第127話 ア⚫︎ガミじゃねーか!
「…と、いうことがあったわけでごさるよ」
サビターは何故自分がこのように至ったのか、経緯を語り終えた。
「…そ、そう」
サビターの長い独白にセアノサスは若干引き気味に答えた。
他の3人も彼女と同様に引き攣った顔をしながらお互いを見合っていた。
「確かに、忙しかったとはいえ面会に会いに来なかったのは謝るわ。だって貴方、昔から檻に入る事が多かったし、いつもの事だって思って敢えて行かなかったの。でもまさか、こんな事になるなんて……」
「で、でもたった2週間でこんな変わりますか?人格分裂したとかでもないと説明つかないですよ?」
「絶対洗脳か何かの類のものをされただろこれは……」
「おいこれどーすんだよ」
4人は困惑しながらもどうにかしてサビターを元に戻せないか思案する。
「とりあえずサビターが遊んでたゲーム見せてよ」
3人が考え込む中、タマリがまず先に声を上げた。
「そうですね。件のゲームがどういったものかも確認が必要です。もしかしたら何か洗脳光線みたいなのが出ていた可能性もあります。特に分かりませんが」
「ええそうね。有害光線が出てサビターの脳みそに悪い影響を与えたのは間違いないわ。知らないけど」
「とにかく眼鏡に何かしらの原因があるはずだ。知らんが」
セアノサス達は特にこれといった原因が何か特定には至っていないが、サビターが使用していた眼鏡に何かしらあると推測し、提出するよう要求する。
「まぁまぁ皆の衆どうか落ち着いてくだされ。拙者は何も頭を弄られてこの至高のゲームを好きになったわけではござらん」
「せんのーされてるやつは皆そーやって言うんだよマヌケ」
「そうだ。明らかに頭に何か細工されただろ」
「相合点承知の助。某が証拠を見せてやるでござる」
「タマリも言ってましたが一人称くらい統一してください」
アリーシアが呆れながら言っているのを他所に、サビターは懐から例の眼鏡を取り出してテーブルに置いた。
「これがお前の言っていたゲームデバイスか」
「そう。マッドギアで超話題の最新ゲーム機、その名も『ウェア』。視神経からアクセスして深いゲーム体験に没入可能、そして眼鏡型デバイスということもあって携帯性にも優れた次世代ゲーム機でござる」
「とりあえずコイツの二の舞になるのは勘弁だからまずは使わないとして、お前がやっていたのは恋愛ゲームか?」
「失敬な。マジガミはただの恋愛ゲームとは一線を画すものでござる」
「へー」
タマリは鼻をほじりながら微塵も興味なさそうに生返事をする。
「いやいや、これが本当に神ゲーなんでござるよ」
「まぁ別にゲームやアニメに偏見はないのですが、サビターさん、一応貴方にはセアノサスさんという彼女がいるじゃないですか。それじゃあご不満なんですか?」
「そうよそうよ!私がいるのになんで他の女の!ましてや電子の向こう側の非実在性少女なんかに恋してんのよ!ついに頭アッパッパーになっちゃったの!?」
アリーシアの言葉に続きセアノサスも追従してサビターを責め立てる。
「いやいやそういうわけではござらんよ!確かに拙者にはセアノサスの事が大事で、世界で一番愛しているのは間違いござらん」
「…服装と性格が元に戻ってくれたら言う事なしなんだけど……」
「なんでしたっけ……マジガミ?というゲームについてですが……その、大丈夫なんですか?」
アリーシアが不穏な雰囲気を感じながらサビターに問いかける。
しかしサビターにはアリーシアが何に対して心配をしているのかがわからず小首を傾げる。
「何のことでござるか。マジガミは神ゲーですぞ。感情移入しやすい主人公に魅力的なヒロイン達。彼女達全員に深いストーリーがあり、涙無しにはプレイは出来ないものでありまするよ」
「いや、なんというか先ほどのお話を聞いているとゲームのタイトルと主人公とヒロインの背景が既存の名作ギャルゲーとどことなく似ているのですが……そもそも何故タイトルがマジガミなんですか?」
「主人公の妹が主人公である兄に本気で首筋に噛みついてきた事から本気噛みと書いてマジガミと読むタイトル回収をした時は感動しましたなぁ」
「いやア⚫︎ガミじゃねーか」
アリーシアが真顔でツッコミを入れてサビターは首を横に振って否定をするが、周りの反応は微妙な物だった。
