記憶にございません祭
冷たい谷の踊り子って、
盗賊の短刀と蝕みの出血攻めで
こんなに楽だったのか……。
あっ!? ナンデモナイヨっ!?∑(⚭∀⚭;)
私が食堂時代に寝坊しなかったのは、
なんのこたぁない。
先に起きていた父さんと母さんの、
下ごしらえの気配が、
二階の私の部屋まで、
伝わってきていたからだ。
今みたいに、
地表40メルトルテの部屋にいたら、
私だって、大切な日とかに、
寝過ごしていたに違いない。
ちゅん……。
ちゅん……。
「 ── 」
「 ── 」
起きて数秒。
目の前のマイスナと、固まった。
外が明るい。
「……え? えッッ!?」
「朝だッッ!?」
──ガッバア!!
飛び起きる。
頭が……回んない。
ぇ、と……?
「……寝過ご、したぁ……?」
「ぅ、うそ、だぁ……」
ずいぶんと、
幸せな夢を、見ていた気がする。
子供の頃に……マイスナと?
食堂屋さんごっこをしていたような……?
お客さんは、黒い着物を着てた。
笑顔の……サキだった気がする。
……や!! いまは、それはいい!!!
「劇、夜だったよね……!?」
「すっぽかした……!?」
『────ぉ:おはようございます……☼』
いやいや、おはようございますじゃねぇ。
「クラウン……!? 私たち、やっちまった!?」
「シャレにならない」
『────いえ! あの……:落ち着いてください☼』
〘------ぁ;起きたのんねぇー……☆〙
いや、これが落ち着いてられっか。
何人のヒトが関わってるイベントだと思ってんの。
「昨日の……夜だったよねッッ!?」
「なんで、誰も起こしにこなかったんだろぅ」
ふたり、裸でパニクる。
鏡合わせのような、ビックリ顔だ。
『>>>ぁー……。や、やぁやぁやぁ。ま、まずは服を着なよ!』
〘#……ぅ、うむ……〙
「いやいや!? それどころじゃねっし!?」
「ぼーぜん……」
いや、それどころであるわね!?
さっさと用意して……いや、おそいっ!!!
あぁ……コレ、マジで、やらかしてんじゃないの!?
と、とにかく、ギルド行って、ワビ入れて……。
「クラウン! ヨロイだして!」
『────えっ:は:はいっ!☼』
『>>>ちょ、待て待て待て!? さっ、先に説明したいことが──』
「いーからァ!! 装着ぅうう!!」
──ギャォオオオオオンンン!!!
──クウォォオオオオンンン!!!
……ッ。
全身に、生肉が這い登ってくる感覚も、
慣れてしまえば、どうってことはない。
マイスナも、即座に変身したった。
〘------あぅわわぁー……☆〙
〘#……すまないが……少し、時間を貰いたいのだが……〙
「いやいや!? 今はダメでしょうよぉ!!」
「せんせい、空気読んでッ」
どどど、どーする!?
外の陽気な陽射しが、うらめしい。
脳を溶かすような、素晴らしい平和さだ。
「す、すぐ降りよっ!」
「わかった!」
『>>>あっ、ちょ──── 』
──バタンっ!
キィィ ── ンン・・!
ギィィ ── ンン・・!
ドアを開け、40メルトルテ下に、飛び降りる。
迷っている、ヒマなんかない!!
空中で前に回り、姿勢を調整する。
ごおおおおおおぉぉおおおおおお。
いつもはギルドの丸天窓の下は、
キッティが人払いしてくれるから、
安全だけど──……。
ちくそッ、今は急いでる!
着地地点に誰かが居たら、
ブースター減速も、今日は辞さない!
幸いに、上手く人が避けているタイミングだった。
街の全景と地面は、みるみる迫り、
マイスナと共に、着地する────・・・!!
──キィィィイイイイイイイイインンン!!!
──ギィィィイイイイイイイイインンン!!!
ギルドに降り立った瞬間、
「「「「「 うおぉ・・・!? 」」」」」と、
驚きの声が、どよめく……!
朝方は、冒険者の人達が多いかんな……。
私たちのせいで、
天窓の下は、
人が寄り付かなくなっているけど、
んでも、けっこうな人数が居たみたいだ!
