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【web版】美少女にTS転生したから大女優を目指す!【書籍化】  作者: 武藤かんぬき


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106――すみれの小旅行 後編

いつもブックマークと評価、誤字報告ありがとうございます。

またのんびり更新していきますので、よかったらお付き合いよろしくお願いいたします。


 おばさんたちは私の新幹線の時間を確認してから、買い物に行ってくると別行動を言い出した。おそらく久々に3人だけの時間を過ごせるように、気を遣ってくれたのだろう。


「午後4時に中央改札の前で待ち合わせだよ。すみれがいるから大丈夫だろうけど、少しでも遅れたら先に帰るからね」


「もう、そこはウソでも娘の名前を出してよ。私だってすーちゃんにはかなわなくても、部活で先輩たちに鍛えられて少しはしっかりしてきたのに」


 なおが心外だという表情で自分の母親に抗議する姿に、思わず残りの3人が同じタイミングで吹き出して、クスクスと笑ってしまった。でも確かになおもふみかも前に東京で会ったときよりは、精神的な成長を感じる。話し方にしても、その内容にしてもね。

 親友の成長は嬉しいけれど、なんだか自分から離れていくようで少し寂しい。自分勝手だよね、いつまでも子供のままでいてほしいなんてまるでふたりを自分の所有物モノだと思っているようで。そんな浅ましい自分に嫌悪感を覚える。


「……すーちゃん、どうかした?」


 さっきまで笑ってた私が真顔で黙りこくっていたものだから、少し心配そうにふみかが声を掛けてくれた。いけない、久々に会ったふみかたちを心配させるなんて。私は慌てて『なんでもないよ』と笑みを浮かべて答えてから、おばさんたちと手を振って別れる。人の波に乗ってのんびりと歩きながら、この後どうするのか話し合った。


 中学1年生がそれほどたくさんのお小遣いをもっているわけもないので、無難なところでおしゃべりしながらブラブラとしつつ、気になったお店をウィンドウショッピングをすることになった。梅田だからお店はたくさんあるからね、歩いて見てるだけであっという間に時間が過ぎそうだ。


 スポーツショップではなおの練習用シューズの下見したり、ふみかのコートを3人で選んだりいろいろなお店を見回る。なおのシューズは練習のしすぎなのか、指やかかとが当たる部分が破れてしまったらしい。

 それだけ頑張ってケガで競技をやめなきゃいけなくなったらすごく悲しいので、どうか無理だけはしないようにお願いしておいた。なおは『大げさだよ、すーちゃん』って笑っていたけど、人間の体って一度壊れるとなかなか元の状態には戻らないからね。例え大げさだったとしても、普段の何倍も気をつけておくに越したことはないのだ。


 ふみかのコートは学校に着ていく用のものらしく、今着ているものがサイズが合わなくなってきているので思い切って買い替えたいのだそうだ。ただおばさん的にはまだ今のものが着れると思っているみたいで、めずらしく仲良し母娘の間で意見が対立しているらしい。

 現時点で体に合わなくなっているということは、中学校を卒業するまではおそらく着続けることはできないだろう。おばさんの買い替えをできるだけ引き伸ばしたいという気持ちもわかるけど、少し大きめの新しいコートを買った方がいいと個人的には思う。


 梅田だとどうしてもブランド品を扱うお店が多いので、とてもじゃないけど子どものお小遣いでは手が出ないお値段のコートが多い。じゃあ何故わざわざこうして買いもしないのにお店を回っているのかというと、ここで気に入ったコートに似た服を地元のスーパーや服屋さんで探すんだって。ちょっとでもおしゃれをしたい女子の涙ぐましい努力だなぁと思いつつ、私も『すーちゃんはどれが似合う?』みたいなかわいい質問に答えながらいくつもお店をハシゴした。