まだタイトルが若干似ているだけ、断定するにはまだ早いと各々考えていたが……
「いやいやマジガミは創意工夫を凝らされたゲームでござる!特にヒロインのヘソを舐めたり膝裏を舐めたり、ヒロインの犬になったり、勝負下着を履いているか聞いたり、独創的で個性的な主人公であるからなぁ」
「いやア⚫︎ガミじゃねーか」
「ちなみに主人公の名前はどんな名前なのよ?」
「准一でごさる」
「いやア⚫︎ガミじゃねーか!!」
「しつこいでござるぞ!さっきからア⚫︎ガミア⚫︎ガミって何なのでござるか!?」
「まるっきりパクリじゃないですか!?さっきから聞いていれば、主人公の背景やヒロインの個性、しかもタイトルのパクリ感と主人公の名前!これ明らかにパクリですよ!」
「いやいやいや!パクリではないでござる!主人公は特にクセがあって普通のギャルゲーの主人公からはかけ離れているのでござるよ!ほら、アニメ版を見てくだされ!」
そう言ってサビターはテレビのリモコンを手に取り、電源を点けてアニメを見せた。
「私アニメとか興味ないんだけど」
「まぁそう言うな。奴がこうなったのには面会に行かなかった俺達にも責任がある。付き合ってやれ」
テレビ画面を半強制的に見せられてげんなりしているセアノサスを優しく諭しながらアルカンカスは言う。
画面にはアニメのオープニング曲が流れ、冒頭の第一話が始まった。
「ほんものと比べるとちがうね」
「微妙に寄せてあるのが小賢しくてムカつくんですが……」
「これ大丈夫なの?私達かなりギリギリを行ってない?」
ヒロイン達の露骨に本家に寄せてはいないものの、若干面影があるデザインにアリーシアは辟易しながらテレビを鑑賞し、セアノサスは死んだ目をしながら惰性で見ていた。
主人公は凄惨たる失恋を経験しながらも、前へ進む決意をし、友人キャラや腐れ縁であるヒロインに囃し立てられていた。
「なんかふつーに見てられるね」
「まぁ何と言いますか、作画も悪くないし、演技も上手いし、テンポも良くて見やすいアニメだとは思いますね」
「最近のマンガは凄いな。こんなにも動いて喋るのか」
「発言が戦後のジジイみたいよアルカンカス」
アニメ本編の序盤を見ているのは良いが、アリーシアは一つ不可解な点があった。
1話が始まってから、主人公の顔が一回も出ていない。
しかも何故か、主人公の声が高校生にしては低くて渋いのは何故だろうか。
そして声の使い方がなんというか、声優ではなく俳優寄りなような気がする……そう思っていたその時だった。
遂に主人公の顔が映り始め、アリーシアは目を凝らす。
この違和感は何なのかと、早く払拭をしたいと思い、テレビ画面と音声にまた耳を傾ける。
「ちなみに主人公の苗字ってなんなの?」
「ああ、セアノサス氏も気になるでござるか。彼の正式名称は……」
『もう去年のような失敗はしないぞ!僕は新しく彼女を作って、今度こそ充実した学生生活を送るんだ!プロとして───』
「岡⚫︎准一でござる」
「いやフ⚫︎ブルじゃねーか!!!!」
アリーシアが椅子から転げ落ちて横転しながら叫んだ。
「いきなりなんでござるかアリーシア氏〜」
「これだったら単純に主人公の名前モロパクリした方がマシじゃねーか!なに大物アイドル兼俳優の名前引っ張って来てんだよ!?訴えられますよ私達!?」
「今の岡⚫︎准一ってアイドルとか俳優より武人の域に近いわよね」
「あぁ。特に最近Ne⚫︎flixで配信されたイク⚫︎ガミ、あれは素晴らしい。早く続きが見たいな」
「おいやめろやめろやめろ!それ以上実在するコンテンツの名前出さないでくださいよ!?本当に危ないですから!!」
「ア⚫︎ガミとイク⚫︎ガミ……なんか少し似てるね」
「タマリ!!!もうお口閉じてて!!!!」
アリーシアが顔を真っ赤にして他の4人にツッコミを入れて息切れしていたその時、来訪者が来たことを告げるドアのベルが鳴った。
「スウィートディーラーの面々は全員揃っているか」
店内にやってきたのは、黒衣を纏った忍者やアサシンのような格好をした男だった。
その姿にサビターは一瞬目を丸くしながらも、「おお!」と声を上げて彼に駆け寄った。
「ドルソイ!ドルソイじゃあないか!一体何用で来たでござるか?」
現れたのはニーニルハインツギルド幹部、『陰』のドルソイだった。
「スウィートディーラー……君達に頼み事がある」




