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優しき賢者 下 さーしーえー

……はいっ! 三等分、しくりました(笑)

ながいよーっ((´∀`;))ヶラヶラ





「おお……!」

「大きい、ね……!」



 街を囲う壁と、その門は非常に大きく。

 ゲブレイジスとティリは感嘆をもらす。


 彼らの故郷のように、

 大きな時計塔こそ無いだろうが……、

 予想以上の堅固な外壁に、

 彼らは新天地に来た際・独特の、

 気持ちの(たかぶ)りを覚えた。



「む……? あの、湯気が出ている所は、何なのだろうか……」

「もくもくしてるね……?」



 ゲブレイジスは、街門のすぐそばにある、

 白い煙がのぼる、

 池のような場所が気になったが……、

 ともかく、街の門番に声をかけることにした。


 全身鎧の門番が二人、

 天を突くような槍を構えている。



「おじぃさま……」

「大丈夫……すまない! この街の名前を、お聞かせ願えるだろうか!」


「ん? ここは、ホールエルの街だ。他の土地からの旅人か……? 珍しいな。、、──!? あんたら、やけに服がボロボロだな!? 野盗か何かに、やられたか……!?」


「い、いや! これは、違うんだ……」


「むぅ?」



 ゲブレイジスは、

 自分が、はるか南東にある、

 大きな河沿いの街からやってきた商人だと話す。

 門番たちは、彼の故郷を聞き知っていた。



「へぇ……! 向こう側の河沿いの街っていったら、もしかして、エルフと人間が初めて和解した街の事か?」

「ひえぇ! 雷馬が雷獣になっちまったって……!? それは……えらい勿体ない事になったなぁ。初めて通るなら、通行料は銀貨一枚だ。金はありそうか?」


「ああ、盗賊に襲われたわけではない。だが、その……、お願いがあるのだ……」


「「??」」




 首をひねる門番たちに、商人ゲブレイジスは、

 近くの森に住む、

 心優しいバールモンキーの話をした。


 親切と誠実さを裏切るのは、商人としても、

 人としても耐え難い事だったからである。

 できれば、狩ってほしくなどない。


 話の途中で門番たちは、

 意外な反応をした。



「なんだと、本当に見たのか……!?」

「やはり、まだ生きていたのだな……!」


「む、知っておるのか……。どうか……あのモンキーを、討伐しないでやってほしいのだ。確かに、あれはユニーク個体で、価値も高かろうが……。あのような親切で誠実な存在には、出会ったことがない……!」

「ぉ、お願いします……っ!」



 ゲブレイジスは切実に訴え、

 ティリも頭を下げる。


 その空気とは裏腹に、

 二人の門番は、陽気に笑いながら、

 言うのだった。



「──はっはっは! 安心するといい、お嬢ちゃん。そのおサルさんは、この街では、とても有名なのだよ」

「なるほど……あなたの、その胸に付けているのは、少し形が違うが……商業ギルドの印証だな? だが、すまないが、まずは冒険者ギルドへと向かってほしい。彼を目撃した者は、報告することになっているんだ」


