吹っ掛けたのだろう。


 台湾という国を守りつつ、この決断をするにはどうすればいいか。


 台湾の国益を守りつつ、この決断をどう判断すればいいのか。



 とてつもなく難しい問題が、ここに立ちふさがっている。



「……どっちもまずいが……」


 だが、どうしても日本政府が言っていたことが頭から離れなかった。

 彼等の言っていたことは説得力があり、信憑性があった。彼等の狙いはおそらくこれであろうと思わせるには十分であった。

 だが、かといってすぐに決断していいのだろうか。このまま、決断に入っていいのだろうか。

 彼等の言葉を聞く限り、もう我々が出さないといけない答えは決まったも同然である。


 だが、それを今すぐにやってしまっていいのだろうか。


 その懸念は晴れなかった。


 どうしても、焦って間違ったをしてしまいそうで怖かった。


 どうしても、ここぞというときに重要な決断が出来ないでいた。





 私は、核に怯えていたのだ。






 台湾は守りたい。だが、その核に、どうしても怯えていたのだ。








「(……どうすればいいんだ……)」


 私は思わず頭を抱えた。

 わからなかった。

 このまま、決断をしていいのだろうか。

 はっきり言うと、もうこの場での論戦は意味を成さなくなっていた。

 全然、それぞれ2派に分かれて議論が全然進まなくなったのだ。

 当たり前だ。核が絡んでいるこれで簡単に決まるわけはない。


 だからこそ、最終的には私の判断が必要になる。


 だが、その私が決めかねていたのだ。



 どうしても、決め切れなかった。



「(……台湾民主国の長の私がこれでは、まとまるわけがないではないか……)」


 長の私がこれで、簡単に決まるわけがなかった。

 答えが、見つかるわけがなかった。


 どうしても、この核の恐怖をぬぐいきれなかった。


 核を撃たれたときの想像が、どうしても頭に浮かぶのだ。


 日本の広島や長崎みたいな、あの悲惨な状況をまた出したくなかった。


 ……だが、




 いずれに決断も“出来きれないこと”が、時間を無駄に経過させていたのだ。




「……もう、諦めて多数決でどっちにするか決めるか……?」


 いや、こんな重要なことを多数決などで決めるべきではない。

 いくら我が国が民主主義国家であるとはいえ、この場合は多数決で決めて完全に解決することではないのだ。


 ……ダメだ。答えが見つからない。


 どうすればいい……、私は、どうすれば……。


「……台湾を、国民を守るために……」





「どんな決断をすればいいんだ……」





 私は頭を手で押さえつけてしまった。






 だが、そんなときだった。





「……ッ! 大統領!」


「?」


 頭を抱えて悩ませていたところを、とある幹部が叫んだ。

 すぐに私と含め、周りが反応する。


 少し絶望感に浸りながら少しつぶやくように聞いた。


「なんだ……、こんなときに」


「み、みてください! この……、電報を」


「ッ!? はぁ!? 電報!?」


 電報だと? こんなときにか?


 こっちは核云々の関係で協議中だというのに……。それに、第三国の介入云々で反ないだろうな?

 あれは日本が勇気を出してやってくれたことなのだ。もうたくさんだ。


「何がきたというんだ? 中国からの返答催促か?」


「いえ、そうではありません。……これは……、」







「……“近隣諸国”からの、電報です……」







「……はぁ!?」


 思わず私は叫んだ。


 近隣諸国からだと? 我々に対してか? いきなりなぜ?


「どういうことだ? いったいなぜいきなりこんなタイミングで!?」


「近隣諸国って、いったいどこから?」


 周りも大いにざわついた。


 私も固まってしまった。


 信じられなかった。

 いったいこれがどれほど危険かをしらないはずがないだろう。

 多くの国が電報を送る。これは、先の日本でも言ったことだ。

 介入とみなされる可能性があるのだ。だからこそ、周りも今まで自重してきたはずなのだ。


 それをなぜ今……、


 私はその幹部が持ってきた電報の紙を受け取った。

 A4サイズ。それには、確かに各国からの電報が書かれていた。


「……ッ! こ、これは……ッ!」


 私は、その中身に目を疑った。


 周りがその内容の公開を催促したので、とりあえずてテーブルにも置く。

 その内容を見たとき、思わず周りも驚いた。


 なんせ、その内容が……、










『日本が動いたと聞いて我々も続かせていただく。我々は、日本の盟友である貴国を最大限支援することを、改めて誓わせていただく。現在、敵艦隊を南シナ海で止めているが、どこまで保てるかわからない。だが、それでも、我々は貴国を、最大限“助ける”。 ―フィリピン政府一同及び代表 大統領 オズニア・ラキノ』


