うたがわれるもの
ナトリの街と、王都との間の森。
幾つかの炎で照らし出された中、
私は、剣を向けられていた。
「や、やっぱり、信じられません! あなた、やはりあの方々のお命を狙っているのではなくて!?」
「…………」
いや、さっきまで、しゃがんで俯いて、涙目だったのにな。
恋愛、してみたいんでしょ?
いきなり凛とされると、こみ上げる何かがあるのですが……。
今、だいぶ近くにミニ山火事を出している。
この人……羊みたいな髪だ。
いや、馬鹿にしてるわけじゃなく、むしろ綺麗だ。
先がくせっ毛の髪型は、私みたいなドストレートには羨ましい。
髪の色は……え、肌色っぽい?
炎のせいだろうか?
いや……。
「ここにいた目的! あと、大職を教えなさい!」
「…………」
うわぁ……めっちゃ警戒されてるわ。
最初に話かけられた時より、かなり切羽詰まってる。
うーん、すぐ横に、サカサマ紅豚がぶっ刺さってるしな……
あの威力は、私もビビったわ……
今度から、何か殴る時は気をつけよう……。
「……やはり、答えられませんか!!」
「……はぁ」
ちぇっ。
信じてくれないかもしれないけど、言ってみよかな。
こうやって、関わりを持っちゃったしな。
「……"配達職"よ。ここにいたのは、王都に届け物があったから」
「"配達職"ですって!?」
ヒキハさんの表情が、一瞬、困惑し、また、険しいモノになる。
……うわお、美人さん効果こわい。
いや、気持ちはわかる。
ギルドカードを作った時に、キッティが言ってた。
"アンティさんの場合、職種を見れば、1発でランクはバレます"
つまり、今、ヒキハさんが思っている事は……
「……"ランクG"の冒険者が、そんな強いワケないでしょう……」
あ、言葉にしてくれました……。
「それに、配達職なんて、もう冒険者がやる仕事ではないと、皆が知っています。……私のことを、バカにしているのですか?」
「う……」
そこまで有り得ない事あつかいされるんですか……。
けっこう、ショックだ。
ちゃんと自分の職業を説明するだけで、相手には、バカにされているように捉えらてしまうなんて……。
「……本当よ。ドニオスの配達職」
「しかし、その職はもう!!」
「そう、多分、私だけ。……悲しいことだけど」
拳を、握りしめてしまう。
「私が多分、"最後の郵送配達職"……」
「…………」
思わず、声が震えていた。
「……あなたには、確かに、かなり助けられています。でも私、これでも王都の剣技職部隊、副隊長ですのよ」
副隊長……!
ということは、この人、王都で2番目に強い剣士って事?
それはまずいわ……。
この人に怪しまれると、王都に出入りできなくなる。
「"羊雲姉妹"の"ヒキハ・シナインズ"と言えば、まぁまぁ名が通っていると思います……不本意な呼ばれですが」
あ……やっぱ、この人の大衆のイメージは、羊なんだ。
「だからこそ、あなたの存在を捨て置けません……。火魔法、投擲に、格闘力……。あなたが配達職と言うには、少々、飛び抜けてなくて? ……私達を助けて、こちらに近づく作戦だと、疑うには充分です」
「…………」
う────ん。
弱った、どうしよう。
確かに、だいぶ異常だよね。
クルルカンのカッコしてて、
多分、Cランクくらい? の実力があって、
こんな夜更けに森に隠れてて、
コソコソついてまわってる?
……何かの陰謀が進んでるとさえ思うわな。
「……ダメ元で、きくけど。ここで、見逃してもらう事は?」
「…………ダメです。バカにしないで。護衛2人に、賊がいるかもしれないと伝えてきました。王都近隣に賊がいたのなら、当然それは優先して討伐される事になります」
……ううっ。
要するに、ヒキハさんに関係なく、報告はあげられてしまうから、意味がないって事だ。
男の護衛さん達には、姿は見られてないだろうけど、火と歯車は見られているかもしれない。
捜索されるなんて最悪だ……。
「あなたが冒険者であるなら、ここで逃げる必要は無いのではなくて? 私達に合流して、王都に向かう……これが望ましい。それに、腕が立つ冒険者が護衛につくのは、正直ありがたいですわ」
うぅう〜〜ん……。
それはまずい。
それって、つまり、このレッドハイオークを倒したのが、私だって報告するんでしょ……
強いの隠してんのよ……。
あと、合流してってのは、むしろ、引っ捕えられて、って表現した方がいいわね……
護衛の件は完全に皮肉だ……。
「しかし、"ユニーク"のレッドハイオークを倒す賊とは……気が滅入りますわ……」
「……あなたが討伐した事にしたら?」
「なりません! ……どの道、この大きさの肉は、魔物を成長させてしまう恰好の餌になってしまいます。王都で報告し、回収班を組まねば……しかもユニーク……あああ、騒ぎになるわね……」
そんな嫌そうな顔しないでよ……。
ていうか、そのノリだと、私、王都で拷問とかされるノリなんだけど……。
うわあああああああ。
どうしよおおおおお。
ピンチだぁああああ。