 さすがにこれだけ歩くとお腹がすいてくるので、お昼はちょっと遅めにパスタを食べることにした。おばさんたちとの待ち合わせまであと2時間ぐらいしかないから、食事とお茶の両方ができるお店に入ったんだよね。昼食の時間帯から外れているからか店内はそこまで混んでなくて、私たちみたいに買物途中の休憩場所として来ているお客さんが多いみたいだ。


「あー、お腹すいた。私、大盛りにしよっと」


 運動部に入ってよく食べるようになったのか、なおはそんなことを言いながらミートスパゲティの大盛りを注文していた。私とふみかはカルボナーラと和風パスタにして、3人でそれぞれのパスタを少しずつ味見しながら食べた。

 パンとジュースがランチメニューでセットになっていたんだけど、私はパスタだけでお腹いっぱいになったのでパンはなおに食べてもらった。


「すーちゃん、相変わらずあんまり食べられないんだね」


「なおと同じぐらい食べるなんて、わたしには無理だよ」


「私じゃなくて、せめてふみかみたいに普通にひとり分は食べられるようになった方がいいよ。多分すーちゃんの背が伸びないのって、栄養が足りてないからなんじゃないかな?」


 耳が痛くなるようななおの正論に、私は苦笑を返すことしかできなかった。これでも食事量は、ほんのちょっとだけど増えているんだけどね。ふみかに窘められたなおが『ごめんなさい』と謝ってきたが、言ってることは間違っていないし怒ってもいないので素直に受け入れた。

 せっかくなのでふみかの背が伸びた理由を詳しく聞いてみたら、たまになおの自主トレーニングに付き合って運動したりしているらしく、本人はそれが原因じゃないかと言っていた。


「運動なら自主練でダンスを踊ったりジョギングしたりしてるんだけど、足りていないのかもね。学校も行き帰りは洋子さんが送ってくれているし、ちょっと何か考えた方がいいのかも」


 自分の生活を思い返してみると、確かに良家のお嬢様みたいに車で送り迎えしてもらっているしあまり運動できていない気がする。スキマ時間にウォーキングするとか、ちょっと考えてみようかな。


 洋子さんのことや東京でのできごとを話していたら、いつの間にか全員の食事が終わっていた。店員さんが食器を片付けにきたので、ドリンクを持ってきてもらう。

 私の話が終わると、次はなおとふみかの学校での話を聞かせてもらった。東京に転校するまで一緒に過ごしたクラスメイトたちの名前も出てきて、なんだか感慨深い。


「すーちゃん、あの……これ、読んでほしい」


 ふみかが持ってきていたカバンから大きい封筒を取り出して、そう言いながら私に差し出してきた。封筒の中を少し指で広げながら見てみると、中には結構な厚さのコピー用紙の束が入っていた。


「もしかして、これってふみかが書いた原稿?」


「……うん、部活で書いたの。もちろん今じゃなくて、東京に戻ってからゆっくり読んで欲しい」


 これだけの枚数だとコンビニでコピーするのも、中学生のお財布には結構ダメージがあるだろうに。それだけ手間とお金を掛けて私に読ませる用の原稿を用意してくれたふみかの気持ちに、ジーンと感動して胸があたたかくなる。


「ありがとう、すっごく嬉しい。寮でじっくり読んで、感想を手紙で送るからね」


「そ、そんなのいいよぉ。感想は電話のついでに、ひと言だけとかでいいんだってば」


 私の言葉に顔を赤くして、手のひらを左右に振りながら照れるふみかがかわいい。絶対に感想を送ろうと決意しつつ、そう言えばあの不良の先輩はあれから付きまとっていないのかがすごく気になった。中学に入ってからのなおとふみかはものすごく美少女度が上がっているから、変なのにつきまとわれてないか不安になる。

 なおは部活の先輩たちがそばにいることが多いだろうから少しは安心だけど、ふみかはそうじゃないし。文芸部の部員って前世の顔ぶれを思い出してみても、不良を相手に女子を守れそうな人はいなかったように思う。