『事情を日本から拝聴させていただいた。彼等の使った手段を用いて、我々の意思を伝えさせていただく。我々は、貴国の判断を最大限尊重するとともに、最後まで貴国に対する支援を惜しまないことを、ここに宣言する。……日本に続かせていただく。semangatスマンガット ya! ―インドネシア政府』


『日本からの申し入れもあって、ここに我々も宣言をさせていただく。これは、我々、我が国の真意である。中国の魔の手から、貴国、台湾を守るために最大限の支援をさせていただく。何かできることがあれば、なんでもいってくれ。……我が国は、いつでも貴国台湾の味方である ―マレーシア政府一同及び国王 アラドゥラ・ハーラム』


『日本の支援電があったことに続かせていただく。貴国に対する攻撃の手を、我々は断固として阻止する。核もしかりである。我々は、貴国の味方である事を、忘れないでいただきたい。貴国、台湾に、我が祖神、शाक्यシャーキャの御加護があらんことを。 ―インド政府』










 一部あげただけでもこれだけあった。


 まさに、“エール”であった。


 私は、それ一つ一つに目を移していった。


 その言葉の一つ一つが、私の心に痛く染み付いていった。

 どれも、我が国にたいする応援、ないしエールであった。


 どれも、我が国を思っての言葉ばかりだった。


 私は涙腺がゆるくなった。

 周りの者たちも、思わず涙を流す者までいた。


 ここまで、みんなが必死になってくれているとは思わなかった。


 すべては、我が国台湾が、無事でいてくれることを祈ってのことだった。




 向こうは、決して諦めていなかったのだ。




 必ず、我が国が、我々がどうにかして突破口を開いてくれると思ってくれているのだ。




 それなのに、私は最初から……、



「……ッ! 大統領、これを見てください」


「? なんだ……、ッ! か、韓国からもか!?」


 なんと、その中には韓国からのものまであった。


 あの国と台湾は全然仲がよくない。むしろ、国民一人ひとりが毛嫌いしてるレベルだ。

 それは、向こうとて同じようなものだ。

 犬猿の仲などという程度ではないだろう。

 もはや、互いに罵倒するレベルだ。

 数年前のWBCでも、その野球場で台湾と韓国が当たったとき、互いのサポーターがその相手国を侮辱するようなプラカードをあげるようなレベルだ。

 尤も、はっきり言って私もあの国は嫌いだが。

 自分勝手なことしかしない。周りを考えない。プライドが強すぎる。見栄を張りすぎ。

 ……上げればきりがない。


 だが、そんな国から電報だと? まさか、この流れを読まずに祝電でももってきたわけではないだろうな?

 それだったらもう私はあの国と一切国交もたんぞ。


「どれ……、」


 私は中身を見ている。







『貴国台湾が、このたび核の脅しを受けていることに大きな衝撃を受けている。このような事態になった原因がどこにあるかは言及しないが、早急な解決を御願いしたい』







「……なんだ。いつもどおりじゃないか」


 いつもどおり「こっちが迷惑だからさっさと終わらせろ」ということか。

 まあ、予想はしていたがな。


 ……だが、


「いえ、問題はその下です」


「下?」


 みると、まだつづきはあった。








『……よって、我々としてもできる限りでその援助をする体制を整えている。といっても、この場から何もできないということは承知であるが、できることがあるなら何でもいってもらいたい。……今回ばかりは、事態が事態なため、“仕方なく”協力させていただく所存である ―韓国政府一同』








