BANANA・X・・・!!
連投です(●´ω`●)+
猿の森を、あるサルが去ろうとしていた。
「アニキ、いいんですよぅ」
「……」
「みんな、わかってるんでやんす」
「……、……」
「アニキは今まで、ずいぶんと、
自分のやりたい事を後回しにして……、
オイラたちを守ってくれやした!」
「……」
「でも、オイラたちは、もう大丈夫でやんす!
みんなで力を合わせることを、知ってる」
「……」
「マチザルは、いいやつらだった。そうでしょう?」
「……しかし」
「アニキはアイツらと、サル友になれますよ」
「……」
「いっかい、やってみちゃくれませんか、アニキ!」
「クロー、おまえ……」
「夢見るサルが、一匹くらい、いたっていい」
「……すまねぇな」
「マチと森は、いつも共にあります。
いってらっしゃい、アニキ」
ホールエルの、東の街門の門番がふたり、
全身鎧のフェイスガードを上げ、
夜明けの空を眺めている。
「ふぅ……もうすぐ交代だな」
「よぉ、聞いたか。聖女さまの畑で、巨大化する薬草が見つかったんだと」
「あぁ、聞いたよ。何でも、普通の薬草より10倍ほど大きいらしいな。不思議なことだ……やはり、聖なる力の御加護だろうか……」
「最近は、よくギルドに顔を出すらしいぜ……ほら、あの可愛らしい審議官ちゃんを引き連れてよ」
「キキちゃんも喜んでいたな。やっぱ、実際に会って相談できるってのはいいんだろうよ」
「やっぱり……審議局が、ぶっ潰されるって噂、本当なのかな?」
「わっかんねぇ。でも、俺ァー、前からアイツらのやり方は気に食わなかった!」
「何でも、人道的な女の局長が、アフターフォローに回ってるらしいぜ」
「ふぅん……。ま、我らが聖女さまが一任してるってこたぁ、大丈夫なのかもしれねぇな!」
「まぁ、聖女さまの横で、あの子は幸せそうだったぜ? 薬草の数も戻って来てるし、いやぁ、良かった──」
「──む、イクス、気をつけろ。誰かくる……!!」
「商人か?」
「いや……、一人だ」
「ほぅ……?」
日の出と共に街に来る者が、
居ないわけではない。
だが、荷車も無く、
たった一人で旅人が来るには、
いささか、早すぎる時間ではある。
来訪者は、ちょうど太陽を背負い、
シルエットは、強烈に浮かび上がる。
長い影が足元へとかかり、
門番二人は、槍を持つ手に力が入った。
「男か?」
「でかいぞ……」
かなり、高身長のように見える。
男は、等速で、ゆっくりと歩き。
門番たちへと、近づく。
「……! 武器を持っているのか……?」
「──とまれ!」
「 」
数メルトルテの距離で、男は止まり。
やがて、光に目が慣れ、
門番たちは、驚愕する。
「 」
「……!?」
「も、モンキー……!?」
目の前に立つのは、
どうも、巨大なサルのようである。
突然の魔物の襲来に、
門番たちは、戸惑う。
「ば、バールモンキーか……!?」
「ぃ、いや……」
今回のカニ騒ぎでは、
森の中の英雄たちが、
討伐を手伝ってくれたと聞く。
目の前の大男が魔物だとしても、
街の恩人に、どう対応してよいものか……。
敵意より、迷いが先行し。
それは、観察へと移行する。
「……装備品を見るんだ、魔物では……ない」
「え、エックス型の、メガネ……!?」
──エックス・・・!!
