罰ゲーム執行な?
トウゼンローの興した宴は、
急場ながら、慎ましくも見事なものであった。
料理は刺し身が中心で、
あっという間に、天然木をカチ割った、
長い飴色机の上に、
次々と運ばれ、並べられる。
給仕は妹組が率先した。
小さな木船のミニチュアには、
細かく刻まれたツルギダイコンと、
名産ナトリジソの葉が添えられ、
色取り取りに光る鮮魚の切り身が、
美しく等列している。
「すご……!」
「いっぱいだ!」
アンティですら、
トッカンマグロとキアイハマチは分かったが、
多くの刺し身は初見であり、
俄然、食堂娘としては、
興味を惹かれっぱなしの光景であった。
「「 こ、これ、あのっ……? 」」
「無礼講じゃあ……!!
ぞんぶんに、やるが良いわああああああ──!!!」
「「 ご、ごきゅり……!! 」」
おれいで、おごり!
ということで、
ここで食わねば、誰が食う。
アンティ達は、マイ箸を持ち、
ふたりは、いつもの様に手を合わした!
「「 い、いただきま──すっ!! 」」
「おふたりは、箸をお使いになられるのですね!」
「なんと……! 私より、上手やもしれませぬ……!」
妹組の率直な感想さておき、アンマイは、
疲れも忘れるような食いっぷりである。
遠慮はカケラもない!
「こっ、これは、まさか……イカですか!?」
「おしょうゆが、めちゃくちゃ合う!!」
特に小憎かったのが、
刺し身と共に用意された、
シュデンエビの天ぷらうどんであった。
刺し身だけでは冷える体に、
温もる出汁物は、強烈であろう。
恐らく、アンティとマイスナは、
" 本物の天ぷら "を、初めて食べた。
「ぅ、うみぁあああああぁァ〜〜♪♪♪」
「ずるずるずぶずぶもぐもぐぅー!!!」
とろけるサクフカのコロモに、
エビの甘さは、別格である。
カマボコは波打つように切り分けられ、
シラネギは美しく茹で上がっている!
「むぅぅ……!! 実に豪快に食べる、娘どもよォのぉぉ……!!!」
本来、神官は衛生面の問題から、
あまり生食に良い顔はしないものだが、
目の前の二人は、まるで気にせず、
醤油にペタペタと浸し、
バクバク食らいついている。
箸の扱いは非常に上手く、
周りを全く気にせず、
音を出しまくりながら麺を、啜る啜る!
その様子は、清々しくすらあった!
──ズズッ、ずるずるずぅぅ〜〜♪♪♪
トウゼンローは、
うどんの食べ方を、よく知る二人に、
内心、うなる思いである!
また、エビは見た目を嫌がり、
食べぬ者もいると聞くが、
この二人はバリバリと尾まで食らい、
ずずず、と器から直接、出汁を飲む!
「うぅむ……!! あっぱれじゃ……!!!」
よく、わかっている……!!!
これには、トウゼンローも、ニッコリである。
「──はっはっはっはっはっは!!!!!」
「……わっ!!」
「父上の元気が、戻っておられるわ……!!」
殿は、高笑いの後、
冷酒の徳利をグイッとやり、
タンっ、と机に置き、語りを成した。
「 そこな御両人よ 」
「「 ……!? 」」
「 ──改めて!!
トウゼンロー・タネガシであるッッッ!!! 」
「「 ──! は、はいっ……! 」」
気合いの入った自己紹介に、
アンマイは、夢見心地から舞い戻る!
「 もう一度、聞くが……ヒナワに嫁ぐ気はないか? 」
「「 ……イッ!? いぃえェ…… 」」
フルフルフルフル。
再度、同じ質問をされたアンマイ!
心に思う!
なーに気に入ってくれちゃってんだ!?
このオッサンはぁァ……!!!??
こちとらは、女同士で、
毎夜毎夜、人にゃーとっても言えないような、
" クンズホグレツ "をヤってんのよォう!?
