トドメちゃんのトドメしチカラ さーしーえー
街の真ん中にある、おっきな水溜まりの聖地。
自然も空も、正反対に、
世界を反射させている。
水面から伸びる大鳥居は、
先程と似た、鮮やかな朱色で。
鮮やかな草木のグリーンと相まり、
とっても美しい場所だった。
「ぐすん……」
「ね? おちついた?」
「ハンカチつかう?」
そんな、人の喧騒が感じられない、
秘密の場所で。
私たちは、小さな魔女を挟んで、
座っている──。
「……んゅ、すみません。
トドメは恥ずかしいのです……///」
杖っ子ちゃんは、
トドメちゃん、という名前らしい。
なんとも……聞いたら二度と忘れない名前だわ。
ぜったいに10歳以下だと思う。
ユータやアナよりは背が、ちっこいもん。
「にょきっとなぁー……?」
「くゆくゆぅー♪」
「んぁ……うさちゃんとキツネちゃん、
はげましてくれてる、ですか……?」
ふふ……。まっちろモフモフズは、
おやま座りしているトドメちゃんのそばに、
そっと、すり寄っている。
やれやれ。
そりゃ、おサシミは楽しみなんだケドさ。
えぐえぐしている女の子を放っておいて、
ご飯が美味しいワケがないのだ──。
ふん……っ、まだ食堂娘として、
なっちゃーいないってことかな。
『────ふふふ……☼
────なっているから……だと:
────思うのですが?☼』
『>>>まったくだ。きみらしいったら、ね?』
ち、茶化すんじゃないわよ……もー///。
( さて……ふんむ )
改めて、トドメちゃんを見ると、
使っているローブは、お世辞にも、
綺麗とは言えない、
ズッタボロな感じだった……。
それが、すこし魔女っぽさにも、
拍車さえ、かけている。
ただ、ツギハギだらけのローブは、
その見た目どおり、所々、
丁寧に繕って、修繕されているわね?
かなりの箇所だわな……。
誰か、破れた所を縫ってくれる人が、
いるのかもしれない……。
なんにせよ、大切に使っているんでしょうね。
トドメちゃんは、まだショボンとしてる。
ここは、やっぱり──、
甘いモンに、頼るとしようかな?
「ねぇ? トドメちゃん?」
「……?」
「ふふ、見ててね?」
白い手袋をつけた手を広げ、
自前のハンカチを、パサっと、乗せます。
「──よっ!」
パッ、と、それを取ると──……!
──ジゥ────……!
「──っ!? ぱ、パンが出てきたですっ!?」
「ふふ……お昼ごはん、まだでしょう?」
「うまそう」
私の手の上に出現したのは、
チーズとジャムを、四角いトーストに、
半分こずつ乗せて、焼いたヤツだ。
もちろん、焼きたてのまま格納したので、
香ばしいラワムギのにおいが、
風の魔素を踊らせている。
「ほら、あったかいうちに、食べなさいな?」
「でっ、でも……! ごめいわく、じゃ──」
「ほらっ! これで手を拭いて!」
「わっ、ぁ、ありがと……?」
「わたしが拭いてあげるー」
フキフキ。
マイスナがトドメちゃんの手を拭いて、
新しいハンカチを、お皿代わりに広げる。
「あの、やっぱり……」
「あら、神官の施しは、
受けるものですよ? ──はいっ!」
「……っ!」
それっぽい事をテケトーに言って、
ジャムチーズ・トーストを、
トドメちゃんのヒザのハンカチに置いた。
実はコレ……私的には、
チーズとジャムのカップリングって、
あんま、やらない組み合わせなんだけんども。
前に、マイスナに ねだられて、
何枚か、作ってたヤツだったりする。
ま、チーズとジャムだ、
美味しくない──はずがないっ!
