スキルとおしゃべり
今日のお手伝いの後、プライス君にこれからは、あまりお店を手伝えない事を説明する。プライス君は「そんなお嬢~」とか言ってたが、父さんに喝を入れられていた。
今日はなし崩しに手伝ってしまったが、プライス君のためにもあんまり手伝ってはダメだ、と父さんに念をおされた。プライス君はいつか自分のお店を持ちたいらしい。確かにあれくらいのピークはまわせるようにならなきゃね。
ちなみに私の髪型はツインテールのままだ。いつも背中に髪の毛がかかっていたけど、こんなふうに首周りが何もないのもいい。この力を手にして初めてよかったと思ったかもしれない。
同学年の子らが魔法をバンバン打ってる中で、髪型変更するスキルってのはどうかなと思うけど。
自室で改めて頭の上にある王冠をとり、観察する。
どうやら両親にもらった宝物が、この歯車の中に取り込まれているのは間違いなさそうだ。この赤い宝石も、透明の素材も見覚えがありすぎる。
「分離……できないかな」
『────分析完了。
概念結合しているため、物質分解は不可能判定。』
まーたこの子はペラペラと……。
私の目の前には、昨日のアナライズカードのような、透明の板? みたいなものが浮いていて、「分離不可能」の文字が書かれている。さっきも、「状態:ツインテール」って透明の板に書かれて浮いていたんだけど、両親やお客さんには見えてなかったみたいだ。私だけに見える魔法なのかな?
それに、この頭に響く声もアナライズカードと同じ声だ。落ち着いた女の人の声みたいな。
「……質問。あなたは私のスキルなの?」
王冠に問いかけるのもどうかと思うが、一応きいてみる。
『────解。
当媒体【クラウンギア】は、固有スキル:アイテムの同期によって発生、継続中です。結合効果の内容に、歯車法Lv.1が反映されます。』
ええと、なんか難しい言葉で、よくわかんないな……
「つまり、あなたの一部は私のスキルで出来てるのね?」
『────正。
模範的な回答例。』
お褒めにあずかりどーも。
「アイテムの同期、ってのがよくわかんないんだけど、なんでくっついちゃったの?」
『────解。
特定の条件下による、概念結合可能領域において、許可がなされました。』
「許可? 誰が?」
『────アンティ・キティラによる。』
「ちょ、私のせいなの! そんな覚えないんだけど!」
『────昨日に許可申請がなされています。』
「ど、どんな風に?」
『────「うるさいなぁ、かってにやってよ」と回答。 』
「ちょまてい!!」
うろ覚えだけど確かにそんな記憶があるな!
昨日、夢の中で、「できません、できません、どうしますか?」みたいな鬱陶しい質問攻めにされたような…その時にうるさいなぁ、かってにやってよ! って叫んだような……もちろん夢の中でだけど。
それ、完全に寝ぼけとっただけやないか!
「あああ、何でこんなことに……てかアンタ意思はあるの? すごい流暢にしゃべるわね……」
『────解。
固有スキル「歯車法」には、解析野は存在しませんでしたが、アイテム効果「アナライザー」が、アイテム効果「アイテムストレージ」によって、固有スキルと流路形成。固有スキルの申請で同期結合しました。その際にストレージに形成された解析野流路はスキル補助概念を持ちますが、アナライザーによって文書および音声化することが可能。』
なるほどわからん。
要するに、そろってはいけない3つの要素がそろっちゃったからこうなったって事ね……
「! そう言えばアイテムストレージって時限石のことよね! 物をしまったり、出したりはできるの?」
『────可。
概念根幹機能は失われません。
該当アイテムを指定してください。』
「え? えっとちょっと待って」
いきなりそんなこと言われてもな。じゃ、じゃあ……
「私のベッド、な~んて」
流石にこんなもん入らないよね。
『────レディ。
受諾したオーダーを開始。』
「え」
きゅおおおおおおおおおおおおん!
わ! いきなり私の部屋に、金色の歯車がでた……でっかい。
リング状で輪っかの外側に歯があるのは一緒だが、昨日出したやつの10倍は大きい。穴の直径が私の身長以上ある。
リング状の巨大歯車は、ゆっくり角度を変えて、ベッドの上に移動する。ど、どうなるの!
きゅうううううううん!
歯車が、輪投げみたいにベッドに降りてきた。
…………消えてる。ベッド消えた。うそぉ。
今あるのは、ベッドがあった床に落ちた、巨大な歯車だけだ。
『────格納完了しました。』
「…………」
え……ほんとに入っちゃったの。
私の歯車で輪投げすると、ぜんぶ消えちゃうの。
『────解。
空間移動により、物質消去はされません。
呼び出す場合は該当アイテムを呼称して下さい。』
「え、あ、えと……"ベッド"」
きゅいいいいいいん
床にあった巨大な歯車が、上の方に上がっていく。次の瞬間、
どおおおおおおおおおおおん!!!!!!
「ぎゃああああああ!!!!」
こ、こいつ私の身長の高さくらいからベッド落としやがった!! バカここ2階だよ!! そんなことしたら、
「アンティ!! どした!! なんだ今の音は!!?」
「アンちゃん大丈夫~?」
ほら2人とも来ちゃったじゃないか~~……。
「ご、ごめん! 大丈夫! 大丈夫だから!」
「本当か……ってなんだこのデカイ歯車は」
「あら大きいわね~」
この後、正直にアイテムストレージの事とベッドの事を説明して謝ったら、「すげーなそんなに物が入ったんだな!」と感心された。カンベンしてよ……心臓に悪いったらないわ。
「……あんた、次に物を出す時は、床に接するように出しなさい」
『────オーダー受諾。
クラウンギアより謝罪を申請。』
「……受理します」