⚙⚙⚙ お仕事開始! ⚙⚙⚙
昨日、飲み会(私は飲んでないよ!)から帰ってきて、小言を言うギルマスから毛布をもらい、40メル上空の自室で、ベッドを出して、眠った。
今は朝! 朝っぱら!
食堂での習慣は中々抜けるもんじゃないわ。
めっちゃ早起きだったわよ!
てか、この高さだと、朝日を遮るものがないからね。
さっきまではカーテンもなかったから、まぶしいったらなかったわ!
そう、さっきまでは。
「部屋……だいたい、できちゃったわね」
『────家具系の安全な設置を完了。』
はいはい。
最初みたいに、床にどおおおんはしなかったわね。
そろそろ心的外傷克服しなさいよ……
『────クラウンギアは、すでに恐怖を克服しています。』
「恐怖を感じている時点で色々アウトなのよ……」
あんたスキルでしょ……。
「机とイス、ベッド、カーテン。本棚が、わりと余裕を持って入ったのは嬉しいわ」
収納は、私がいるから要らないし。
「キッチンの火の魔石はダメになってたけど……しばらくいいか」
火元も、私がいるから要らないし。
「……なんか、節約ばっかり得意になっていくわね」
まぁ、どれくらい貯金出来るかもわかんないし……
しばらくはセコくいこう……。
健康で、楽しければ、後は頑張れる。
「あ! アンティさん、おはようございます」
「おはよう! キッティ!」
さすが、冒険者ギルドは朝が早いわね。
「む、きたな!」
「ギ、ギルマス、おはようございます!」
「うむ、おはよう……なぜ構えるのだ」
はっ!
い、いつのまに!
ま、まさか、あれしきのほっぺたのせいで、
身体の防衛本能を刺激されたというのかっ!?
「……馬鹿やってないで、こっちにこい。本当に、今日からでいいんだな?」
「む、はい。部屋は何とかなりそうです」
「……ならいいが。キッティ、今度、こいつの部屋の状態を確認しておけ」
「えええ〜〜!! あの、階段を登るんですか、私」
「"女の子の部屋"に相応しい状態かどうか、お前が一番よく分かりそうだろう」
「ううう! わかりました……今度お邪魔させてもらいますね」
「ふふっ、お菓子でも用意しておくわ」
「ホントですか!?」
女の子の部屋には、甘い物の一つや二つ、ないとね。
「ほら、はやくこい。お前が"郵送配達職"なんざ選んだ事を、後悔させてやる……」
むむっ。
……いや、今の言い方は、皮肉と言うより、純粋な事実を言われただけと言う印象を受けるわ……。
今から行くのって、未配達の手紙がある部屋よね……
どんだけひどいんだろう……
千通くらいあるかな……。
「…………」
「…………」
「…………」
ひどい。
これはひどい。
千通なんて、目じゃない。
「いゃ────、酷いですねぇ……」
「ああ、酷いもんだ……」
「いや、あなた達、ここのことは、前から知ってたでしょう……何で、あなた達も言葉を失うのよ……」
てがみ、
てがみ、
てがみ。
机、イス、戸棚の上。
なんだこれ、箪笥か?
閉まっていない引き出しから、はみ出る山のような封筒。
部屋の全ての壁には、マス目状の、木の棚が天井まであって、そのどのマスも、ギッチギチに手紙が詰まってる……。
あと、床に5つほど、手紙の山がある。
手紙山脈だわ。
これ一つで、多分……三千通はあるわ……。
部屋には、なにか紙のかおり? みたいなものがしてる。
……紙って、こんなに集まると、こんなかおりがすんのね……。
「いやぁ、久しぶりに直視すると、逃げ出したくなるな」
「見て見ないふりしたいですよね」
「こらぁああ────!!!」
そんな事ばっかしてたから、こんなんなってるんでしょ────が!!
「いやしかしだな、俺がここのギルマスになった時は、すでにこんな感じだったんだぞ……」
「はは……私もそうです。もうどうしようもなくてですね……」
「……はぁ」
招待状とか、何かの助けを求める内容だったらどうすんのよ……
いや、それ以外の内容でも、はやく届けたほうがいいに決まってる。
「これじゃあ、ギルドの信用問題にもなるじゃないの……」
「ギルドに手紙を預ける者など、金銭に余裕がなかったり、あわよくば手紙が届けばいいな、と思ってる奴らばかりだ……」
「残念ながら、私もそう思います。懇意の商人さんがいなかったり、お金がない、というのもありますが、恐らく、一年以内に届けば、運がいい、程度の認識ですよ」
「……なんてこと」
「……大丈夫だ、そのために、お前がいるのだろう?」
「ぐ……」
ヒゲイドさん……。
この手紙の山を、私がどうこう出来るとは、思っていないだろうな……。
いや、正直ナメてた。
ここまで滞納しているとは……。
「……手紙を配った量に比例して、お前に報酬が出る。無茶はせんでいい。まず、地道にがんばれ」
「……はい」
「……キッティ、行くぞ。アンティ、時間が空いた時に、様子を見に来るとしよう」
「あ……はい」
「アンティさん! がんばってくださいね!」
キィーッ、ばたん。
「…………………」
2人が出ていった後も、しばらく私は、手紙の物量に言葉を失っていた。