××××視点(5)
作り置きしておいたバニラアイスを、冷蔵庫から取り出す。
そのアイスには塩が練りこんでいる。
私も初めて聞いたときは驚いたけれど、塩を入れたほうが、濃厚で美味しいものが出来上がる。それは 母親が作ってくれたアイスで、味見済みだ。
ちなみにこのアイスは、頑張って自分で作ったもので、あまり味に自信がないのだけれど。
小皿にアイスを移し、自分の部屋に持って行って、暖房をつける。そしてベットに座り壁にもたれかかる。これが冬のアイスの食べ方だ。
あの時、黒葛くんが倒れた詩織に走っていた時に、私は、どうしても彼を止めることができなかった。
私になら、瞬時に彼を引き留める言い分を考えられることができた。その自信を裏付けるには十分なくらい、私は他人と自分を欺くのには慣れていたはずだった。
――だけど、どうしてもできなかった。
黒葛くんはいつも動じなくて、焦ったりしない。鉄壁ともいえる心の壁をいつでも障壁としてはっていた。
あんなに心配したのは、詩織が倒れたからだ。
あの光景を見て、私は自分の恋は破れたのだと自覚した。これからどんなに足掻いても、あの二人の間には割り込めない。
そして、詩織とはもう話すことはない。
「あれ?」
アイスにぽつぽつと透明な水滴な毀れていく。
「これ以上しっぽなくなったら、おいしくなくなるのに……」
溢れる涙を止める術はなく、私はただ堪えるだけだ。初めての恋は破れて、そして私は――
「……親友を失ったんだ」
黒葛くんと付き合う為だったらどんなことを犠牲にしても構わないって、強がっていた。実際に、私はあらゆる手段を使って、本当に愛している人間を手に入れようとした。
どんなに他人に批難されようとも、自分の気持ちに正直に生きようと思った。
その結果が、これだ。
親友を失った悲しみが癒えることは、これからきっと一生ない。世界で唯一、屈託のない笑顔を向けてくれた詩織と和解することなんて、絶対にもうできない。
「……私はもう――ほんとうに一人ぼっちになっちゃったんだ」
どんなに私が滂沱の涙を流しても慰めてくれる人間は、もう――いない。