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『やまと』 ~戦乙女との現代戦争奮戦記~  作者: Sky Aviation
第7章 ~神の炎の恐怖~
103/168

謎の一週間の真実

―TST:PM20:50 同海域 日台連合艦隊日本艦隊DCGやまと右舷見張り台―






「……もしかして……、これを狙って?」


 私は思わずそう聞いた。

 誰でもない、大樹さんに。


「ああ……、もしかしたら、だがな」


 その予想通りの反応がきた。

 やっぱり、大樹さんも同じことを……。

 隣にいた丹陽さんも同じことを考えていたらしい。顔面蒼白だった。


「こ、これもしかして……」


「ええ……。奴ら、これを狙ってたんだ」


「ッ……」


「……」


 ほんの少しの沈黙。

 まあ、それはすぐに破られるんだけど、でも信じたくなかった。


 ……“違う意味で”、私は信じたくなかった。


 それは……、


「……まさか、本当に“撃つ気”ですか?」


「ああ……。奴ら、」










「……密集したところに一気に撃つつもりだ。“核弾道ミサイルを。その密集した戦力の真上に”」









「ッ! ……そ、そんな……」


 私は思わず狼狽した。

 やっぱり、私の考えたのと同じだった。

 丹陽さんも、思わず口を右手で覆ってしまった。


 大樹さんが深刻な顔で続ける。


「核を使うにはうってつけの状況だ……。敵が一点に密集してるなら、通常兵器使うより核使って一掃してしまったほうがたやすい」


「た、確かに……」


 大樹さんの言うことはものの見事に理にかなっていた。


 通常兵器使っても、敵である私たちもそれとほぼ同等でお相手してくる。それだと自分達の損害が増すどころか、むしろ自分達が押される状況になりかねない。


 なら、そこで登場するのが核。


 そこで一気に敵の真上に撃って一掃してしまえばその危険性はなくなる。

 つまり、一気に敵の戦力がなくなり、自分達が有利になる。


 まさに、大樹さんの言うとおり“核を撃つにはうってつけの条件”だった。


 ……でも、


「……ですが、それだと一つ疑問が」


「?」


 でも、その場合一つ疑問点が浮かぶ。


「……一応それって、」









「“最初、誰でも考える”ことですよね?」










 そう、これくらいのこと、誰だって最初考えることのはず。

 私だって、一番最初はこれを考えた。これだけ長い期間を与えた。もしかしたら、この期間を使って戦力を集中させてそこに撃つのではと。

 誰だって考えること。これくらい単純だった。


 でも、さすがにそれは考えが単純すぎるし、そもそも撃つのには“相当なリスク”が伴うということで、即行で私の頭の中からは消え去った。


 だから、それ以外で考えたらってなるとわからないんです。


 大樹さんもそれを肯定しつつ言った。


「ああ、そうだ。誰だって、最初はこれを考える。でも、それでも話題にでなかったのは何でかわかるか?」


「そりゃ……」


「それだと、敵戦力のいる場所によっては近くにいる味方も巻き添えかねないですし、そんなところに撃つ勇気がないってことですよね?」


 丹陽さんが代わりに割って入って答える。


 そう。一応中国政府が台湾政府に対して言ったのは“台湾本土に対する核使用”であって、そうなると核を陸に撃つことになるけど、その場合狙うといったらやっぱり敵である日台陸軍の戦力が集中する最前線。

