⚙⚙⚙ 華麗なるヒゲイドの采配 ⚙⚙⚙
新章いくべ(●´ω`●)+
「──でたなっ、ヒゲまおうっ!」
「──ここで、われらに見つかったが、うんのつき……!」
「──われらのチカラをそぐために、
聖剣をうばったのは、わかっているわよ……!」
「──それを、こちらに、わたしてもらおうかぁーっ!」
「…………」
俺の名前は、ヒゲイド・ザッパー。
今は、メシの買い出しの帰りである。
今、俺が持っているのは、どう見ても、
商業ギルドで、安く譲ってもらっている、
ラワ麦の良〜〜い香りの、
サクサク巨大バゲット × 8本 である。
長くて、デカくて、硬い、
釘の打てそうなパンだが、
どのような見方をしても、
聖剣には見えん。
したがって、今、目の前にいる悪ガキたちは、
聖剣を取り戻しにきた勇者というより、
街のギルドマスターから主食を奪おうとする、
しゃらくせぇ強盗団である。
俺は顔に手をあて、天を仰いだ。
「やれやれ……おままごと担当2人組が留守にすると、すーぐコレだ……!」
はよ帰ってこい、絵本ペアめ……。
お前らが居ないと、俺が絡まれるんだよおおお。
コイツらも、性懲りも無く、懐いてきやがって……。
俺のような巨体は、恐ろしいと思うのだが?
「あぁ、腹減った……」
「なにを、ぶつぶつ、いっているぅーっ!」
「聖なる武器がなくとも……!
われらには、この──、
"げんしょの杖"があるのだぞーっ!!」
ほっそい枝に、カッコイイ名前つけやがって……!
もっと……なんか他に、あっただろう!!
やれやれ……武器の選択を誤ったな……。
たまにはギルドマスターの恐ろしさ、
思い知らせてやらねばなるまい。
「……致し方あるまい」
──ガサッ・・・!
俺は、抱えている、茶色い大きな紙袋から、
人の腕ほどある巨大なバゲットを、
スラリ──と、引き抜いた!
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・!!
「ぬ、抜いたぞ……!!」
「バカな……!? だいまおうに、
聖剣が、あつかえるというのかッ!?」
「まさか……あなたは、元・勇者だとでも言うの……!?」
「そ、んな……そんなことって、あるもんか……っ!」
「……」
おまえら勇者やめて、役者になれ。
大きくなったら、見に行ってやるから。
ちなみに自分でパンを構えておいて何だが、
今の俺は、聖剣を持つ元・勇者の魔王というより、
棍棒を持ったハイオークといった感じである。
黒いフォーマルなスーツと相まって、
中々の威圧感だろう……。
勇者たちに、メンチ切ったった。
「……そのような枝切れで、俺に勝てるとでも?」
「しゃ、しゃべった!!」
「ち、ちせいがあるっ!!」
「当たり前だろ、パンでぶん殴るぞ、お前ら!」
うぅ、腹減った……。
さっさと、終わらせるとしよう……。
「……ふん。お前たちが、真に、世の中の弱き者を助けるのなら……この聖剣、一本だけ、くれてやろう!」
「な、なんと……!」
「まだ、まおうにも……、
正義の心が、のこっていたのか……!」
「おお、まおうのチカラが、聖剣にやどっている……!」
「ドニオスの魔剣、たしかに、ゆずりうけたぞ……!」
「ちゃんと親御さんに切り分けてもらうんだぞ。ぜったいに無理に食うな。腹……破裂すっから」
「「「「 はーい! 」」」」
大魔王は盗賊団に屈し、
大切な聖剣を、一本失った。
ちくしょう、俺の食費が……。
とぼとぼドシンと、歩き出す。
はぁ……人間くらいのサイズのパンに、
脚でも生えて、シャカシャカ歩いていたら、
もっと食費が浮くのだが……。
「ふふ……。そんな事が、起こるはずもない」
ちびっこ盗賊団への報復は、いずれ、
おままごとのプロに依頼するとしよう。
幸いウチには、二人も適任者が居るし。
俺は、のんびりとギルドへと戻ったのだが──。
「おぅ、ヤバいぞ。ゴハハ。がんばれ」
「……。はぁー」
ギルドの入り口で、ゴリルにそう言われた。
俺は……だいたい、わかってしまった。
ため息を吐きながら、木の扉を押し、
中へと入る──。
足元に、何かが丸まっていた。
「…………」
「「………………」」
我が街の、おままごと担当たちが、
ふたりそろって、土下座している。
「おっ……! ヒゲイドさん、帰ってきたぞ……!?」
「アンちゃんとマイちゃん、今度は……なーに、やらかしたんだ!?」
「この前みたいな乱闘騒ぎか!? 俺、聞いてねぇぞ……!?」
「なんて美しい、シンメトリカルな土下座なんだ……!」
なんて、イベントばかり起きる職場なんだ……。
これまた断っておくが、
俺は、この街の大魔王ではないので、
このような年端もいかん、
子供が見たら性癖がこじれそうな、
肌の露出のさせ方をした、
15歳の敵味方・女の子コンビを、
足元に、ひれ伏せさせる趣味はない。
余談だが、とっくに奴隷制度は廃止されている。
「……なんの真似だ、クルルカン」
「…………」
「……面を上げろ、オクセンフェルト」
「…………」
無視すんなよ。
何にせよ、もはや、
この街で知らぬものはいない、
金銀ピカピカ・どこでも絵本劇場が、
俺を主の如く、お迎えしてしまった事実は、
俺の平穏な、お食事時を、
破滅させるだけの威力を持っていそうだ。
あほぅーめ。
「……うーむ」
一応、人違いだと思って、
カニみたいに、横移動してみた。
あ、ダメだ、
土下座しているアホたれ共も、回転する。
きもちわるっ!