そうだ、その人間のようなサルは、
バツ印のイカしたサングラスをしていた。
後ろからの日光に照らされ、
そのエックスは、サルのシルエットの中で、
美しく、輝いている。
「「 …… 」」
「 …… 」
よく見ると、尻尾は、確かにある。
だが……巨大なバールのようなソレは、
尻尾とは離れた、別の武器のようだ。
革を編み込んだ鞘に収まり、
その巨大な打撃武器は、黄色い荷物と共に、
背中へと、しょい込まれている。
上半身は筋肉質で……ほぼ、裸だが。
下半身は、緑がかった、
上等なズボンを、はいている。
肩には、イエロークラブの物と思われる、
三連の肩当てが装備されていた。
何にせよ……尻尾にバールが付いていないなら、
バールモンキーでは、ないだろう。
門番二人は、少し緊張しながらも、
理解を深めていく。
「モンキー系の……獣人か?」
「い、イカついサングラスだな……」
「 …… 」
モンキー系の獣人は、
じっと、門番たちを見つめる。
エックスのサングラスに阻まれ、
視線を読むことはできないが。
すると、街門に設置された水晶球から、
ブー、と、軽快な警報音が鳴った。
「むっ、おまえ……ギルドカードが無いのか?」
「そのようだな……こいつ、胸に装甲はつけていないし」
「……」
「おい、本当にギルドカードは無いのか? カードが無いなら、入場料は銀貨一枚だぞ?」
「済まないが、規則なのでな。商業ギルドの世話になってる奴には見えねぇし……。ぉ、おい、言葉、通じているのか??」
「……」
「よわったな……。モンキー系って、どんな言葉をしゃべるんだ……?」
「おーい、コレだ! このカードだよ! これは持ってるか? ないなら、コレだ!」
「……?」
門番の一人が、
自分の胸元からギルドカードを取り出し、
1000イェル硬貨と共に、
モンキー系の獣人に見せてやる。
「どっちかが無いと、ここで待ってもらうことになるぜ」
「こいつ……大丈夫かな」
「……」
エックスのサル人間は、じっ……と、
門番のギルドカードと銀貨を見ていたが、
武器には手を掛けず、険悪な印象は無い。
──と、思った矢先。
サルの大男が、背中に手を伸ばしたので、
門番たちは、緊張する。
「──! ぉ……」
「っ、む……!?」
巨大なバール状の武器を手にするかと思ったら、
サルの獣人が探っているのは、
どうやら黄色い荷物の方である。
「「……」」
門番二人は、銀貨が出てくることを期待したが、
差し出されたモノは、イエローだった。
「……えっ、バナナをくれるのかい」
「おったまげたな。背中のそれ、全部バナナか……」
「……」
緊張は霧散したが、
何とも珍妙な空気が三人に流れる。
「いや……気持ちは有り難いんだが、これは、銀貨の代わりにはならないよ……」
「お、なんだ……俺にもくれるのか」
門番たちは、バナナを手渡され、
どうしたものか、考えてしまう。
彼の故郷では……これが通貨となるのか。
故郷の味なのは間違いないようだが……。
「いや……だから、これは、あ、もう一本くれるのかぃ」
「困ったことになったな。キキちゃんは……サル系の獣人さんの言語、わかったっけ……?」
敵意は、どうやら無いようだが、
バナナを使って通行料を踏み倒そうとする奴は、
なかなか、前代未聞である。
「おい兄ちゃん、さすがに、コレはなぁ……」
「おい、コイツ、食ってるぞ」
「モグモグ」
エックスのメガネの長身のサルは、
無表情ながら、自前のバナナを美味そうに、
モグモグやっている。
鋭い意匠のサングラスと相俟って、
その光景は、何とも平和的に見えた。
「よわったなぁ……」
「まだ、早朝だし……俺、ギルドまで走ってこようか?」
「もぐもぐ」
サルは、アゴでクィクィと、
何やら、門番たちに急かしているようだ。
「食えってか……」
「は、は、しょうがねぇヤツだなぁー!」
門番たちも、笑うしかない。
もらったバナナの皮を、めくる事にする。
バナナなんて食べるのは、久しぶりだ。
パクリと、同時に食べる。
「こ、これは……!」
「う、うめぇな……!!」
濃厚な甘さに、門番たちは驚く。
思わず、うなってしまった。
子供のころに食べたバナナは……、
あれは、なんだったんだ!
「こんな美味いバナナがあるとは……!」
「あ、あめえ!」
「──キッ♪」
──トンっ!
と、サルの両手が、
門番たちの、それぞれの肩に乗せられる。
「お、おまえ……」
「笑っていやがるぜ」
「──キッキ♪」
──" 食ったよな? "
そう、いいたげな、ニタリ顔である。
エックスの視線は相変わらずだが……、
なぜか、憎めない爽やかさがあった。
「……ははは、しょうがねぇ。通んな」
「──! おい……!」
「キ?」
門番の一人が、
門を通っていいと、ジェスチャーする。
「いいのかよぉ」
「しょーがねぇーだろ。このバナナは、銀貨一枚くらいの価値はあらぁな」
「た、確かに……!」
「よぉ、兄ちゃん! アンタは商業ギルドってクチじゃねぇだろ! ちゃんと、冒険者ギルドに向かうんだぜ!」
「そのバナナなら、売れるかもしんねぇけどな! ほら、あそこだ! あの建物へ行くんだぜ?」
「──……。キッキ!」
──ポン、ポン、と、
肩を叩かれる、門番たち。
エックスのメガネの大男は、
長いバールを携えながら、
ゆっくりと、街の中へと入っていく。
その後ろ姿を、
門番たちは、バナナを食いながら見送る。
「……やれやれ。通しておいて、ナンだがよ……。
この先、どうなる事かねぇー……!」
「うおぉ、これ、本当に美味いな!」
かくして、
とあるバールモンキーが、
東の街へと、導かれる。
「……ウッキウキ♪」
ここに、新たなる伝説が始まる。
バルニキ、やっちゃいなぁー!!
٩(๑>ω<๑)و.*・゜