 さすがに台湾首都には撃たないと思う。それだと後々交渉が出来なくなるし。

 でも、だからといって山間部に撃ったって意味がないし、貴重な核をそんなので無駄に使いたくない。

 けど大体市街地中間にあたるところに撃っても、そこはまだ陸上部隊がいるとはいえ効果が薄い。

 インパクトを与えるためには、やっぱり最前線近くにいるこの日台陸軍になる。


 でも、そこに撃つにもやっぱりリスクがでてくる。


 さっき言った“相当なリスク”っていうのはまさにこれのことで、最前線ということはもちろん自分達の味方である中国陸軍もたくさんいる。

 しかも、大樹さんたち曰くなにやら中国軍は最前線あたりに戦力を壁の如く集中させているということみたいだし、そんなところに撃てば最悪そっちにも被害が及んで大惨事。

 それだと、せっかく核撃って敵の数大量に減らしたのに、自分達にも被害が出てしまったら元も子もない。

 その損害状況によってはとてもじゃないけど防衛どころじゃないなんていうことになったらもはや将来その人によっては笑い話にされるレベル。


 とてもじゃないけどそんなリスクを背負えるとは思えない。


 そんなところに撃ってしまったら味方が少なくない被害を受けるのを承知で、そうでなくても貴重な核を撃つなんて勇気が向こうにあるとは思えない。


 それを考えて、私たちは考えても話題にすら出さなかった。


 大樹さんがその丹陽さんの言葉に同意する。


「そう。そんなリスクを負って中国がわざわざ核を撃つとは思えない。幾ら中国といえどこんな大量の味方を犠牲にしては後々面倒なはずだ。もし奇跡的に反撃できるチャンスが出来たら、そのとき戦力ないと意味ないしな」


「はい。……ですから、まさかこんなところに撃つなんて思えません」


「ああ。俺も思えない。リスクが大きくなるからな……、それこそ、」






「“陸に向けて撃つならな”」






「……え?」


「……陸?」


「そう、陸だ。陸の地上部隊に撃つなら、このリスクを大量に背負わないといけない」


 うん、私だってそういうつもりでいったんだけど……。他に何かある?


「かといって、空に撃つのも無理。戦闘機群に向けて撃つのはもちろん、高高度大気圏で爆発させて電磁パルス発生させるのもいいけど、それだと範囲指定できないし効果範囲が広すぎるから自分達も巻き込まれてアウト。よってこれもボツ」


 これは、俗に言う『EMP(電磁パルス)攻撃』というやつ。


 高高度大気圏、高度で言えば大体100kmか~数100kmのところで核を爆発させ、それによって起きる『電磁パルス(ElectroMagnetic Pulse:EMP)』を使って、その効果範囲内にある電子機器を全部ぶっ壊す攻撃方法。それが、この『EMP攻撃』。

 これをやられたら、現代の電子的な艦船などの兵器はすべて一瞬で使い物にならなくなる。近くを飛んでる衛星も、事前に防護されていない限り余裕でぶっ壊れて再起不能。さらに言えば、上から降ってくるのはこの電子機器をぶっ壊すガンマ線という放射線の一種だけで、しかも大気が希薄な関係で結構遠くまで届く。へたすれば1,000kmくらいいくこともある。

 高度が十分なら地上の被害は全然ないと考えられてるけど、これの一番厄介なところは迎撃などの防衛手段がほとんどない上、しかも核を撃って上で爆発させるだけだから技術的にも簡単。攻撃がしやすく、かつ防がれにくいという、なんとも厄介な攻撃手段。

 これをされたらいくら私とて電子機器の塊だから一瞬でただの鉄くずになる。一応、設計段階でこれを考慮されて、各電子機器が全部基本光ケーブルになってたり、随時バックアップを取ってたりしているなど、考えられる対策は全部講じたとはいえとはいえ、どこまで効果があるかははっきりいって未知数。