「じゃ、じゃあ……いただきます」
ふふ、食べよった、食べよった。
トドメちゃんの反応を見るには、
作っといて、正解だったみたいだ。
「……! とっても、美味しいです……!! これは、何のジャムですか……!?」
「それは、コガネリンゴのジャムよ♪」
「おいしいだろー」
「ぱくぱくぱくぱくぱく……!」
ぉ、チーズが大丈夫そうで、一安心だ。
(……で、私たち、どうしよっか……?)
(お魚の分は空けときたいけど、
何も食べないのはヤダー)
なるほど、そのとおりねぇ。
私とマイスナも、チーズとジャムが、
さらに半分こになるように、
トーストをハーフに割った。
両サイドで、パリポリ食べることにする。
うさ丸とカンクルにも、
ニンジンと花束を渡したった。
「ぁい」
「にょ!」
バキン、ゴキン、バキン、ぼりぼり。
むひゃ むひゃ、むひゃ むひゃ。
──ポっカぽか──。
陽気は、ちょーどいい感じで、
実に、呑気なピクニック日和だこと。
マイスナとは時々、
ドニオスの塔の家の、屋根の上に登って、
一緒にゴハンを食べたりしているけれど。
全く知らない土地で、
呑気な お昼を楽しむのも、
また、格別だわな。
たまには、こーいぅのも、いいわよねぇ……。
「ごちそう、さまでした……!」
「お粗末さま」
「ちょっと、元気でたね」
「……! はぃ……」
食べ終わった、しばらく、待つ。
「ぁの……じつは……」
トドメちゃんは、チラホラと、
話を、始める───。
なんや、お姉ちゃんらが、
聞いたんで。
「魔法が、うまく──」
「────使えない?」
「はぃぃ……」
少し、ドキリとする。
こちとら、魔無し経験者である。
だとしたら……かなりの共感があるし、
数年前の自分を思い出して、
心が、キュッとなったりも、すゅ……。
周りが当たり前のように出来る事を、
自分が出来てないって……切ないんだよなぁ……。
そりゃあ……落ち込む時も、あるわなぁ。
「──あのっ・・・!!」
「「 ──っ! 」」
と思っていたら、急にトドメちゃんが立った!
杖を、──バッ、と掲げ、
ドヤァ! と、私たちに、見せつけるッ!!
「──" 盃の、杖 "、なのですっ!」
「「 ぅ、うん……? 」」
あまりにも、突然と宣言されたので、
私たちは、瞬間キョドった。
「昔、"天狗"と言われたニンジャが居たのです!!」
「て……??」
「テング?」
「──これが、テング様なのですっ! 」
バッ──!! っとトドメちゃんは、
自分のローブの肩あたりについた、
人の顔を模した、
アップリケみたいなのを指さしている。
な、なんだ、その不思議なマスコットは……。
黒い帽子を被った、
真っ赤な肌の男の人? ……の、
意匠が成されているわね。
この人……ずいぶん、
上唇が長いわねぇー。
あ? これ、もしかして鼻……鼻、か?
マイスナから、素直に感想。
「かお、真っ赤だねーっ」
「そうね……恥ずかしがり屋さん、だったのかな?」
「と、とっても、すごいニンジャだったのですよっ!」
「そうなの?」
「ふーん」
しばらくトドメちゃんの話を聞いていると、
なんとなーく、
この街の偉人さんの歴史を、
学ぶことが出来た。
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昔、この街を興した内の一人の、
カナミさんって人が、何人か教えた弟子の一人が、
テング・ノーズ、という人だったらしい。
そのテングさんは孤児で、
名前は、カナミさんが付けたんだって。
軽技職に、
ニンジャ、ってクラスを足したのは、
このカナミさんと、一番弟子たちの功績が、
めっちゃスゴいらしい。
ふぅん──忍者の第一人者ってワケ??