 急に心配になってためらいがちに尋ねてみたら、ふみかは一瞬きょとんとした表情になってくすくすと笑い出した。


「……すーちゃん、心配しすぎ。あの人、最近は受験だから月に1回ぐらいしか顔を見てないよ」


 ああ、そうか。確か件の先輩は、3年生だったもんね。前世でみんなが大学に進学するようになったように、この時代でもほとんどの中学生が高校へと進学する。例え素行の悪い生徒だったとしても、今の時期は勉強に必死なんだろうね。


 私がそんな風に納得していると、なおがあきれたように小さくため息をついていた。不思議に思って小首を傾げていると、なおが『ふみかは気づいてないだろうけど』と前置きして説明してくれた。


 なおもふみかのクラスにいる友達から話を聞いたらしいのだけど、ひと月ほど前から3年生の男子が休み時間にときどき自分たちのクラスの中を覗き込むことが増えたらしい。


「え、私知らないよそんな話」


「あの不良先輩さ、間が悪いのか知らないけど、ふみかがいない時にばっかり来るみたい」


 ふみかがびっくりした表情でつぶやいた言葉に、なおが苦笑しながら答えた。それを聞いてなおがちょくちょくふみかのクラスに偵察に行っていたらしい。その話を聞いたときはまだあの先輩だという確証はなかったし、実際に会ったことのあるなおなら顔を見ればわかるからね。


 何度目かでタイミングよく先輩の姿を見れたらしいのだけど、染めていた髪が黒に戻っていて少しだけ真面目寄りな姿になっていたらしい。でも制服は着崩しているし、もう気温も下がってきているのにシャツのボタンを外して格好つけているあたり、やっぱり不良だなぁと思ったんだとか。


 この時代、携帯もないから用があったり会いたければ直接相手のところに行くしかないからね。手紙で呼び出すとかも方法としてはあるけれど、不良が手紙なんて書くわけないし。


「私に『あいつは?』とか聞いてきたから、ふみかは意識されてると思うよ。そもそもどうでもいい相手のクラスになんか、わざわざ来ないでしょ」


「……なおはなんて答えたの?」


「実際にふみかは教室にいないんだから、正直に『知らない』って答えたよ。そしたら『そっか』って言っていなくなった」


「ふぅん、何か用事だったのかな?」


 確かに用があるという可能性もあるけれど、何度も足を運ぶぐらい大事な用事なんて学年が違えばあんまりないよね。同じ学年で同じ委員会やクラブに所属しているなら、伝達事項をどうしても伝えなきゃいけないとかそういうこともあり得るかもしれないけれど。


 『一歩間違えればストーカーじゃないか』と内心危機感を募らせているのだけど、当の本人であるふみかにはあんまり危機感はなさそうだ。もう何度も言っているのでふみか的には耳にタコができそうだとは思うのだけど、繰り返し人気のないところでふたりきりになったりしないようにとか、身を守るための注意事項をいくつか話しておいた。


 なおがバレー部つながりで先輩たちを味方にしてくれたらしいので、最悪の場合はそちらを頼るように以前の手紙で打ち合わせはしてある。ポヤポヤとしているふみかのことを見ていてあげてほしいという願いを込めて視線を向けると、さすがに幼稚園のころからの付き合いであるなおはその意味を理解してしっかりと頷いてくれた。


 そろそろ移動しないとおばさんたちとの待ち合わせに遅れるかもしれない時間になっていたので、会計を済ませてお店を出た。雑談をしながら地下街を歩いていると右側にカメラ屋さんがあったので、ふと思いついてふたりと一緒に中に入る。


「すーちゃん、カメラ買うの?」


「せっかくだから、部屋に現在いまのなおとふみかの写真を飾りたいと思ってね。ほら、こういう使い捨てカメラでおばさんたちのどっちかに撮ってもらおうかなと」


 正直なところ仕事での撮影以外だと、洋子さんがたまに不意打ちでオフショットを撮ってくる以外にはプライベートでほとんど写真なんて撮らない。最近だと入学式の時とクラスの集合写真ぐらいじゃないかな。