 つまり、今の電子的に発展した高度電子社会、高度な電子機器にとっては、一番厄介、かつ予防が困難な攻撃方法なのです。


 でも、これにも一応欠点があって、効果範囲が設定できないから、たとえば今のこの台湾の最前線に撃とうものなら問答無用で中国側にも被害が出る。

 そうなると、陸上戦力はもちろん、近くに航空基地があるだろうし、そっちの航空戦力もすべて使い物にならなくなる。

 敵は確かに一気に再起不能になるし、ある意味では核を地上で爆発させるよりは効果的だけど、その代わり味方も絶賛犠牲を負うことになります。

 これまたある意味では、リスク自体はその核を地上に落とすよりひどいことになる。人的被害は防げるだろうけど。


 ……と、これもすべては今まで勉強した成果。この現代に転生してからというもの、がんばってこの現代の戦争事情とかを勉強したのです。がんばって。

 ……まあ、主に大樹さんに聞きまくっただけではありますが。


「空はもうある意味発想すらないと思う。自分たちまで電子的に巻き込んだら、それこそある意味地上に核落とすよりひどいことになるし」


「違う意味でカオスになりますね」


 ひどいという言葉ですむならむしろ幸運なレベルでしょうね。うん。


 すると、大樹さんが右手を、親指、人差し指の順番で指を立てながら言った。


「そう……。じゃあ、陸、空がダメなら……?」


「えっと……、海、ですか?」


「そういうこと。……これでもうわかったろ?」


「……あッ! そういうことか!」


 丹陽さんが思わず叫んだ。


 ……あー、なるほど。こうやって消去法で考えたら確かに……。


「そう……。これなら、技術的にも可能なはずだ。……奴らの狙いは、陸じゃない。名目上はそうだけど、本当の狙いは……」










「自分達にとって一番厄介な、俺たち“日台連合艦隊”だよ」










「ッ! か、海上艦隊に向けて核をってことですか!?」


「……たぶん、そういうことだ」


 海に向けて核を撃つ。


 その発想はなかった。核といったら陸に向けて打つイメージしかなかったけど……。


 でも……、考えてみれば、普通に今の技術ならやれないことはない。


「でも、それだと精度の問題が……」


「今時の弾道ミサイルなんてそこそこ精度もよくなったし、海をノロノロと動いてる艦隊にぶち当てることは別段不可能じゃない。核爆発時の効果範囲を考えれば、それでも十分大きな効果は期待できる」


「ッ……!」


 まさにいったとおりだった。

 核弾道ミサイルでもがんばれば海上に撃てないことはない。

 元々陸に撃つやつだから精度は完全ではないとはいえ、海上をノロノロ動くことしか出来ない艦隊に当てるなんて造作のないことだった。

 どっちみち迎撃はされる。でも、それなら一番厄介の私たちを狙うってことなんだろう。


「陸に撃っても、ぶっちゃけ陸の戦力がなくなっただけで、他の空・海の支援が健在ならまた再起可能だ。だが、陸はあっても、空はまだしも、海からの支援がなくなれば、一番窮地に陥るのはその陸軍だ。台湾は島国。それも、中国にめっちゃ近い。即行で手をかけられる距離にある。だからこその海軍なのに、それを破壊されたらもう台湾は……」


「……それに、日本も巻き込むことによって日本がもうこれ以上台湾に支援“出来なくする”状況を作る……」


「そういうことだ」


「でも、それでもなんで一週間なんですか? それならもう今すぐにでも撃てばいいのでは?」


 丹陽さんが聞いた。


「それについては陸と事情は同じです。今日台連合艦隊は全部隊が集結いていない状態。俺たち本隊は今ここにいますが、その他の、揚陸艦隊、対地支援艦隊、後方支援艦隊は、陸の進軍状況に合わせてなんかしているため、まだこっちと合流していない。司令部の事前の予測では、完全に合流するまで……、多く見積もっても、あと、“4日”だ」


「ッ! 4日!?」


「ま、待ってください。その4日って……」


「ああ。……見事にかぶさるんだよ。例の“謎の一週間”の、残りの返答期限タイムリミットに」


「ッ!」


 まさか……、中国政府は最初からこれを狙っていた?

 ここまでの偶然はありえない。事前に申し合わせていたか、それともこの時期を読んでいたとしか……。


「丹陽さんの『私たちに集まる時間が稼がれる』という言葉のおかげでやっとわかりましたよ。おそらく、最初からこれが狙いなんだ。陸に向けて撃つ可能性はまだ大いにあるが、おそらく、俺の予測ではこの陸に対するっていうのは“ハッタリ”。本当の狙いは、同じく海でここぞとばかりに集合を待つ、俺たち“日台連合艦隊総戦力”だ」


「となると、わざわざこうやってマスコミに報道したのも……」


「ああ。おそらく、自分達の意思を明確にさせ、そして各国の動きを自分達の思い通りに制限させるため。核を使ってといっても、電報とかだとそこからまず本当に止めさせるかの判断をするのに時間がかかる。それだと、もしかしたらそのまま「いや、ハッタリだろう」と思われてしまう可能性がでて、信憑性が薄くなる。ましてやこの状況、おそらく各国は「またハッタリだ。どうせ撃てやしない。そんな余裕あるはずがない」と考えて無視する可能性が“僅かに”ある」


