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【web版】美少女にTS転生したから大女優を目指す!【書籍化】  作者: 武藤かんぬき


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107――北へ

いつもブックマークと評価、誤字報告ありがとうございます。

 大阪から帰ってきた翌日、さっそく透歌の家に電話をしてみた。午後からは塾の冬季講習に参加しなければいけないらしいのだけど、それまでは予定が空いているということだったので彼女の塾の近くで会うことになった。


 しばらくぶりに見る透歌は少し背が伸びて、大人っぽくなったような気がする。なおとふみかもそうだったけれど、女の子は本当にほんの少し会わなかっただけですごくキレイになるので素直に感心する。


 電話では会う約束だけで旅行の話はしていなかったので、昨日まで大阪に行っていたことを話した。なおとふみかの話をすると、透歌も『また会いたいわね』と少し懐かしそうな表情を浮かべていたけど、ふたりが東京に遊びに来たのってそこまで前でもないような気がするよ。


 駅で買ったおみやげのキーホルダーを受け取ると、嬉しそうにお礼を言って今日持ってきたカバンに付けてくれていた。喜んでもらえると買ってきてよかったと思えるので、私としてもすごく嬉しい。


 そこからお互いの学校の話とかをしたのだけど、透歌の学校はお金持ちの子供たちが通う学校なうえに偏差値も結構高いところだから勉強が結構大変らしい。中等部なので部活動には強制的に入らないといけないそうで、なるべく活動が少なくて楽な茶道部に入部したんだとか。

 部活よりも勉強を頑張りたい、授業についていけないから勉強を頑張らなければいけない。透歌は当てはまらないけれどそういう生徒たちが毎年それなりにいるらしく、それぞれの学年に5人の部員がいて15人で週に1度集まって茶席を設けているようだ。


 イメージだとお菓子を持ち寄って楽しくおしゃべりでもしているのかなと思っていたら、顧問の先生が『せめてちゃんとお茶を点てられるようになりなさい』とお尻を叩いているみたいで、ちゃんと持ち回りで席主になり作法に則ってお茶会してるんだって。

 うちの学校も由緒正しい感じのお嬢様が多いけれど、透歌たちの学校は両親がお役人だったり会社の経営者だったりという実務的な家庭の子の方が多数派みたいなので、こういう作法をおぼえる機会は大事だと思うよ。先生も熱血指導というわけではなく、部活として活動しているからにはそういう場にふさわしい礼儀を身につけられるようにという親心でやってくれているみたいだし。


「すみれの方は大丈夫なの? 特待生って、成績を落としちゃうと資格を剥奪されるんでしょう?」


 私が学生と役者を兼業していることをよく理解している透歌が、心配そうな表情で問いかけてきた。こうやって心配してくれる友達がいるって、本当にありがたいことなんだよね。こうして生まれ変わる前はもう友達なんて誰ひとり周囲に誰もいなかったから、なおさらありがたみが身にしみる。


「おかげさまで、今年はずっと成績トップを守らせてもらいました」


「他の誰かからそのセリフを聞いたら腹が立つんでしょうけど、すみれなら当然できちゃうんだろうなって納得しちゃうから不思議よね」


 苦笑しながらそう言う透歌に、私はちょっとだけ自慢げに胸を張った。転生して元大人としての土台があったとしても、前世ではわからなかった問題も解けるように努力しているので、これは自分の頑張りの結果だとちょっとだけ自惚れてもいいだろう……いいよね?


 とりあえず卒業までは、上位特待生への授業料や制服代などを含む諸々の無料特典を他の子に譲るつもりはない。お金をちゃんと貯めておかないと大学に進学できないからね。中学と高校に通う間に学費として掛かるはずだった費用を、貯蓄に回せるのは正直ありがたいのだから頑張らないと。


 透歌の塾の時間までお茶を飲みながらおしゃべりして、『また遊ぼうね』と約束をして別れた。透歌もご両親から成績を上げるように言われているみたいで、そのプレッシャーが逆に勉強の足を引っ張っているように見える。

 プライドが高い透歌だから、なかなか改めて勉強を教えてほしいと言ってくることはないかもしれないけれど。もしそんな機会があれば、しっかりとお手伝いしてあげたいと思っている。今は『頑張れ!』と心の中で応援の言葉を何度も繰り返しながら、透歌の背中が遠ざかっていくのを見えなくなるまで見送った。