「なん、だと……? 彼……?」

「え……っと……報告したら、倒されちゃうんじゃ……?」


「あなた達の心配するような事には、絶対にならんと誓おう」

「必ず冒険者ギルドへ行って、ありのままを話してくれ。うーむ、災難だったな。通行料は彼に免じて、今回は貰わぬ事にしよう」


「よ、よいのか……??」

「……ぁ、りがとうございます?」



 門番は意外と気さくで、

 通行料も免除してくれると言う。

 商人と孫娘は、いよいよ分からない。



「不思議なことになった……」

「と、(とく)しましたね?」



 お互いの顔を見合わせながら街へと入ると、

 ホールエルという街は、

 故郷よりかは少々、文明のレベルは落ちるが、

 だが、とても活気づいていた。


 昼前に賑わう市場や、

 行き交う人々の顔を見て、

 ゲブレイジスは(うなず)く。



「うむ。良い街のようだ」

「おじぃさま、本当に冒険者ギルドへ行くのですか……?」

「うぅむ……。だが、あの門番たちは、意地の悪い感じは全くしなかった。信じて、行ってみるとしよう」



 冒険者ギルドには、まもなく着いた。


 さぁて。

 どのような荒くれ者共がいるかと、

 おそるおそる、木の扉を押し入ると──。



「はっはっは……!」

「あいつ、ほんと意味わかんねーなぁ── 」

「あぁ、その肉は、こっちこっち」

「あれっ? ここのパニーニ、どこいった??」


「ふむ……」

「休憩中かな……?」



 そこいらに散見した丸い机で、談笑しながら、

 食事を取る冒険者たちが、チラホラといる。


 だが、それはまるで小料理屋のようにも見え、

 あまり、ガラの悪い印象は受けなかった。



「ギルドの入り口が、酒場になっている。うーむ……」

「どうする……?」



 ゲブレイジス達が、

 どうしたものかと悩んでいると。

 すぐそばの机で食事をしていた冒険者が、

 声をかけてきた。



「──そこの御仁(ごじん)。お節介かも知れぬが……貴方の胸の印証は、見たことのない形だが……どうも、商業ギルドの物のようだ。ここは見ての通り、冒険者ギルドになる。もし、よろしければ……商業ギルドの場所を案内できるが──……いかがか?」

「ニャぁー? ほんとだー」



 その机に座っていたのは、

 生真面目そうな男性の冒険者と、

 長い黒髪が美しい、ネコ耳族の女性だった。



(ふむ……)



 商人であるゲブレイジスは、

 男性の方の部分鎧の下の服が、

 目立たない意匠だが、

 かなり高級な布地で仕立てられていると見抜く。


 貴族上がりの冒険者なのかもしれぬな……と、

 心の中で思う。

 が、それとは関係なく、

 今の彼の発言は、素直に──、

 実直なる男だな、という印象を受けた。



「ね、ネコ耳だ……!」

「にゃー。こんな所に、ちっちゃな子供さん、連れ込むなよぅー」



 女性の方も、対応に猫のような柔らかさがあり、

 荒くれ者とは違った、穏やかな印象を受ける。

 ゲブレイジスは、彼らに、

 まず話そうと、意思を決めた。



「聞いていただきたい。実は、私は他国の商人なのだが、先ほど、こちらの街の門番の方に──…… 」




 ゲブレイジスの話を聞くうちに、

 実直なる冒険者と、ネコ耳の娘は、

 目を大きく見開くのだった。



「──にゃー!! おい! おーい! 誰か! キキちゃん呼んできてぇー! このお爺さんたち、クローザルに助けられたんだってよぉー!!」


「「 ──ッ……!? 」」



 いきなり、黒髪のネコ耳族の娘が、

 大きく、そう叫んだので、

 ゲブレイジスとティリは、たいへん驚いた。

 その場にいる、数十人の冒険者たちにも、

 彼女の声は届いたはずである。



「おおーっ!! あいつ、生きてたかー!!」

「またか! さっっっすがは、森の守り神だなぁー!」

「こいつは、いーぃ話題だねぇ。よっし! もっぱい、おかわりもらうよ!」

「かんぱーい! クローザルに、かんぱいだぁーッ!!」

「そうか……! 賢者殿は、健在であらせられるか……!」



 冒険者たちは何故か、

 軽い、お祝いムードである。



「──" クローザル "、とな……?」

「みんな……あの、おサルさんの事を、知っているの……?」



 色めきたつ、ギルドの酒場に、

 不思議な感覚を得る、ゲブレイジス達。


 すると、実直なる冒険者が、一度、立ちあがり。

 何かを持ってきて、再び座り、こう質問する。



「あなた方が会ったのは、この様な見た目のモンキーかな?」


「「 ……!! 」」



 それは、あの白いサル、そのままの姿の、

 貴族の枕のサイズくらいある、

 ぬいぐるみであった!


挿絵(By みてみん)


 顔の大きさ、白っぽい毛並み、

 両腕の爪から、緑のバンダナまで、

 見事だと言えた……!

 細部まで、素晴らしく再現されている!



「こっ、これだ……!! このモンキーだ!」

「そ、そっくりです! か、かわいいっ……!」


「はっはっは! 彼は、この街では知らぬ者がいないほど、有名な、バール・ハヌマーンなのだ。" 爪の賢者・クローザル "と呼ばれている」

「あんたら、運がいいにゃー?」


「──ば、バール・ハヌマーンと、(おっしゃ)ったか……!?」

「そ、それって……?」



 ゲブレイジスは、驚愕する。

 バール・ハヌマーンといえば、一体いれば、

 100匹のバールモンキーを従えるという、

 森戦(もりいくさ)の猿将軍、とさえ例えられる魔物である。


 それは、キッティワークスの学術書によれば、

 大変、凶暴な性格であり、

 毛並みは長の証として銀に染まり、

 訓練された騎士の集団ですら、

 油断すると、集団戦にて打ち負かされるという。


 ゲブレイジスは、驚きながらも話した。



「た、確かに、見事な白銀(シルバー)の毛並みだったが……あの心優しいモンキーが、戦猿(いくさざる)とまで言われる、バール・ハヌマーンなどとは、にわかには──……」


