落ちた白衣は、どうでもよい。さーしーえー
※ラフ挿し絵を追加。
ら、裸婦じゃないよ!(;´༎ຶٹ༎ຶ`).*・゜
※ハチさんシーニャを追加。
〘#……ククク……クク〙
『>>>笑いごとじゃ、ないっすよお……』
金時と二人。
箱庭の廊下で、
水バケツを持って、突っ立っている。
頬を膨らました黄金の女王は、
しばらく腕を組み、涙目で考えた後。
ずいぶんと古風な罰を、
私と金時に与えた。
『>>>バケツを持つのなんか、初めてっすよ……」
〘#……そうか? 私が若い頃は、たまにこれをやらせる教師仲間がいたが……〙
『>>>いや、つーか、シュールだな……。恩師が隣で水バケツ両手に持たされて、立たされてるのを、そばで見てる生徒の気持ちがわかります?』
〘#……クックックックック……!〙
ある意味、とても優しい罰を言い渡されたものだ。
彼女たちの抱える心境を思うと、
斬り殺されても、おかしくないとさえ思うが。
マイスナは……「ぷんぷーん!」などと言い、
両手の人差し指を立てたものを、
頭の上に乗せて、鬼のマネの如く、
茶目て怒っていたが、
アンティ君は、どうも腕を組み始めた時は、
それなりに真面目に怒っていたように思う。
当然である。
〘#……年甲斐もなく、羽目を外した〙
『>>>見事に乗せられましたよ』
最初は怒っていたアンティ君だが、
彼女は、食堂の一人娘というのもあってか、
同年代の皆よりも、多くの人々と、
触れ合ってきたのであろう。
彼女は、私と金時の様子を見て、
明らかに、何かを察していた。
ふくれっ面で、紅く、
可愛らしく怒りながら。
あの"儀式"は、恐らく……、
金時と私にとって、
必要な……ことだったのだと。
自身と、マイスナとに、置き換えて、
考えたのやもしれぬ。
ふたりの間の"わだかまり"を拭うには、
本気のぶつかり合いが……必要だったのだ。
その証拠に、アンティ君は。
罰則を言い渡す前に、
ボソリと言った。
「 」
『>>>……!』
〘#……!〙
「 」
その、拗ねた黄金の女王の小言は、
もちろん、金時にも、私にも届いている。
隣では、それを聞いていたマイスナが、
いつもの狂いっぷりが嘘に思えるような、
とても、深く、優しい笑顔で、
こちらを見ていた。
これには、私も金時も、困った。
私たちは、彼女に複数回、
殴られても文句など言えぬ罪人なのだが、
温かな苦笑が浮かぶのを、
堪える難しさが発生する。
たぶん、彼女たちは、私たちを正しく理解し、
私たちも、彼女たちを、よく理解していた。
殴り合って、スッキリしたもの同士の、
シンパシーのようなものだ。
禊は、宣告される。
「ばっ……バケツ、水入り両手、3時間ッッ……!!」
「はんせいしろーっ♪」
よって、このように、
古き良き時代の生徒のように。
朱色の廊下に、タプタプと鳴るバケツを持って、
ふたり、突っ立っている。
たまに通る、幻想に住む仲間たちが、
クスクスと、私たちを見て笑った。
〘#……ククク。まさか、この歳になって、このような罰を受けるとはな〙
『>>>ほら、後輩ちゃん本人が、ガッコーではヤンチャしてたって話ですから……自分が経験したペナルティを、そのまま言っちゃったかんじですよ』
〘#……なるほど、名推理だな。彼女は学校で、どのような、やらかしを?〙
『>>>茶化してきた男子たちと、無限オニごっこ』
〘#……ククク、目に浮かぶようだな?〙
阿呆のように、
教え子と共に、罰を受けながら、
ゆらゆらと喋る。
不謹慎、極まりないが、
少し、気分が軽くなっているのも、
事実である。
『>>>あぁ、すげぇ冷静になってきた……』
〘#……そぅか? 私はバケツを持つ手が、熱くなってきたがな〙
『>>>一生言われますよ、多分』
〘#……そうだなぁ〙
存分に、力をふるって、しまったからなぁ……。
ふむ……これは、流石に罪悪感がある。
『>>>ホント、バカっすよ……』
〘#……全くだ〙
水の重さを感じながら、
なんとも言えぬ感情が、垂れ流される。
この不粋な器に、溜め込まれているに、
違いない。
〘#……済まなかった〙
『>>>──!』
〘#……土下座などで、謝るべきでは、無かったな〙
許せ。
急に話題を飛ばすのは、年寄りの甲斐性だ。
だが、金時も、十分に察したようだ。
『>>>ははは……! ホントだよ!』
苦笑しながら、前を向いたまま、
彼は言う。
これ以上、殺させた事を、
貶めては、いけないのだ。
〘#……もう、許しは請わぬ。行動で……示すことにする〙
