はじめての対人戦、からの〜
うわああああ!
おわああああ!
女剣士さん、きちゃったああああ!
「────どうやら、女性のようですね?」
「────!!」
さっき、剣を避けた時、思わず声がでた……。
うわぁ、まずい。
この人、護衛の剣士なんだよね……。
夜の森に、こんな変なカッコした奴がいたら、間違いなく上司に報告するわ……。
私でもわかるわ……。
絶対逃げなきゃ……。
「こんな夜更けに、どうされたのですか?」
「…………」
優しい綺麗な声が、逆に、冷や汗もんだわ。
いや、向こうは、ほとんど見えないはず……。
絶対、逃げ切ってやる……。
きゅううううん……!
キンキンキン!
「……いやに響く足音ですね?」
「!!」
ココッ、ガンゥ!!!
「わっ!」
剣でっ! 石を打ってきた!!
見えないはずなのにっ!
よっ、避けれる、避けれるけどっ……!
「ふふっ、また、声がでた」
「────っ!」
音で、見てるんだわ。
や、やば。
私の足音、キンキン言うわ。
歯車、うなるわ。
これ、場所、筒抜けだわ。
「……やっぱり、少し痛めつけないとダメかしら」
コッ──……!
「!!」
えっ、────わっ!!
左前で、止まってる!
うわっ!
いつの間に近づいたの!
スキルが無ければ、やばかった!
うおお、下から、剣のお腹で殴りかかられてる!
そりゃ切られるよりいいけど、
それはそれで痛そうだ!!
「ぐっ!」
"反射速度"! からの〜、"力量加圧"!
避ける時のテッパンだわ。
力を入れた方に、さらに力を!
身体は、重い時間の中でも、動く!
────ブォン!!
おおお!
女の人の腕力じゃねぇ────!!!
「! ……あら、まぁ」
うわぁ、こわい。
人間こわい。
ヒキハさん、目が真剣になりました。
美人が真剣になると怖いです。
もう勘弁してください……。
───ザザッ……!
───キンキン、キン!
「──正直、今のを避けられるとは思いませんでした」
「…………う」
「……何者です。私は、それなりに剣の腕には自信があります。あなたの様な、実力のある賊を、逃していい立場でもありません」
ひゃ〜〜!
クルルカン、ピ〜ンチぃ……。
「……ここで逃がすつもりはありません。ご覚悟を」
いや、そんな事いったって。
私もここで、しょっぴかれるつもりはないわよ!
あんた、私がどんな思いで冒険者になったと思ってんのよ!
それが、森で捕まってしょっぴかれるって!
あ〜り〜え〜な〜い〜!!
ど、どうしよ。
もう全速力で、逃げるか?
"スケイルスケーター"で爆走したら、
流石に逃げ切れると思う。
ただ、めっちゃ捜索されそうだけど……。
ああ〜〜どうすりゃえぇんじゃ〜〜!!
────ドッ!!
なっ、お!?
す、すごい飛んだ!
鎧つけて、あの脚力、何!?
ドレスがフワリとなびく!!
うわぁ!
上から、斬りかかってきたぁ!
うもぅ、避けるしか────!
「────ブゴギャアアアアア!!!」
「「!!?」」
──────────なっ!!!!
ハイオーク!!!?
どっからでやがった!!!?
おおきい!!!
さっきの倍!!
「────────くッ!!!」
岩の、でかすぎるハンマー。
女剣士さん、空中で、身体、ひねる。
ダメ。
最悪のタイミング。
避けれないっしょ。
「────オオオオオオ!!」
身体は、勝手に動く。
しかたない。
そういう風に、育っちゃってる。
やれやれ。
これで、立派な義賊サマかな。
ブタ。
タイミングが悪いのは、テメェだ。
前に飛ぶ。
ヒキハさんを、抱き寄せる。
彼女を軸に、回転する。
私が豚側になる。
ハンマー、きた。
掴む。
殴りつけられる。
地面が岩だった。
ヤバイ音がしてる。
でも、足は、ぜんぜん痛くない。
黄金はよ、そんな簡単に、砕けねぇんだよ。
もう片方の手で、ヒキハさんの頭をかばう。
「ブゴオォオオ……」
ボッ!
ボッ!
ボッ!
ボッ!
ボッ!
小さな歯車から、炎が吹き出す。
私達ごと、あたりを照らし出す。
「! あ、あなた……」
この剣士さんは、今、初めて私を見たはずだ。
赤いハイオークの持つ、
バカでかいハンマーを、
片手で止めきっている、
絵本の英雄のカッコをした、バカ女を。
「全く……豚カツ風情が。
ケンカを売らないでほしいわね」
私は、おおきな紅豚さんに、吐き捨てた。