すけだち逃走……ならず!
──キン、キン……ゴッ!
「な、なんとかなりそう……かな?」
あの護衛の人達、けっこう強い。
いや、強いと言うか……堅実だ。
男の人2人は、ちょっと腰が引けてるけど、なんというか、ジワジワ攻めてる。
ちゃんと避けるから、少し安心感さえある。
そんで、チマチマ剣で攻撃してる。
あれやられたら、ハイオークでも嫌だよね。
あと、女の剣士の人!
この人、ホントに強い!
ハイオークの内、1匹は、石でできた剣モドキを持っている。
すごい質量だ……。
それを、あんなに軽そうにいなしてる。
キン、ギャアアン!
────ブゴオォォオ!!
あっ、お腹に一閃入った!
お、おお! 倒れたよ!
た、倒した! 後2匹だ!
「……これは、私、いらない子かな?」
こんな暗い中で、あんな凄い動きができる女の剣士さんがいるんだね!
世の中、広いもんだ! ……とか思ってみたり。
「や、やったぞ! 流石、ヒキハ様だ!」
「油断しないで! まだです!」
「はっ、はい!」
これで、3対2。
なんか、いけちゃいそうだな。
3人とも、全然怪我してない。
うーん、
私、なんか不審者だな……
こんな所で、助けもせず覗いて……
見つからないようにしないと。
怪しまれかねないわ……。
「「うおおおお!!」」
────ブゴゴゴゴゴ!!
おぉい!
男2人で1匹いくなよ!
女剣士さん、まるまる1匹相手してるじゃない!
いや、そりゃ強さ的には、その内訳でいいんだろうけどさ……。
絵面的に、ねぇ……?
残りのハイオーク2体は、さっきやられた奴みたいに石の剣ではなく、拳に金属の板のような物を括りつけて、殴ってきている。
大振りのパンチだ。
あれは、避けやすいと思う。
ビビらなければ、あの人達なら大丈夫そう。
……本格的に、私、いらん子かな?
ブォン!!
はーい、空振り────!!
「!!」
「「うわっ!?」」
「? どうしたんだろ?」
なんだ?
急に、3人の護衛さんの雰囲気が変わる。
なんか……あたふたしてる?
……?
あ!
焚き火!
今のパンチの風で、焚き火が消えたんだ!
そうか!
今、真っ暗なんだ!
「落ち着きなさい! 音を頼りに、くっ!」
「うわっ、見、見えない!」
「ど、どこだっ!」
あ、危ない!
護衛さん男チームが、ハイオークに殴りかかられる!
すごい速さで、女剣士さんが回り込む!!
────ギギガィィイイン!!
「ヒ、ヒキハ様!?」
「う、うわぁ!!」
「ぐ……!」
女剣士さんが、今までいなすように受けていた攻撃を、初めて、面で受ける……!
剣を盾みたいにして、両手で受け止めてる!
背後の2人を護るためだ!
やっぱり、あの女剣士さんだけ、別格だ!
でも、このままじゃまずい!
背後から、ハイオークがきてる!!
「────クラウン、火と、輪」
『────レディ。投擲補正。』
ふふ、だいぶ短い言葉で、伝わるようになったもんね。
心が繋がってるからかな?
ハイオークが、腕を振り上げる。
────────させないよ。
私の腕に、歯車を打ち出すための、機構が組み上がる。
「うて」
『────射出。』
──────キョュアキャァアアン!!
──────シュンシュンシュン!!
1発を、攻撃用。
3発は、光源用。
暗闇をさく、回転の音。
────きゅうううううううん!!
────ザシュッ!!
「──────!!?」
まず、背後から襲っていたハイオークの、
腕が、とれた。
ドン!
腕が落ちた音。
────ブキャオオオオオオ!!!!
豚さん悲鳴。
────コンコンコン!
────ボッ!!
「────なっ!?」
「「ひっ光だ!」」
地面に落ちた、小さな歯車の輪から、炎が吹き出す。
これで、護衛の人達は、避けやすいはず。
「────! 後ろですッ!」
「はっ!?」
「うおっ!」
ブォン!!
────おっし、避けれたわね。
さっきの、この人達の動きなら、視覚さえ何とかなれば、戦えるはず!
これで怪我はしないでしょう。
──ズパッ!!
────ブゴオオオオオオ……!!
ズズゥン……!
「おおっ、すごい、また斬ったわ……」
女剣士さんが、また一撃でハイオークを倒した。
腕が切り落ちて、油断しまくってたからね。
あの人が、あんなの逃さないよね。
よっし、残り1体。
「「うおおりゃあい!!!」」
おお!
男チームが、ハイオークの両脚を切り裂いた!
たまらず、後ろに倒れる豚さん!
──ブオオオオ───!!!
「────トドメ、です」
────ザッシュン!!
「やった……! よかった……!」
「ヒキハ様、ありがとうございます!」
「"様"はよしてください……それに」
ヒキハさん、っていうのかあの女剣士さん。
強かったなぁ……。
さて、私いらない子アルヨ。
撤収撤収……。
────しゅるるるる
「!!」
「「おおっ?」」
炎を吹き出していた歯車が動き出す。
護衛さん達のすぐ側に落ちていた薪に、1つだけ火を移してあげる。
よし、これで朝まで頑張ってください。
「クラウン。場所がバレないように、迂回して歯車を回収」
『────レディ。お待ちください。』
よっと……。
私は移動を開始する。
不審者の義賊様は、とんずらしますよーだ。
最後に、女剣士さんの顔を、光の地図をずらして、直に見る。
綺麗な人だ。
ああいう、先がくるくるした髪型は、羨ましい。
ふふ。
なんか、怪訝そうな顔して、燃えてる薪を見てる。
まぁ、夜の森に怪談は付き物じゃない?
そんなに気にする事ないわよ。
じゃ、ばいば〜〜い。
しばらく森に入って、クラウンから、止まるように言われる。
────カシュカシュカシュ、カシュ。
身体に4つの歯車が戻った。
「ふぅ……さて、今日はもう、ここで寝ちゃいますか……」
私もバールモンキーの仲間入りだね……。
「クラウン。魔物が来たら、そっと起こしてくれる?」
『────レディ。尽力します。』
はは、尽力って……。
まぁピンチの時は叩き起していいわよ。
あ……寝る前に、少しだけ何か食べようかな……。
────────トットットットッ────!
『────"反射速度"、起動。』
「!!!!!」
────反射的に、避ける。
──ガアアアアアアン!!!!
さっきまでいた木の股が、剣の腹で殴られる。
「う、わぁ」
"反射速度"は、すぐに切れたらしい。
代わりに、光の地図の仮面が、再構成される。
トン。
着地は軽い。
心はバクバク。
うわぁ、やべぇぇぇえ。
────ザンッ。
「────さて……あなた、何者かしら?」
────女剣士さん、きたァあああああ!!!