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第125話 ゲームするとバカになると昔の人は言うけれど、あながち間違いでもないのかもしれない


 オタク。特定の分野や趣味に対し、深い知識や強いこだわりを持ち、時間や費用を集中して費やす愛好者を指す言葉である。


 主にアニメや漫画などのサブカルチャーを好む物達の事を総じて意味する事が多い。


 昔はアニメや漫画を愛する人間が迫害されていたり差別や嘲笑の対象になっていたが、時代の経過と共にその文化が受け入れられ、昔よりは世間に受け入れられている。


 さて、何故そんなうんちくを垂れ流しているのかというと、そんなオタクと呼ばれる人種を毛嫌いし、バカにしているチンピラがオタクへと変貌していたのだ。


 それも酷い方向に。


「拙者やっと豚箱から帰ってこれたでござるよ〜いや〜全く、2週間も閉じ込められるとは思わなんだ!」


 最強と謳われたジョニー・ニーニルハインツのギルドのNo.2(本人は同率1位と宣っているが)の幹部であり、不死身のサビターと呼ばれた男が、こんな腑抜けたヌケ作オタクと化している事実に、4人は絶句していた。


アリーシアは顔をヒクつかせ、タマリはIQ3になったかのような呆けた面になり、アルカンカスは冷や汗をかきながら信じられないようなものを見るかのような目だ。


 そして何より、彼の恋人であるセアノサスは──


「う……」

「う?なんでござるかセアノサス殿。AKAマイスウィーテストラバー」

「嘘だァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」


 かつてのオラついた姿から明らかに乖離した姿にショックを受けて悲鳴を上げ気絶した。

 あの特徴的な金髪が、今は黒の天然パーマと化していたのもあるのだろう。


「あ、貴方本当にあのサビターさんですか……?」

「何故何度も同じことを聞くのですか。某はサビター以外の何者でもござらぬぞ」

「いちにんしょーとーいつしろよオタクサビター」

「サビター……お前一体……お前の身に何が起こったのだ?」


 アルカンカスの問いに「よくぞ聞いてくれましたな!」とオタク口調で彼に人差し指をさして言った。


「あれは余が此度のテレビ取材の件で豚箱に投獄されてから2日目のことでした……」

「ねぇ、なんで一人称とーいつしないの?二重人格なの?」


 サビターは上を向きながら物思いに耽り、事の顛末を語り始めた。





 2週間前。サビターはやってもいない事で散々尋問され、牢屋の中でくたびれていた時のこと。


「ふざけんなァァァァァァァァァァ!!」


 サビターは壁を殴って怒りに燃えていた。

 全てはテレビの捏造、違法ポーションの密造などもうやっていない(一応新しいプランを模索中)のにも関わらず、留置所の中では半日も事情聴取をされていた。


 「やっていない」「俺は無実」「これはテレビ局の捏造だ」と何度も訴えても尋問官は聞く耳を持たなかった。

 何故ならサビターは何年、何十年もの間軽犯罪で留置所にぶち込まれ、その度に同じ尋問官が対応し、ジョニーの指示で釈放してもらっていたからだ。


 しかし、今回ばかりはジョニーの後ろ盾はなく、孤立無援の状態だった。


「つか…なんでアイツら見舞いに来ないんだよ……皆の人気者のサビターくんがこんなにも苦しんでるんだぞ……」


 そして彼がここまでくたびれているのにはワケがもう一つある。

 それは彼等の仲間であるセアノサス、アリーシア、タマリ、アルカンカスの4人が一度も来てくれていないからだ。


 何故だ、人望はあるはずなのに。俺を見捨てたのか。

 もしや店が忙しい過ぎて余裕がないのか、などと理由をあれこれ考えては霧散し、結局どうにもならず彼のストレスは頂点を迎えようとしていた。


「なぁ、アンタ」


 そんな時、同じ留置所の部屋でサビターに声をかける者がいた。


「あぁ?なんだよ?」

「アンタも迎えにきてくれる人が居なくて、寂しくて悲しいんだろ」

「あぁ!?そんなワケねーだろが。俺をお前みたいなヒョロイオタクと一緒にするんじゃねぇよ」

「はは、こりゃ手厳しい意見だ」


 ヒョロイオタクと呼ばれた男は自重気味に笑いながら言った。

 確かに彼の見た目は前髪が目までかかり、ロクに髪の手入れもしておらず、身長は170はあるものの肉がついておらず、体重は軽そうな見た目だった。


「面会に来てくれる人は居ないのかい?」

「いるさ。だが奴等俺の事塵芥程も気にしちゃいねぇ。帰ったらシメてやる。絶対にな」

「でもいつ帰れるか分からない。だろ?」

「まぁな」


 サビターが鼻を鳴らしながら返事をすると、男は「ならさ」と言ってあるメガネを渡してきた。


「これで君の心の隙間を埋めると良い。きっと役に立つはずだ」

「なんだよ、ただのメガネじゃねぇか。これでなにしろってんだ?」

「このメガネはただのメガネじゃない。内部にゲームソフトが入ってて、かけるだけでゲームをすることができる」

「マッドギア製か。初めて見るな」


 サビターは興味津々にそのメガネを受け取り、早速かけ始めた。

 ブゥゥン…と静かに音が鳴り、起動音が聞こえる。

 サビターの目をスキャンするかのように小さな光線が彼眼球を優しく照らす。

 そして次の瞬間、サビターの目にはゲーム画面が表示された。視界180度が白い光で照らされている。

 やがてゲームのロードが完了し、目の前にタイトルが表示されるとともに女性の優しく元気な声でタイトルコールがなった。


『マジガミ!』


 タイトルコールが始まった瞬間、彼の目の前にはゲームのヒロイン達が現れた。


「おいヒョロガリ。このゲームのジャンルはなんだ?」

「ギャルゲーだよ」

「は?」

「ギャルゲーだよ」

「お前俺を舐めてんのか?」


 サビターは眉間に皺を寄せて男に突っかかった。


「こんなキモオタがやるようなゲームで俺のストレス発散になると思ってんの?流石の温厚なサビターさんもこれには手が出ちゃうよ?」

「ならばこそよ。アンタ、この手のゲームはやったことがないだろう?そんな人程一度プレイすればあとはもう底なし沼だ」

「俺には現実世界で愛している女がいるんだ。あと身体だけの関係の黒髪ロング巨乳女もな。だから俺にはこんなもんいらねーよ」


 そう言ってサビターはメガネを外そうとしたが、その手を男はそっと添えるようにして止める。


「分かった。でも少しだけプレイしてみて欲しい。20分、いや10分でもいい。それで面白くないと感じたなら返していただいて結構」

「……まぁどうせ時間は腐るほどある。少しだけな」


 そう言ってサビターは渋々ゲームを続けた。


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