流下天来
「ぽかぽか、ねぇー」
「ぽかぽか、だぁー」
高いところっていうのは、ずるくて。
特に、それが早朝だと、良くわかる。
悩みがある時に空を見ると、
どうでもよくなるっていうのは、
実は、本当で。
小さな頃に描いた太陽は、真っ赤だったけど。
本物が世界に入場する時、
それは、たしかに黄金になる。
嘘みたいな、本当のこと。
" まぁ、いっか "。
考えすぎない、そんな時──。
「……きれいだねぇー。世界は──」
「そうですねぇー……」
私たちの住んでいるお家は、
地上から40メルも離れていて、
その、さらに屋根の上は、
緩やかな傾斜になっていたりする。
神秘の電鎖歯車法の吸引力で、
お掃除した、その、特等席。
今日も、二人で。
白金の劇場幕に、包まれながら。
徐々に、照らし出される街を、
眺めていた。
「怒られ、なかったわねー……」
「うん。ほめられちゃったねー……」
「にょきっとなぁー」
「くゆーぅ♪」
ヒゲイドさんが、
私たちを怒らなかった理由──。
魔物が千体も出たのに、
聖女に報告しないって選択肢は、
絶対に無いということ。
街の人達のことを思えば、
最大の戦力で敵に立ち向かうのは、
当然の行動だということ。
護りの要である東の王凱都市を、
守るため、出し惜しみしなかった事は、
街を守る冒険者として、誠実だということ。
私たちは────共に、戦った。
自分の保身よりも。
ひとつの街を、
皆が力を合わせて守りきった事実。
ヒゲイドさんは、
それを、評価してくれたんだ────。
「──でも……、ちょっと、大っぴらにしすぎたなぁ……」
「そーだね……ちょっと、調子にも乗ってたかも……」
「にょにょ?」
「くゆっくゆくゅ……くゅくゅくゅ、くゆくゆくゆくゆゆ」
眼下に広がる、光の、西の街──。
俺の事など、些細なことだと、
この街のギルドマスターは、言ってくれて──。
キッティですら、
最初はブーたれて、
ソファに酔っ払いみたいに、
突っ伏していたけど……。
最後は、仕方ないですねぇ、と、
困ったように、笑っていた。
キッティも、自分の立場より、
街を守る事のほうが、ずっと大切なことだと。
心の奥底では……考えているんだわ。
「……あの二人は、大人ですねぃー……」
「そうですねぃー……」
「くゆくゆ?」
「にょっきにょき、にょっきにょきにょき! にょんにょん……にょんにょっきにょきにょんにょん、にょっきにょっきにょんにょきっとなっ!」
何を言うとんのや。
「めっちゃ、しゃべるやん……」
「おひさま、きれいですか?」
「にょきっとなぁー♪」
「くゆーっ♪♪」
全力は、尽くしたと思う。
でも私たちのワガママで隠していた、
時限結晶の秘密まで、しゃべってしまって……。
実の所……少しは、コラッ! ──っと。
怒られ……たかったのかも、しんにゃいな……。
「マイスナ、私の事、おこって?」
「ぽこっ、ぽかっ」
「かわいい」
だから、こんな高い屋根の上で、
お嫁さんと、感傷に浸っている。
今は……ありがたい事に。
気持ちの整理を付けられる、時間があった。
ツルツルの屋根の上で、
劇場の垂れ幕に包まれた私たちは、
お天道様から見たら、
海苔でクルッと巻いた、
おにぎりみたいなハズだ。
どうだ、塔の上の供物だ。
美味しそうだろう。
すると、本物のお天道様が、
頭の上から、しゃべりかけてきた。
『────実世界で:仲間が発生した事は:
────良い結果であると分類します☼』
「えらく、カタい言い方をするじゃないの。昔の自分が恋しくなった?」
『────ふふふ:私が敬語を使うのを停止したら:
────残念ですか?☼』
きひひ、太陽の女神様は、
やっぱり、朝方のほうが調子が良いみたい。
『────私たちは:家族のようなものです☼
────常時:会話によるサポートは可能判定☼
────ですが……やはり現実に接する:
────ハードウェアとなる:あなた方には:
────負担をかけているとも実感します☼』