「? ちょっとでもあるとダメなんですか?」


「あったらあったで核の準備に集中できない。最悪、そっちにも時間稼ぎのために弾道ミサイルを準備しないといけなくなる。向こうも弾道ミサイルのストックは少ないはずだし、その残りを核搭載のと欺瞞用の通常弾頭のに集中したいだろうしな。とりあえず、他には黙っててもらいたいんだろう」


「ッ……!」


 ……なるほど、そういうことか。

 マスコミに報道することによって、自分達の意思を明確にして文字では伝わらない意思を伝えることによって各国の動きを完全に止める。

 そして、その隙に核準備をすばやく済ませ、そして私たち日台連合艦隊が集合するのを待つ。

 一々集合するのは、戦力が分散することによって私たちが守るべき対象が離れてしまうのを防ぐため。

 いったん合流の後、この中から支援物資投下の任務が残ってる揚陸艦隊と、それの援護の対地支援艦隊・後方支援艦隊が陸地に向かって、そして私たち本隊がそれをカバーするように配置する。

 そのために一回ここで合流する予定だった。

 でも、向こうはまさにそれを狙っている。

 確かに、わざわざリスクが大きい陸を狙うより、海の海上艦隊を狙ったほうが効果的。味方の南海艦隊はまだ南方にいるから被害は大きくない。せいぜい波が飛んでくるだけでなんら問題ないはず。

 もちろん、陸に行く可能性は捨てきれない。でも、可能性としてはこっちにやったほうがより大きな効果を得ることができる。

 迎撃も、あくまで私たちは弾道ミサイルの飛行段階の中の大気圏巡航時ミッドコース・フェイズでの迎撃に特化してるから、最終段階の大気圏再突入時ターミナル・フェイズでの迎撃は少し難しくなる。

 どっちかというと後者のほうが迎撃されにくいところからみても、たぶんこの策をとった一員となりえる。


 ……はは~ん、中国め、最初からこれ狙ってたな?


「あの、ついでに聞きますが、潜水艦発射タイプの可能性は?」


 丹陽さんが質問した。


 そういえば、そっちも残っていたわね。可能性は無きにしも非ず。


 しかし、大樹さんはその可能性を否定した。


「いえ、その可能性はほぼないと見てかまいません」


「? 理由は?」


「南海艦隊にいる弾道ミサイル搭載潜水艦は『晋型』原潜の遠征9号と10号です。ですが、この2隻はアメリカ海軍の哨戒ヘリによって撃沈されていることが確認されています。やまとは知ってるだろ?」


「はい、一応は」


 といっても、本当に戦争初期の話になる。


 私たちが沖縄奪還に出たちょうどその日、アメリカから定時戦況報告で、哨戒ヘリがいくつかの潜水艦沈めたらしい報告をしたとき、この弾道ミサイル搭載原潜の2隻があった。

 これによって南シナ海からの弾道ミサイルの脅威は消えたという報告も、アメリカから届いている。


「そもそも、今の中国それほど弾道ミサイル潜水艦持ってないんですよ。それに、アレに限って騒音がうるさいので、結構最初に沈められてます。主に日本とアメリカに」


「おおぅ……。日本とアメリカって、対潜得意ですもんね」


「日本に限っていえば昔のトラウマの影響ですがね」


 何度もいうようですが、この対潜技術は昔のトラウマと反動です。


「そして残ったものも、今は本土防衛の件もあって、中国近海に移動しています。おそらく本土防衛のために借り出されている最中でしょうから、そもそもこっちに弾道ミサイル撃ってる暇すらないでしょう。一応、衛星画像で中国の一部の弾道ミサイルが動いているらしい画像を得ていますので、ほぼ間違いなくそっちから撃ちます」