 寮に帰ると『おかえりなさい』と糸子さんが玄関まで出迎えに来てくれた。『ただいまです』と返事をして、いっしょにリビングへと向かう。彼女が来てくれる前は私もそれなりに気をつけて掃除などをしていたのだけれど、やっぱりホコリや汚れが目立つことが多かった。

 糸子さんが寮母さんになってからは精力的に生活環境を良くしてくれているので、どこを見てもキレイに掃除されていて気持ちがいいよね。そんなことを考えていると、自然と口から『ありがとうございます』とポロリと呟きがこぼれてしまった。突然脈絡なくお礼を言われた糸子さんはほんの少しだけきょとんとした後、クスクスと笑い出す。


「突然どうしたの、すみれちゃん。どちらかというと、感謝しなきゃいけないのは私の方だと思うわよ?」


「糸子さんが、わたしに?」


「やることがたくさんあって大変なのに、時間が空くと家事を手伝ってくれたり、私のことを気遣ってくれたりするでしょう? この寮で過ごしはじめた頃も、いろいろと教えてくれて本当に助かったもの」


 そんな風にお礼の理由を告げられて、私としては首を傾げるしかなかった。だってトヨさん以外だとこの寮の現状に詳しかったのは私だったわけだし。ちゃんと引き継げるところは伝えておかないと、後々お互いに手間が増えるのだから当然すべき行動だったと思う。

 それを伝えると、糸子さんが苦笑しながら『すみれちゃんってば、本当に中学生?』と年齢を誤魔化しているのではと冗談交じりにからかってきた。その鋭さに内心焦りながらも、表情には出さず平静を装って『中学生ですよー』と軽い感じに返しておいた。


 はるかも最近はポツリポツリとCMやドラマへの出演が増えてきて、別行動なことがたまにある。あと数日でテレビ業界も特定のジャンル以外は、撮り貯めた番組を放映する年末年始シフトへと進む。その直前の追い込みで、今日はドラマの撮影に行っているそうだ。確かヒロインのクラスメイト役だったかな、台本を見せてもらったけどセリフももらえて、出演時間は短いながらも印象に残りやすい役だったはずだ。


 本来なら私もこれくらい緩やかな感じで業界内で知られていって、仕事が少しずつ舞い込むはずだったんだよね。本当にあの頃の代役需要は、私にとってタイミングが良すぎた気がする。おかげでお金も貯められたし、業界内での知名度も活動歴と比べて段違いに増えたのだけれど。


 あの頃は洋子さんとあちこちの現場を飛び回って忙しかったなぁ、なんて感慨にふけっていたら突然糸子さんが『そう言えば』と前置きしてから話しはじめた。


「今日の夜、すみれちゃんに話したいことがあるから時間を空けておいてほしいって。あずささんからの伝言よ」


「あずささんが……? どんな話なのか、聞いてます?」


「多分、年末年始のスケジュールについてだと思うわ。すみれちゃんが関西に戻っているときに、私たちには先に話があってね」


 糸子さんがそう前置きしてから話してくれたのは、以前の改装で抜けていた部分があったので急ぎで寮の部屋を改装してもらえるように、古い付き合いの工務店さんにお願いしたらしい。ああ、春から入ってくる新しい寮生の部屋かな。

 準備万端だと思っていたら、時間経過とともに『これが足りない』って気づくことってままあるよね。多分今回もそんな感じなのだろう。


「工事の立ち会いは寮母の私と寮長の愛さんがするので、泥棒が入ったりとかの心配はしなくていいけど、騒音が結構ありそうなのよ」


 ああ、なるほど。どの程度の改装なのかはわからないけれど、工事をするのだから音がどうしても出るよね。まぁ私個人は図書館とかに避難していてもいいし、時間をひとりで無為に過ごすのは全然苦じゃない。さすがに1ヵ月ぐらい毎日朝から夕方まで寮の外に出ていてほしいと言われると困るけど、数日なら大丈夫だろう。


 でもその程度の連絡事項なら今みたいに糸子さんから伝言を聞けば伝わるのだから、それ以外の話もあるのかな? その疑問の答えは、その夜にあずささん本人から明かされた。


「すみれ、関西から戻ってきてすぐで本当に申し訳ないのだけれど。私と一緒に来てくれないかしら」


 突然そんなお願いをされて、思わず目を白黒とさせてしまう。尊敬する師匠に頭を下げられるのって、本気で居心地が悪い。慌てて頭を上げてもらって、詳しい話を聞かせてもらうことにした。


