表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/1216

うさ丸バスターと奇跡の日 さーしーえー

 ─────────────────────────────

 ▼クルルカンは うさマルを ぶんなげた!

 ▼こうかは ばつぐんだ!

 ▼うけつけじょう は めを さました!

 ─────────────────────────────





「手紙の部屋で見つけたんだけど、この"受領書"って、何」

「手紙を預かった時の台帳の事ですね!」

挿絵(By みてみん)

「…………」


 あんた、そんな大事な事、先に教えときなさいよ……

 私、これから手紙、くばんのよ……。


「受付欄は全部埋まってますから、受け取りのサインを貰ってきてくださいね。これがないと、手紙を配った事になりませんから」

「ええええええ!? そんなの貰うの!? 4万通以上あるのよ!?」

「ああ……それくらいありそうですね……。あ! もし、区画ごとに分けて、まとめて受領書切れば、区画受領できますよ!」

「えっと、まとめて配達できるってこと?」

「配達というか……現地まで持っていったら、後は現地の人に任せちゃえばいいんですよ。ここドニオスでも、ドニオス内で手紙が滞るってことは少ないです。人の流れがありますからね」

「???」

「……要するにですね。個人で配達するより、区画ごとに分けて、とりあえず街まで持っていけば、後は、そこのギルドが分配して、配達を取り持ってくれます」

「え! そ、そんなの簡単じゃないの! まとめて渡せばいいんじゃない! 何で、街と街の間では、手紙が(とどこお)るの!?」

「いや、アンティさん……あの量を"区画ごとに分ける"って、めっちゃしんどいですよ……一つの街に、住所帯がどんだけあると思ってるんですか……他の街のギルドに預けたとしても、そこから更に、速達、指定、招待状、役場別、とかに分けるんですよ……」

「…………」

「アンティさん、先に言っておきます。仮にアンティさんが、何週間もかけて、区画別に手紙を分けて、他の街に運んで、区画受領にサインを貰ったとします」

「う、うん」

「その瞬間、その街のギルド職員は、全員、徹夜決定です」

「…………」

「手紙が運び込まれるのはホントに珍しいはずですから、重要な知らせが入っているかもしれませんからね……届いちゃったら、仕分けるしかありません」

「…………」

「だからもう、ちょ──嫌がられますよ……もう、クルルカンとか関係なく」

「ううぅ……」


 な、泣けてきた……。


「にょきっと……」






「……手紙がほったからしにされていく理由が、少し分かった気がするわ……」

「どの街も、随分滞納してるはずですからね……こんな事言ったらアンティさんは怒るでしょうが、"届けなければ、相手側のギルドに迷惑がかからない" という暗黙の了解が色濃いんです……」

「……怒る」

「はい……ごめんなさい」

「あ……いや、キッティが悪いんじゃ」

「いえ……多分、少しずつ、少しずつ、何かをしていれば、こんなにひどい状況には、なっていなかったのかもしれません……確かに私も、見て見ぬ振りをしてきました。それはその、恥ずべき事だと思います……」


 う……キッティ、普通に落ち込んでるじゃないの。

 もう……根は凄くちゃんとしてそうだからな。


 確かに、普通は4万通も、条件によって細かく仕分けるのは、大変かな。


 ま、普通は(・・・)だけど……。


「────キッティ、ちょっと出かけてくるわ」

「? はい、お気をつけて?」

「にょっきゅ〜〜!」

「えぇ、えぇ。気をつけますとも」

「?」



 ────なんせ、4万7千の手紙を、これから配るんですからね。










 俺は、戦慄していた。

 俺が、パートリッジの街門出張所に勤務して、早いもので、もう3年が経つ。

 俺も、ギルド職員として、それなりに様になってきたかな、と、思っていたのに。


 とんでもない。

 ギルドってのは、たまに、ぶっ飛んだ事態に遭遇する。

 俺はまだまだだ。


 目の前の大量の机には、恐ろしく綺麗に分けられた、手紙の束たち。

 ざっと、400束くらいには、分けられている。

 その手紙の束には、法則性がある。

 いや、簡潔に言おう。

 まるで、パートリッジの(・・・・・・・)地図のように(・・・・・・)置いてあるのだ。


 はは……いや、見てもらえばわかるよ……。

 信じられないだろうけど。

 これはさ。

 さっきまで居た(・・・・・・・)クルルカンの格好(・・・・・・・・)をした女の子が(・・・・・・・)一瞬でマントから(・・・・・・・・)出したんだぜ(・・・・・・)……?


