赤ん坊の見聞
ろうそくの灯りが、木の小屋の中で静かに揺れている。
当分は赤ん坊の姿で生きるしかないと割り切った俺は、周りの人間を観察し始めた。
俺を抱いている女――明るめの栗色の長い髪を後ろで簡単に束ね、肌は長年の風雨に晒された小麦色。顔立ちは柔らかいが、目の奥には少し疲れが滲んでいる。粗く織られた亜麻の服を着て、袖口をまくり、手には枝で引っ掻いたような細い傷跡がいくつかある。
これが俺の母親、リナだ。
彼女は俺の背中を優しく叩きながら、低い声でゆったりとした節回しの子守唄を歌っている。声はとても小さく、言葉は聞き慣れない奇妙な響き――この世界の言語だ。
そばの木の椅子に座っている男は、俺の父親、カレン。体は大きく、肩幅は広く、腕の筋肉は盛り上がっている。腰には使い込まれた短斧を下げ、足元には薬草を入れた藤かごが置かれている。村の狩人で、時々山に入って薬草を採り、家計の足しにしているのだろう。彼が俺を見るとき、無骨な顔に不器用な笑みが少しだけ浮かぶ。
ここは落風村。エセラン大陸の小さな村落だ。王国の中心部の賑やかな街から遠く離れ、連なる黒棘山脈を背にしている。数十戸の家があり、大半は狩猟や農業で暮らし、時折通りかかる傭兵や冒険者が立ち寄っては補給していき、山の外の町の噂を運んでくる。派手な魔法も、輝かしい騎士もなく、ただ静かな場所だ。
――これらは後になって知ったことだ。
そして今の俺の日常は、ただ一つしかない。聞くこと。
母親が俺をあやすときに話す言葉、父親が隣人と家の前で交わす会話、外で遊ぶ村の子どもたちのはしゃぎ声、遠くから聞こえてくる村人たちの雑談。
最初はただの意味のない雑音にしか思えなかった。
だが、奇妙なことがすぐに起きた。
前世の言語を思い出そうとしても、頭の中は空っぽだった。つい最近まで母語で動画を見て、文字を打ち、人と話していたのに、今はどんなに努力しても、馴染みのある単語を一つも掴めない。簡単な一言すら思い出せない。見えない消しゴムが、前世の言語の記憶を完璧に拭き消したかのようだ。
一瞬慌てた。転生の代償は、元の世界の言語を忘れることなのか?
だがその不安は、すぐにもっと驚くべき発見によって薄れた。
まったく未知の言語なのに、理解するのが異常に速い。何度か繰り返し聞けば、その音節は自然と頭の中で分類され、組み合わされ、少しずつ意味と結びついていく。リナが木の匙を手に取って「食べ物」と言い、カレンが山の方を指して「獲物」と言い、隣人が魔物の話をして「危険」と言う――意識して暗記する必要はなく、ただ聞けば、自然に意味が分かる。
この学習速度は、とても赤ん坊のものではない。
普通の新生児は、簡単な言葉をぼんやり理解するまでに数か月かかる。ましてや文を聞き分けるなど。なのに俺はわずか数日で、大人たちの日常会話の大半を聞き取れるようになっていた。
転生がもたらした贈り物? 魂が別の世界から来たから、精神がここの人間と違うから、言語能力が強化された?
理由は確かめようがない。ただ黙ってこの便利さを享受するしかない。リナはただ赤ん坊が敏感なだけだと思っていて、俺に話しかけるたび、前よりも根気よく接してくれる。
「レイク、おとなしくしててね」
彼女の指先がそっと俺の頬に触れ、俺の名前を口にした。
レイク。これがこの世界での俺の名前。
俺は瞬きをして、この呼び名を必死に覚えようとした。父親のカレンが歩み寄り、太い指で慎重に俺の小さな手に触れる。痛がらせまいと気遣うように。
「今日は静かだな。他の子みたいに泣きわめかない」
「ええ。気のせいかしら、なんだか私たちの話が分かってるみたいに感じるの」
リナは微笑み、俺を胸に少し強く抱き寄せた。
「無事に育ってくれればいいけど」
俺は静かに二人を見つめた。
一語一語、すべて聞き取れている。ただ、相変わらず「うーうー」という赤ん坊の声しか出せず、言葉を返すことができない。
体がまだ準備できていない。口も、舌も、声帯もまだ幼すぎる。頭では会話全体を理解していても、この世界の言葉を滑らかに口にすることはできない。
大丈夫だ。
今の課題はとにかく学び続けること――何度も何度も聞き、何度も何度も発音に慣れ、頭の中にエセランの言語体系を築き上げる。
前世の言語はすでに完全に遠ざかった。おそらくそれが、過去と別れる代償なのだろう。
そしてこれからは、この大陸の言葉で話し、冒険し、自分の野望を語るのだ。
俺は顔を向け、木の格子窓の外を眺めた。窓の外はただの普通の村の風景なのに、俺の目には無数の可能性が広がっているように思えた。
言語が第一歩だ。この世界で輝かしく生きるには、まず聞き取れ、話せなければならない。
俺が口を利けるようになり、自由に走れるようになったら――
その先の計画を考え続けよう。
俺は少し目を細め、母親の温かな胸に身を預け、聞き慣れないのに少しずつ馴染んでいく言葉を聞き続けた。
赤ん坊の学習時間は、こうしてゆっくりと幕を開けたのだ。