「ははぁ……」


 すごいなぁ、さっきの一瞬でそこまで考えちゃうか。

 さすがは軍オタミリオタ自称しているだけある。


 ……でも、となると結構まずいことになりましたな。

 結局狙いは私たち。合流してしまったらその瞬間その核ミサイルに狙われることになる。

 まだ向こうが撃つ準備が出来てるのかはわからない。でも、今すぐにでも行動を始めないとまずいことになる。


「……とにかく、大樹さんの予測が正しいと仮定すれば、時間が経てば立つほど私たちは不利になるってことですか?」


「そういうこと。……奴ら、基本的には不利になるはずのこの謎の一週間を、わざわざ有利になるように動かしたんだ。まさに……」





「……時間と俺たちの“常識”を、味方につけている状態だ」





「……時間と私たちの常識を味方に……」


 そこまで奥深く考えていたとは。

 確かに、大樹さんの言ってることはあくまで予測だけど、今までの条件を考えると大いに可能性はある。

 というか、そもそもこれ以外のこの一週間の利点が考えられない。

 すべては、私たちの動きを利用するため。そして、味方の損害を最小限にしつつ効果的に敵を殲滅するためだったんだ。

 今、南海艦隊が進んでこないのも、たぶんこの期間の戦線停止によるものというのは名目上の理由。本音はこの核攻撃に巻き込まれないようにするためだったんだ。

 おそらく、中国政府は今の東南アジア・インド多国籍連合艦隊の防衛すら視野に入れている。

 たとえ私たちが動き出しても、南海艦隊は彼女らに足止めされてそうすぐにはそこを動けないはず。


 ……すべては、中国政府の読みどおりだったってことね。

 くそっ、うかつだったわ。すべて向こうの読みどおりだったなんて。


 ……いや、まあ別にこれだって決まったわけじゃないんだけどね。


「とにかく、百歩譲って仮にこうだとしたら、今すぐにでも行動を起こさないと……」


「ああ。だが……、一つ問題がある」


「え?」


 何がですかね? 今すぐに行動を起こすならこれをみんなに伝えて理解を得て今すぐにでも……。


 ……と、そこに割って入っていったのは丹陽さんだった。


「……私たちの、政府ですね」


「ッ!」


 そうだった……。まだこっちの問題があった。


 大樹さんが肯定する。


「そう。結局はすべての判断は日台連合軍最高司令部の台湾政府にゆだねられている。いくらこっちがこうだって言っても、台湾政府が進撃許可をくれないと進撃できない。日本だけがすぐに、なんてことはできないしな」


「うッ……。日本も、台湾に指揮権を委託してしまいましたし……」


「ああ……。今さら変更させるわけにも行かないし……」


「それだと、今後の作戦に支障が出ます。今さら指揮系統を変更したりしている時間はありません」


「そこなんだよな……。厄介なことになっちまった……」


 大樹さんが頭の前髪辺りを軽くガシガシと掻いた。


 台湾がいろいろと指揮をしやすいようにって思ってやったことが裏目に出てしまった。

 日本側が気づいても、これに台湾側が理解をしてくれないければ意味がなかった。

 こっちから知らせても、それを聞いて進撃許可に首を縦に振ってくれるかどうか……。


「と、とにかく、俺は艦長に相談してみる。今艦長室にいるから」


「はい。……理解、得られるといいですけど」


「なに、あの人も現役の軍人だけあって、こういう軍事関係は詳しい。それに、他人の話は例え俺みたいな下っ端でも真摯しんしに聞いてくれる人だ。話せばわかってもらえるはずだ」