「テング様は、体術だけでなく、たくさんの魔術も使えたので有名なのですっ! 魔法と体技を、組み合した人なのですよっ!」
「へ〜〜っ♪」
「ほ〜〜っ♪」
イマイチ、なぜこの話をされているかは、
掴めんかったが。
なにやら、元気は出てきたみたいだったので、
そのまま、聞いてあげることにする。
「この杖は、その人が遺した杖なのですっ」
「 っ! ほーうっ! 」
「 歴史があるんだねー 」
テング・ノーズさんは、
後世の若者に、魔術と体技を残すために、
色々と尽力した人だったらしい。
トドメちゃんの持っている杖は、
どうやらテングさんの遺作のようで、
彼の作品にしては珍しく、
"魔力"に特化した杖なんだって。
「それ、雨降ったら、重くなりそうだねー」
「そ……それは、そうです」
「あはははは……」
マイスナの言ったとおり、
まるで、大きなお皿がついたような杖だ。
雨の日には、滝ができていそうだ。
うーん、持つのが大変そうだなぁ……。
「その……テングさんって凄い人が、造った杖だってのは、わかったけど」
「それ、とっても価値がある物なんですか?」
「トドメが、手をあげたのですっ!」
「「 んん……? 」」
なんのこっちゃ。
さらに、よくよく聞いてみるとォ──。
テングさんの遺作を見つけた人たちは、
彼が志していた、
後世の魔術と体技の発展に、
この杖を役立てたいと考えたみたい。
「あ! "杖の使い手を募集した"、ってこと!?」
「そうなのです! 天狗さんは、孤児でしたっ! だから、同じ孤児から……ユーシューな人を、試験で募集したのですっ!」
おお! て……ことは、
トドメちゃんは、その試験に受かったってことか……!
えらいやん! トドメちゃん!
「すごいじゃない! 勝ち取ったって事よね!?」
「やるやん」
「希望者が、私しか居なかったのです……」
「「 …… 」」
なんでやねん……。
……うん?
え……時代遅れの杖、なの??
ぶっちゃけ、骨董品?
もっと良い杖、店で、安く売ってる?
「ぅう、うぅぅ……」
「な、泣かない泣かない! んでも、キレイな杖じゃない!」
「タダより高いものはない」
それ、どーゆーフォローよ、マイスナぁ……。
テングさんの杖を受け継いだトドメちゃんは、
今は、トドメ・テングノーズ、と、
名乗っているらしい。
つまり、歴史的な忍者の名前を、
継いでいる魔女さん……? ってことだ!!
そりゃ……ふっるい杖だろーけどさぁ!?
すっごい人の杖と名前を受け継いでんだよねっ!?
すっごいコトじゃない!
「魔法が……うまく、放てないのです……」
「「 はなてない・・・? 」」
どゅ、ことやろか……???
「あのっ──見てて、くださいっ!」
そう言うと──、
トドメちゃんは、天高く、
お皿の杖を、ガシッと構え、
気合いの入った、声を出す・・・──!!
「ふむむむむむむむ……!!」
すると────……!!
ズゴオオオオオオオオオオっっっ──・・・!!!
「──!! す、すごいっ!」
「炎と水が、杖に集まってる」
杖の先の、ちょうどお皿に乗っかるように、
球体の魔力が、まぁるく、集まっていた!!!
マイスナの言ったように、
ファイア系とウォーター系のエフェクトが、
渦を巻いて、混ざりあっている──!!
{{ ……!! ハイ・スプレッドじゃない……。珍しいわよ? }}
え、え!?
イニィさん、なんて!?
{{ 二属性の魔法を使えるデュアルクラスの中で、その属性を同時に混合して使える者のことを、そういうのよ }}
ほー! そーなん!?
{{ 普通なら、炎と水なんて、相殺し合って威力が落ちるものだけど……稀に、どちらの威力も高めた上で、同じ力場に存在させられる使い手がいるのよ。ほら……さっき食べてた、トーストの上の、チーズとジャムのように、ね? }}
……!!