 今回あずささんに同行をお願いされているのは、東京より北にある3都市。春からこの寮に加わる新しい内弟子さんたちが住む土地らしいのだけれど、そこにふたりで訪問することになっているらしい。

 年末年始のこの忙しい時期に、出迎える側に負担はないのだろうか。そんな私の疑問が顔に出ていたのか、あずささんが苦笑する。


「もちろん、時期的にあちらの負担になるのは理解しているわよ。というか、私とすみれに会いたいと言ってきているのは親御さんたちの方なのよ」


 あずささんの言葉に、小首を傾げる。あずささんに会いたいのは理解できる。春からお世話になるわけだし、もう一度念押しで我が子のことを『何卒よろしく』とお願いしたいとかそういう動機なのだろう。でも何故そこに私が含まれるのかが、すごく不思議。


「話が決まったときは納得していても、やはり子どもと離れ離れになる時期が近づいてきたら不安になるのでしょうね。実際に寮に住んで芸能活動をしている先輩に、暮らしぶりなどを聞いてみたいそうよ」


 まぁ自分のときを思い返してみても、あの母でも泣きながら私に抱きついてきたりしていたもんね。出発のときは結構あっさりとしていたけれど。

 入ってくる子たちの年齢を聞いたら全員小学生で、新学期からの学年で言うと6年生ひとりと5年生がふたり。あとは4年生がひとりということなのだし、ちゃんと生活できるのかなとか親御さんが不安になるのは当然のことだと思った。


 現在寮で住んでいる先輩、という条件ならはるかを連れて行ってもいいのだけれど、残念ながら彼女は今日が仕事納めで明日には地元に帰省する予定なのである。本人は帰りたくないと言っているのだけれど、ご家族に諭されて仕方なくという感じらしい。

 まぁ本気で嫌だったとしたら何かしら理由をつけて帰らないようにもできるのに、去年も今年もちゃんと帰省するのだからただ素直になれないだけなのかもしれないね。


 新しく来る子たちも、寮生の中に顔を知っている人間がいた方が安心するかもしれないしね。スケジュール的には空いているし、あずささんの力になれるのだから行かないという選択肢は私の中にはない。


 あずささんに快諾を告げて、さっそく明日の朝から出発して北に向かうことになった。夕食の時間にそれをはるかに伝えたら『帰省をやめて一緒に行く』と言いはじめて、なだめるのが大変だった。家族仲もよくて何の問題もなく帰省できるんだから、親孝行で顔を見せてあげなさいな。そんな風に説得すると、しぶしぶ納得してくれた。


 素直なはるかとは対象的に、いい大人なのに最後までゴネたのは愛さん。寮長として工事に立ち会うという役目があるにも関わらず、『美味しいものを食べたい、温泉でゆっくりしたい、うまいタダ酒を飲みたい』と私利私欲を隠そうともせず駄々をこねたのである。


 まぁ確かに北陸・東北・北海道と美味しいものがたくさんあるものね、お酒大好きな愛さんにとっては絶対に行きたいのだろう。でもあずささんと糸子さんの前では、愛さんも最終的には膝を折るしかなかった。


 翌日の朝、外玄関の前に停まったタクシーに乗り込む私たちの背中に、愛さんの『ウニ! イクラ!! カニー!!!』という魂の叫びが聞こえたのは気の所為だと思いたい。恥ずかしいし、すごくご近所迷惑だよ。帰ってきたらご近所さんに謝っておこう、新しく来る子たちが変な目で見られたらかわいそうだしね。


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― 新着の感想 ―
更新、楽しみにしてました ありがとうございます 淡々とした描写が少し残念に思えました 透歌ちゃんは勉強で忙しく大人っぽくなったし、他の二人は落ち着いた大人だからですかね 新しい寮生との出会いを楽しみに…
>確かに北陸・東北・北海道と美味しいものがたくさんあるもの 次回の描写が楽しみ(^^) でも、大雪だとJR在来線も止まるので、何事も無ければ…
新しい子たちはどんな子なのでしょうね。すみれと仲良くなれるのが楽しみ。 あずささんとの旅行は初めてでは?いつも忙しいすみれへの気遣いも兼ねているのですかね。
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