「はぁ……」


 まあ、あの人ならきっと聞いてくれるだろうけど、それでもとにかく時間はないしね。

 とにかく、今は手段を選んでたり、時間をかけている暇はない。


 大樹さんはすぐに行動にでた。


「じゃ、俺艦長室行ってくる。お前らも、他のやつに伝えておいて。こう来るかもしれないから準備しといてって。特にイージス艦組に」


「了解」


「任せてください」


 そういうと、大樹さんはすぐにここに繋がる艦橋の隔壁を開けると、すぐにその中にはいって隔壁をバンッと閉めた。

 相当急いでいるのが伺える。


 そして残された私たち。


「……なにやらまっずいことになっちゃったぽいね」


 とりあえずそう話しかける。

 丹陽さんも真剣そうに答えた。


「はい。……こうなってくると、余計私たちみたいなイージス艦の重要性が問われますね。いずれにしろ弾道ミサイルで来ることは確実ですし」


「ですね……。敵からの弾道ミサイル以外の攻撃が来たらまずいですし、そっちも留意となると余計めんどくさいことになるなぁ……」


 まあ、そのお相手の南海艦隊は今ここよりはるか南方ではありますが。

 でも、いずれそっちも相手にしないといけないし、それプラス弾道ミサイルってなるど、やっぱりイージス艦の真の力が発揮されるわけか。

 特に、私なんてほかより大量にSM-3載せてるわ、迎撃能力は抜群だわで、期待が結構高いしね。


 ……まあ、いざとなったら何が何でもやるしかないけど。


 すると、ふと丹陽さんが不安になって言った。


「……しかし、もし同時にこられたらどうしよう……。さすがにどっちも迎撃となると初めてだし……」


「大丈夫ですよ。そんなの私も初めてだし」


「ええ……」


 そもそも、そんな状況がないんですがね。


「……もし」


「?」


 ふと、丹陽さんがこっちをみて不安げな顔でいった。


「……もし、私が攻撃を受けそうになったらどうしましょう。まだイージス艦として役目はたす前にやられたらそれこそ……」


「ふふ、大丈夫ですよ。そんなときの私です」


「え?」


 ある意味、それでこそ私の真価が発揮されるとき。


 そこで出番が来るが私なんです。


「こういうときのこの私の出番。自分の近くにいたら即行で守りにいきますよ。……最悪、」






「この身を、文字通り盾にさせてでも守らせていただきますよ」






「……い、いやいや、やまとさんはイージス艦なのでそういうわけには……」


「ご安心ください。こういうときのためにしっかり私の体には装甲が!」


「あ、そういえばやまとさんは現代には珍しい装甲艦でしたね……」


「そのとおり! ミサイルの1発や2発余裕で耐えれる設計になっております! ……とはいっても、、当たり所によっては即先頭不能ではありますが」


「はは……」


 私は胸に右手のこぶしを軽く当てて胸を張っていうも、やっぱりその不安はある。

 艦橋あたりとかに当たったら即行で戦闘不能ですわ。


「で、でも! それでも守り通しますよ。日本の誇る盾としてね!」


「はぁ……、でも、あんまり無茶はしないでくださいね? 頼みますから」


「わかってますって。そんな無茶をするほど私は冒険家ではないので」


「ある意味そのやまとという艦自体が冒険要素の塊ですがね」


「うッ……」


 ギクッとなって固まってしまう私。

 まあ、あながち間違ってはいませんがね……。機関を史上初の出力増大が期待される水素燃料にしたり、システムを日本の独自改造が施されたFCSという名の事実上の新型イージスシステム、そんでもってこの装甲化船体だし……。


 ……うん、冒険だね。文句なしの冒険の塊だね。ぐうの音も出ませんわ。


「……あ、では私はこれで失礼します。少しみんなにもこの今の仮説伝えてこないといけないので」


 と、そろそろ向こうはお帰りになるようですね。


「あ、はい。……今日はお疲れ様です」


「はい。……今日は、ありがとうございます。相談に乗っていただいて」


「いいですって。困ったときはお互い様なので」


「はい。……では、私はこれで。何があっても、互いにがんばりましょう」


「ええ、互いに」


 そういうと、向こうは軽くうなずいてその場から青白い光を出して消えた。

 自分の艦に戻ったんでしょう。


 ……そして、今度は一人残された私。


「……さて、まずいことになっちゃったなぁ……」


 ここからは忙しくなるなぁ……。

 とりあえず、まずは事情を上の人たちに知ってもらわないと。

 大樹さんが今頃艦長さんに伝えに行ってるころだろうけど、理解を得れるだろうか……。


 ……いや、むしろ一番焦ってるのはあの人だし、どうにかしてでも理解を得るかな。そんな感じの無茶やる人だし。



 ……さて、



「……それじゃ私も、」











「他のみんなに伝えてくるかな……」













 そんなことを思いつつ、私は他の艦に移るためにこの場を後にして消えた…………

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