イニィさんの例えは、
食堂娘にも、わかりやすーいっ!!
つまり、トドメちゃんは、
チーズもジャムも、
イけるクチの魔女さんなのだ!
いや……つーか、見た目的にも、
かんなり、威力が凄そうだけど──!?
『────魔力球体部は:
────直径2メルトルテを超えていますね☼』
『>>>暴走もしていなくて、綺麗に安定してるように見えるなぁ。素晴らしい使い手のように思えるけど──?』
なぁんだ!
私と違って、正々堂々、
すんごい魔法を使えるんじゃない!
「すごいじゃん、トドメちゃん!」
「かっこいい杖だなー」
うん、そうよっ!!
魔法の球体の力場だけど、お皿の上に、
ベストマッチしているように見えるわっ!
ぜんぜん、骨董品なんかじゃない!
とても、勇ましくすら感じる!
「・・・・・・」
「「 …………ん? 」」
魔力を溜めまくったトドメちゃんは、
何故か、そのまま制止している。
「………………どした?」
「それ、どうするの?」
「……………………はなて、ないんです……」
……。
………………。
…………………………まさ、か。
「──えいっ! えいっ!!
──えいっ!! えいっ!?」
──ぶんっ! ぶんっ!!
──ぶんっ!! ぶっん!!
「「 ……、…… 」」
……皿の上に乗った魔力球は。
トドメちゃんが小さな身体で、
いくら頑張って杖を振っても──、
とどまった、ままだった。
「ぅ、うぅ……魔法が……。杖から、はにゃれ、ないんです……」
「「 ……、…… 」」
「にょきっと……」
「くゅくゆぅ?」
……トドメ、られていた。
炎と水の混合魔法は、
おっそろしそうな威力を保ったまま、
杖にピッタリと、トドメられている……。
{{ あぁ……。魔力は凄そうだけど……飛ばせないのねぇ……。うーん……(汗) }}
くっついて、離れない……、
と、ゆーこと、デスカネ……?
「ど、どうやっても……撃てないの?」
「めっちゃ、杖に吸い付いてるねー」
「ぅう、う……! 飛ばにゃい……! 飛ばにゃいのですぅ……!!」
oh(´・ω・`)...。
『────せ:切ないです:ね……☼』
『>>>ふむ……でも、威力は、ありそうなモンだけどなぁ? 薙刀や槍みたいに、対象に斬りつけてみたらどうなんだぃ?』
──ほぅ!
せんぱい、いいコト、言うじゃないの!
「とっ、トドメちゃん! その魔法……ためまくった状態で、槍みたいに突いてみたら?」
「そだねー。それって、魔法と体術を大切にしてる人が、造った杖なんでしょう?」
おっ! マイスナも、いーこと言った。
もしかしたら、魔法のランスとして使ったら、
けっこう強いカモよっ!?
すると、トドメちゃん。
「ぅ……。もちろん……それも、やってみた事が、あるですが……。神官様方が、そう言うなら……もう一度、やってみます」
「「 ── えっ? 」」
そう言うと、
トドメちゃんは、
めちゃくちゃ魔力がトドメられた杖を……。
隣に、あった……大木に向かって、
ちょっと、不格好に構えまして──、
────そして。
「 ぇ……、── え────いっっっ !! 」
──ぶんっ!!
────ごすじゅ・・・!!!
どかぁぁああああああああああああんんんんん!!!
「「 うっわあああああああああああああ!!??? 」」
──ピュゥウウウウウ〜〜〜〜ンンンっっっ!!!
── バ ボ ん ッ ッ ☆
『『 ──にょきっとやんなぁあああァァァァァ!!!??? 』』
──ドッ、ピョ────ォォオオオンン!!!
爆風で、池の真ん中まで吹っ飛んでった、
トドメちゃんを。
すぐさま巨大化して助けにいった、
うさぎの勇者に、
私たちは、称賛を贈るのだった!