『>>>ははは! 説得力、ねーなぁ……!! あれだけ暴れといて、よく言えるぜ』
くくく、返す言葉がない。
『>>>はぁ──……大丈夫ッスよ。一生、許さないですから、存分に隣で焦ってください?』
〘#……!〙
……。
くく、ク。
言うように、なった。
私たちは死んだが。
時は、動いている。
前へと、続いていくのだ──。
『C4:うに"ゃー。パパうえー。せんせぇー。これ、あついー。うごきにくいにゃー』
『>>>それが お前のバツだろぅ、おとなしく着とけ』
〘#……潔く耐えなさい〙
途中で、ハチさんの着ぐるみを着たシーニャが通ったので、たしなめておいた。
明らかに軽い罰則を終え、
金時と箱庭で歩いていると、
早速、アンティ君とマイスナと、
朱の廊下で、すれ違う。
向こうは、やはり上目遣いの膨れ顔で、
ム──っと、こちらを睨みつけるが、
もはや、可愛らしくもある。
マイスナなど、もはや怒っているのかすらも、
わからない。それが、一番怖いのかもしれんが……。
何にせよ、言葉で謝ることの、浅はかさを。
私は、もはや……身に染みてしまっている。
どちらにしろ、こちら側は、
苦笑いをするしかない。
そのまま、ぷんぷんフフフ、な二人と、
通り過ぎようとした、その時に──。
──金色の声で、そっと聞かれた。
「……すっきりとは、しましたか?」
それが、確実に気遣う言葉だったので。
すぐさま私は振り向き、
彼女の頭に手を置いた。
〘#……あまり、優しくなり過ぎるものではない〙
「……」
それでは、まるで聖母のようだ。
私は、静かに振り向き、立ち去った。
金時とマイスナは、
私とアンティ君のやり取りを見て、
少し、キョトンとしていたようだ。
私は、ある物を自室まで取りに戻り。
その後、例の酒場に、い出向いた──。
〘++++++──あら。バカみたいに、男の子、してたわね?〙
馴染みのBARのカウンター席には、
昔の水の女神が、スコッチなど嗜んでいる。
〘#……ふ。隣に失礼しても?〙
〘++++++どうぞどうぞ♪〙
ある意味があるのか分からない、
ちいさな背もたれに、白衣を掛け。
丸く、高い椅子に、するりと収まる。
【 なんにしはる? 】
〘#……辛口で〙
花殿が、眉を上げながら、
コクリと頷く。
内側が、実に様になっている。
〘++++++……──〙
〘#……──〙
冷たい酒が、くるまでの時間。
少しの、気まずいまでは行かない空気が、
私と彼女の間に、流れている。
だが、これを長続きさせる気は無い。
そうだ、そんな事は、もう……起こり得ないのだ。
謝るのではない。
そう、あるべきだった。
私は、行動に、移すべきなのだ──。
──コトン、と写真立てを置く。
〘++++++……! これは──?〙
〘#……。君の ── 母さんの写真だ 〙
〘++++++ 〙
その表情を書き記すなら、
ただただ、" 驚き "だった。
彼女は恐らく、神になってからの、
膨大な時間を、含めても。
人生で、一番大きく目を開き、
瞳を、まん丸にしながら、
息を忘れるような、心をした。
しばらく、驚きを待つことにし。
やがて、よろよろと……写真立てに、
手が伸ばされる。
妻は、笑っている。
〘++++++ ……、 、……、…… 〙
〘#……目元は、あまり似なかったな〙
残念なことに、私にソックリだ。
また、しばらく流れ。
水の女神は、語り出す。
〘++++++……まだ〙
〘#……む?〙
〘++++++まだ……ぐす……、よく分からない、の……。実感が、ない……。私だって、禁断の知恵の実は食べた。でも……道具として産まれて……、他のシリーズは、ぜんぶ死んで……それで、私だけが、ちゃんと居るって、どういうことなの……?〙
〘#……〙
どうだ、見ろ。
ただ、少し勇気を出せば、
溢れ出して、くるじゃあないか。
私は、とんでもないバカ者だ。
もはや、救いようが無い。
みとめよう。
だから、バカは、もう堂々と。
バカでも、何でも、
貫き通して、行けば良いのだ────。
〘++++++ゃさ……優しそうな、人ね……〙
〘#……ふふ、そうでもなかったがな〙
【 はんっ……♪ 】
金剛の爪が、怪異殺しの酒を置く。
〘++++++ね、ねぇ……教えてよ。
私の母さんって、どんな人だったの……?〙
〘#──! ク……ク、そうだな──。
雫との出会いは……、
まず、アイツが教科書を、
投げつけてきた所から、はじまってな── 〙
そこから、私と彼女は。
酒の気が抜けるまで、長くを語ろう。
今、ちいさな背もたれから。
落ちた白衣は、どうでもよい。










