第126話 ゲームするとバカになると昔の人は言うけれど、あながち間違いでもないのかもしれない②
その前に電子説明書を開きながら男にどんなストーリーか、どんな世界観か、そしてヒロインがいるか聞き始めた。
舞台は過去とは違う異世界の日本という国。
高校2年生の主人公は彼女にデートの約束をすっぽかされ、そのまま彼女から別れを切り出され、破局してしまう。
心の傷を負った主人公は進学を機に新しい恋を見つけることを誓う。
ヒロインは6人の少女から構成される。
自由奔放な天才肌の先輩の祇園莉央。
ヤンチャ系の異性の友達の佐原朝美。
書道部のほんわかで少しふくよかな幼馴染の都野和沙。
一見お淑やかだが腹黒い一面も持つ同じクラスの委員長の敷島真琴。
陸上部のクーデレ後輩の柘植玲衣。
お金持ちのシャイな後輩お嬢様四条櫻子。
この6人が基本的な攻略対象であり、サビターはどの女の子にしようか悩んで唸る。
「アンタがビビッと来た女の子がいたら、心に従って彼女を攻略するといい」
「…じゃあ、このイインチョーとやらにしてみるか。なんとなく気に入った」
そう言ってサビターはゲームを始める。
物語が展開され、序盤はそれぞれのキャラクター達の自己紹介があった。
その中で、サビターの攻略対象である委員長、敷島真琴が登場する。
彼女は清楚を強調するだけあって黒髪ロングストレート、スカートは高速通りの膝までかかる長さ、そして生真面目さを想起させる丸メガネをかけていた。
「サビター君、おはよう!」
「うおっ!?す、すげぇ。マジで目の前にいるみてぇだ……」
「もう何言ってるの?今日は委員会の仕事があるんだから、今度こそは逃げないでよね」
「は?委員会?」
サビターは最初こそ話の筋が理解できず、困惑していたが、メガネのレンズの先から光が差し込み、その光が徐々に脳へと世界観や情報を伝達し、ストーリーを理解するようになる。
主人公は一念発起し、敷島真琴以外誰もやろうとしなかったクラス委員へと立候補し、そのまま役割を任せられて敷島と共にクラス委員の仕事をする事になる。しかし……
「あっこら!サビター君!また委員会の仕事サボって!今度こそ逃がさないわよ!」
「ふざけんな!委員の仕事こんなにめんどくさいと思わなかったわ!ゲームの割にやる事リアルすぎるんだよ!やめてやるこんもの!」
サビターは主人公になりきりながら敷島に吐き捨てるように言葉をぶつける。
辞めると言ったが何故かサビターはゲームを辞めず、校舎内を逃げ回っているだけだったが、彼はそれに気づかない。
最初は委員に立候補した事に後悔し委員会の仕事を何度も抜けてサボっていたが、3度目のサボりをしたその後彼女に捕まり、覆い被さるように馬乗りになった。
「捕まえた……」
「うっ…!?」
敷島はサビターの学生服のネクタイを掴んで首を絞めた。
現実では首など絞められていないのに、ゲームの中では喉が絞まり、酸素が循環できないような感覚に陥る。
「良い加減にしなさいよ、サビター君。これ以上は私の手を煩わさないで」
清楚でおとなしいと思い込んでいたサビターは彼女の変貌ぶりに恐怖感を感じつつも、どこか心臓がドキドキしてしまい、その感覚に理解が追いつかない。
未知の感覚を追求すべく、彼はゲームの続きを──
「はい10分経過したよ」
メガネの男がサビターのメガネを外し、ゲームを強制終了させた。
「お前何すんだせっかく良いところなのに……」
「いや、もう10分経ったよ。なんなら15分はもう経った」
「え?は?え!?も、もう15分!?」
「あぁ。すこいよなこのゲームデバイス。どうかな。つまらなかったならもう無理強いはしないが」
男はメガネ型のゲームデバイスをゆらゆらとサビターの目の前で振りながら誘惑するように見せつける。
「……」
サビターは数秒間悩んだ。
俺は男だ、こんなオタクがやるようなゲームに夢中になる程俺はシャバくねぇ。
だがあの胸がときめく感覚はなんだ?
俺には現実に女がいるのに、どうしてここまで敷島真琴のことを考えてしまう?
続きをすればこの気持ちの答えが得られるのか?
サビターは逡巡しつつ、最終的には己が欲望に従い、男からメガネを奪い返した。
「後少しだけだ。興が乗ったからな」
サビターはそう言って再度メガネをかけ直した。
彼がデバイスを装着し、再びゲームに没頭するともう周りの声は聞こえなかった。
「そして同志がまた一人……」
男はうすら笑みを浮かべながらサビターから距離を取り、彼もまたデバイスを起動してゲームに戻った。
その後サビターは敷島真琴ルートのバッドエンド、ノーマルエンド、グッドエンド、トゥルーエンドをクリアした。
同様に他のヒロイン達のルートも全て攻略、さらにその後アニメも配信されていることを知り、全話視聴完了、そして彼は、オタクになった───