「ひっさしぶりに、わっかりにきぃ言い回しするわねぇ!?」
「えーっと……。ようするに、相談には乗れるけど、実際に動くのはアンティと私だから……申し訳ないなー、って事ですか? だから、"こちら側"で頼れる人が出来るのは、もちろん……"良い結果"になる」
『────たいへん:
────的を射た解説ですね:奥様☼』
「まぁ……太陽神さまは、ずいぶんとお上手ですこと♪」
「……あぁ、この先、だいじょぶかなぁー……!!」
『>>>やーやー。もう、気にすんのやめなって。あれだけ熱光線も撃っちまってんだ。むしろ、なんでも入る空間持ちだ、ってゲロってこなかったら、逆に離してくれなかったよ?』
「あーら、丸くなった旦那さん、おはようござまー」
『>>>きみもダンナみたいなもんだろ?』
「……さいごに見る朝日にしたい??」
『>>>えーらく……ぶっそうじゃないか』
「実はさ──ぬか漬け・始めようかなって♪♪」
『>>>……おーけー、練り込まれたくはない、カンベンしろ、失言だった……。きみはタダの、性癖こじらせ系・食堂娘だ』
「嫁さん自作系・お手つきパイセンに言われたくないかなっ♪」
『────私にも:いい:
────ニックネームがありますか?☼』
「ぅん? 人妻チョロイン神!」
「カスタマイズ系・ベタ惚れ嫁!」
『────ふふふ:性癖が転げ落ちた方々は:
────言うことが違いますねっ♪☼』
「アンティ! 私も、あだな欲しいー!」
「にょ!」
「かんかーん!」
「私と一緒に合い挽き肉。ステーキボール。ほうきつね」
「うぇーい!!!(歓喜)」
「──に"ょんや"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"(抗議)!!!」
「かん……かん…… ✧ ✧(嘲笑)」
『>>>たまにクラウンちゃんの事バカにしてるけどさぁ……、きみの"ネーミングセンス"も、かなり、イカれてるよな……。嫁さんと混ざりまくる気・マンマンじゃあないかぁー』
『────:……"も"?☼』
「きひひ──……ねぇ先輩? お風呂清掃係・火の神様から、湯船では程々にって前々から相談──」
『>>>Q.Q.の不調の原因が分かった』
『────今……"も":って言いました?☼』
「アンティと混ざり合いたい。分離不可能なレベルで」
「聞きましょう。なんで、目を覚まさない?」
『>>>彼女は水神として歩み続けるため、延命措置として、身体の素材を魔物のモノに置き換えたタイプだ。自分をクリーチャー化したと言える改造だね。まさに、人間をやめてる』
「……私みたいな小娘でも、壮絶な覚悟だとは理解できるわ」
「身体を魔物化したことで、生命に危険が?」
『>>>それは、逆だろう。魔物化しなければ、彼女は死んでいた。人間だった頃から……"病気持ち"だったようだ。当時の情勢を予想するに……宇宙に打ち上げるテロリストに、元々、寿命が少ない彼女が選ばれたんだろう』
「わぁ……。綺麗な日の出を前に、クソみたいな話を聞かせてくれるわね」
「宇宙ステーションを落とすのに……捨て駒にされたんですね?」
『>>>うん……。精密なスキャニングをした所、血液の病気のようだ。クリーチャー化して、簡単には死ねなくなっていただろうが……元々の病気は、完治してなどいない。シーニャは病気で汚染された魔物の身体を、そのままベースにして、ボディを改造しちまってたみたいだ』
『────ご存知のように:
────箱庭由来の:お酒も少し:
────召し上がってしまったようなのです☼
────その事で……元々:組み込まれていた:
────病状の流路系が活性化していました☼』
「……。私は酔っぱらいの元・女神さまが、数日で起きると報告を受けたわ。……そうよね?」
「もう、水の神様ではないから、世の中の水の魔素には影響しないかもしれないですが……私だって、いくらなんでも、可哀想だと感じます!」
