ヒゲのひとこと
ヒナコちゃん回だと思った!?
ざんねんっ!
ヒゲ回でしたぁー!!(灬´ิω´ิ灬).*・゜
「 ふーむ── 」
漆黒の、巨大な、スーツ──。
ヒゲイドが執務室の机に、
でっかい両足を投げ出し。
これまた行儀悪ぅーく、座りながら、
新人冒険者たちの報告書を読んでいる。
「ほぅぅ……ベルタイガーの討伐に、成功か」
どっかの客寄せ絵本コンビのお陰で、
今期は粒ぞろいだな、と、ヒゲは感心する。
すると執務室に、珍しくノックが響き。
我らが受付嬢、キッティが入室する。
「失礼しまーっす♪ トレイガーさん達をお連れしましたよーっ♪」
「……」
「「……」」
入室したのは、
いかにもガラの悪そうな筋肉質の男と、
その取り巻き、といったような風体の、
三人組の冒険者である。
「ふむ、来たか」
「 …… 」
「「 …… 」」
ヒゲイドは、机に足をあげた状態で、
まったく動じず答えた。
トレイガーと呼ばれた男も大男であるが、
もちろん、ヒゲイドほどではない。
上半身には最低限の当て鎧と、
ギルドの紋章が入った大斧を支える、
革でできたホルダーしか着けていない。
これはつまり、この男がギルドの武具を、
借り受けているということであり、
この者たちのクランが、
あまり金銭的に豊かでないことを示していた。
「……あんの用だ」
斧使いのトレイガーが、
無愛想に、ヒゲイドに言う。
急に、ギルドマスターに呼び出されたのだ。
取り巻き二人も、良い顔はしていなかった。
「金は……もう少しで払える」
「 ? なんの話だ 」
これには、ヒゲイドが疑問を返した。
心当たりが無い。
「……。ギルドの武具の借用金を、
半年、滞納している件じゃねぇのか」
「ふん、そんな細かいことを、
いちいち把握はしておらん」
トレイガーの睨みつけるような表情は、
常人なら肝が冷えるものだが、
ヒゲイド・ザッパーは、まるで涼しげに、
手元の報告書に、目を通している。
この態度に、
控えていた二人の取り巻きが、
少々、煮立ち、荒らげる。
「おいっ!! 兄貴に……なんのようだっ!!」
「さっさと、言いやがれってんだ……!!」
「ふむ」
ぶぉん──・・・!!
ヒゲイドは、手元の報告書を投げ、
その束ねられた冊子を、
トレイガーは、パシっと受け取る。
「・・・!」
「目を通しておけ」
それは、今期の新人冒険者の、
ここ一週間のクエスト内容をまとめた、
キッティ渾身の報告書である。
「 お前たちに、新人の教育を、任せたい 」
「──……ッ!?」
「「 えっ……!? 」」
ヒゲイドの一言に、
トレイガー一味は、耳を疑った。
「……なんと、言った?」
「先日のパニックヤードの討伐で、
耳でも、やられたのか?
新人教育を任せると言った」
「そ、そうじゃねぇ」
強面のトレイガーは、
しかし、戸惑いを覗かせつつ、
ヒゲイドに問い返す。
「アンタなら、知っているだろぅ……。
オレ達は、違う街からの……、
犯罪者あがりだ……」
「ふんっ。討伐素材を、貧しい村のために、
横領しまくった奴らに、遠征教育を任せて、
何が悪い」
これには、トレイガー達が、
目を丸くするに至った。
ヒゲイドは続ける。
「その報告書を見ろ。結論から言うと、三日間の討伐期間に対して、消費した物品の数が、多すぎるっ! 道具も、メシも、全てが、だ。今期の新人は、まぁまぁ戦力には なるようだが、森に泊まり込みで討伐行為を続けるにあたり、相応しいテクニックが、まるで足りておらん!」
「……ぉ、……ぉう」
「今は、どっかの配達屋のお陰で、西の枠は、大人気なのだ。このままでは、資材が枯渇気味になるのは、目に見えているっ!」
「……、……。で……、な、何故、オレ達に……?」
「少しでも資材の蓄えを残すために、お前たちは、どれだけ道中でアイテムを工夫し、節約するか──その技術に長けている。クエストでも、金の出費を抑えるために、最低限で成功させているな。これは他にはない知識であり、今、街に必要なものだ」
「「……、……」」
「……、だが……。オレ達は……。
他の土地の、元・犯罪者だ。
この街の、新人教育を、
任される、ってぇのは、だな……」
「──うるせぇ!!