 横には、普段はあまり、仲が良くない同僚がいる。

 ただ、今は、同じ気持ちだった。

 いや、この出張所にいる、全てのギルド職員は、同じ気持ちだった。

 男も、女も、年寄りも。

 掃除のおばちゃんも、立ち尽くしている……。


「……これは、偉業だ……!」

「!……ああ!」


 そ、その通りだ。

 手紙を分けただけで、何を大袈裟だ、と思うだろう?

 人数割いてやりゃ、そんくらいできるだろう? って思うんだろう?


 ────あめぇよ。


 区画分割と、

 配達場所と、

 書類区分と、

 記載内容と、

 配達期日と、

 それを全て整理したリスト……。


 か、紙に文字が(・・・・・)焼き付けてある(・・・・・・・)……!!


 これは、焼印活版か!?

 美しい文字だ……!

 手書きでは、これは出せない……!

 この、情報量を、どうやってやったんだ!!?

 これは、もう、辞書(・・)だ!!!


 これを、焼印活版でやるなんて、気が狂っている(・・・・・・・)……。

 奇跡の本だ……。



「配るんだ……」


 誰かが、言った。


「……!!」

「この機を逃す訳にはいかない……そうだろう!!」

「「「……!!」」」

「……仮にだ。今、ここに突風が吹いて、この手紙達がぐちゃぐちゃに混ざったとして、この手紙の辞書が、火にくべられたとして……」

「……!」

「どれだけ時間があれば、俺たちに、同じ事ができるか!? 1年か? 2年か? その間、ずっと寝ないのか!?」

「…………」


「今しかない」

「ああ」

「そうよ」

「その通りだ」

「「「今しかない!」」」

「そうだ! この手紙たちを、可能な限り、短時間で配るには、今を戦うしかない!」

「「「オオオオオオッ!!」」」

「みんなっ!! 頑張ろう!! 今なんだッ!! これは、革命の時だぁあああああ!!!」

「「「しゃああああああ!!!」」」




 結果から言うと、パートリッジのギルド職員は、二徹した。

 だが(・・)それだけだった(・・・・・・・)


 手紙の辞書によると、約1万2千通あった手紙は、この2日間で、全ての関係各所に配分された。


 手紙が、それぞれの人に届くのは、もう、時間の問題だ。


 全てが終わった時、ギルド職員は、涙した。


 ──"やった、やったぞ、俺たちは、やったんだ!"──


 と。


 残されたリストは"クルルカンの手紙の辞書"として、ギルドに語り継がれる事となる。



 しっかり睡眠をとり、気力を持ち直したパートリッジのギルド職員は、流れの商人から、ある噂を聞くことになる。


 王都を囲む、四つの街。


 ドニオス。

 パートリッジ。

 ホールエル。

 ナトリ。


 そのうち、ホールエルと、ナトリに、同じ日の内に(・・・・・・)クルルカンの格好(・・・・・・・・)をした少女が現れ(・・・・・・・・)完全に仕分けられた(・・・・・・・・・)手紙(・・)と、その全ての情報が(・・・・・・・・)記載された本(・・・・・・)を託していった(・・・・・・・)、と。


 その、日付を聞いて、パートリッジのギルド職員は、耳を疑った。


 その日に彼女は(・・・・・・・)ここにも居たんだぞ(・・・・・・・・・)……!!!



 その事実は、また噂となって、ホールエルと、ナトリにも伝わっていく。




 "義賊クルルカンは、生まれ変わった"

 "想いを馳せる人々のため、大いなる魔術で、手紙を託す"

 "彼女が最後の郵送配達職(レター・ライダー)だ!"




 そんな、噂が、広がっていく。


 そして、その噂を聞いた、街のギルド職員は、思う。




「次は、ウチの溜め込んだ手紙、持ってってもらおう……」








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『今回の目次絵』

『ピクシブ百科事典』 『XTwitter』 『オーバーラップ特設サイト』 『勝手に小説ランキングに投票する!』
『はぐるまどらいぶ。はじめから読む』
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