と、内心、冷や汗モンである。
「勘弁してください……」
「まにあってます」
「で、あるか……。ううむ……。
──して、腕は……大丈夫か?」
「……っ! ぇ、ええ……必ず、形にしますよ。先ほど言ったとおり、少しだけ、時間は頂くことになりますけど……」
「二日で問題なく、新しいガンアームは仕上がります。ちゃんと、生身の腕にも変形できますから」
「むぅ、そうではない」
「「 ……?? 」」
アンマイは最初、
トウゼンローの意図が掴めなかったが──……。
「そなた達の腕を、借り受けている」
「「 ──……ッ! ……ぁあ! 」」
ゴールド・フレームと、
シルバー・フレームの、
欠損した腕のことを言っているのだと、
アンマイは理解した。
どう説明しようか悩んだが……、
結局、彼女たちは、
さわりの所だけ、
ふわっ……と話すことにする!
「これは……その……、"補助"のために、体内に入れているんです」
「私生活の時には、別に無くても困らないよ」
専用の重量級・特大デバイスなどを固定したり、
瞬間的な攻撃をヨロイで受ける時以外は、
身体の内部の強度を上げる必要はない。
アンマイは結局、正直に答えるに至る。
「……で、あるか。しかし、忍びない」
トウゼンローは、殊勝な態度である。
酒を飲み、語るは過去よ。
「倅の腕が……馬に当てられ、ああなった際には……柄にもなく、自らを責めたものよ……。幸運にも火神に恵まれたが、此度も、ワシは彼奴の腕を守れなんだと、悔いておった──……」
「……!! 父上……」
金銀の義手を使い、飯を食うヒナワが、
目を丸くして、父を見ている。
「「 …… 」」
「その事での……、少なからず──気を揉んでおった。意地になっておったのだろう。すまなんだな──」
「「 ……! ぃ、いぇ…… 」」
ギルドマスターとしては分からないが、
父親としては、けっこう、いいヤツだな、と、
アンマイは思う。
ようするに──息子の腕を、
自分の手で、守りたかった。
そういう事だろう。
トウゼンローは、いやに静かだ。
何とも言えない空気になった時。
皿が、何やら引きずられる音がする。
「んぁ……?」
「アンティ、そこ」
──ズリズリズリズリ。
見ると、けったいな金色の猫が、
刺し身に、ちょっかいを掛けている所である。
うんとら、よっとら、どっこいしょ──。
ズリズリ、ズリズリずりぃ──。
『C7:うんにゃっ……!? やべっ! バレたにゃ!』
『C2:みゃっ、だから、やめとけみゃってぇえ……!?』
「おおぅ、ニャーナぁ……。
皿は引きずるもんじゃないわねぇ?」
──ギュムっ!
アンティが猫の首根っこ捕まえるのは、
道理である。
『C7:ふにゃーっ!?』
「なーにしてんの……」
「ドロボウネコだ」
『C7:にゃーっ! ドンとオクさんだけ、ゴチソウなんて! ずるいにゃーっ! ワタシらも、手伝ったにゃーっ!! カクノウして、ブンセキしたら、ハコニワでも再現できるかもしれないにゃーっ! ワタシも食べたいにゃーっ!!』
「「 ……、…… 」」
ご馳走を食い漁っている自覚はあるアンマイ。
アンティは……アイコンタクトで、
トウゼンローに、「もらっていすか?」
の合図を送る。
「 ……── 」
トウゼンローは、
しゃべっている妖怪ネコのことは、
よく分からなんだが、
どうやら恩人には違いないので、
ジェスチャーで手を振り、
「かまわぬ」事を示した。
『C7:にゃふふ♪ やりにゃーっ♪』
『C2:すっ、すみませんでしたみゃ……っ!』
謎のネコ二匹は、
黄金の輪の中に消えていく。
妹組から、名残惜しそうな声があがった。
「あっ……」
「ちょっと、撫でたかったのに……」
ハイ姫が、言う。
「ナトリ創設の勇者たちも、"空間使い"であったと聞きます」
「「 ……!! 」」
この言葉に、アンマイは少し青くなった。
トウゼンローが、矢継ぎに問う。
「なるほどのぅぅ。物を運ぶには、良い力よの。どれほど入る?」
「「 ……、…… 」」
黙るアンマイの隣で、
ヒナワと、マジカが、
強ばった表情を、殿に向ける。
トウゼンローは、すぐに察した。
「……なるほど、のうぅ。隠さねば、ならぬ訳じゃ」
「「 ……!! 」」
お猪口の冷酒が、流し込まれる。
「ふぅ……悪の手に堕ちれば、国が滅ぶでのぅ。
特に……心など、操られれば、最悪よ」
「「 …… 」」
「欲を隠せぬ者は、欲しがるじゃろう。戦え、癒し、運ぶのじゃ。転べば……大きな火種となるであろうな」
その言葉に、皆が黙る。。。
──しかし。
「ワシを見ろ、金と、銀よ!!!」
「 ……! 」
「──安心、せぇええいいッッッ・・・!!!
