仕事終わりにゲームしてたら過労死して転生した件について
暗闇。重苦しい沈黙。息ができない。
意識を失う直前、俺が最後に感じたのは、それだけだった。
俺は二十一世紀のどこにでもいる社畜。日々の仕事が、生活からあらゆる彩りを奪っていく。それでもまあ、悪くはなかった――昔は三つの仕事を掛け持ちして、弟との生活を支えていた。今は弟も大学に通っているし、仕事も一応安定している。上出来だ。
唯一の趣味は、毎日仕事が終わった後の、ほんの数時間のゲームタイム。人の顔色を窺う必要もないし、人間関係に気を遣う必要もない。キャラクターを動かして剣を振り、魔法を放ち、ダンジョンを攻略して冒険する。それだけで、平凡で息苦しい現実から一時的に逃げ出せた。
あの日も、いつもと何ひとつ変わらなかった。
深夜まで残業し、今にも崩れそうな体を引きずってアパートへ帰り、冷えたパンを適当に二口かじって、待ちきれずにあの剣と魔法のオンラインゲームを起動した。
「今夜はダンジョンを攻略したら寝る」
そのときは、そう思っていた。
画面に光と影が瞬き、ヘッドホンからは冒険を盛り上げる勇ましいBGMが流れる。指先で高速にキーボードを叩き、全身全霊で爽快な戦闘に没頭する。
最高だった。これまでにないほどリラックスできた。
――そして、長年の夜更かしと過労で溜まりに溜まった体の不調が、この瞬間、一気に爆発した。
突然、心臓に鋭い激痛が走った。見えない手でぎゅっと握りつぶされたような感覚。呼吸が止まり、目の前のゲーム画面が一瞬で白い光の粒となって砕け散る。
意識が底なしの暗闇へ沈んでいく。
……終わった。
それが、俺の脳裏に浮かんだ最後の考えだった。
過労死か? 本当に情けない死に方だ。何年も真面目に働いて、大した金も貯まらず、遠くへも行けず、自分のために生きることすらせず、最後は深夜にポンコツパソコンの前で死んだ。平凡で、雑で、何の価値もない人生だった。弟に最後の顔すら見せられなかった――
俺の短い人生は、笑えるほど呆気なく幕を閉じた。
――――
「うー……うー……」
かすれた奇妙な声が、俺自身の口から漏れた。
温かく柔らかく、ほのかにミルクの香りがする、包み込むような感覚が、死の直前の冷たさと窒息感に取って代わった。ぼんやりとした光がゆっくりと瞼に差し込み、俺は重いまぶたを必死に押し上げる。
素朴な木の天井、粗い石壁、揺らめく暖かな橙色のろうそくの灯り。
見知らぬ天井。見知らぬ部屋。
ここは絶対に、あの狭くてボロいアパートじゃない。
俺は体を起こそうとした。座ろうとした。手を上げて、ぼやけた目をこすろうとした。
だが――
四肢がまったく言うことを聞かない。ふにゃふにゃで、力が一切入らない。小さくて短くてぷっくりした手足が、柔らかな産着の中で無力に垂れている。
俺はぎこちなく視線を動かし、自分の両手を見下ろした。
白く、幼く、細い。爪は淡いピンク色。完全に、生まれたばかりの赤ん坊の手だった。
???
俺は呆然とした。完全に呆然とした。
夢じゃない、錯覚でもない。俺はぎこちなく指を動かしたが、不器用で幼い動きしかできない。喉からは「うーうー」という赤ん坊の声しか出ず、まともな言葉は一言も出てこない。
転生した?! しかも……よりによって生まれたばかりの赤ん坊?
だが今の俺は、寝返りすら打てない。力もない、自由もない、話せない、自分で飯を食うことすらできない。大陸を旅して冒険して成り上がって、輝かしい人生を送るなんてとんでもない――今の俺は、生き延びることすら他人の手に委ねられている。
ありえねえ。
あまりの落差に一瞬で頭がいっぱいになった。俺は悔しさに身をよじったが、産着の中で不器用にもぞもぞ動いただけで、意味不明な赤ん坊の声をあげるのが精一杯だった。
無力。あまりにも無力だ。大人の魂が小さな赤ん坊の体に閉じ込められ、意識はあるのに体がまったく動かない。このもどかしさは、まさに発狂ものだった。
――冷静になれ。
俺は深く息を吸い、心の底のざわめきを無理やり押し殺した。
怒りも、愚痴も、取り乱すことも、今はすべて無意味だ。ここまで来たら、転生はもう確定している。少なくとも完全に死んだわけではない。新しい世界に来た。一からやり直す機会がある。
体が弱いのは一時的なものだ。動けないのも一時的なものだ。すべてはゆっくりやっていけばいい。
今の俺には、抵抗する力も、変える力もない。
なら――まずは、こうするしかない。
俺は素直に四肢の力を抜き、柔らかな産着に身を委ねた。動けない赤ん坊の時期は、長い充電期間だと思えばいい。これから十数年、じっくり考えて計画を練る時間がある。
決めた。この異世界で、輝かしい人生を送ってやる。
「……うー」