「いや、あのモンキーは、とても強いのだぞ? 半年ほど前、あなた方と同じように、旅をしていた二属性使い(デュアルクラス)の女流騎士が、彼に斬りかかったのだが……片手の爪だけで、全ての攻撃を受け止められたという」


「な、なんと……!? デュ、デュアルクラスというと、Bランク以上の実力を持つ冒険者の方では……!?」

「あの、おサルさん……冒険者さんと、戦ってしまっているんですか……?」



 ティリが悲しい顔をすると、

 黒髪のネコ耳の冒険者が、

 手と耳をパタパタさせながら、優しく言った。



「にゃー。心配いらないよぉー。あのおサルは、ヒトガタからの攻撃は防ぐだけで、まーず、攻撃は、しないからにゃー♪」


「その通りだ。アレを見たまえ」


「「 ──? 」」




 実直なる冒険者が指をさし、

 その方向の壁を、ゲブレイジス達が見ると。


 ギルドの紋章が刷られたポスターが貼ってあり、

 そこには、サルのイラストと、

 この様な文章が書かれていた。





─────────────────────


     〜〜 注意! 〜〜


 このギルドに初めて来られた冒険者さんへ


       @((∂ᄎ∂))@

 ●バールモンキー・討伐禁止のお願い●



 この街の南東の森にいるバールモンキーは

 たいへん、街の人間に友好的です。


 ホールエルギルドでは、バールモンキーの

 討伐を全面的に禁止しています。

 特に、体の一部に緑色の布を巻いた

 モンキー達は、絶対に討伐しないこと!



 ※金属素材のクエストは、ゴーレムを推奨

  しています。


 ※顔の大きな白いバール・ハヌマーンの

  目撃情報は、必ずギルドに報告すること!

  絶対にノリで討伐しに行ってはいけません。

  彼はデュアルクラスの女騎士より強いです。


 ※彼らに、安易に危害を加えた場合

  我が街の誇る、おふたりの聖女様を

  敵に回すことになります。


  どの街でも、

  教会には入れなくなりますよ?(笑)



        緊急の報告は

        受付嬢 キキ・ネーザルまで


──────────────────────





「な、なんと。ギルドだけではなく、教会側も、彼らを保護しておるのか……!」

「──ほっ……!」


「ああ。安心めされよ。ふふふ……どうやら、よほど親切にされたらしい」

「にゃー! どんな様子だったか、気になるなぁー! おじいさんとお嬢ちゃん、ちっと、ここで、ご飯食べていきなよぉー!」


「そうするか、ティリよ」

「うんっ!」



 ゲブレイジスとティリは、

 実直なる冒険者と黒ネコ耳さんの誘いを聞き入れ、

 食事を共にすることにした。


 さらに詳しく昨晩の出来事を話すと、

 彼らは疑うことなく、

 (うなず)きながら聞いてくれる。


 ロメオとスリーティアと名乗った二人の冒険者は、

 お返しに、何故、バールモンキーが、

 街と共存する事になったか、その由縁を、

 絵物語のように、語るのだった──。



「ほぅ……! 至高の冒険者たちと、聖女様が……!」

「巨大な怪物を、おサルさんと一緒に、倒したのですね……!?」



 幼いティリだけではなく、

 色々な噂話に詳しい商人ゲブレイジスでさえ、

 目を輝かせ、手に汗を握りながら、

 その物語を聞いた。


 時は、あっという間に過ぎ、

 グラスの氷の魔石が(ぬる)くなっても、

 (かた)り足りないほどであった。



「にゃはーっ♪♪ まさか、パンを焼きやがるとはなぁー!」

「ははは! この街に、また新しい、鮮やかな話題が増える。しかし……キキ殿は、ずいぶんと遅いな。なにやら立て込んでいるのだろうか?」


「お、これは、つい話し込んでしもうたな……! そうだ。この土地の近くで……新しく獣人認定された者たちが、素晴らしい野菜を作っていると、そう聞いたのだが……」


「あぁ、それはドニオスの街のことだな。この街を出て、まあっすぐ西に行き、王都を超えると、次がドニオスだ。まぁ……あなた方が着く頃には、街の名前が変わっているかもしれないが……」

「にゃっはは♪」


「……? 街の名前が、変わる……? ……。その街で、クーデターでも起こったのだろうか……?」


「んっ? あぁ、いや! ははは……! それは違う。なんと言ったらよいのか。確かに……領主と、ある団体がモメてはいるのだが……。ようするに、観光地として分かりやすい名前に変えるかどうかという、実に平和的な争いなのだ。心配はしなくてもいい。いい街だと聞く」

