転生少女、懐かれる。
レオン様親衛隊の群れを何とか突破して校舎に辿り着いても災難は続く。
教室の扉を開いた瞬間、赤い塊が突進してくるのを見逃さなかった私は咄嗟に身を翻してそれをかわした。
「あれ。またかわされちゃった」
悪びれる様子もなくへらへらと笑うのは先程、私に向かって飛来した赤い塊……ではなく、赤髪の男子生徒だ。
リアム・アーデリック
公爵家長男。
好感度…10
ヤンデレ度…0
ご覧の通り、彼も攻略対象の一人。が、何故か私に懐いている様子。彼に対して何もした覚えがないし、むしろ積極的に避けていたんだけど。なんでだ。
表示された画面を見て頭を抱えたくなる。
また好感度が上がってる。本当になんでだ。
「リアム様。毎朝突進するのはやめてくださいって言いましたよね」
「えぇ〜、そうだっけ?」
「リアム様っ!」
惚ける彼に対して頼むから本当に関わらないでくれと強く願う。ただでさえ攻略対象ということであまり近寄りたくないのに、学園内でも五本指に入る美形のリアム様に毎日飛び付かれるなんて学園全体の女子生徒を敵に回しているようなもの。
そのうち背後から刺し殺されるんじゃないかとヒヤヒヤしながら毎日登下校している。
「相変わらず、仲が良いわね」
毎朝の事で慣れているのかリーナは特に気にした様子もなく呆れたように笑った。……その後ろの女子生徒達の視線は針の如く鋭いけど。
「そりゃ、俺達親友だからね」
「違いますけど」
いつから私はお前の親友なったんだ。ステータスを見る度に好感度が上がってるのが本当に謎で仕方ない。
視界の端でつれないな〜。と不満げに頬を膨らませる彼に一つ大きく溜息を吐いた。
一応、彼について説明をしておこう。
彼、リアム・アーデリックはこの世界で名を聞かなぬ者はいない程有名な公爵家の一人息子。が、彼は今訳あってその身分を隠してこの学園に入学している。その為アーデリックというのも偽名で本当の名をリアム・ヘッツ・クレイジェルという。
さっきの様子で分かる通り性格はかなりフレンドリーでお調子者。なので、学園でも男女問わず友達も多く人気が高い。まぁ、女子の大半は容姿目当てだけど。
そんな感じだから入学式終了後、彼と席が近かった私とリーナはすぐに彼に捕まった。私は彼が攻略対象であるのを知っていたので何を話しかけられても「あー」とか「そうですね」とか適当に流していたのに、何故か気に入られて、その翌朝には今朝同様飛び付かれるというまさかの展開になってしまった。
私としてはかなり素っ気ない態度を取ったつもりだったんだけど、もしかして彼にはマゾヒズム的な性癖があったりするんだろうか。
「リアム様は痛かったり苦しいのはお好きですか?」
「えっ、何?どういう事?」
「……いいえ、失言でした。すいません、忘れてください」
私としたことがつい思った事を素直に口にしてしまった。なんのこっちゃと首を傾げている彼に謝罪して話を無かった事にする。
「うーん、俺は痛いのは嫌いかな。苦しいのも嫌」
「忘れてって言ったのに答えるんですね」
でも。と続けるリアム様の纏う空気が明るく弾んだものからすぅと冷たく変化する。彼の紅の瞳がほんの一瞬だけ妖しく光ったような気がして、思わず唾を飲む。
「好きな子の苦しむ姿は見たいかも」
「……そうですか」
訂正。とんでもないサディストじゃねぇか。
あぁ、そういえばこの人のルートは恋愛エンドよりもヤンデレエンドの方が人気だってお姉ちゃんが言ってたっけ。
このゲームは好感度の他にヤンデレ度というものも存在する。このヤンデレ度は主人公の選択肢によって上下する他、好感度が高い状態で他の攻略者と話をしたりイベントを起こすと溜まっていくシステムらしい。
ヤンデレ度が溜まっていく度、強制的にヤンデレイベントが発生。
最終的に好感度よりもヤンデレ度が高い状態で攻略した場合は恋愛エンドではなくヤンデレエンドを迎える事になるのだ。
攻略者によって内容は異なるけど、どの攻略者もヤンデレイベントやエンドはかなり刺激的な大人向けな内容になっているので一部の女性には絶大な人気があるとお姉ちゃんは鼻息を荒くして語っていた。
ちなみにお姉ちゃんもヤンデレルート推しらしい。どうでもいいわ。
んで、そのヤンデレルートで一番過激なキャラクターとして挙げられるのがリアム。
普段こんなにお調子者なのに、果たして。と思ったけど思いっきりヤンデレの片鱗が見えました。はい。
「リディ。そろそろ席に戻った方がいいんじゃないかしら」
リーナに声を掛けられてハッとする。そろそろ先生がやってくる時間だ。
「そうね。ではリアム様。また」
「うん。また休み時間ね」
って休み時間にも来る気かい!
聞き捨てならない台詞を残して座席に戻っていくリアム様の背中に声に出さずにツッコミを入れた。