「……はは、なるほど。“仕方なく”……、か」


 ……これもまた、韓国らしいな。


「まあ、電報くれるのはありがたいですが、いったいどこから目線なのかと……」


「まあでも、日本ではこれを“ツンデレ”というらしいぞ。ある意味、かわいいではないか」


「かわいいねぇ……」


 私はツンデレにたとえて言った。

 普段きついことを言うものが一瞬甘えたことを言う、つまりデレることを“ツンデレ”というらしい。……日本では。

 このキャラはアニメでもよくあるタイプで、中々人気が出ているようだ。

 ……アニメ事情に詳しい私だからこそわかるアニメ事情だ。

 だが、まさか韓国がこれをしてくるとは思わなかったがな。


 ……あいつらも、中々かわいいことをしてくれる。

 まあ、どうせ後々から「もう少し早く解決できなかったのか」といちゃもん付けられるだろうがな。


「……あ、大統領」


「?」


「……これもありましたよ。ほら」


 そう一人の幹部が手渡した紙には……、


「……ッ! これは……、日本から……」


 日本からの、エール電文であった。


 他の国とともに、自分達も出してきたか。


 その中身を見る。







『……このたび、私どもの勝手でこのようなサプライズを用意させていただいた。迷惑をかけてしまったのなら、この場でお詫び申し上げる。しかし、これで少しでも貴国台湾が勇気付けられることが出来たならば、我々はそれほど大きな喜びはない。貴国台湾には、まだ周りの味方がたくさんいる、そして、いつでもそばについてくれることを伝えたかった次第である。貴国台湾は、まだ諦める時期ではない。残された時間は少ないが、それでも、諦めずがんばってほしい。……このようなきれいごとしかいえない自分が無力で仕方ない。だが、それでも、日本政府を、いや、日本国民を代表して言わせていただく。……諦めるな。貴国、台湾民主国には、“仲間”がいる。なお、この電文の内容は、非常に多くの“国民”から寄せられたお便りの一部をまとめさせていただいたものである。 ―日本政府、及び“日本国民”一同』







「……国民も……」


 この電に限っては、まさかの国民の便りから来ていたのか。

 それも、非常に多く……。どれほど寄せられたのかわからないが、国民一人ひとりがそう思っていること自体に、私はひどく感銘を受けた。


 日本が、日本国民が、これほど我が国の思ってくれていることに、これほど心をうたれたことはなかった。


「(……私は、とんでもない勝手をしていたようだな……)」


 私は、今までとんでもないことをしていたようだ。


 ここまで、彼らは我が国が無事でいてくれること、そして傷を負わないでいてくれるように願っている。

 それなのに、私はついさっきまで勝手に完全に諦めムードだった。……彼らが、ここまで願っていてくれていることを知らずに。



 少し、いや、大いに、先ほどまでの考えをしていた自分が恥ずかしくなった。



「……大統領、これは」


「ああ……。まったく、どいつもこいつも、無茶なことをしやがって」


 だが、その顔は笑っている。

 うれしかったのだ。純粋に、ここまで応援してくれていることがうれしかったのだ。


 私は、改めて、まだ周りには多くの“仲間達”がいることをしみじみと感じた。


 中々くさい展開だな。だが、このようなくささは別段嫌いではない。


 むしろ、好きだったりする。


「……ここまで期待されて、それにこたえれない決断をするわけにはいかないな」


「ですが、どうします? どちらを選択なさるおつもりですか?」


「ふむ……」


 さて、どうするべきか。


 彼等の期待にこたえてやりたい。だが、与えられた選択肢は二つだ。


 中国属国になる or 核を落とされる。


 どちらが台湾を救うことができるか。

 どうすれば、彼等の期待にこたえれるか。


 ……諦めるな。最悪、彼等の支援も使えるのだ。


 それを使ってもいい。どうにかして、台湾を救う道に持っていかないといけない。


 私は考えた。


 一国の大統領として、台湾の国として、私は決断したのだ。


 ……この国を、守って見せると。


 あの時、戦争が起こる前、夏の初期の7月にも、秘書から言われたではないか。




 “自分に出来うる精一杯の努力と判断をしろ。それが結果に繋がる”と。




 だから、それをしてみせる。

 彼等のこのエールのおかげで、覚悟は出来た。


 この国を守るために決断の、覚悟は出来た。


「(……後は、どっちが確実かだ)」


 どちらを選択すればいいのか。

 どちらが、我が国にとって最良の選択なのか。


 私は考えた。


 大いに考えた。


 ……そして、


「……李国防大臣」


「はい」


 私は、一方に決めた。


 これしか……、やるしかないと思った。

 そして、その決断を、実行する。


「……今の、友軍の部隊の状況は?」


「はい。すでに、いつでも動けるよう準備は完了しています」


「そうか……、ならいい」


「大統領、どうするおつもりで?」


「……」


 私はさらに少しの間を置いて、一人の幹部に指示した。


「……明日の朝、記者会見を開く。各マスコミに、明日の朝の午前7時に集まるよう言え」


「ハッ。了解しました」


「しかし、明日の朝とは。これはいったいなぜ?」


 黄首相が聞いた。


 私はそれに軽く笑みを浮かべながら言った。


「なに、ちょっと奴らの間を置くだけだ。……この記者会見までの間に、今から、」









「……私の考えた“作戦”を話す。それに関して、皆の意見を聞いて後々の“行動”に生かしていきたいと思う」












 私は、その作戦内容を説明し始めた。


 記者会見までは、まだ6時間以上もある…………

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