飲み屋でおしゃべり
「「「ぎゃははははは!!」」」
「…………ぶぅ」
「はは……アンティさん、元気だしてください……」
「……うるしゃい。どうせ私は、非常識黄金盗賊看板娘よ……」
「看板娘って……。アンティさん、ドニオスギルドの顔にでもなるつもりですか?」
先ほど、紐なし40メルトルテバンジーを敢行し、見事にギルドの受付前の床材を木端微塵にした私は、ゴリルさんの出産祝い飲み会で、究極に、不貞腐れていた。
「あああ〜〜、心配して降りてきたら、キッティったら、ドアに押しつぶされてるだけだもんな〜〜!」
「はは……いや、ウチのギルドの扉って、ギルマスに合わせてあの大きさじゃないですか……。扉の片方がハズれて倒れてきた時、巨人の足に踏み潰されるような感覚でしたよ……よく咄嗟に、両手で支えられたものです」
「ぶぅぶぅぶぅ〜〜! ぶぶぶぶぅ〜〜……」
ごろごろ〜〜、ごろごろ〜〜。
「な、何ですかその鳴き声……あ、あのアンティさん、仮面のまま、机の上で頭ころがすのやめましょうよ……机削れますよ?」
「ふ〜〜んだ、私より、机の心配ですか、あーあそうですか! ぶぅぶぅぶぅ〜〜!」
「ちょ、アンティさん! 拗ねないでください! そんなんじゃ立派なクルルカンになれませんよ!」
なりたくてなったんやないわぃ……。
『────仮面より、机との摩擦がこそばゆいと申請。』
「なんじゃくものめぇ……」
「ちょっとアンティさん、流石に私では、あの扉は持ち上がりませんよ……」
ぶぅぶぅ〜〜!
「よーう、きんきらきん。絵に描いたように不貞腐れてんなぁ」
でたな、ほろ酔いゴリルめ。
「ふーんだ、未成年がこんな所でやる事なんかないですよーだ」
「いやいや、メシ食えばいいだろ……」
「あ……タダ飯か……」
むくっ……。
「……おい、未成年はもっと子供らしい思考をしろよ」
「はは……今、ちょっとアンティさんが盗賊らしいと思いました……」
「飲み会のメシを漁る義賊様がどこにいんだよ……」
モグモグ……。
「ふーんだ! どぅぅせ私は何ちゃってクルルカンですよーだ!」
「いや、クルルカンの本質とかはどうでもいいんだけどよ……お前、さっきのアレ、どうやったんだよ」
「ふぁれ?」
モグモグ……。
「天窓から、飛び降りてきただろ」
ぐキュッ!
「…………」
ごっくん。
「……たまたま天井にいたのよ」
「うそですよね」
「……お前なんでそんなすぐわかる嘘つくの」
「証拠はあるの!」
「その返しがすでに確信的なんだよ!! おら、言え、どっから飛び降りた」
「る、るるるるるる〜〜♪」
「おっと? 酒も飲めねえ未成年が歌いだしたぜ……」
「……ホントに40メルも上から飛び降りたんですか?」
「そんなワケないでしょ」
「いや、もうそこは認めましょうよ……厳しい所がありますよ」
「キッティ! あなた、誰の味方なの!?」
「いえ、敵味方とか、超越した話ですよ、アンティさん」
「うわぁ、飲み会っぽくなってきやがったな……一応俺、主役なんだけど祝ってくれんのか?」
「あ、おめでたです、モグモグ……」
「お、おめでとうごさいます!」
「クチにものが無くなってから祝おうぜ? 義賊様……」
うっさいわねぇ。
私、生まれる所見てるのよ?
その時に、精一杯のおめでた精神は置いてきたわ!!