「「 ……、 」」
その人の多さを見て。
正直、冷や汗もんだった。
私たちの劇を、楽しみにしていたはずだもん……。
「「 ──、…… 」」
マイスナと一緒に、ゴクリと、唾を飲む。
だけど──。
返ってきた反応は、意外なものだった。
「「「 ぅ、うおおおおおおおおおお──ッッ♪♪♪ 」」」
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!!!
「「 ──ッ……!? 」」
ええっ──!?!?!?!?
な、なんで……、そんな、
拍手喝采、な、のッ……!?
その場にいた、5、60人くらいの、
冒険者のみんなに、あたたかく迎えられる。
「ぇ、えっ……!?」
「な、なにぃ……」
どうなっとんねや……。
見渡す限り、みんな、笑顔だった。
拍手されてんの、私たち、だよね……っ!?
ええぇ……。
さっぱり分からないまま、
次々と、話しかけられる。
「──よォ! ご両人! 昨日の劇、よかったぜぇー!!!」
「いやぁ……最高だったな!!!」
「あれは、ドニオスの歴史に残るわよっ♪」
「おまえら、すげぇよなぁ……!! 五ヶ月前には、こんな素晴らしいことになるたァ、おりゃあ、思いもしなかったぜ!!!」
「「 え? ぇ? ぇ? 」」
「あれはパネぇだろ……! ウチの家内と息子も見に来てたんだが、そりゃあもぅ! 興奮して、真夜中まで寝られなかったんだぜ!!」
「いま思い出しただけでも、ワクワクするわねっ♪♪♪」
「プレミオムズって、やっぱスゲェんだなぁ……。その実力を遺憾無く娯楽に注ぎ込んでくれるたぁ、ははっ、オレは嬉しいぜ!!」
「あんなの、街中の子供、大喜びだったろうよ!!」
「いや、私たちもでしょー!!! 酒が美味かったわー!!!」
「「 ……?? ????? 」」
ど、どゆことだろ……?
さっぱり、わかんなぃ。
「ま、劇の終わり方が、ちっと、イレギュラーだったけどなー!!!」
「なァーに、言ってんだ!!! アレが良かったんじゃねぇかァー!!」
「まちがいない。ホッコリした」
「そぅよ、そうよ!! あの終わり方、私、大好き♪♪♪」
「最高でしたね。お二人らしかったです」
劇……?
おこなわれ、てる……?
ええぇええぇえええ……???
マジで、戸惑うしかない私たちである。
「「 ……?? ? 」」
「ぉー! ほれェ、あんまり囲んじまったら、可哀想じゃね?」
「そうね! あんだけ動き回ってたんだもの、消耗してるでしょう!」
「やぁ、何にせよ、お疲れ様さんだったなぁ……! 今日は二人で、ゆっくり祭りの出し物なんかを楽しむんだろう?」
「俺らは祭り限定のクエストを受ける物好きだが、今日は、お休みにして酒場にいる冒険者も多い。よかったらでいいから、顔を出してやってくれ」
「 えっ、あの……はぃ、はい? 」
「 え──、っと……????? 」
まったく、頭が……ついていってにゃい。
称賛、されまくって、
いる感じよね……?
「……アンティさーん、マイスナさーん。おはよーございますぅー」
「──ますっ!!!」
後ろのカウンターを振り返ると、
先輩後輩・受付嬢コンビが、
あきれ顔と、キラキラ顔で、
私たちを見ていた。
「いやぁ、アンティさーん。マイスナさーぁん。お祭りだからといって、昨日のは、ファンサービスし過ぎですよぅー!」
「ほんとうに、凄かったですねっ!!!」
「ふぁ……ファンサービス……??」
「すご……凄かった……??」
どゆことやねん……。
まるで、記憶にございませんっっ。
なんですけんどもぉぉぉぉぉ!?
劇は、ちゃんと行われたっ……!?
終わり方が、最高だった……???