 でも別に写真が嫌いなわけではないし、単純に機会がないだけだったりする。この時代だとほとんどがフィルムカメラでコアな人気でポラロイドカメラが使われているみたいな感じだし、写真にするには費用が結構かさむのも理由かもしれない。こういうときはちょっとスマホとかデジカメが懐かしく思える。


 フィルム枚数が少ない方の使い捨てカメラを買って、人の流れにのりながら大阪駅の改札口まで歩く。すでにおばさんたちは改札近くの邪魔にならないところに立っていて、すぐに見つけることができた。


 デパート地下の食料品売り場でいろいろと買ってきたのか、紙袋を両手にいくつも持っている姿に熟練の主婦っぽい雰囲気を感じた。待たせてしまったことをお詫びしつつ駆け寄ると、自分たちが早く来ただけだからとなおのお母さんがケラケラと笑った。


 早速さきほど買った使い捨てカメラの包装を破いて、おばさんたちに私たち3人の写真を撮ってもらえるようにお願いした。ふみかのおばさんが気軽に『いいわよ』とカメラを受け取ろうとしたんだけど、残念ながらふみかからの『お母さんはカメラ下手だからダメだよ』とダメ出しをされてしょんぼりしていた。


 そう言えばおばさんって何故かブレた写真を量産する人だったよね、フィルム一本分の写真が全部ブレていたなんて話を昔ふみかから聞いたことを思い出した。代わりにカメラを受け取ったなおのお母さんが、ジーコジーコとダイヤルを回しながら苦笑している。


 駅の中だから照明もそれなりに明るいし、フラッシュはひとまず焚かなくても暗くはならなさそうだ。人通りが激しいので邪魔にならないように隅に移動して、3人並んだ写真を撮ってもらった。暗い写りだったときのことを考えて、念のためにフラッシュを使った写真も1枚撮影してもらう。


 おばさんたちに『新大阪まで見送りに行こうか』と言われたのだけど、みんなに二度手間を掛けさせるのはすごく心苦しいのでやんわりと断った。事務所や寮へのおみやげも買わないといけないしね。特に事務所のみなさんにはホテルをはじめ、今回の旅行ではすごくお世話になったからお礼にちゃんと買って帰らないと。


 車窓の外で手を振ってくれた4人に手を振り返しながら、昨日と同じようにひと駅だけ電車に揺られて新大阪に到着する。お土産はやっぱり食べ物がいいよねと考えて、大阪のおみやげというわけじゃないけど周辺都市の銘菓を買った。小分けになっているから、事務所の人たち全員にひとつは行き渡るだろうしちょうどいい。


 かわいいマスコットキャラのキーホルダーがあったので、はるかと透歌へのおみやげに買っておいた。透歌ともしばらく会えていないので、おみやげを渡すのを口実にお茶を飲むのもいいかもしれない。

 使い捨てカメラのフィルムもまだまだ残っているし、透歌たちの写真も撮ってふみかの原稿への感想を送る際に同封しようかな。


 そんなことを考えながら、乗る予定だった新幹線に乗り込んで指定席に座り込む。いろいろあった今年だけど、最後になおとふみかに会ってリフレッシュできてよかったなぁ。心機一転して来年も頑張ろうと心に決めながら、今回の突発的な小旅行は幕を閉じたのだった。


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― 新着の感想 ―
ああ、最新話に追いついてしまった。良い作品です。これから先も楽しみにしております
写ルンですは懐かしい どこの売店にも置いてあったなぁ
更新ありがとうございます。 なおとふみかはすみれにとって平穏の象徴だから、このまま穏やかで幸せにいてほしいですよね。 そして休息した分、すみれは活躍を期待してます!
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