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転生少女、前世を思い出す。

齢十二の頃、私は唐突に前世の記憶を取り戻した。



それは城下町に買い物に出掛けた時、市場の裏通りですれ違った見目麗しい少年につい目を奪われた時。



――ピコン



突如目の前に現れたゲームのウィンド画面のようなものに思考が一時停止した。

うん?そもそもゲームって何?

私そんなもの知らないのに、何故咄嗟にゲームなんて言葉が出て来たのかしら。



と、考え込んだ次の瞬間には私の前世の記憶が走馬灯のように脳中を駆け巡った。やがて、全てを思い出した私はその場にしゃがみ込んだまま頭を抱えた。



なんてことでしょう。どうやら、私。乙女ゲームのモブに転生してしまったようです。





前世、私は都内の大学に通うごく普通の大学ニ年生。名前は華原日和。両親と、一つ歳上に姉がいる四人家族の次女。大して裕福な家では無かったけれど、なんの不自由もなく家族仲も良好な割と幸せな家庭だったと思う。



私は特に姉と良く気が合い、お互い二次元オタクだった為、推しの話で熱い討論を繰り広げ、各地で開催されるアニメやゲームのイベントなんかにも二人揃って出向く戦友的存在でもあった。



そんな姉がある日、私の部屋に来てある乙女ゲームを勧めて来たのだ。

それがこの世界『恋した貴方は吸血鬼〜貴方に愛の鮮血を〜』だ。



いや、流石に引いたよ?題名無駄に長いし。そもそもゲームは好きだったけど乙女ゲームに手を伸ばした事なんて片手で数えられるほどしか無い。



だってどのゲームをやっても選択肢さえ間違えなければ結局主人公とヒーローが結ばれてお終い。

プレイヤーはただ十字キーを押すだけで簡単にクリア出来てしまう。

最初の方はそれでも楽しかったんだけど、結局、途中で飽きてしまう事がほとんどで最近は全く乙女ゲームをやろうと思わなくていった。



だから最初はそれを断った。他にやるゲームがあるからと。

だけど姉は全く引き下がらなくて、ゴリゴリにセールストークを飛ばしてくる。



「いい日和?これはね、ただの乙女ゲームじゃあないのよ。このゲームは専用の装置を使う事で……って実物見せた方が早いわね」


そう言って一度私の部屋から出た姉は少ししてから、何か大きい箱のようなものを引きずって戻ってきた。


「何それデカっ!? えっ、棺桶!? てか、それどうやって使うの!?」



ツッコミどころ満載すぎる謎の箱に、思わず気になった事を片っ端から口に出してしまった。そんな私の様子を見て姉は満足そうに笑った。



「ふっふっふっ。食い付いたわね。そう、これは棺桶型のゲーム機なのよ。あ、中は空だから見た目程重くないわよ」


「はぁ」


「それでね!このゲームは専用の機械に入る事で実際にヒロインとしてゲームの中を自由に動く事ができるのよ」


「ほぉ。続けて」


「それだけじゃなくて実際に物を触った感覚とか食べ物の味とか怪我の痛みとかそういう感覚的なものも味わえちゃう優れものなのよ!」



開発者でもなんでもないのになぜかドヤ顔で語る姉。でも確かにその言葉は根っからのゲームオタクである私にはかなり魅力的に聞こえる。

だってゲームの世界を自由に歩き回れる上に感覚まであるんだよ?そんなの心踊らないわけがない。



「んでもってこのゲームのコンセプトは題名どおり吸血鬼とのドキドキキュンキュンな学園恋愛物語なのよ。吸血鬼ってぐらいだから実際に吸血シーンがあるんだけど、これがリアルに感じられちゃう訳ですよ!

……えっ?それ痛くないのって?いやいや、ご安心を!最初は確かに痛みを感じるけどそのあと極上の快楽が貴女の身体を襲いますっ!」


「わ、分かったから。近い近い!」


前のめりで説明する彼女から身体を仰け反る。

姉のテンションが深夜のテレフォンショッピングの販売員みたいになってるのが若干、というか結構怖い。


「ほら、あんた前に乙女ゲームやんないの?って聞いたら、選択肢だけのゲームだから飽きる。って言ってたでしょ?これなら絶対日和も満足するし、このゲームについて語り合う人が欲しいのよ!ねっ!やろうよ!今ならお姉ちゃんと添い寝出来る権利もあげちゃうから」


「いや、いらないよ……」



必死か。そこでマジか。みたいな顔されましても。

でもまぁそこまで言われるとやっぱり気になってくる。上手く乗せられた気がしてちょっと悔しいけど。



「うーん、確かにやってみたいかも。それに、せっかくお姉ちゃんが持って来てくれたんだしね」


「さっすが我が妹!大好きっ!」


「うぐっ!……無理っ!死ぬっ!!」



姉に思いっきり抱きつかれてその胸で窒息死しそうになった事は今でも忘れない。くそっ、巨乳族め。

なんで同じ遺伝子を持ってるはずなのに姉と私でこんなに格差が起こるんだろうか。


……って違う違う。そこじゃない。

とにかく、そんな調子で姉に勧められて始めたゲームだったが、正直今までやったゲームの中で群を抜いて難しかった事を覚えている。



普通の乙女ゲームと違って自分でちゃんとイベントの発生する日時にその場所に行かないといけないシステムなんて難易度が鬼過ぎだと思う。

そんなんだから、最初は何月何日の何時にどこへ迎えばいいかなんて全く見当もつかず誰との仲を深める事無く普通に学校を卒業してしまうという失態を犯しまくった。

悔しいから何度も何度もやったけど、結局最終的には誰も攻略出来ず、リアルの行事が忙しくなるにつれて段々と疎遠になっていった記憶がある。



さてと、前置きが長かったけどここで本題に入ろう。

私は今世、リディアという少女として生きている。 彼女はこのゲームにおいて絶世の美少女であるヒロインでも意地悪な悪役令嬢でもない。

そのクラスメイト。所謂モブというやつだ。


しかし、モブはモブでも只のモブじゃない。

ある時には悪役令嬢の腰巾着の一人としてヒロインを陥れ、またある時にはあろう事かその他腰巾着共と結託して悪役令嬢を騙し、ヒロインを差し置いて攻略者達に色目を使いまくる害悪としか言えないモブ連中の一人。


挙句、もしそれらが攻略者達にバレようものなら悪役令嬢やその他腰巾着達と共に筆舌に尽くし難い罰を受ける事になる。プレイヤー側の時はこの結末を両手を挙げて喜んだけど、こっち側になった以上それはなんとしても避けなければならない非常に恐ろしい事案である。



「さいあくだぁ……」


よりによってこんな性悪女に生まれ変わるなんて、私、前世で何か悪い事しましたか神様。モブはモブでもクラスの隅に居るような無害なモブになりたかった。



否、今からでも間に合うんじゃないだろうか。

そうだよ。だってゲームの物語が始まるのは主人公が十七の時。ヒロイン、悪役令嬢と私は確か同い年だった筈だ。つまり、あと物語が始まるまで五年程ある。


この世界を平和に生き抜きたいなら、七面倒な事に関わらず無害なモブを演じ続ければいいんだ。


「よし。やってやろうじゃない」



拳を強く握り締めて固く決意する。



私、今日から真のモブを目指して頑張ります。















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