この、トウゼンロー・・・っ!!
恩を仇で返すようなっ、
"魂"はァァっ、持ち合わせてッ、
おらぬわぁぁああああああああああぁぁぁっ!!!」
「「 は、はい……っ! 」」
アンマイは、
やはりデカい声に、
たじたじである……。
「おい……マジな話、このオッサン……マジ酔い、し始めてんぞ……」
「しっ、しかし、父上より言質は取ったでござる……! 秘匿は、してくれようて……!」
「──これっ、ヒナワ!!
そなた、この者たちには、
相応の礼をせねば、ならぬぞっ・・・!!!」
顔の赤いトウゼンローは、
息子に絡む、絡む・・・!
「そ、それは、もぅ……勿論でござるが」
「──口だけではないっ! しかと、行動で示さねば、タネガシの名折れよ!!」
「そうじゃのぅ♪ できれば、口説き落とさねばならんしのぅー♪」
「「 おぃ…… 」」
アンマイ、思わずのツッコミである。
「──そなた達!! ワシが許す!!
ヒナワに、何か禊をさせよ!!」
「な、父上……?」
「マジ、酔っ払いが何かマジ言ってんぞ……」
確かに、トウゼンローは酔っているようである……。
困惑するヒナワであったが、
言われた事そのものは、
全く、その通りだとも思う若である。
「……アンティ殿、マイスナ殿。この度の件、某も言葉の礼のみで終わらせる気はござらぬ」
「いや、気ィはやいから。まだ腕、なおしてないから」
「その手は、後で返してもらいますよ」
「それでも、でござる……。この大恩、どのような形でも、お返し致す。何でも言ってくだされ」
ヒナワは、土下座する勢いである。
マジカが言う。
「マジなこと言うと、毒の森のマジ調査は、マジでメンツが揃ってからにしよーや。おめーらもマジ疲れてっし、二日でヒナワの腕がマジお披露目ってんなら、マジ丁度いっだろ。そんころには着くって」
マジカの言うことは、もっともだ。
つまり、実質2日間、足止めである。
ヒナワは言う。
「今すぐでは無くとも……いつか、恩はお返しいたす」
「ん〜〜〜〜……?? いや、そーゆーの、溜めとくの、気持ちわるいんだよね……」
「逆に言えば、今すぐでもいいんですよね?」
「……! も、もちろんでござる!」
アンマイは、こしょこしょと、
何やら内緒バナシをし始める。
そして──。
「「 ──はいっ!! 」」
「 っ!? 」
「罰ゲームを──!!!」
「執行します──!!!」
なにやら、楽しげなアンマイ。
「ばつ、げーむ、とな……?」
「「 にやりィ……! 」」
仮面越しにも伝わる、
イタズラっぽい笑顔──。
ヒナワは、何やら、
ものすごーくイヤな予感がしたが……。
ここで引くは、男子の名折れ。
「う、うかがおうッッ……!」
アンマイは、宣告した。
「──二日間、女装で生活!!
ナトリ服は、原則禁止っ!!」
「──ミニスカで皆を、お出迎えっ!!
コーディネートは、妹ちゃんに一任しますっ♪」
──ぱりーんっ!!
誰かが、徳利おとした。
「なまえはぁ……ヒナコちゃんっ♪」
「かみがた、ついんてーるにしよぉー♪」
「 ° Д ° 」
「……おぃ、マジだれだ、コイツらに酒もったの。
マジ、怒らねぇから、正直に手ぇあげろ……」
代償は、大きかった。
鬼畜アンマイ((((;゜Д゜)))).*・゜










