優しき賢者 上 さーしーえー
少し未来の お話です。(*´ω`*)
初老の商人ゲブレイジスと、その孫娘ティリは、
はるか西の地に新たな獣人が発生し、
その者たちが素晴らしい野菜を作るとの評判を、
風の噂に聞きつけ、
雷馬アクトジンを駆り、新天地を目指した。
「ハイヤーっ!!」
「わわっ……」
「ヒヒィーン!!」
アクトジンは、
雷鳴による魔物除けに秀でた雷馬であり、
旅は順調かと思われたが、
まもなく街であろうという森の中にて、嵐となる。
「何ということだ……」
「お、おじいさまぁ……!」
『 HYHYHIIIIIINNN ──…… !!! 』
手綱を繋いだ大木に落ちた、
雷の魔素を食らったアクトジンは、
巨大なる雷獣ジオ・ホースとなって、
猛々しい爆音と共に、
天空へと飛び去ってしまう。
『 HYYYYY・HYAAAAA ──…… !!! 』
「おぉ……! 雲の上の世界に、旅立ってしまった……!」
「こ、これからどうするのですか……!?」
身の警護を、
雷馬に任せっきりであったゲブレイジスは、
幼き孫娘ティリと森の中、途方に暮れる。
だが、雑草の茂る冒険者の道を見つけ、
何とか街へ向かい進もうと、尽力する。
「くそぅ、まだ、街は遠いようじゃ……!」
「見て……雨がやみそうです!」
幸いにも嵐は去ったが、大地は ぬかるみ。
風に舞う水の魔素は、体温を奪う。
元々、足に少々、難のあったゲブレイジスは。
やがて痛みに耐え兼ね、
木に寄りかかり、座り込んだ。
「おじいさまっ……! しっかりして……!」
「すまない……すまないなぁ、ティリよ……」
今まで気丈にも泣きわめかなかったティリだが、
足を押さえる祖父を見て、
この時ばかりは涙が滲む。
「いかん……夜が来てしまう」
「さむい……」
魔の夜が迫り、周囲の木々は恐ろしさを増す。
手持ちの小さな光の魔石が点滅し始めた時。
ゲブレイジスは、人影が近づいてくるのを感じた。
ザッ、ザッ、ザッ──。
「おお、誰か……!」
「冒険者の、方でしょうか……」
これぞ神のお導きと、
ゲブレイジスは痛みに耐え、
その者に、切に願う──。
「そこの御方……! どこの誰かは存じませぬが、愚かな私めと、孫娘を……! 助けてはくださらぬだろうか! このような老いぼれでも、はるか南東の地の街では、少しは……名が知れた商人にございます。御礼は、必ずいたします……どうか……どうか」
「おじいさまを、お助けください……!」
「 ウっキー? 」
「「 」」
闇の中、近づいてきた、その者を見てとれた時。
商人ゲブレイジスと孫娘ティリは、
それはそれは、息を飲むように驚いた!
「なっ……!? に、人間では、ない……!!」
「ひぇっ……!」
「キぃー!」
すぐ近くに立つ、その者は。
とてつもなく顔が大きく。
白い、毛むくじゃらであった。
しっぽがあり、その先の形状を見て、
商人ゲブレイジスは、理解する──。
「バール型の尻尾……!! バールモンキーか……!?」
「……ひっ……っ!!」
絵本の中や、言い回しの中で、
よく取り扱われるバールモンキーは、
知名度が高く、ポピュラーな存在である。
だが、夜の森で、
しかも、このような至近距離で実物と遭遇しては、
何よりも……恐怖が勝るのは道理である。
しかも、目の前のモンキーは、
明らかに普通ではなかった。
震えながら、彼らは見る。
「白い、毛皮……!」
「ぉ、お顔が……」
まず、毛皮は真っ白であり、
身長は、年寄りにしては、
背が高いほうであるゲブレイジスと、
ほぼ、同等である。
だが、その頭部は──異常に大きい。
身長の、おおよそ半分をしめている。
ぬいぐるみなら、いいあんばいの比率だろうが、
実際に目の前で動いているとなると、
巨大な顔の面積から与えられるプレッシャーは、
そうとうなものである。
「ユニーク、個体か……! 衣服を……装備しておる……」
「ぉ、おじぃさまぁ……!」
「ウっキ」
また、目の前のバールモンキーは、
額に、緑色のバンダナを巻いており。
それは、この魔物が一定以上の知識を持つ、
危険な魔物である可能性を示していた。
商人ゲブレイジスは、顧客との情報交換により、
例えば……ゴブリンが武具などを装備していたら、
それは通常の個体とは、一線を画す存在であると、
よく知っていたのである。
──なにより。
目の前の、白いバールモンキーは。
明確な、他の個体とは違う特徴が、
すぐに──見てとれた。
その、顔の大きなバールモンキーの両腕は、
巨大な鉤爪になっていたのである。
「……爪の、バールモンキー……」
「ひ、ぇ……」
「ウッキッキぃー」
──その爪は。
獣の野性的な爪というより、
まるで……ドワーフの鍛冶屋が鍛えたかのような、
人工的な、ナイフが並んだような爪であった。
こんなもので斬りかかられたら、
足を傷めた初老の商人と、小さな孫娘など、
ひとたまりもあるまい……。
異様な体を持つ、そのバールモンキーを見て。
ゲブレイジスとティリは、
恐怖で、声が出なくなる。
神にも、霊にも、祈ろうぞ。
「「……」」
「ウッキウキぃー……?」
白いモンキーは、
じっと、商人と孫娘を見る。
すぐに、襲いかかろうとはしないようである。
「「 …… 」」
しばらく、彼らは見つめ合い──。
「ウッキー」
──ガサッ、ザッ、ザッ、ザッ……。
「「……」」
白いバールモンキーは、去っていった。
「……、……見逃して、もらえたようじゃな」
「あんな……お顔が大きいものなのですね……」
「恐ろしい爪を持っていたな……」
「こ……これから、どういたしましょう」
「ウっキぃ!(ひょこっ)」
「「 ──うわぁッッ!? 」」
ほっと、ひと息ついた、
ゲブレイジスとティリは、再び驚く!
さっきのサルが、すぐさま、
そばに戻って来ていたのである!
「な、な……!」
「わ、わたしたちを、食べる気なのでしょうか……!」
木に寄りかかりながら、
腰が抜け、抱き合う商人と孫娘。
白きバールモンキーは、
彼らから5歩ほどの距離にいる。
やはり、身長は成人男性ほどで、
かなり大きい……!
「ティリや……。合図をしたら、走って逃げなさい」
「ぉ!? おじぃさまを残して、いけませんわ……!」
「ウッキウキー」
──ガッ、ガッ、ガッ。
どうにか孫娘を守ることを考え始める、
ゲブレイジスだが。
それを他所に、
白きバールモンキーは、
何やら、地面を掘り返している。
「なんだ……? 穴に、枯れ草を……?」
「な、に……をしているのでしょう……?」
「ウッキーっ」
白きバールモンキーは、
自分の掘った穴に、カラカラの草をつめ、
そのそばに、座り込む。
「「……」」
商人と孫娘は、緊張しながら、見る。
すると──予想だにしない事が起こった。
カチン、カチン、カチン、ボッ──。
「えっ」
「なんと……」
事実は、物語よりも奇なり。
白きバールモンキーは、
爪と尻尾を打ち付け合い。
その火花で、焚き火を起こしたのである。
「ウッキー♪」
まんが第2巻、発売(*´³`*)ㄘゅ☆