「にゃはっは! 私も新しい街の名前候補、聞いたけどさぁー、ま、アレはないよなぁー! けらけらけら!」


「ほぅ! 観光地……か!」



 街の名が変わるかも、と聞き、

 不安が()ぎったゲブレイジスだが、

 どうやら、まったくの杞憂(きゆう)のようである。



「あそこまでは、馬一頭で駆ければ早いだろうが……ここいらは、街道にも魔物が、それなりに出るのだ。かなり遅くはなるが、護衛付きの馬車を利用した方が良い。八日か……遅くとも、十日ほどで着くだろう」


「その、ご親切に感謝する。ぜひ、そうさせていただこう」

「あの……この、ぬいぐるみって、売ってるんですか?」



 ティリが、白いモンキーを抱っこしながら、

 やっとのことで、恥ずかしそうに聞く。



「ははは。もちろん! それは、このギルドの公式グッズだからね。その大きさなら、3,200 イェルだ。一番売れている」


「ぉ、おじぃさま……?」


「……ふふふ、これは買ってやらねばなるまい」


「ゃ、やったあー♪♪」



 喜ぶティリを見て、

 皆の表情が(ほころ)ぶ。

 煮付け料理をビールで胃に流し込んだゲブレイジスは、質問することにした。



「……あの心優しきモンキーは、私たち以外も助けておるのか?」


「ああ。この数年で、十や二十ではない。彼らの仲間は、道に迷った冒険者がいたら道案内し、傷ついた者がいたら、集団で警護し、夜を共に過ごすのだ」


「にゃー。あんたさんらも、たくさんのバールモンキーに、周りを守られていたはずだぜぇー」


「なんと……感謝に堪えぬことだな」



 明日は教会にて祈りを捧げようと思う、

 ゲブレイジスである。

 すると、ティリが、ぬいぐるみを抱きしめ、

 ポツリと言った。



「もう……会えないのかな」

「む……」



 なるほど、かの賢者との出会いは、

 何とも貴重な出来事であろう。


 わざわざ会いに、

 危険な森の中に入る訳にはいかないと、

 幼いティリも、重々、わかっている。


 だが、その少女に、

 ネコ耳と実直は、軽く──。



「にゃー? ま、もうすぐ会えるだろぉにゃ」

「そうだな。時期的には、そろそろだ」


「「 えっ 」」



 ゲブレイジスとティリの、

 意外そうな声。


 ロメオとスリーティアは、ふふふ、と笑い。

 少し前の出来事を話しはじめる。



「先ほど……デュアルクラスの女流騎士が、彼に斬りかかったことがある、と言っただろう。あの話には……実は続きがあるのだ」


「にゃー。ここら辺にはよぉー。カニの形した、人の大きさくらいあるパンみたいな魔物が、たまに出るんだけどよぉー! あのねーちゃん、アレを初めて見た拍子に、ビックリして、ちっせぇ崖から転落したみたいでよぉーww にゃははははっ♪」


「ぁ、きみ、すまない。追加のビールを3つと……あぁ、それでいい、ありがとう。あれはFランクの魔物で弱いのだが、なにぶん、初見では……かなり驚くからな。そうして負傷した彼女は、運悪くポーションを切らしていて……森を徘徊していた所に、クローザルと出くわし、慌てて斬りかかったそうだ」


「うーむ……。その斬撃を、あの爪で受け止めた、と……。あのような可愛らしい躯体で……」

「そ、そのあと、どうなったの?」


「はは。後は、あなた方と一緒だよ。斬撃は(ことごと)く跳ね返され、そのうち、彼女は痛みで気絶し……。目が覚めると、他の皆と同じように介抱されていたそうだ」


「にゃはは♪ その騎士のねーちゃん、この街に着いてからな? 自分が、何も知らずに斬りかかっちまった事を、ずいぶん後悔しやがってよぉー……! なーんか、おサルに恩返しできねぇかって、ある日、とつぜん! 街の門のすぐ横に、自分の宝剣ぶっさして、温泉つくっちまったんだにゃー!」