お前たち以外に、任せる気は、ないッ!!
半年のレンタル滞納金など、
すぐ払えるくらいには、給料も出す」
「な……!」
「「ほ、本当に、か……!?」」
「だいたい、自前の武具さえ揃っちまえば、
お前たちなら、金なんか、
メシにしか使わねぇだろうが……!!
あー、話は、以上だ! さっさと出ていけっ」
驚いているトレイガー達を他所に、
ヒゲイドは、指示を出す。
「キッティ、詳しい事を説明してやれ!
1グループ、試しにやらせて、
良いようなら、新人教育は全て、
"アックスレイダーズ"に任す」
「了解でーすっ♪ ぁ、期間は、どうされます?」
「新人が、いなくなるまで、ずっとだ!」
「はぁーい♪ とりあえず、半年契約ですねぃー♪」
トレイガー一味は、
ポカーン(゜д゜)……としていたが。
「ぁ……、兄貴……? よかったなぁ……!!」
「ぁ、あぁ……、……!!」
「で、でも、なにから教えりゃあ、いいんだ……???」
キィ──、──バタンっ。
「 ふぅー、やれやれ……。これでひとつ、カタがつく 」
ヒゲイドは、ぬるくなった紅茶を、
胃に流しこんだ。
これは余談だが、本来、ドニオスの街は、
荒くれ者が多い土地である。
10年前の腐ったギルドの采配は、
多くの者を、殺伐とさせていたのである。
ここで、元・荒くれ者の、
ヒゲイド・ザッパーが、
ギルマスに就任した事は、
大きな意味を持つ・・・!
どんな無法者も、
ブラッドオーガを素手で捻り潰し、
巨人族と全面戦争、
一歩手前にまで、なったような、
自分の倍ほどもある、ステゴロのバケモンに、
ケンカを売ろうとはしないからである。
だが、だからこそ ヒゲイドは、
贔屓目なく、
実力を持った者に仕事を任せ、
結果、多くの者を更生させた。
周りが思った以上に、彼は情が深く、
また、"やり手"だったのである。
「ヒゲイドの旦那には、頭が上がらねぇ」と、
どうしようもない『荒くれ者』が、
知らぬ間に『真人間』になっていることは、
ドニオスでは、珍しくない。
結果、治安が良くなった街に、
女性や若年層の冒険者、
また、一般の移住者も、
じわじわと、集まる形となっているのである。
「しまった……。キッティに、
茶ァ、持ってきてもらえば、よかったな……」
ヒゲイドは、"あの二人"のお陰、
などと、言っているが──、、、
その本人も、十二分に。
ドニオスの発展の手助けをした、
誰もが認める、立役者と言えよう──・・・!
「さぁ、て……。後、気になるのは……、
南の事案、関連だが──── 」
足を机に乗せたまま、ひと息つくヒゲイド。
すると、足の横の"ギルド水晶球"から、
" ポン──っ……! "と、
通知音が、響く────。
「……"リード"」
ポポん。
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from:トウゼンロー・タネガシ
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当然感謝 借り受ける
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「 ふっ 」
それを横目で見、
ヒゲイドは、ニヤリと笑った。
「なんとか、なりそうだな」
転げたが、
良い方向には転んでいると、
ヒゲイドは、確信する。
「ふん、バレちまったら、
味方に引き込んじまえばいいんだ」
不敵な笑みのヒゲイドは、
そのままの姿勢で、
出版ギルドのニュース・ペーパーを、
パンっ、と、ひろげる──。
「……本当は、そっちのほうが、得意だろう?
なぁ? レターライダー──」
ドニオス、冒険者ギルド、
マスタークラス、ヒゲイド・ザッパー。
南の地にいる、
ふたりの配達屋に、
想いを寄せた言葉を送るのだった。
ヾ(*´∀`*)ノ.*・










