うさ丸さんは、今日もねる さーしーえー
「ひゃわわわわわ……」
あ、あくびしてごめんなさい。
ドニオスギルドの受付嬢。
キッティ・ナーメルンと申します。
「いやぁ……今日はヒマですねぇ……」
もう、30フヌほど、冒険者の方がお見えになっておりません。
昨日の、ゴリルさんのお祝いが響いているのでしょう。
お昼を過ぎても、起きてこられない方も多いでしょうね。
ま、今は緊急の依頼は無いので、良しとしましょう。
そう言えば、最近はやけにウルフやオークの目撃情報が少ないです。
この時期ですと、カーディフとドニオスの間くらいから、東の方に上がってくるはずなんですが……。
一度、調査依頼をかけていいか、ギルマスに相談してみましょう。
「ひゃわわわわわ……」
ああ、今日もいい天気ですね……。
ドニオスギルドの受付の前には、天井に、大きな丸い窓が空いています。
夜や、雨の日はコウヤカイのまぶたでフタをしますが、こんな晴れた日は、開けっ放しにして、日の光を取り入れます。
この天窓、光の柱が出来て、とても綺麗なのですが、正直、暇な時は、地獄です。
だって……ぽかぽかなんですよ?
誰も、いないんですよ?
見てください。
カウンタの上で、うさ丸も寝ています。
私だって眠くなるに決まってるじゃないですか……。
いいですね……うさ丸は……。
「ひゃわわわわわ……」
もう、あくびをするのは何回目でしたっけ……
ああ、ダメ……
ぬくい……
ねる……
「にょきっと」
ぐ────……。
「……なんなのこいつは」
ぐ────……。
「にょきっと!」
ぐ──ぐっ、ん、ん?
「分析は……"ボゥルラビット"?」
ん? はっ!
「……はれ?」
「……そうね、晴れね」
「にょ、きっと!」
受付カウンタの前で、絵本の主人公のカッコをした女の子が、うさ丸を抱っこしていました。
「……おはようキッティ」
「にょきっとなー!」
「ふぁ、ほはようございまふ……」
「……カウンタの上で、魔物が寝てたんだけど……」
「ちょ、アンティさん、天窓の下に立たないでくださいっ! まぶしっ! いたる所に反射してるまぶしっ!」
「あんた居眠りぶっこいてたワリに、余裕あるわね……」
「にょきっとな!」
寝起きにはクラクラしますぅ……。
「にょきっとな〜〜……」
「……で? このコなに?」
「うさ丸さんです」
「……うさ丸さん?」
ああ、そうか。
アンティさんは、うさ丸を見るのは初めてでしたね。
3日前くらいに、初めてドニオスギルドに来ましたもんね。
いきなり現れた、クルルカンのカッコの女の子。
郵送配達職になりたいと言った、変な女の子。
そして、とうとうそれを叶えてしまった、きんぴかの女の子。
「ちょまぶしっ! 目が、目がぁあ〜〜……!」
「仕事中に寝てたんなら、いい気味だわ……」
「にょっき!」
「……キッティ。うさ丸さんは魔物でしょう」
「そりゃそうですよ」
「あんたねぇ……何で魔物が、ギルドのカウンタで昼寝ぶっこいてんのよ……意味わかんないでしょ」
「うさ丸さんはですね……ずいぶん前に、気づくとそこで寝てたんです」
「ほぉ……」
「で、赤いグローブを試しに付けてみたら、可愛かったんです」
「……ほぉ」
「で、懐いたんです」
「……いみ、わかんねぇ……」
いや、アンティさん。
あなたの存在も、相当やばいですよ……。
何がやばいって、そんなクルルカンな格好してるのに、一つ一つの部位の完成度が高すぎて、むしろ、もう、違和感がないって所なんですよ……。
統一された衣装として、違和感を通り過ぎちゃってるんですよ……。
「こんなコいて、誰か怒らないの」
「それがですね。一度、森に返した方がいいんじゃないかという運動があった時、女性冒険者を中心に、大反発があったんです!」
「…………」
「そして、その女性冒険者さん達が、これまた女性の神官さんを巻き込んで、"うさ丸至上主義"なるものを打ち立てまして……」
「何やってんのよ……」
「当時の私は、ぶっちゃけ、どっちでもよかったんですが、あの女性冒険者の集団の血走った目が怖かったので、流れに乗りまして」
「あんたも薄情なところあるわね……」
「にょきっと……」
「いや、最初にグローブを付けた身としては、避けるに避けれない状態だったんです……」
「……つけたのキッティなのね」
「にょっき!」
おお、うさ丸さんが、赤いグローブを掲げてらっしゃいます……。
天窓の光とあいまみえて……。
まさに、王者。
うさちゃんぴおん……。
……………………。
……………。
……。
「ぐ────……」
「おい、寝んなや」
「にょきっとぉおおおおお!!」