いやわからんわからんわからんわからんわからん……。
『>>>ぁ、あはは……』
〘#……コ、コホンっ……〙
ぇ"、あによ……初代チーム。
その、含みのある反応は。
「おい」
「「 ──!! 」」
見上げると、ヒゲイドさんが居た。
寝ぼすけ気分なだけに、
ちょっとビビってしまう。
「よく、休めたか?」
「は、はぃッ……。おはよう、ございます……?」
「ね、寝てました……」
「──はっはっは! よぉ、ギルマスぅ! あんたも鼻が高いんじゃねぇか! こんな花形役者さんが、二人もギルドに籍を置いてよォ!!」
「はっはっは!! 最近、マジでドニオスでの新規、多くなったからなあ!!」
「鼻が高いっていうか、そもそも背がたけぇけどな!!!」
「バッカ、面白くないわよ? ま、臨時報酬くらい、あげてもいいと私は思うけどねー!」
「「 ……、…… 」」
どういう感情でヒゲイドさんを見ればいいのか、
よく、わからんわぁ……。
昨日の記憶が、まるで無いのだ。
私たちの歓迎会の時に……。
お酒たっぷりの料理を食べた後の、
感覚に似てる……。
「 ……──ふむ 」
周りのみんなが、まだ沸き立つ中。
ヒゲイドさんは、3メルトルテ上から、
ジっと、私たちを見ていた。
かなり……ドキドキもんだ。
──ズシッ……──。
すると、黒いスーツ姿を腰で折り曲げ、
顔を近づけてきたヒゲイドさんは。
周囲に聞こえないように、
──コソっと言った。
「 」
「「 ──……!! 」」
そういうと、ヒゲイドさんは、
すっ──と、折り曲げた体を戻し、
姿勢を正す。
でっかい拳は、ズボンの両ポケットに、
しまわれている。
ずいぶん優しい声だった。
怒っているワケじゃ、なさそうだけど──。
「「 ……、 」」
私とマイスナは──、
ぼーぜんとヒゲイドさんの顔を見て。
わずかに、ふるふると。
小刻みに、顔を横に振った。
「 ふぅ、やはりか…… 」
『>>> げッ…… 』
〘# ……まさか、気づいているのか? 〙
え、あんなの。
先輩と先生の、その反応……。
ん……? あれっ??
記憶がない間に、劇が、行われた……?
先輩と、先生……。
……───あ"っ!!!
ま、まさか……!?
そ、そゆこと、なのぉぉおおお──……っ!!!??
「 ……アンティ、マイスナ。ちょっと執務室まで来い 」
「「 ぅえ"っ……!! 」」
ょ、呼び出しくらったぁぁあ。
「あっ、ギルマス、では、お茶を入れますか?」
「あわわ……私がしましょうか!?」
「──よい。朝の受付のピークの時間だ、お前たちは忙しかろう」
キッティとユービーちゃんは、
ついて来てくれないようね……。
私たちと、ヒゲイドさんだけだ。
なんか、ヤバみを感じる……?
「 ほれ、行くぞ 」
「「 ひ、ひゃい…… 」」
ズッシ、ズッシリという巨体の後ろを、
キンギンと足音をたて、ついて行く。
「なんだぁ? ギルマス直々の、ねぎらいかぁ?」
「──ぁ、ちょっと! もたもたしてると、お目当ての、お祭り限定クエスト、取り漏らしちゃうわよっ!?」
「それはマズい……タマゴ系・納品クエストは、はずせない」
「あっ!? キャベツブレイクは俺が狙ってたんだぞ!?」
明るい冒険者さんらの声に後ろ髪を引かれつつ、
でっかい木製のドアをくぐり、
美しく磨かれたウッドテーブルの方を見る。
ヒゲイドさんは、ソファをふたつ、
ひょい、と片手でつまみ上げ、
私たち用に並べてくれた。
「ふぅ。祭り二日目だというのに、ヒマにはならんものだな」
ドニオスの父が、
どっしりと、深く、座る。
「む……すまないが、葉巻を一本、やってもいいだろうか?」
「「 ど、ドゾドゾ……! 」」
私らは多分、一生吸わんが。
近しい人が、たまにそばでやるのは、
全然いい。
「 ふぅ──……。ホレ、いいから座れ 」
「「 は、ぃ…… 」」
おそるおそるってのは、こういうコトだ……。
この人に、いっつも迷惑、
かけまくってんわぁ……。
いや、なんとなく想像はついてんだけど。
まだ……昨日に、どんなコトがあったかまで、は、
まるで理解していない、私たちである。
「 は、は、は。まったく──…… 」
ヒゲイドさんは、
背もたれを、存分に楽しみながら、
笑っていた。
今さらだけど、
この人の葉巻の吸い方は、
やたらと、カッコイイ。
ふわりと、白い煙がヒゲから出て。
言葉は、紡がれる。
「 ──やってくれたなぁ、お前たちは 」
「「 ……! っ、──……ッ、 」」
──座る、私たちは。
まだ──背筋の緊張を解くことは、
できないでいた。
劇どうなったんでしょね((´∀`*)).*・゜