回る お盆に乗っているように、向きが変わる。
なにを、やっとんのだ……。
「アンティさん、マイスナさん? コンパスの……モノマネですか?」
「にょんやー」
「くゆ? くゅ?」
キッティ、俺は北じゃなくて、
西のギルドマスターだからな……?
やはり俺が左右に横移動すると、
金と銀のうなじが、完全に追尾してくる。
なんだこれ、逃げられん。
やるな、絵本ペアーめ……。
「はぁ……」
意を決して、近づくことにした。
「いつまで、そうしているつもりだ……」
「「 ……、…… 」」
……こいつら、よく見ると、
小刻みに、震えてやがる。
やれやれ、割と……ガチなのだ。
バカタレどもめ……。
「──いいから入れ。執務室だ。キッティすまん……アップルティを頼めるか? お前もこい」
「あはは……わかりました」
この四人だけで話をするという事だ。
ギルド内は、少しザワザワしたが、
多少の睨みを利かせ、沈めることにした。
入り口にあるゴリルだけは、
ニカッと笑って、手を振り、外に出ていく。
……相変わらず、空気は読める奴だ。
「いつまでそんな事をしている。立て」
「「 ッ、……ひゃぃ 」」
──きぃ・・ん・・・。
──ギぃ・・ン・・・。
久しぶりに聞く気がする、よく響く足音たち。
巨大な奥の扉をくぐり、
一人がけのソファに腰を下ろした。
きぃんん・・ギぃんん・・
きぃんん・・・ギぃンん──。
甲高い足音のリズムで、
おおよそのコイツらの感情が読める。
ふん……妙なスキルが身についたな。
それはさておき、流石に腹が限界だ。
「──すまないが、丸一日ほど、メシを食いそびれていてな。そうだな……金は払うから、このバゲットを適当に調理してもらえんか?」
「「──」」
手間はかけるなよ、と言う前に、
アンティとマイスナは、
恐ろしい速さでバゲットを加工する。
──シュババドピュジュワべべべ──ッッ・トン。
「……おお、すまんな」
「ひゃわー! 今の、私、見えませんでしたよ!」
あっという間もなく、
キッティの両腕くらいある、
ホットドッグが二本、目の前に出現した。
ほぅ……!
巨大なレタスと……マスタードキャベツか?
それに、"ハラワタパレード"の、
八連ソーセージが、そのままサンドされて、
豪快にトマトケチャップが、
ぶっかけてあるようだ。
うーむ、これは美味そうだ!
タポポポポポ──ッ、パシッ……!
「おっ、すまんな……」
巨大なガラスのジョッキに、
黄金の義賊が、水をついでくれる。
花の狂銀が、間髪入れず、
小さな氷塊を入れ、小気味よく割れた。
うむ、紅茶は食後にもらうか。
「助かる。いくらだ」
「「 ぃりましぇん…… 」」
「アホたれが。全て話せ」
キッティに少しだけ、
ホットドッグのカケラをやった。
話の途中で、口が動かなくなっていたが。
うーむ、美味い!
これは良い。もぐもぐもぐ……。
アンティたちは、床に正座しながら、
実に、トボトボと話しやがった。
途中でキッティから、血の気が引いていく。
ふーむ、これなら、俺にも作れそうだな……。
マスタードは、キャベツに、
どのように和えるんだ……?
俺が食い終わるのと、
アンティ達が話しを終えるのは、
ちょうど、同じタイミングだった。
ケチャップの食後の酸味を、
アップルティの豊かな味わいが洗い流す。
うむ、素晴らしい。
横でフリーズするキッティの顔は、
" あ、私、しんだな…… "的なやつだ。
お、いかんいかん……、
ケチャップが、スーツに飛んでいる。
黒い所で良かった……フキフキ。
「「……、……」」
キッティもアレだが、
アンティとマイスナも、
この世の終わりのような顔をしていた。
なーにを深刻そうに……。
処刑前の罪人じゃあるまいし。
だいたい、実力で言えば、
コイツら二人は、俺より遥かに強い。
この前のスパーリングで俺が圧倒したのは、
単に、コイツらが俺のパワーレベルに、
上手く合わせてくれていたからだしな。
まぁ……ビビられているという事は、
ギルマスとして、
認めてもらっているという事かもしれんな。
「それで……全てか?」
「「はぃ……」」
ふん、なるほど。
かなりの人数に、バレたようだ。
聖女に……審議官第一席に、
プレミオムズ全員と、羊雲の妹にもか……。
時限結晶のことも言っちまったみたいだし、
どうやら……大司教まで、絡んでいる。
ふふ、ふふふ。
相変わらず、ビックリ箱みたいなやつらだ。
「す、すんませんっ……!」
「ごめんなさいぃ……!!」
涙目で、再び正座→土下座になる、
絵本ライバルズ。
キッティは、横のソファの上に、
上半身だけで、突っ伏している。
お前……その体勢はやめんか。
お嫁にいけなくなるぞ。
「どうしても……力を貸してもらうのにっ……、」
「言わなくては、いけなかったんですっ……!」
「うむ。俺たちの事を秘匿するより、皆との信頼を選んだ。そういう事だな?」
「「 は……、ぃ……、…… 」」
うむ、そうか。
俺は、紅茶の おかわりを自分で入れ、
言い放つ──。
「 それで良い──……よくやった!!! 」
「「 ・・・── え っ ? 」」
「 に ょ き っ と 「 くゆーっ 」 」
目次絵、復活しました!٩(๑>ω<๑)و.*・゜