「お、温泉……とな??」

「おじぃさま……! この街の門のそばにあった、湯気の出る池──……!」

「あ! あれが、その──……!?」



「ふふ、ああ、そうだ。彼女は、火と水の属性のデュアルクラスでな。いやはや、しかし……あの電撃引退は、とても驚いたな」


「にゃー!! あのねーちゃん、冒険者、即・引退して、パン屋さんの息子さんと、結婚しやがったんだぜー!!」



「で、では……会える時期というのは!」

「その、も、もうすぐ寒くなるから……!」



「ははは、その通り。あの白き賢者なら、だいたい毎日、浸かりにくるぞ?」

「にゃーあ。門から、すーぐ、そこなんだ! あんのおサル共もさぁ、よーく人目を気にせず、風呂に入りにくるよなーっ……! グビグビグビっ! ッ──ぱぁーい!!」



「ほっほほ……! それは、素晴らしい」

「また、会えるのですね!」



 ゲブレイジスは、門番のすぐ目と鼻の先で、

 風呂に、のんびりと浸かる白い賢者を想像し、

 なんとも言えない心の温かさを得た。


 これは余談であるが、

 彼が高級ニンジンの商売に大成功した後。

 ホールエルの街の モンキー温泉は、

 彼の出資によって、大きく増築され、

 東の王凱都市の、最も有名な観光スポットとなる。  




「よかった……♪ なんてステキなんでしょう!」

「ふふ……。一度、ドニオスという街には行くが、今年の冬は、この街で過ごすこととしよう。ティリよ、楽しみにしていなさい」

「はいっ♪」



 ティリは、賢者のぬいぐるみを抱きながら、

 椅子の上で、満面の笑みを浮かべている。

 ゲブレイジスは、また最大の感謝を、

 神とモンキーに想うのだった。


 すると────……?




「 あ ん の 、

  バ カ ざ る ぅ う う う う ・・・!!! 」



「「……っ!?」」



 ドスの利いた、女性の声が聞こえ。


 恐ろしい、ドスンドスンとした足音の方を、

 四人が向くと──その声の主は、

 どうやらギルドの職員のようである。



「キキちゃん……どうしたにゃ?」

「何事なのだ?」



 ロメオとスリーティアが声をかける。

 どうやら、このメガネで褐色の肌のレディは、

 このギルドの看板受付嬢のようだ。



「キキ殿! この商人殿は、クローザルに助けられたそうだ」


「ロぉおおおおメオさんが、まとめといてください! どうせヒマでしょう!?」


「……いや、あの……」

「にゃー……。キキちゃん、激おこだぁ……どしたの?」



「  こ  れ  」




 褐色肌の受付嬢は、

 彼らにバナナの房を見せる。

 丸々と肥えた、良いバナナファミリーである。




「……ギルド御用達(ごようたし)の鍛冶屋の支払いを、バナナでしやがったアホがいるンですよぉぉぉぉおおおお お お お お ── 」


「うにゃあぁ……」

「……。……また、か…………」


「はて……?」

「バナナ??」



 ゲブレイジスとティリが首を傾けるが、

 そんなこと、お構いなく、

 受付嬢はブチ切れ続行中である。



「あんのサルやろぉおお……!! この前、ブルーオーガ倒してんだからよぉおおお……!? お金は、たんまりッ、あるでしょおおおおお……!? ウッキィイイイ──ッッッ!! 今日こそは一撃ブチ込んでやるぅぅぅ……!! バチバチバチバチィィ……!!」



 激怒した受付嬢は、

 何やら黄色い電撃をまといながら、

 ドスンドスンと、ギルドを出ていった……。

 ゲブレイジスとティリは、呆気にとられている。



「なんか、光ってた……」

「彼女は、いったい、どうなされたのだ……?」


「ぁ、あにゃー……」

「ふ、くく……」



 苦笑いした、実直とネコ耳は、

 新しいビールを片手に、話しはじめる。





 彼らの楽しい時間は、


 もう少し、続くようである────。








「にゃ……、にゃはははは……。

 ま、ウチのマチは、なんだか、

 おサルさんに、ご縁があるってコトかなぁー……?」



「ははは、はぁ……。実は、ここ数年で、

 Aランク冒険者になった、

 無口な、モンキー系の獣人がいてな──…… ? 」















挿絵(By みてみん)

















(*´ω`*).*・゜

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― 新着の感想 ―
[良い点] 温泉は一匹一匹交代で入るのだろうか? 随分とこじんまりとした可愛い温泉だった。 [気になる点] 絶対普通の猿将軍より強いな。 決死の覚悟で飛びかかってきた上級冒険者を片手であしらうのは強い…
[良い点] 更新にょきっとです! [一言] バルニキちゃんと喋れるようになったのかな?(バナナ払いは数年で治らなかったみたいだけど)
[気になる点] キッティ"ワークス"? もしかしてあの受付嬢さん、銅の冒険者さんを従えちゃいましたか? [一言] いつも楽しく読んでます。 この物語の結末を見届けるまでは死ねません。
2020/10/26 14:28 いちふぁん
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