「「「おおおおおおおお!!!」」」
なんか盛り上がってるな……
「ていうか、私、ここに参加してよかったの?」
「ある意味、お前ほど飲み会の場に相応しい奴も珍しいぜ?」
「……余興として?」
「わかってるじゃねぇか」
「キッティ、私怒っていい?」
「はは……アンティさん、胸に手を置いて考えてください。と言うか鏡を見て考えてください」
「馬鹿にされんの嫌なら脱げよ」
「女の子に脱げとか言わないで!」
「あ、そこは私も同感です」
「おい……何気に受付嬢ズルクネ?」
「受付嬢ですから」
「あああ〜〜、明日から仕事かぁ〜〜!」
「あ、その件ですが、ぶっちゃけ部屋が整ってからでもいいと、ギルマスも言ってましたよ?」
「おー! "役たたずみ台"の上だろ? 見晴らしいいだろ」
「あ……うん、最高」
「へぇ〜〜! 今度見せてくれよ!」
「えぇ──……」
「な、なんだよ」
「ゴリルさん……クルルカンとはいえ、15の女の子の部屋に遊びに行くのはどうかと……」
「なっ、そっ、そうか……?」
「ふふ、嘘。いいですよ、またの機会に」
「それ、永遠に機会がこないヤツじゃねえか」
「ホントにいいですってば。実は、掃除だけならもう終わったんです」
「え!? それはないでしょう……。シャワー室とか、この世の終わりみたいだったでしょう?」
「……キッティ、あんた、それわかってたなら言いなさいよ……」
「ははー、私ったらつい。思い出したくなくて」
「お前らずいぶん打ち解けたなぁ……」
「そう?」
「いや、キッティの事、呼び捨てじゃねぇか」
「あ……そいえば」
「そですね」
「ダメ?」
「いえいえ、いいです」
「じゃ、いい」
「友達増えてよかったな、クルルカン!」
「黙ってください」
実家食堂ではあまり食べない、おつまみを中心に食べ進める。
……トマトとチーズってやっぱ合うのね。
馴染みのない"ゲソ"というものに手を伸ばそうとした時、お声がかかった。
「おい、クルルカンの嬢ちゃん! そいえば、冒険者になれたんだってな!」
「あ、はい……お陰様で」
「ひゃ────!! ウチのギルドも華やかになってきたぜ!」
「もう結構、騒ぎになってんぜ!"冒険者志望のクルルカンが、空から降ってきた"ってよ」
「そ、そんなことになってるの……」
「おうよ! しかも、志望クラスが、郵送配達職ってんだから、そりゃ騒ぎにもなるぜ!」
「ぐっ……」
ふーんだ、どうせザコクラスですよーだ。
「いいじゃねぇか、市民目線の配達職がいるってのは、大事なもんだぜ!」
3杯目の、年配の冒険者さんが、気になる事を言う。
「? どういう事ですか?」
「いやぁよ。今や、専用の伝令役を持っているのは、貴族や、軍だけよ。市民では、商人を利用したり、近所で協力したりで、連絡を取り合ってる。ちゃんとしたルートがねぇんだよ」
「……そうですね。昔は逆だったそうですよ? 街が出来るまでは、実力のある冒険者が、資材や、計画書なんかをしっかり運んだそうです。でも、街が出来てからは、"配達する人"と、"護衛する人"をわけるような風潮になっていったんです」
「キッティちゃんの言う通りだぜ……俺の親父が言うには、当時の配達職って言えば、発展の象徴で、けっこう強い奴らがやってたんだそうだ! 戦力過剰ってくらいな!」
へぇ……それは意外な事を聞いたわね……。
「……それが、今では、そこに力をさくのは勿体ない、ってなってる、って事?」
「ああ、ああ、まさにその通りだと思うぜ。だが、俺から言わせれば、今の届けモンは、少し蔑ろにされ過ぎだぜ!」
そうか……
強い配達職達は、"届ける事"をやめてしまって、他の職になっていったんだ……。
だから、無くなってしまったんだね。
そのしわ寄せが、商人さんとか、市民の人たちに降りてきてるんだ。
そこが、この国は、まだまだ発展してる途中なのかもしれないな……。
「だからよ? お前さんが、市民や、冒険者に寄り添って、手紙やら小包やらを届けてくれるなら、それは、大切な事だと思うぜ?」
「そうだな! 今や誰も、邪魔くさがってやりたがらねぇからな! 儲かんねぇしな!」
「ぐっ……」
「はは……」
結局は、そこかぃ。
その後、なんだかんだで話し込んだり、ゴリルさんとサルサさんとの馴れ初め話などをして、割と、盛り上がった。
サルサさんの、身体の傷のことは、うまいこと隠した。
途中で、真っ赤なゴリルさんに、飲み屋のイスのクッションを投げられた。
こんな金きらなカッコをしているけれど、
ドニオスの冒険者達とは、けっこう仲良くなれた。