『>>>きみ達の、どちらの意見にも肯定する。ぼくも哀れみの心はあるし、彼女のボディは正常な再構築が可能だ。クリーチャー化と共に共存しちまった病状も、完全に取り除ける見込みがたったよ』
「……気を、揉ませないでってばぁ……。きちんと、全回復するのね?」
「よかった……」
『>>>誓うよ。最終工程は、ぼくが担当する。ただ、身体をリストアするのに……追加で麻酔薬を打った。もうしばらく、目覚めるのは延期だな』
『────私の:このボディの基礎を:
────組み上げた技術を:
────彼女にも活かすのです☼』
「嫁さんクリエイトのプロだもんね」
「頼りになります」
『>>>いや……まぁ、そういう事になる……恥ずいな……///』
「──……うん。健康な……と言っていいかは分からないけど、永遠の命に……へばりついてきたような病気が治るのなら、ゆっくりと待ってあげたいってのが本音よ」
「その人が、ずっと……生き続けてくれたから、今……この世界には水があって、アンティと、お風呂が入れるんでしょう? 感謝に堪えないって……こういう事です」
『>>>その通りだ。今は"引き継いだ"先生と、ローザが、そばで見てるよ。さっき、循環系の全入れ替えに成功した。上手くいったよ』
「わーかーるーよーうーにー!」
「先生が、そばにいるんだねー♪」
『────ふふ。
────容態が安定した:という事ですよ☼
────今は:経過観察です☼』
『>>>慌てはしない。だが……きみの過去を、はやく、聞かせてくれればいいんだがな……』
『────:ええ……☼』
『>>>……。──ま、もうひとつ──シーニャの方も、けっこう、問題なんだけどネ?』
『────あっ……:
────そうでしたぁぁぁぁaaaaa☼』
「「 ──?? 」」
「にょきっとぉー?」
「くゆゆゆゆゆゆゆ……!! ✧ ✧ 」
────。
〘#……〙
〘------私も;知らなかったんです-☪︎.*・゜
------まさか;健康書類も偽造していた;
------だなんて……☪︎.*・゜〙
〘#……〙
〘------複雑な反面;
------こうして;しばらくは;
------友と生きれる喜びがあります-☪︎.*・゜〙
〘#……そうだな〙
〘------;……☪︎.*・゜
------;……そんなに;
------奥様と;似ていらっしゃるの?-☪︎.*・゜〙
〘#……──! ……そう、だな。こう……落ち着いて見ていると……。目元は、雫と似ていないかもしれん〙
〘------雫、様……☪︎.*・゜〙
〘#……だが、どうも、何故か……、な……〙
〘------;……☪︎.*・゜
------Q.Q.の……;
------"クイック・クイーン"の過去を;
------私たちは;誰も知りません-☪︎.*・゜
------アップルだけは;
------何か調べていたようですが……☪︎.*・゜〙
〘#……! 木の、女神だったか……〙
〘------しかし;Q.Q.自身も;
------よく自分の過去が;
------わからないようでした-☪︎.*・゜〙
〘#……。彼女の顔は、私の罪を思い出させる〙
〘------;……罪-☪︎.*・゜〙
〘#……私は、こちらの世界へ来る前にも、たくさんの罪を……おかしている〙
〘------;……お戯れを-☪︎.*・゜〙
〘#……いや……現に……雫は……〙
〘------奥様と;同じ病気なのですか?-☪︎.*・゜〙
〘#……! ……、……〙
〘------;罪とは……まさか;
------ギンガ様と;奥様は;
------亡くなる前に────……☪︎.*・゜〙
〘#……言うな、ロザリア──〙
〘------これは……とんだ失敬を……☪︎.*・゜〙
〘#……──えぇい! ロザリア! 何故、今日は"女王気質"なのだ……! 調子が、狂うッ……。……〙
〘------ほほほ;そんな日もありますの……☆.*・゜〙
〘#………く、やれやれ。……狂いは月に、敵わぬな……〙
〘++++++すぅ……・すぅ……・・・──〙










